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039 その錬金術師と硝子~硝子板編~

 拠点作成時点での窓製造段階の話です。主人公、実は結構苦労していたという。

 真っ直ぐに硝子板作るのって、手作業だと多分難しいと思うんです。いくらフロートガラスの製造法があるにしても、その道のプロでもなければ大変じゃないかなぁと予想。

 ただ、この主人公は錬金術師なので、炉は扱えるし魔術である程度現実離れしたチート発揮出来ます。なので一人で作れてしまうという。


 硝子ガラスの材料は、

 ①珪砂ケイシャ:海岸等の砂場にある砂。

 ②炭酸ナトリウム(ソーダ灰)/別名炭酸ソーダ:天然のものはトロナ石が原料で、海藻なんかの灰からも抽出が可能。

 ③炭酸カルシウム:貝殻や珊瑚の骨格、鶏卵の殻、もしくは石灰岩等が主成分として含む。

 の三つだ。

 この内、珪砂が主原料であり、炭酸ナトリウムは加工を容易にする。融点を大体1,000℃近くまで温度を下げてくれるやつだな。

 石灰石はそんな炭酸ナトリウムがケイ酸ナトリウムを生じて水溶性となるのを防ぐ役目だ。

 着色は添加物によって行われるが、そもそもとして無色透明な硝子が最初から出来るわけじゃない。大抵はソーダ石灰硝子とよばれるものを作るので、色は緑だろう。

 これは不純物の鉄化合物が除去しきれない為にそうなる。なので、満俺マンガンと呼ばれる金属を加えて脱色するやり方が主流だ。

 つまり、無色透明な硝子を作ろうとしたら、ソーダ石灰硝子では先に上げた満俺も必要という事である。


「うん、まぁ、流石に窓硝子を色付きにする気は起きないしなぁ。教会のステンドグラスじゃあるまいし、無色透明なのが理想だろう。」


 もしもそんなのにしてしまったら、窓から外の景色が見えなくなる。それじゃあ窓を嵌めた意味が余り無いってものだ。

 そうして、いそいそと炉の中で硝子を作り、あっつあつなそれを帯状にしてスズを融解した上で薄く浮かべる。

 ローラーに挟んで作る方法もあるが、あれだと手早くやらないと歪みが出るし品質もあまりよくないんだよ。こっちの方が腕が必要になるが、出来上がりとしては確実に上だろう。


「割りと難しいな、これ。」


 そうして失敗する事数十回。

 材料は失敗作を破砕し、また溶かして再利用出来るのでいいんだが、いかんせん完成まで至れていない。


「コツとかがあるんだろうなぁ。」


 硝子瓶は作るが、流石に窓用の硝子板は作った事が無かった。真っ直ぐな板にするのが結構難しい。

 それでも続けていると、どうやら速度に秘訣があると分かってくる。そこから、硝子が自らの重みで平らになる程度の量を正確に測る必要性があると判明した。


「おう、ここでも重さが重要になってくるのか。」


 速度は魔術も駆使すれば何とかなる。重さに関しては微調整しつつ合わせるしかないな、こりゃ。

 今やってる方法は『溶融法ようゆうほう』といって、固体だった硝子の原料を高温で加熱する事で溶かし、そこから液体状態にしたのを整形、冷却すると硝子が出来るというやり方だ。他にも方法があるらしいがそちらについては俺は余り知らないので割愛する。

 この溶融法なんだが、液体状態から結晶化が起こらないような十分に速い速度で冷却しなければならないのがネックだった。ガラスの製法としては最も一般的なものだが、板状にするにはかなり難しいと言わざるを得ない。つまり、俺の技術レベルが足りてない。

 ただ、硝子瓶とかを作る分にはこの方法が向いてると言えるだろう。粘土の型に流し込んで作っても良し、宙吹きや型吹きで吹き硝子瓶を作っても良い。蜻蛉玉トンボだまとかも楽に作れるな。


 以前は硝子の製造には森の木を大量に使っていたらしいが、石炭や石油が活用されるようになってからはそういう事態も激減したと聞く。今の時代ではどうかは知らないが。

 まぁ、俺は魔術師でもあるので、魔術によってその辺りはカバー出来るだろう。それに、木材に関しては今の所豊富だしな。当面は問題も無いはずだ。

 石炭や石油はその内入手を考えるにしても、今はここでのんびりと暮らしていこう。


「焦る必要性は無いよな?多分。」


 世界的にか、あるいは大陸全土か、それともこの辺りだけかは分からないが、文明レベルが下がってしまっているのは間違いない。

 しかし、だからと言ってそれを押し上げる為に俺が身に付けてきた技術を何も考えずに流すという事態は避けておくべきだろう。

 急激な発展は人を腐敗させる。そして、急速な衰退を招くんだ。これは何時でもどこでも同じ事だろう、きっと。

 豊かさは同時に人を堕落させやすいんだよな。一度怠惰の味を覚えてしまうと、人はそこから中々抜け出せなくなる。まぁ、仕方ないっちゃ仕方ない話である。


「――お、出来た。」


 そうしてようやく完成にこぎ着けた硝子板。

 後々、これが原因で面倒事が増える事になるとは、この時の俺は知る由も無かった。


 やっぱり詰めが甘い主人公。

 硝子板は透明であれば透明である程、そして大きければ大きい程に価値がありました。

 かつては王侯貴族くらいしか自宅に使えなかった高級品です。この世界のこの時代では、曇り硝子のような透明度の低い硝子が平民の間では主流でしたが、主人公は気付いていないという。

 都市にまで出かけておいてお前何見てきたんだって話ですが、顧客の獲得に頭を悩ませていたところへの兵士への対応。そして何より貴族との遭遇で大分いっぱいいっぱいだったようです。


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