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302 聖獣 リルクル

 かつて天界で暮らしていた種族に、聖獣と呼ばれる存在がいた。


 鳥だったり獣だったりと、その姿形は様々だ。

 唯一の違いは、天使が人型であるのに対して、それ以外を聖獣と呼んだ事だろう。


 しかし、天使とは違って聖獣は天界においては邪魔者扱いを受けてきた。


 どれだけ身を清めても、獣臭いと追い立てられて居場所を取り上げられてしまうのだ。

 単に獣の姿をしていたが為の差別でしかなく、そこにあるのは虐げる事で感じる愉悦のみ。

 相手が傷付くとか、そういった思考回路は残念ながら天界にいる天使にも神にも搭載されていなかった


 彼らはそれ程には傲慢で、そして自分勝手な者達だったのである。


 やがて、神と天使だけが天界で暮らす事を許され、他はいらないとまで称されるようになる。

 その一方的な言い分に――聖獣達は最早地上へと降りるしかなかった。





 地上での暮らしは決して楽ではない。

 年中春のような陽気に溢れる天界とは違って、地上という場所には季節というものがあるからだ。

 食料や水だって何時でも手に入るわけではなく、彼らは最初、大変戸惑う事となった。

 災害が起きれば川の水は鉄砲水となるし、冬になれば凍てつく。

 そうでなくても、水源自体が枯れる事だってあるのだ。

 それに伴って、植物も生えたり生えなかったりする。

 酷いと水源共々枯れて、木の根を齧ったりした。


 そんな地上での暮らしに、ようやく馴染んだ頃。


 神によって、ある日、勇者と呼ばれる存在が地上へと送り込まれた。

 彼らがやって来た理由は――天界から追い出した聖獣達の抹殺である。


 ただ追い出すだけでは飽き足らず、殺害まで企てたのだ。


 これに聖獣達は抵抗した。

 あるいは話し合いを希望する者も居たし、とにかく何とかしようと奮起したのだ。

 中には人を巻き込んでまでの戦争に発展した事だってある。


 だが、それは最初の頃だけ。


 何時しか一体、二体と討伐されていき、聖獣達はその数を減らしていった。

 何せ、相手には話し合いに応じるつもりなど欠片も無かったのだ。

 全てを一切無視して、攻撃の手は加えられた。

 そこに無垢な人が混ざっていようと関係無い。

 勇者は全てを神に肯定されて、全てを纏めて薙ぎ払った。

 神だけが、自らの手を汚さずにそれを眺めて嘲笑して。


 やがて出来上がる『追う者』と『追われる者』の追走劇。


 聖獣達はただ逃げ惑うしかなかった。

 何せ、勇者を殺しても新たな勇者が送り込まれてくる。

 何時になっても平穏は訪れず、逃走か争いを余儀なくされる日々に聖獣達は疲れ果てた。

 戦禍に巻き込まれる事を怖れた人からも迫害されるようになったのも痛い。

 次第に、各地を点々として散り散りになっていくしかなかった。


 ――そんな勇者と女神による行動の裏で、懐疑的な意見を持つ者が現れ始めるようになる。


 知らぬ間に『魔獣』と呼ばれるようになっていた者達を調べていく内に、幾つもの矛盾を見つけて、歴史を見直すようになったのだ。

 そうして、かつての古い文献から正しき『名』を探し当てられ、人々へと『聖獣』の名が広がっていく。

 聖職者による妨害工作が行われるも、拙い陰謀は暴かれる。

 決して女神の思い通りにはならず、人々は真実を見出すようになった。

 時には逃亡に手助けする者も現れ出して、勇者そのものを邪悪な存在の手先と提唱する者まで現れていく。


 それは身から出た錆。


 にも関わらず、女神はそれを良しとせず、あくまで聖獣の抹殺を勇者に課し続けた。





 とある聖獣同士がつがいとなる事で、ある日小さな子供が生まれた。


 母親は、人よりも大きな鳥型をした真っ白な存在。

 大きいのもあって目立ちやすかった彼女は『魔獣』と呼ばれるようになってからは、ひっそりと森の奥地で暮らしていた。


 そんな彼女の下にある日現れたのが、同じ聖獣である存在である。


 まるで猫のような愛くるしい姿をしていた彼は、しかし非常に小さくて、最初彼女を見た時は顎が外れるかというくらいに驚いた。

 尻尾は栗鼠のようにくるりと巻かれてはいても、膨らんで彼の驚愕を如実に表していた程である。

 それでも二体は惹かれ合うものがあったのか、人型を取る事で睦み合い、愛を育んだ。


 そうして生まれたのが、リルクルである。


 リルクルは父親にそっくりな、小さな姿で生まれた。

 猫に似た姿形に、尻尾だけが栗鼠のようにフサフサな姿でだ。

 背中には小さいながらも翼があり、それが唯一母親の特徴だと言えるだろう。

 だが、それは長い毛に隠れていて全く見えなかった。

 翼の形は確かにしているのに、生えているのは羽ではなくて毛である。

 空を飛べるかどうかも不明で、ある意味奇形とも言える姿形の我が子に、それでも両親は愛情を注いで育てていった。





 大きな身体の母親はとても目立つ為に、人が近くまで来るようになるにつれて、森の奥地へと移動しながら一家は暮らした。

 動き回るのは主に父親とリルクルの二体で、日々の糧を探して回る日々ばかりが続いた。

 食べられる物は何でも食べた。

 水辺の近くを住処として、ほぼ森の恵みに頼った暮らしである。

 リルクルにとっては、冬の食料探しが一番堪えたと言えるだろう。


 幸いにもリルクルは父親に似て猫のような姿をしていた為、余り大きくなる事はない。

 おかげで食料はそんなに必要とはせず、飢える程では無かった。

 そういった事情もあって、両親は最悪な事態に陥った場合は、リルクルを逃す事を決めていたくらいである。

 多分、きっと、一体だけでも生きていける――。

 そんな事を話していたのをリルクルは時折聞いていた。


 そんなある日、リルクル達の住む場所に一人の人間が紛れ込んできた。


 迫害されて流れ着いたという人間は礼儀正しく、リルクルの母親と遭遇しても何もしてこなかった。

 同じ迫害された者同士――そう認識し、母親は人間を受け入れる。

 少なくとも勇者じゃないと、ただそう信じて、彼らは安堵したのだ。

 それでも、万が一の事を考えてリルクルの事だけは隠した。

 母親は父親にリルクルを託し、父親はリルクルの面倒を見る。

 離れ離れで暮らしながらも、母親は人間としばらく時を過ごして、森での暮らしについて教え込みながらも情報を集めた。

 逆に教えを受けた人間は、そんな母親に疑問も警戒もせずに、ただ感謝の念を抱いて過ごし、森で得た恵みを時折置いて行く。


 持ちつ持たれつの関係。


 そんな日々が突然終わったのは、嵐が過ぎた翌日の事だった。

 紛れ込んできた人間の身体が、思うように動かなくなったのだ。

