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038 その錬金術師と薬草~立葵編~

 立葵タチアオイはホリホックとも呼ばれる赤・白・ピンク・紫なんかの花が咲く結構でかい薬草だ。

 その大きさから観賞用にもなる花なんだが、花葵とも呼ばれており、主に花びらや根を錬金術では薬用として古くから利用してきた。


 花びらは主にお茶にして服用する事が多いだろう。喉の痛みを抑える効果があるし、日干しで乾燥させれば水と摂取する事で利尿作用もあるので、結果飲みやすいお茶にする事が多いのだ。

 根の方は煎じて使い、こちらも水と摂取すると利尿作用がある他に、胃腸薬としても使える。

 割りとどこにでも自生する花で、ちょっとの隙間でも種が溢れてれば勝手に芽吹いたりもする強い花だ。


「栽培が簡単なのって、楽でいいよなぁ。」


 そんな花は、いっぱい花を咲かせるからか、使い勝手も良い薬草の一つだった。

 大抵は飲み過ぎて二日酔いになった奴やむくみに悩む女性に処方する薬の材料になる。カリウムが豊富なんで、利尿作用の効果が強く、どちらにも効いてくれるのだ。

 ただ、今の俺にはあんまり使い道が無い。売り物にするにしても売る相手もいないしな。せいぜいが常備薬として、もしくはお茶の代用品として手元に置ておくくらいだろう。何気に酒は高級品と化していた。

 だがしかし――この薬草、一時期は食べれるんだ。

 そう、柔らかい若葉が食用になるんだよ。

 故に、食用として種を採取してみたんだが、その種を採取した方の株は育ちすぎてて、気付いたら邪魔になってたっていうね!


「おい、スクスクと育ち過ぎだろ、これは。」


 文句を告げる相手は勿論立葵である。その高さは今じゃ俺とほとんど変わりがない。

 こいつらの背丈は低いもので30cm、高いものでは200cmにもなる。その上、横幅は4、50cmもあるので場所を取るんだよ。

 芋虫なんかの害虫の被害に合いやすいが、幸いこの森の中では蝶類は滅多に飛んでいない。そのおかげか、その手の被害が少ないようで、代わりのようにして育ち過ぎてる。今じゃ、森の一角を完全に占領してしまっている状態だ。


「――畑に植えるなら、数は減らしておくか。」


 何せ、これから俺の畑でも同じ事が起こるかもしれんのだ。冗談じゃないだろ?

 この手のでかい薬草は、場所を取り過ぎるというのが一番のネックである。

 だがしかし、立葵にはもっと困った事があった。

 そう、


“ちょっとの隙間でも種が溢れていれば勝手に芽吹いたりもする”んだよ。


 そうして、種を採取してきて冬を跨ぎ、翌年の春には畑へと植え、夏に花を咲かせた立葵を眺める。

 当然ながらも、春になった時から立葵はスクスクと育っていた。そして、夏には花も咲かせてくれた。

 ただその時にはもう――去年の秋に感じていた「こいつ邪魔だな」という感想が再び蘇っていた。


「おう、そうだった……こいつら、めっちゃでかくなるんだった。」


 そして問題はその後だ。

 秋になって、再び花を咲かせた立葵。

 俺はこいつらをどうやら舐めていたらしい。まさしくその生命力は雑草並だった。そして、無駄に場所を取るのだ。

 春に撒いた種だったが、そいつらはスクスクと育って、気付けば今じゃ俺の背丈にまで届きそうになっている。

 確かに育てるのに手は加えた。加えたさ?

 しかし、育ち過ぎじゃねぇ?いくらなんでもさ!


「あれか、大元と同じくらいに育とうとしてんのか、こいつら。」


 しかもその数、大凡30株。30株である。

 最初は10株だったはずだった。少なくとも、夏に咲いた花は10株分だけだった。

 それが、取りこぼした種がどうやらあったらしい。気付いたら増えてて、異様な存在感を示しながらも畑の一角を埋めているのである。

 いやいや、こいつらって、大して使い道が無い現状で増えられても困るんだが?


「どうしてこうなった……。」


 まぁ間違いなく、完全な予測不足と管理不足から起きた、予想出来てしかるべきな事態なのだろう。

 だがしかし、頭を抱えるしかない俺と立葵との、とある日の出来事はこれだったのである。


 作中では立葵を花葵とも書いていますが、学術的には同科別属であるハナアオイ属、または同属下の Lavatera trimestris を指して「ハナアオイ」と呼んでいるらしく、注意が必要だそうです。


 尚、立葵の花言葉には『高貴』とか『威厳』とか『野心』なんて色々とあります。

 先の二つは見た目の堂々たる姿に合う花言葉ですね。野心なんかは多分、下から上に花が付くのが理由でしょう。下剋上的な?

 真っ直ぐな咲き方に『素直』とか『単純な愛』なんてのもあるので、概ねイメージがそのまま花言葉になったようです。


 割りと邪魔になるって話については――画像で検索してみたら分かると思うよ、うん。


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