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034 その錬金術師と薬草~紅花詰草編~

 春に咲いている白詰草はよく知られていますが、紅花詰草はどうでしょう?


 その赤い花をつける様が、まるで赤く灯った蝋燭や松明を思わせるらしく、ストロベリーキャンドルとかストロベリートーチとも呼ばれる紅花詰草ベニバナツメクサ

 薬草では無いんだが、こいつらは畑の土壌を回復させる効果があって、根に生息する根粒菌ってやつが窒素成分を合成してくれる。この為に、緑肥として栽培される事のある植物だ。

 薬草や野菜を畑で栽培していく上で何が問題かっていうと、土壌の成分だ。このバランスが崩れると、同じ物を続けて育てようとしても失敗する。


 そんな畑を回復させるには、病気や害虫被害でもなければ、大抵は栄養を足すか引いてやればいい。


 その栄養をこの紅花詰草は白詰草シロツメクサと呼ばれるのと同様に生み出してくれるのである。つまり、足し算の方。

 まず、日当たりが良い場所で風通しを良くした場所。それに水はけが良い土地が好まれる為、そういった諸々をまずは整えてやるか、初めからそういった場所を選ぶ。

 次に、植え替える場所では株間を2、30cm程取ってやるんだ。

 種の状態からなら秋に撒く。横に広がって繁殖する為、この場合は間引きも必要だが、病害虫に強いので一度植えれば野生化した挙げ句勝手に増えてくれる良い子である。越冬もするしな。


 ただ、特徴的なその花が咲くのは、暑さに弱いので大抵が春の間だけだ。見られる期間はそこまで長くは無い。

 小さい子なんかは花冠はなかんむり作って遊んだりする材料にもなる。この為、子供が居る家庭では庭先に植えているところがかつてはいっぱいあった。


「懐かしいなぁ。」


 春の名物詩とも言えるこれは、小さい時、俺もよく摘み取ってはせっせと編んでいたもんだ。主に、亡き母親を飾る為の物だった。

 勿論、港町ではなかった頃の話である。

 花冠は元より、首飾り、指輪、腕輪に足輪と、これでもかって作ってやった。摘み過ぎた分は、いつも家の食卓に飾られたもんである。


 俺の家には父親は居ない。誰かは知らず、また、居ないのが当然だったので尋ねる事も無かった。

 ――いや、一度だけ母に訪ねた事があったか。しかし、母親が余り良い顔をしなかったので、答えてくれないのもあり結局は聞かないままに他界してしまったのだ。


「まぁ、今更、知ったところで意味は無いだろうし、どうでもいいがな。」


 それなりに高貴な家の人だったのだろう、毎年のように父からだという贈り物が贈られて来ていたのが気がかりだ。

 けれども、一度として母にも、俺にも会いには来なかったのである。物で何とかしようという感情が透けて見えて、当時の俺としてはイラッときたもんだ。

 そんな贈り物を寄越すくらい、何らかの感情を持つくらいなら、平民の母に手を出さないで欲しかったとどれだけ思った事か。

 それで俺が生まれなかったとしても、母は苦労が祟って若くして死んだりはしないで済んだ事だろう。


「父親を持たない家庭ってだけで蔑まれたからなぁ。母さんには何も落ち度は無いだろう?それなのに、ネチネチネチネチとどいつもこいつも嫌がらせと陰口ばっかりでさぁ。死ねよ――って、もう死んでるんだったな、あいつら。」


 平民が貴族や高位の存在に恋慕したところで、それが叶うわけがない。ああいった場所で生まれ育った奴というのは、一生をそこで終えるのだ。間違っても平民に落ちてくる事は無い。

 故に、夢も希望もあったもんじゃないのである。


「本当――貴族はクソだよ。」


 それなのに、貴族側から手を出されるのに拒む権利は平民には無いのだ。

 生まれ育った地での女の地位はとても低くて、目を付けられたらその時点でお先真っ暗である。男でも、気に入らないという理由一つで首が物理的に飛ぶ事もあるくらいには、腐った環境だった。


「その点、魔導王国はマシだったよなぁ。」


 魔導王国では良くも悪くも実力主義の社会だった。この為、実力が無いと判断されたら、貴族ですらその地位を返上しないとならなかったのである。

 それをしないで腐敗していくだけだった、生まれ育った祖国。

 そこで受けた扱いこそ、俺が貴族や王族等の権力者を嫌う一番の理由だ。


 自分達はそれまでの生き方を何一つ崩さないままに、手を出した者の一生を狂わせる。そして責任は取らない。

 罪悪感?そんなものが何の役に立つ?持つくらいなら初めから手を出さなければ良いんだ。節操なしのクズならそれこそ死んでしまえと思うね。

 その被害に遭ったのが、俺の母親だ。国を飛び出していなかったら、それこそどうなっていたか分からない。


「ケッ、ケッ、ケッ、ケッ――。」


 ああ、イライラする。死んでるともう分かってはいても、それでもかつての祖国への恨みは相当根深い。

 その後、母との楽しい思い出から貴族への恨み言へと変わっていった俺の過去の記憶は、当分の間俺を不機嫌にしたまま畑へと精を出させるのだった。


 ノブレス・オブリージュ。

 貴族が出てくる物語でよく登場する言葉です。直訳は「高貴さは(義務を)強制する」。

 一般的に、財産、権力、社会的地位の保持には責任が伴う事を指しています。(WIKIから抜粋)


 本来なら横暴なだけで無能な貴族とか、それこそ古代でも無い限り有り得ないのですよ。途中で揉み消したり、国が腐敗してたりっていうのはあっても、ある程度知識を得た民衆が爆発したら、流石にもう止められませんから。何時かは破滅するだけなんです。

 特にファンタジーは冒険者とか個人でむちゃくちゃ強い人達いますよね?主人公がその立ち位置な場合もありますが、扇動役として、そして人を集める時の旗頭としてはこれ以上無い人材です。転生・転移ものならばそんな人物、使わない手が無いでしょう。

 現地主人公であっても、やはり『そのまま』っていうのは無理があります。どこかで破綻する事でしょう、きっと。


 まだ作中には出ていませんが、主人公の故郷は第二の故郷にした場所共々滅んでいます。その滅び方、その時の上の者達(王族・貴族)がどうしていたかは、今後の展開で出てくる事となります。

 つまり、主人公はこの時点ではまだ何も知らない。


 話を戻しますが、実際、上に立つ者っていうのは、暴走した際の民衆の不満をそらす為の生贄という立ち位置にあるんですよね。この辺りは歴史的に見れば大体納得いただけるかと思います。


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