 それどころか、意思に反して、恩人たる母親を傷付け始めた。

 その身を蝕むのは――女神と名乗る存在の力。

 まるで呪いのように、人間は勇者として、母親を傷付ける道具にされていた。


 最悪の展開だった。


 女神を称する女の嘲笑が響く森で、為す術も無く母親が傷付けられる。

 傷付けている人間もまた、その事に心を傷付けられる。

 常とは違う状況。

 それに、異変を察知して、父親は駆け出した。

 ただ、リルクルには着いてくるなと、そう叫んで。


 それをリルクルは無視した。


 未だ早く走れない身体で、懸命に父親の後を追う。

 何があったのか。

 何が起きているのか。

 ただ確かめたいと、好奇心と不安が綯い交ぜとなって後を追ってしまったのだ。

 その先で見たのは――人間の繰り出す攻撃に飛び込んでいく父親の姿だった。

 小さな身体では到底受けきれるはずもなく、たった一撃でその生命を刈り取られてしまう。

 リルクルの視線の先で、切り捨てられた小さな父親の身体が、無造作に転がっていった。

 それを見て、リルクルは動きを止めた。

 止めた矢先に、母親の慟哭が響いてきて、勇者にされてしまった人間を殺めるのを見た。


 そうして、ただ呆然と見つめていたリルクルの前で、血塗れとなった母親は、一言何か告げると、この世を去った――。





 両親を失ってからというもの、リルクルは各地を点々とした。

 何も無い彼にとって、世界は余りにも広かった。

 猫のような姿のリルクルの移動速度なんて、大した事無かったのもその原因の一つかもしれない。

 実際、人間からすると、リルクルはしっぽがふさふさしているだけの猫にしか見えない。

 小さくて、可愛くて、多くの人間がリルクルを撫で回そうとした。

 ピンと立った三角の耳も、金色の瞳も、猫そのものという感じで好まれたのである。


 そして、リルクルは聖獣だと思われる事は無かった。


 既に聖獣自体の数が減りすぎていた為だ。

 もしもバレていたら、即座に殺されていただろう。

 それくらいには『魔獣』と『聖獣』の呼び名で、まだまだ人は揺れていた。

 ――主に、聖職者とその他という構図でだが。


 喋らない限り、人間の多くは少し賢い猫くらいにしかリルクルを思わなかった。

 リルクルもそれで良かった。

 少なくとも猫の振りをしていれば危険は無い。

 ご機嫌を取れば食べ物を貰う事も出来るし、ゴミを漁れば色々な物が手に入る。


 人間の町は、幼いリルクルにとって暮らしやすい場所だと言えた。


 そのまま町に住み着いたリルクルは、そこで長い間人間という種族を観察し、様々な情報を集めていった。

 やがて人に似た姿を取れるようになると、更なる情報を求めて彼らの中に混じってまで人間と接触を始めた。

 両親を殺した勇者と似た、けれども違う種族。

 気にならないわけがない。


 ただそれは、もしかすると監視だったのかもしれない――。





 冒険者組合で仕事をこなすようになったリルクルは、幼いままなのがバレないよう、しばらくは各地を点々として暮らしてきた。

 そんな中で砂漠化していく大陸に見切りを付けて、当時危険度が増していた海を超えて島国へと移り住んだのは、彼の転換期ともなった事だろう。


 何せそこでは、勇者を徹底的に排除しようとする動きがあったのだ。


 魔物が蔓延っているのは勇者が召喚されたせい。

 勇者はただ居るだけで人畜無害だった獣を危険な魔物に変質させる。

 そればかりか、最初は善良な振りをして何時か必ず裏切る。

 そして、破壊と殺戮を撒き散らすものらしい。


 提唱される言葉に、リルクルは成る程と納得した。

 確かにリルクルの両親を殺した勇者は、恩を仇で返したのだ。

 森も滅茶苦茶にされたし、破壊も殺戮も確かにされた後である。

 まさしく、裏切られた状態だと言えるだろう。

 だからって、今更それを知ったところで、どうしようもないが。


 勇者は身の内に宿す魔力量も、武器を振るう力も、何もかも人間とは違い過ぎる。

 思考回路も人とは異なり、自己犠牲心の塊みたいかと思えば、突然暴れだしたり最初から身勝手だったりと有害なのだ。

 対話そのものが無意味と言っても過言ではない。

 その上、勇者は致命傷を負っても死なない。

 首が胴と泣き別れになっても、正しくは死んだとは言い切れない。


 何せ、蘇ってくるのだ。


 それこそ肉片と化してしまっても、聖剣が近くにあればしぶとく再生してくる。

 到底、人間とは呼べなかった。


 そんな勇者が現れる度に、島では勇者の殺害を繰り返して何とか平和を保っていた。

 それは、非常に危ういバランスの上にあるようにリルクルには感じられる程、狙われた土地のように見えた。

 実際、危ういバランスの上にあったのだろう。

 とある場所で勇者が召喚されると、魔物の氾濫が起こったのだからギリギリの所で保たれた平和だったのだ。

 そして、その氾濫に対応しようとして、更に誰かが勇者を召喚してしまい、悪循環が続いてついにはドラゴンまでもが地上を襲うようになった。


 リルクルはそれをただ見ていた。

 何が出来るとか、何かしようとか、そんな考えすら抱けず、目の前で沢山の人が死んでいくのを眺めた。

 人の営みが壊されて、家屋が瓦礫と化していく。

 残ったのは、無数に群れた魔物ばかりで、それから逃げ惑う数少ない人々と、助けようと走り回る人が揃って命を落とすのを見続けた。

 けれど、ほんの少し。

 ほんの少しだけ、それを嫌だと思ったのも確か。


 だから、誰かを助けようとする人に手を貸して、気まぐれに行動した。


 結果的に感謝されて、更に人を助けるようになる。

 それを何度も何度も繰り返している内に、気付けば人の営みが再会されていた。




◇ルートA・B


 人間は脆いとリルクルは学んだ。

 けれども、リルクルが最初に見た、人間だと思った勇者は逆に頑丈で強かった。

 ただ後者は呪われていて、共存は出来ない有害な存在だと認識している。

 対する前者の人間は群れてカバーするけれども、同じ群れには対処し切れずに弱い者から順に死んでいく。

 最後は強い者でも命を落としたり大怪我を負ったりするのだ。


 リルクルは様々な事を学んだ。


 しかし時代が移り変わるにつれて、増えすぎた人は増長するのだとも知った。

 生き苦しくなっていくのを感じるようになったのだ。

 その原因はただ一つ。

 人族至上主義を掲げる者達が現れだした為である。


 彼らには、崇める神がいたらしい。


 それも、女神を名乗る邪神そのものがその崇拝の対象だというのだから、リルクルとしては信じられない思いだった。

 かつては徹底的に排除しようとされていたのに。

 布教しようとすれば、何時だって邪魔立てされていたのに。

