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037 その錬金術師と薬草~銀梅花編~

 夏に見つけたその白い花を付ける低木は、普通なら雪深い場所では見ないはずの植物だった。


銀梅花ギンバイカか――完全に植生が狂ってんなぁ。」


 この常緑低木は、普通ならもっと温暖なところで見かける植物だ。雨が多くて、夏は高温で乾燥するような気候に適していたはずの植物である。

 それがなぜか、雪が積もるような場所に普通に生えてた。解せん。


「津波で港町は押し流されたんだから、この辺りもそれは一緒だろ?なら、品種改良ってわけもないだろうしなぁ。有り得るとしたら、魔素にやられたってところか。」


 魔素が齎した影響は甚大だ。それまでの普通が普通じゃなくなってるくらいには、甚大過ぎて酷いのである。

 例えば、地面っていうか岩や土は、勝手に宙へは浮かないだろう?それが常識であって重力が齎す結果のはずだ。本来なら、例外なんて無いはずである。

 しかしながらも、魔素濃度が高い場所では、普通に浮いてる事があるという。


 マジで浮いてるんだよ、岩とか土が。そのまま地面からえぐりとられたかのようにしてさ。


 それは誰かが魔法や魔術で浮くようにしたとかじゃない。魔素という物質によって浮かされているのだ。

 その事実が大陸中へ伝わると、物珍しさからツアーなんて組まれたくらいだ。それくらいには不可思議な現象だったのである。


「もともと魔素って大地そのものへの影響もでかいし、その大地に依存してる植物もまた影響がでかいんだろうな――海洋に至っては、最早未知の領域になってたし。」


 かつては大型の船が行き来し、大陸同士の交流があったと聞いている。俺が生まれる前の話だが、何時しかそれも途絶えた。

 何せ巨大な海棲の魔物によって分断され、交流そのものが困難になったらしいのだ。そういった事実はもう当たり前のように広まっていて、俺も歴史で学んだもんである。

 また、一部の大陸では召喚された勇者同士がぶつかり合って滅んだとも聞いたし、どこぞは火山の噴火で避難民で溢れかえったという話である。マジで大海の先は危険なのだろう、きっと。

 まぁ、別に行きたいとも思わんがな。


「でも、それはここも似たようなもんか?」


 相次ぐ動植物の変異に、天変地異まで体験してしまっているこの大陸。

 俺が生まれた直後くらいから、それまで大人しかった家畜も凶暴化したり、動き出す植物なんてのも出現していた。そのおかげで、牛とか豚とか大型の動物は長くは飼っていられない状況だった。

 食糧難とそれに伴った疫病の発生と死者の増加、加えて凶暴化した動物の一部が魔物となって人間の居るところを執拗に狙って襲ってくるような終末を思わせた時代。あれをよく生き残れたもんだ。

 そして今じゃ遥かに衰退した文明の中をかつての技術を駆使して何とか生き抜こうとしている。何があるか分からんもんだな、本当に。


「俺は何時から、流浪の民がデフォになったんだろうなぁ。」


 生まれ育った祖国では、どうにも環境が合わなくて母が亡くなると同時に飛び出したし、それは特に後悔していない。

 飛び出した先は魔導王国と呼ばれた国である。そこで錬金術師としての知識と技術を我武者羅に吸収して、そして夢だった王宮錬金術師の道は、しかし一方的に閉ざされた。


「ガッデム!」


 今思えば腹立つ話だよな、うん。

 そうして流れ着いた先は、未だ発展途上にあった港町だ。そこで小さな錬金術師の店を構えて、細々とやっていたものの、完全に閉じ込められてあの津波と魔物の氾濫に板挟みにされた。

 それを免れて現代に蘇ってみりゃ、今度は人間の枠から外れてたっていうね。なんだよこれ。


「俺、何かしたか?」


 この低木だってそうだろう。本来ならば暖かな土地で伸び伸びと育ってただろうに、魔素の影響でこんな寒々しい場所で芽吹き、こうして命を繋ごうとしている。

 ――なんだか生き足掻いてる俺みたいだな。


「銀梅花、祝いの木、あるいはマートル、か――秋になれば食える果実が採れるな。葉は肉料理に使えるけど、肝心の肉が無いんだよなぁ。花はサラダにできるが、あんまり好きじゃないし。」


 さて、どうするかね。

 今の季節は夏。採れるのは葉か花だ。しかし、現状では欲しくもなんともないという。


「うん、このまま元気に育ってもらうか。」


 何となく俺と似た境遇のこの低木、ちょっと気に入った。

 秋に果実の採取だけして、ちょっと面倒見てみよう。

 尚、銀梅花は花嫁のブーケにも使われる真っ白な花で、花言葉には「愛のささやき」の他、「処女性」なんてのもあったりする。

 割りとどうでも良い話だが、メルシーちゃんが結婚する時にでも使えそうだし、ブーケに出来るよう残しておこう。


 メルシーちゃんは主人公にとっては妹とか従姉妹枠。なので恋愛対象にすら入らない。

 それ以前にまだ子供過ぎてそういった感情は両者共に沸きそうにもないですね。これは今後も同様の事でしょう。

 何せ現時点では二十くらいの青年と十代前半の少女です。下手をすると十歳程歳が離れてます。意識しようが無いっていう。

 恋愛要素は尽く省くので、ある日突然結婚→お祝いだーになると予想。


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