 勇者の召喚をしようとしても、触媒が集めきれずに失敗して、奴隷で賄うにも法で禁じられていて許されなかったのに。

 それなのに、徐々に人々の思想を操って、力を付けてきていた。


 学んでいたのはリルクルだけじゃない。

 聖職者達だって同じだったのだ。

 八方塞がりな状況から考え、悪知恵ばかりを働かせていた。

 獣人と呼ばれる人々を迫害し、エルフを蛮族と罵る。


 人間こそが全ての頂点に立つに相応しい生命体と、そう豪語する聖職者達は一部の支持を確かに得ていた。


 その裏で、獣混じりだとか、人間の成り損ないだとか、散々な言われようで獣人共々リルクルは冷たくあしらわれた。

 同じ人型ではあっても、猫の耳と尻尾を持つリルクルは、獣人に見えたらしい。

 結果的に迫害の対象となって、宿にも泊まれなくなった。

 身寄りも何も無かったリルクルにとって、家を借りる事も買う事も出来ない。

 ただジワジワと真綿で締め付けられるような、閉塞感だけが迫ってきていた。


 そんな中で、嫌がらせを受ける頻度がどんどんと上がっていく。

 優しかった人達も、リルクルに仕事を頼もうとはしなくなった。

 ようやく取れた仕事も、届けた品よりも先にサインを求めないと、完了したという事にすらしてもらえなくなる程で、酷いと逆に金をせびられる。


 仕事自体が、やり辛くなっていったのだ。


 組合も場所によっては報酬を渡してくれなかったり、難癖を付けられて減らされる事さえある。

 そうして懐に入れるのをリルクルは冷めた目で見つめていた。


 人は、最早リルクルの知ってる人間とはかけ離れてしまったのだと、諦観にも似た感情を抱きながら。




◇ルートA


「――よーし、追い詰めた。」


 人間の嫌なところは、群れるところだとリルクルは思う。

 個人の強さはそこまで無くても、群れる事で連携を取り、包囲網を狭めて狩りを行うのだ。

 その狩りの標的にされるのは堪ったものじゃないなと、リルクルは余り働かない思考の中で考える。

 現状、逃げ道を塞がれてしまっては後退るしかなく、背後にある崖をチラリと振り返った。

 谷底は――遥か下。

 如何に身体能力に優れた聖獣と言えども、未だ空を飛べる程でないリルクルにとって、この高さは致命的だ。

 確実に飛び降りたら助からないだろう。


「――悪い事は言わねぇ。その鞄を置いていけ。死にたくは無ぇだろ?」


 そんなリルクルに対して掛けられる言葉。

 崖に追い込む形で扇状にやって来るのは、どう見ても野盗か冒険者崩れといったところだ。

 普段なら簡単に撒ける相手だったが、今は力が余り出ないとあって、リルクルは溜息を吐き出すしかなかった。


「あと着ている物も置いて行きな――獣には裸がお似合いだろ?」

「ギャハハ!そいつは違いねぇぜ!」

「人間様の真似なんざ滑稽でしかねぇってな!」

「あっはははは!」


 上がる笑い声と、馬鹿にした発言の数々。

 物資が足りず、野盗に身を崩す者が増えてからどの位が経っただろうか。

 今回の連中もそういった手合いだろうと、リルクルは半ば決めつけながらも冷ややかに見つめていた。

 振り切ろうにも今はそれが難しい。

 おかげで、こうして足止めにあっていた。


 何せ、体力が乏しいのだ。


 足りない物資とは食料。そして水や衣類といった必需品である。

 それらが不足している中で、物価は上昇の一途を辿っていた。

 誰もが食料を得ようとして森や山に分け入り、根こそぎ採取していくのは最早当たり前となっている時代だ。

 獣でも鳥でもどうかすると魔物ですら喰らい、糧にしようとしている程には人は飢えている。

 酷いと、共食いする所まであるらしい。


 そんな状況下では、以前はあった食べ物も全く見つからなくなっていた。


 リルクルが探し回っても、得られる量なんてほんの少ししかない。

 長年生きてきて、ここまで食料が手に入らない状況等、リルクルは知らなかった。

 空腹からくる貧血。

 ともすれば足下から崩れそうになる虚脱感。

 それに耐えて忍んでいると、


「さぁ、観念して寄越すんだ――。」


 近付いてくる連中が、ジリジリと包囲網を狭めてくる。

 粗野な連中は、リルクルが聖獣だとは知らないだろう。

 だから普通の獣人くらいにしか思っていないに違いない。

 それも、幼い獣人だ。

 おかげで舐めきった態度だった。


「やだなぁ――。」


 リルクルはそっと溜息を吐き出すと、足下の土を突然勢いよく蹴り上げて、近付いてきていた連中目掛けて撒き散らし、駆け出した。


「――うわ!?」

「くそっ!目潰しか!」

「ガキの癖に――。」


 聞こえてくる声を無視して、一人から短剣を素早く奪う。

 そうして、それで男の喉笛を空中で一気に切り裂いて、リルクルは犠牲者の身体を蹴って反転し、次の目標目掛けて飛び込んだ。


「があっ!?」


 続いて上がる悲鳴。

 身を屈めていた人物の背中から心臓を一突きし、更なる次の標的へと移っていく。

 流石に数が多く、先に足の腱を切って機動力を削いでおく。

 それは、目つぶしが効いている間に次々に終わらせていった。

 そうして、男達の動きを遅くしたところで、リルクルは一人ずつ始末するべく短剣を突き刺し、切り裂いていった。


「や、やめろ――!」

「ぐあっ!?」

「このガキ!」

「ぎゃああ!?」


 悲鳴の中を駆け巡るリルクルに躊躇は無い。

 所詮この世は弱肉強食。

 殺らなきゃ殺られる。

 見た目通りの幼児ではないのだ。


 ただ、リルクルは気付かなかった。


 それを見つめている視線にも、血の匂いの中に腐臭が近付いて来ている事にも、全く気付かなかったのだ。

 風の流れを利用した立ち位置は、リルクルが気付くのを遅らせるに十分で、ゴロツキはただけしかけられただけの、単なる囮でしかなかった。


 時間稼ぎと、血を撒き散らす為に使われた贄。


 それによって引き寄せられる本命は――此処に至るまでにも散々新鮮な肉で誘導されてきたアンデッドだった。

 低位なんかではない、ある程度強いとされる中位以上の存在。

 それが、知らず知らずの内に呼び寄せられていた。


「クソ!クソオオオオオオオオ!」


 叫ぶ男と、それに向けて淡々と短剣を振り下ろすリルクルと。

 そこに突然飛び出してきた存在が、リルクルの凶刃を受け止める。

 そして、驚愕に目を見開いたリルクルに対し、


「あ――!?」


 首を掴み取って地面へと叩きつける――一体のアンデッドが居た。

 土砂が舞う中、リルクルの肺の中の空気が全て抜けていく。

 それと同時に、ゴキリと鈍い音が小さな身体の内側から響いた。


「――……。」


 大きく見開かれた瞳に、襲撃者の姿が映り込む。

 死して尚動く存在である、アンデッドの姿が。

 何故、どうして、何で――。


 その疑問に答えが見いだせないまま、渾身の力で地面に叩きつけられたリルクルは、そのまま首を締め付けたアンデッドの手で骨を折られて事切れていた。




◇ルートB


 アンデッドを率いる吸血鬼によって、国は一夜にして属国へと成り代わった。

 その前に勇者に襲撃されたのも痛かったが、狡猾な吸血鬼は王の息子を人質に取り、王族を監禁して恐怖政治を敷いているらしい。

 生き残った貴族は最早言いなりで、逆らえば一族郎党皆殺しにされるとあってか大人しい。

 誰だって目の前で幼い娘や息子の生き血を啜られる様は、見せられたくは無いのだろう。

 この為に、権力者であろうとも最早従うしかなかった。


 ただ、平民はもっと酷い有様だ。

 吸血鬼が処女の生き血を好むという話は本当のようで、年若い少女の死体ばかりが毎日のように出来上がっているのだ。

 それでも反抗等出来ず、家畜同然に飼われながら暮らすしか無い人々。

 不満は増大していき、それが誰かへと矛先が向けられて、時折暴力沙汰の事件が起きる。

 中にはそれで命を落とす者もいたし、大抵それは獣人だった。

 そんな中をリルクルは悪意を掻い潜るようにして、しばらくは懸命に生きていた。


 それが変わったのは、吸血鬼に飼い殺しにあってからだろう。


 リルクルを一目で聖獣と見破り、獣の姿で飼われるなら良い暮らしをさせてやると持ちかけてきた吸血鬼。

 美しい姿ながらもどこか悍ましさを感じさせるのは、やはり死者だからだろうか。

 それとも聖獣を『飼う』と口にした為だろうか。

 ――何にしろ高い知能を有しているらしく、見るからに狡猾そうな雰囲気があった。

 それでもリルクルは最初は断ったし、疑いもした。

 そんな美味い話なんてあるものかと。

 だがしかし、聖獣であるのを言い触らされたくなければ大人しく従うようにと脅されてしまい、結局は渋々とだがそれに了承するしかなかった。

 何せ、勇者に付け狙われれば生きては行けないだろう。

 小さな父親が、たったの一撃で屠られたのは、どれだけ長い時を過ごしてもリルクルの中では鮮明なままだった。


 しかし、吸血鬼に飼われるようになってから、暮らしぶりは一変したと言える。


 欲しい物は何でも手に入るのだ。

 甘い物も、贅沢な食事も、何でもだ。

 定位置は吸血鬼のフードの中で、温かい寝床も風呂もある。

 ただそれは、魔法の習得を強制される事と、吸血鬼と行動を共にする事を除けばだったが、それでも概ね悪くない暮らしが提供されたのだ。

 悪くない――そうリルクルは思うようになった。


 そんな中で、リルクルは一つの仕事を任されるようになる。


 火と熱を自在に操る魔法使いが、敵に突破された際の時間稼ぎだ。

 リルクルは最初戸惑ったが、その役目をきちんとこなしてみせた。

 徐々に連携も取れるようになったし、悪くない働きぶりだと褒められたくらいである。


 だがある日、リルクルは腐った。


 肉の身が腐り出して、熱を出して死にかけたのだ。

 生死の境を彷徨う中、吸血鬼が何かをしたのだけは覚えている。


 そうして、実際に死んで、リルクルは更に蘇っていた。


 意味が分からない――と、リルクルは思った。

 あのまま死んでも仕方なかったし、それ以前に吸血鬼がリルクルをアンデッドに転じてまで手元に置きたがる理由が分からなかったのだ。

 ただ、そのままただ死んでいたら、低俗なアンデッドの仲間入りをするところだったのは間違いない。

 死者がアンデッドとして蘇るのは最早当たり前の環境だ。

 リルクルもそうなったとしても何らおかしくなかった。

 だがしかし、それは吸血鬼によって防がれた。

 リルクルは知能を残したままで、高位のアンデッドへと転じていたのだ。


 見た目は、まるで影のような姿。


 猫の形を形作るも、靄のように実態がなくて何もかもすり抜けてしまう。

 そんなアンデッドにリルクルは転じさせられてしまったが、実は他にも似たような者達が居た。

 連携を取っていた火の魔法使いもそうだったし、吸血鬼に師事していた赤毛の魔女だって、姿形は違えどアンデッドになっていた。

 果ては貴族達が、平民が、人間も獣も関係なく全てアンデッドになっていた。

 たったニ、三日の間の事だという。

 その間に、全てが腐り落ちて、アンデッドになったのだと。


 そんな者達の中での違いは、知能を残したままか、否か。


 知能があるアンデッドとは、吸血鬼に何らかの手を加えられた者達の事で。

 それ以外が知能がほとんどない、自然発生のアンデッド。

 そんな彼らと共に過ごす内に、知らず知らず最終決戦である戦いに身を投じていくようになる。

 そうして、リルクルは吸血鬼そっくりな大鎌を振るう相手に敗れて、今度こそ輪廻の輪に戻された。




◇ルートC


 生き辛くなってきたある日の事、リルクルの下へと一つの依頼が冒険者組合から舞い込んだ。


「――これを届けるの?」


 渡されたのは一通の手紙。

 封蝋までしっかりと押されたそれは、貴族の紋様が浮かび、上質な紙を使われた品だった。

 それを手渡されつつ、


「うむ、森の中の何処かに、おそらくは居るはずだ。」

「森の中――。」


 まるで、生きてさえいれば――と、そんな副音声が聞こえてきそうな言葉である。

 正直、冗談じゃないとリルクルは思った。

 森という場所は、人間が思っている以上に危険なのだ。

 魔物が蔓延っているし、自然という場所は元々安全とは程遠い場所である。

 そこで届け先の人物に手渡せと言う。

 言ってみれば、捜索も兼ねた配達だった。

 なんでこうなった――と、リルクルは若干遠い目になる。

 幾らリルクルが聖獣で身体能力が高くとも、そんな危険かつ広大な森の中での捜索は、はっきり言って無謀としか言いようがない。

 確実に時間も労力もかかるだろう。

 一応、リルクルは獣人に似た妖精種として今は冒険者組合に登録している。

 仕事の内容は配達のみだ。

 少なくともそこに捜索までは入っていない。

 にも関わらず依頼された内容は、配達に託つけた捜索依頼だった。

 完全に詐欺か何かである。

 やっぱり冗談じゃない――と、リルクルは思った。


 それでも、表面上は何も分からないと言いたげに、リルクルはコテンと首を傾げておくしかない。


 内面では弱い人間が群れから外れたら死ぬだけだろうと、ただ冷たく評価を下しながらだが、それでも舞い込んだ依頼を断る事が出来なかった。

 何せ獣人と蔑まれるようになってからというものの、仕事を拒否すれば同時に日銭を稼ぐ手段を失うのと同義となってしまっていたのだ。

 登録しているのは妖精なのに何でこうなった。

 人間の言いがかりは本当に理解出来ないと、リルクルは内心憤るも、それをぶつけても自分の首が締まるだけだ。

 それくらい、冒険者組合はリルクルにとっては利用しにくく、落ちぶれた場所と化していた。


「――頼まれてくれるな?」

「うん。やってみる。」


 だから、頷くしかないんだと――こっそりと溜息を吐きながらも、リルクルは貿易都市の領主からの依頼品である手紙を鞄に仕舞い城を後にした。


 リルクルがこれまでコツコツと築いてきた地位すらも奪おうと躍起になっている冒険者組合。

 それに今まで仕事の指名をしていた人々が、体裁を気にして依頼してこなくなった。

 多くの人達は流されるだけで、目すら合わせてもくれない。

 冷たい世間。

 それでも郵便物を届ける仕事に限定して各地を点々としてきたリルクルにとって、ここはまだマシな方だった。

 見た目が幼すぎて討伐依頼は受けさせてもらえないが、それでもマシなのである。

 本来の種族を公表して受ける手もあるにはあったが、それだと勇者に付け狙われるのは確実で、最悪邪悪な存在として迫害される危険もある。

 妖精で妥協するのがリルクルとしては取れる手段だろう。

 この為に、リルクルは久々の依頼というのもあって断りきれず、ただひたすらに『面倒』と思いながらも引き受けた。


 それでも、やるからには確りと成果を上げる。


 面倒だろうと仕事は仕事なわけだし、きちんとこなそうとするくらいは、リルクルにだってプライドはある。

 この為に貴族からの手紙を確りと鞄に入れて、件の人物が足取りを絶ったとされる開拓村にまでリルクルは足を運んだ。


 しかしそこは、寒村と呼ぶに相応しい程の寂れ具合。


 見かけた子供は靴すら履かせてもらえず、裸足で駆け回っている。

 開拓とは名ばかりだと言えるだろう。

 見える土地は、耕すのが遅々として進んでいないようにさえ見える。

 余り広がっているとは言い難い状況。

 空き地では、雑草が生い茂っていて青々としている。

 柵は広く村を囲っているというのに、これでは遊ばせている土地が余りにも多い。

 リルクルには農業への知識は無いが、それでも『寒村』だと印象を抱いた。


 更には、村の中には宿なんてものが無い。


 仮にあったとしても、獣人と決めつけられて泊めては貰えなかっただろうが、他所から人が来るという事をそもそも想定していないようにリルクルには見えた。

 実際、全く想定なんてしていないのだろう、空き家にでも押し込めばいいと――本気でそう思っていそうだった。


 リルクルはそんな開拓村の空き地で野営して、一泊して翌日、森の中へと足を運んだ。


 どうせ見つからないだろうなと、ダラダラしつつの探索だ。

 やる気なんて最初から無かったし、遺品の一つでも見つかれば良いなという程度である。

 だがしかし――意外とすぐに、人の手の入った場所を見つけてしまった。

 足跡もあるし、ニ、三枚だけ残して千切られた薬草も多く見かけるようになる。

 狩人にしては、持ち運んだと思われる量が半端無く多すぎた。

 直感で、直ぐ近くに暮らしている者が居るはずだと判断する。

 その目論見通りに、痕跡が多い場所を選んで進んで行くと、川の近くに建つ一軒家をリルクルは見つけた。


 森の中に一軒家である。


 そんな場所に暮らすのは、普通なら人に近い姿かたちをしたエルフ辺りだろう。

 それでも何か知っているかもしれない。

 そう思って玄関を探し、階段上に一つだけあった扉を見つけて近寄る。


 だが、リルクルの予想に反して、改札代わりに付けられた板に書かれた名は、配達先の人物と一致していて驚いた。




◇ルートC


 配達先の人物はエルフみたいに綺麗だったけど、髪が黒かったのでエルフではなかった。

 瞳も紫色だし、エルフに多い緑でも青でもない。

 更には耳も丸かったので、間違いなく人間だろう。

 だがしかし、リルクルを見ても毛嫌いする事は無かったし、それどころか「気を付けて」なんて言ってくれたのだ。

 それだけで良い人だと分かる。


 ウキウキしながら軽い足取りで、リルクルは貿易都市にある領主の城まで向かう。

 何せ予想以上に早く依頼が終わった。

 最悪、何も見つからずに組合からクビを言い渡される覚悟をしていたのだ。

 それが、最高の結果を叩き出せてホクホクだ。

 領主は直ぐに姿を見せた。

 そんな彼に説明すると、


「――では、確かに渡したのだな?」

「はい!渡してきたです!」

「よし!でかした!」


 勢いよく返されて、更には破顔して笑みを浮かべた領主に向けて、リルクルもニッコリと笑みを浮かべて返した。

 ここ最近ついていなかったが、ようやくツキが回ってきたらしい。

 領主からたんまりと報酬が貰えて、リルクルはご機嫌なままに領主の城を後に出来た。

 

 この貰った報酬で何を買おうか――。


 宿にすら泊まれなくなったリルクルの楽しい悩みである。

 ただ、楽しめるのは飲食くらいなものだろう。

 オシャレとか全く興味ないし、ペンギンの着ぐるみはトレードマークであると同時に、獣人だと思われるのを防ぐのに役立てている。

 新しい着ぐるみなんて早々売ってるわけもないし、持ち歩くにはかさばり過ぎるので却下だ。

 野営に必要な道具は基本的に修繕を繰り返して使っているので、消耗品くらいしか買い足す物は無い。

 現状出費はほとんど無かった。


 つまり、お金を使う場面が、残りは飲食くらいにしか無いのである。


 そんなわけで、着ぐるみ姿のままでリルクルは彼方此方の店を覗き、そこで甘い菓子や果物を買い込んでいった。

 追い払われる所もあるにはあったが、貿易都市は概ね『マシ』な方だろう。

 どうかすると幼い見た目のリルクルを見て、おまけしてくれるところまである。

 おかげで大量の菓子と果物をゲット出来て、リルクルは満面の笑みだ。

 それでも尚、お金には余裕があった。

 一度に使うには多すぎる金額で、かといって、持ち歩くには邪魔になる大金が残ってしまったのである。

 さてどうしようか――そんな事を思うリルクルは、やたらと思い片方の鞄を見て悩む。

 一つの鞄を占領する程には、金貨が詰まっているのだ。

 下手をすると誰かに取り上げられたり、良からぬ輩を寄せ付けるのは間違いないだろう。


 こうしてしばらく考えに考えたリルクルは、しばらく活動を制限して、貿易都市に住み着く事にした。




◇ルートC


 領主からまたリルクルの下へ依頼が舞い込んでくる。

 それも、指名依頼で、である。


「――小包?」

「中身は割れ物だから、そこだけ注意してくれ。」

「了解です!」


 手渡された品を手にして、以前訪れた森の中の一軒家へと突撃する。

 水音がしているので中に居るのだろう。

 そう思い、玄関の扉ををリズミカルに叩くリルクル。

 

「開けて下さいなー、あーけーてー、開けて開けてあーけーてー。お届けなのですよ、開けてー。」


 トトン、トン、トントントン、と軽やかに扉を叩いて中を伺うも、どうやら出てくるまで時間がかかるらしくて待ちぼうけを食らう。

 その間もリズミカルに扉を叩いていると、扉が開いて髪色の変わった麗人が姿を見せた。

 すかさず、リルクルは受領証へのサインを求める。


「お届けでーす。サインをお願いしまーす。」

「おう。」


 見間違いようのない綺麗な顔立ち。

 髪は真っ白になっていたが、天辺にだけ少し黒さが残っている。オシャレだろうか。

 瞳の色がやや青みが強くなっているのが気になったが、それでも全体的な顔や雰囲気と、発せられた声で間違いないと判断して、リルクルは尋ねられた言葉に勢いよく返事した。


「前も来た奴か?」

「あい!」


 そうして、すかさず頬を膨らませる。


「ブーブー。お兄さんの顔は覚えてるよっ。子供って間違えた上に、性別まで間違えたもんね!?」


 割りと根に持つタイプだとリルクルは自分でも思う。

 それでも迷子の扱い受けたのは頂けない。そのついでのように女の子扱いも幼児扱いも頂けなかった。

 この為、確りとその点を指摘して謝罪を勝ち取る。

 それで心の広いリルクルは許しておいた。


 何よりもお菓子までくれたのだ。


 しかも手作りだという。

 これで性別が男なのが何だか残念なお兄さんだとリルクルは思った。

 先程謝罪を求めた割りには、完全に棚に上げた思考である。

 バレなければ良いと思う辺りに、なかなか良い性格をしているとさえ言えるだろう。


「本当に良いの!?ねぇ、良いのー!?」

「お、おう。」


 そんな麗人へ招かれた家の中で、焼き菓子を提供されて食いつくリルクル。

 それに若干引きながらも、頷いて返す相手に遠慮なく菓子を口に詰め込んでいった。

 途中、何やら悩んでいる様子だったのでアドバイスついでに取引して、更なる菓子の提供を約束させるリルクルはちゃっかりしていると言えるだろう。


 その際に若干、本性が漏れたのは多分ご愛嬌だ――。




◇ルートC


 リルクルの暮らしはルークと関わる事で一変した

 仕事は領主から度々入ってくるし、無理して他を受ける必要も無い。

 それでも偶に嫌な目には遭うが、概ね平和で平穏だった。

 お菓子の作り方も教えて貰えたし、自分好みに作る事が出来るようになったのはリルクルにとっては最高だと言えるろう。

 買い集めてきた材料は、別途保管までしてもらえた。

 そんな中で、外で寝泊まりしようとすれば、部屋を一つ貸してもらえるようになったのも人生で最高な瞬間だったかもしれない。

 特にメルシーという人間の女の子と仲良くなったのも良かった。

 正直言って、毎日が楽しいくらいに充実していた。

 ある意味リア充である。


「はちみつもいれよー?」


 その日々の中で、珍しくケーキが作れるとあって、あれもこれもと欲張るリルクルが居た。

 それに対し、


「焦げやすくなっちゃうんで、やめた方が良いと思いますけど……。」


 メルシーの方は消極的だった。

 砂糖の代わりにはちみつを使えば、シフォンケーキを作る事が出来る。

 ただ、このケーキはただのスポンジケーキよりも難易度が高いのが難点だ。

 間違ってもメルシーとリルクルでは未だ作れない。

 少なくともメルシーはそう判断した。


 何せスポンジケーキどころかクッキーですら良く焦がしているのである。


 そういった理由があってか、メルシーはリルクルを止めようとするも、基本的に欲に忠実なリルクルは聞いてくれない。

 そのまま他の材料が入っているボウルの中に全てを投入しようとして、それを横からルークに止められるのが大体の流れだった。


「――あ。」


 取り上げられたリルクルが上目遣いにジーッと見つめる。

 見つめる先ははちみつの入った瓶だ。

 丸ごと全部入れようとするので、大体小瓶一本しかルークは出さない。

 他は全部彼の【空間庫】内で、リルクルが限度を超えて使用するのを何時も防いでいた。

 そんな彼が、はちみつの小瓶を高い位置に掲げたままで、呆れたように口を開く。


「別に食べる時に掛ければ良いだろ?今入れたらまた焦げるぞ?」

「えー。」

「黒焦げが食いたいって言うなら止めないが、失敗作は俺は遠慮するからな?」

「それもそうだね。後でかけよー。」


 あっさりと意見を翻すリルクル。

 クッキーだろうがケーキだろうが、焼き菓子関連は作るのが難しいのである。

 竈の中だって温度は一定じゃないし、赤々とした炭の側では当然火の入りも早い。

 この為に良く焦がして失敗作を量産していたリルクルは、焦げるの一言で諦めた。


 何せ、良く中心を生焼けにし、外は黒焦げというパターンで作っていたからだ。

 何故ルークのように上手く作れないのかと、その度に嘆くが後の祭り。

 基本的にリルクルが甘みを追加しようとして失敗しているので、ただ総突っ込みが入るだけである。

 お菓子作りに関してだけは、誰も味方してくれなかった。


 それでも、洋菓子も和菓子も関係なく口に出来る毎日に、リルクルは満足していた。


 おかげでお金はほとんどがお菓子に消えていくが、他に使い道も無いリルクルにとっては構わないのである。

 途中で本性がバレたりもしたけれど、それでも今までと変わらずに接してくれる二人が居る。

 それで十分だった。

 少なくとも、そう思って暮らしていたのは間違いが無いだろう。

 森の中の一軒家には、嫌味な奴は居ないしやって来るような事も無くて平和だったのだから。

 朝食だって当たり前のように用意されるし、リルクルには何の不満も無い。


 それが、油断していたというのなら、確かに油断していたのだろう、きっと。




◇ルートC


 ある日、自宅へ戻る途中にリルクルは誰かとぶつかった。

 ぶつかった拍子に鞄の紐が切れて一つ落としてしまったが、相手は謝罪もせずに足早に走り去っていった。

 ある意味当て逃げである。


「――もう、なんなのさー。」


 それにブツブツと呟きつつも、鞄を拾って切れているのに気付くリルクル。

 攻撃された――と気付くも遅く、相手の姿は最早見えない。

 その事へ顔を顰めつつも、帰路へと着く事にした。


「ムー。紐だってタダじゃないのにー。」


 不満たらたら、通い慣れた森の中を進む。

 森ではスライムが発生するものの、リルクルにとっては然程危険な魔物ではない。

 動きは遅いし、良く落とし穴に落ちたままだったりするからだ。

 知能が低いのもあって、リルクルの脅威には成り得なかった。

 そんな魔物の他に危険な存在が発生するような話も聞いた事が無かったし、実際に見かけた事も無い。

 この為、住んでいる森は比較的安全だという認識にあった。

 だから油断していたとも言えたのだろう、きっと。


「チクショウ――!」


 聞こえてきた叫び声に、思わずビクリとする。

 声の主はルークだった。

 漂う血の匂いに気付いて、慌てて駆け寄りながらも声をかける。


「ちょ、ちょっと、お兄さん!大丈夫!?」

「ああ――何とかな。」


 そう返してきたルークは、怪我をしていた。

 背中が縦に、バッサリと切られてしまっている。

 赤いコートがそれで暗い色彩に転じて、更にその上に霜が降りて薄っすらと白かった。

 見れば回りも霜が降りていて、凍りついていて非常に冷え込んでいる。

 それに、リルクルは慌てふためいて声を掛ける。


「酷い怪我――辺りも真っ白だし、一体何があったの?ねぇ?」

「……。」


 だが、聞いてもルークは何も返答しない。

 それどころか、何時になく険しい顔で歯を食いしばっていた。

 痛みに耐えているのかと思いきや、腰のポーチからポーションを取り出すと煽り、そのまま階段を上がっていく。

 それに、リルクルはオロオロしながらも着いて行った。

 何時もと違う雰囲気。

 何時もと違う状態。

 何もかも、非日常で不安が募る。


「マジ、かよ……。」


 そんな中、開きっぱなしの玄関の扉の前で佇んだまま、ルークが立ち竦む。

 動かないルークの呟きを聞いて、リルクルは中を覗き込もうとする

 ただすぐに――後悔した。

 玄関先から見えたのは真っ赤な血の色と、その上に広がった白い霜。

 そうして、半分凍った状態で転がっている一つの生首だった。

 それが、カタカタと歯を打ち鳴らしていた。

 生首なのに、動いていた。

 それも、見知った顔が、だ。


「メルシー……。」


 ――一体、家に帰っみたら、仲の良かった少女が殺されていたなんて、誰が思うだろうか。

 少なくともリルクルは全く思いもしなかった。

 だから、しばらく呆然と、ルーク同様に立ち竦むしかなかった。




◇ルートC


 家で一人待っていたというメルシー。

 そんな彼女を殺したのは勇者だという。

 リルクルから両親を奪ったのと同じ、勇者という種族だ。


 そいつは貿易都市さえも襲って壊滅させていた。


 そのせいで、例え都市に残っていたとしてもメルシーはどの道殺されていただろう。

 ルークですら無事じゃなかったし、メルシーが勇者から逃げたり戦ったりなんてまず無理だ。


 それなのに、救いを求めてルークの下に人が集まっている。


 何処に居ても安全じゃないのは誰の目にも明らかで、だからこそなのか、負傷しているルークの下へと人々が集まっているのだ。

 それはまるで、他に救いは無いとでも言いたげで、勇者を倒すのは彼なんだと圧力を加えるかのよう。

 幸いルークにはその事に気付けるだけの余裕も無かったが。


 何せ、メルシーが殺された事に、感情を押し殺すので精一杯のようだったから。


 そんなルークに勝手に期待して、勝手に重荷を背負わせようだなんて、随分と自分勝手な人達だなと、集まった人々に対してリルクルは思った。

 居合わせたメンバーは、貿易都市の領主とその妻、それに王の子である王太子。

 連れてきた行商人に、囮を引き受けたはずの豪商とその護衛の生き残りが二名。

 何故か魔女の双子もいたし、赤い髪をした火魔法使いまでやって来ていた。


 そんなメンバーに混ざりながらも、リルクルはルークをジッと見ていた。

 何時、折れるかと冷や冷やしながらだ。

 メルシーはルークにとって弟子だったのだ。

 妹みたいに可愛がっていた事をリルクルは知っている。

 そんな彼女が殺されて、傷付いていないわけがない。

 今は未だ耐えられているけど、何時崩れるかも分からないのだから心配にもなる。

 ――支えなきゃと、この時リルクルは思った。


 だがそこに、吸血鬼が姿を現して事態は急変する。


 敵対しないどころか、その吸血鬼はルークと知り合いだという。

 何がどうなっているのかも分からないままに、強制的に地下へと連れ込まれてしまい、アンデッド達に監視される日々。

 そんな中で、ルークとは離れ離れだった。

 彼がどうなっているのか、正直気が気じゃない。

 その事を領主と話していれば、獣人は近付くなと豪商に追い払われた。

 彼は獣人が嫌いらしくて、同じ空間に居るだけでも嫌がり、文句を垂れてくる。


 けれども、リルクルは獣人じゃない。


 そう言いたくて、だけど言ってしまえば勇者に付け狙われてしまう為、弁明が出来ない。

 リルクルは冒険者組合の時のように、人を選んで近付く人と近付かない人を選別した。

 豪商は勿論後者だ。

 なるべく遭遇しないよう、食事の時間等もずらして過ごすしかなかった。

 そんな中、ゴースト達が床や壁をすり抜けてやって来ても、リルクルは何も言えない。

 彼らは危害を加えてきたりはしなかったけれど、本能的な恐怖で精神がガリガリと削れた。

 それでも何時ものようにただじっと耐えるしかない。

 時折運ばれてくる食事に手を付けながらも、脱出の計画を練る者達に賛同して、ただ出来る事をこなしていくしかなかった。




◇ルートC


 地下での日々を過ごしている内に、ルークが突然、フラリと姿を見せた。

 見るからにやつれた顔。

 白かった肌は増々白くなって、青白くなっていた。

 不健康そのものという顔色に、リルクルは内心気が気でない。

 何よりもメルシーが殺された事で、彼は随分と落ち込んでいたはずだ。

 それが表情に表れているのではないかと思って、しばらくは様子を窺っていた。


 だがしかし、ルークは落ち着いて領主との会話を行い、全く取り乱す様子もなく淡々としていた。


 瞳を見れば、絶望に染まっている様子もない。

 焦燥は見られたが、逆にそれがあるという事は、彼が未だ生を諦めていないという事だと思えた。


 どうやら、ルークは一人で立ち直ったらしい。


 そう思って、リルクルは内心で幾分安堵する。

 短い間とはいえ、居候していた身である。

 心配もするし気にもするのだ。

 そんなルークが既に半分死人かもしれないと衝撃の告白をしてから、フラリとやって来た時同様にフラリと居なくなってしまった。

 後を追いたかったけれど、それは既に失敗するのは経験済み。


 この地のアンデッド達は吸血鬼の命令を忠実に守って行動するのだ。


 おかげでリルクルも含めて、全員地下に軟禁されたままだった。

 ルークが姿を消した後、全員での話し合いが設けられたが、リルクルの中での答えは決まっている。

 しばらくの間、一緒に暮らしていたのだ。

 今更何を迷う必要があるだろうか。

 仮にルークが危険な存在なら、その時は逃げれば良い。

 リルクルにはそれだけの自信があったし、実際逃げ切れるものだと思っていた。

 だから気にするのは別の事である。


 拒絶されて、彼が自暴自棄になったりしないか、その点についてである。


 けれど、その時には今度こそリルクルは支えようと心に決めていた。

 ルーク自身も内面は強いし、立ち直る事は出来るはずだ。

 一人じゃないと思うだけでも、随分と心強いものなんだとリルクルは知っている。

 両親を失った後、人間の町で猫の振りをして暮らしていたからこそ知っている事だった。


 そんなリルクルの決意とは他所に、会議から更に時が経ってからのある日の事、再びルークがフラリとやって来た。


 その時には薄っすらと赤く輝く片目があった。

 それは、アンデッドの特徴だ。

 もしかすると、ルークはアンデッドに変えられていっているのかもしれない。

 それに焦ったが、彼はどうやら気付いていないようだった。

 リルクルはジッと、彼の様子を再び窺った。

 少しでも誤魔化そうとしていたり、何か隠していないか、それを見極めようとしたのである。


「――目がどうかしました?」

「え、ええとだな。」

「それよりも、地上に向けて穴を掘ってると、その内沼地に繋がって溺死しますよ?」


 滅んだ貿易都市の領主とルークとの会話が、前回同様に繰り広げられていく。

 それは、相変わらず落ち着いたものだった。

 それどころか、領主の方が目を白黒させて焦っていて珍しい。

 無自覚とはいえ、貴族を手玉に取って気遣えるくらいなのだ。

 今のルークは正常なのだろう、きっと。

 そんな彼に皆声を掛けたくて、機会を窺っているようで視線が幾つも彼に集中している。

 実際、領主の妻が口を開くのを切っ掛けにして、それぞれが矢継ぎ早に言葉をかけていった。

 リルクルもその中に混ざって、当たり障りの無い言葉で反応を見た。


「結構人間臭いっていうか、生前の癖みたいなのが見えるよねー。うっかりしてるところとか。」


 リルクルの前に声をかけていたのは、ロドルフだっただろうか。

 そんな彼に追従するようにして発言した瞬間、豪商――アレキサンドラが嫌そうな顔をしたが、リルクルは無視した。


 彼とは相容れないのだ。最早気にするだけ意味が無い。


 それに、彼を支持する者も居なかった。

 となれば当然、リルクルに危険は及ばないだろうと判断位は出来る。

 何せ、身体能力ではおそらく一番高いのだ。

 魔法にさえ気を付けていれば、一人で生者相手には無双する事も出来るかもしれない。


 何よりここで一番偉い立場にあるはずの領主がリルクルの発言に対して何も言わないのだ。


 そこから導き出される答えは、豪商の考えが全体の意見というわけじゃないという事。

 少なくとも多数派ではない。

 だから、リルクルは豪商を無視する事にした。


 そんな中で、ルークに連れられて地上へと揃って向かう事になる。


 途中で見かけたアンデッドも、ゴーレムも、襲っては来なかったし追いかけてくるような事も無ぁった。

 全部が呆気なく思える程に、全て素通り出来たのだ。

 そうして、地上から運ばれてくる微かな森の匂いにリルクルは気付いた。


「――邪魔しないね?」

「そうだな。」


 チラリとルークを見るも、彼は何時もと変わらない様子だ。

 唯一の違いは、片目の赤い輝きだけ。

 それもうっすらとしたもので、ようやく見えた陽の光に紛れると分からなくなる。

 瞬間、光の下へと次々に人々が飛び込んでいく。

 それに対してリルクルは、本当に身勝手だなと思った。


 彼らは利用する事しか考えていないように見えたのだ。


 少なくとも、リルクルは違うと、そう内心で思う。

 だから、地上に出られたというのに、ルークが浮かない顔をしているのが気がかりだった。

 その気がかりは――当たってしまう。


 ルークが地下に留まると言い出したのだ。


 勿論それに対して、リルクルは一緒に行こうと言いたかった。

 言ったかったのに、到底言えなくて、思わず口を引き結んだ。


 何せ、日光がルークの身を蝕むようになっていたから。


 肉の焼ける匂い。

 それをリルクルの鼻は敏感に感じ取っていた。

 ――勇者を攻撃したから、そんな身体になってしまったのかと、リルクルは思った。

 勇者は呪われているから、その呪いが変にルークに感染ってしまったんじゃないかと、そう思ったのだ。

 心配はしたけれども、しかし魔法についてはリルクルには良く知らないし分からない。

 ただその時は、ルークと共に過ごす事はもう出来ないんだと、何となくそう感じて寂しさを抱いたままの地上への帰還となった。


 メルシーを殺され、ルークとは離れ離れとなって。




◇ルートC


 王都から貿易都市に至るまでが壊滅したという噂が流れて来て、実際その通りだった事で大量のアンデッドが湧くようになっていた。

 この為にリルクルは各地を点々としながらも、これまで同様に冒険者組合での配達の仕事を請け負い生活していた。

 同時に、貿易都市の領主から請け負った各地の情報を集める仕事をこなす。

 正直便利に扱われるのに苛立たないでも無かったが、断ればそれはルークに押し付けられそうで、内心の嫌気は隠しつつもにこやかに請け負っていた。

 

 ただ、森の中の家は危ないからって焼き払われた後で、再び野宿生活へと戻るしかなく、一度覚えた文化的な暮らしと比較しては溜息を零したが。


 貿易都市みたいな、獣人を差別しない場所は少ないのだ。

 それどころか、増々悪化していく所ばかりで、リルクルは領主からの依頼が無ければ、暮らしていくのもやっとだっただろう。

 長く生きていても、どれだけ身体能力が高くても、ちっとも楽には暮らせないのは、同胞として認めて貰えない事にある。

 何より、リルクルの見た目は警戒心を薄れさせるのには使えても、信頼を勝ち取るのには不向き過ぎた。

 おかげで討伐等の依頼は請け負えず、配達等の比較的『お使い』程度として扱われる仕事をこなすしかなかった。


 そんなある日の事、リルクルは何時にも増して危機感を感じていた。

 迫害されるのは今に始まった事じゃなかったが、開拓村に新たな王都を作ろうとしている最中、情報収集の為に向かった伯爵領でやたらと視線を感じたのだ。

 決して良い視線じゃない。

 むしろ、背筋がゾッとするような、危険を感じる類のもの。

 それに慌てて来た道を引き返す。

 伯爵領にこのまま向かうのは危険だった。

 何せ、感じ取ったのは視線だけじゃない――腐臭もだ。


「うわわわわ!」


 来た道を戻ろうとすれば、直ぐにアンデッドを遠目に見つけて迂回する羽目になる。

 おかげで随分と遠回りをして戻る羽目になった。

 というのも、


「彼方此方もうゾンビだらけなの!」

「だろうな。」

「幾つもの町や村も壊滅してるって!」

「そうだろうな。」


 どこもかしこも危険極まりない状況だったからだ。

 幾らリルクルが身体能力に優れているとは言え、休み無く追ってくるアンデッドには対処しきれない。


 何せ相手の体力は無尽蔵。


 それこそ疲れ知らずの不眠不休の行軍だって出来てしまう。

 おかげでリルクルは下手に動き回れなくなっていた。


「手を貸してよ――って、ねぇ、ちゃんと僕の話聞いてる?」

「聞いてるぞ。」


 話し掛ける相手はルーク。

 わざわざ地下に居る彼を尋ねたのだ。

 もっとも、その地下への道を通ろうとして、入り口付近に大量のアンデッドが居るのに気付き、どうしようかと迷っている間に捕獲されてしまったが。

 幸いだったのは、捕獲してきたアンデッドも、見かけたアンデッドも、どちらも地下に居たはずのアンデッドで危害を加えてくるような事が無かった点だろう。

 だがしかし、彼らによって再会を果たせたルークは、思いもかけなかった情報を口からスルリと出してきて、リルクルは固まってしまったが。


「地上はゾンビだらけで、町や村が壊滅な。しかも疫病が発生してる地域もあって、どこもかしこも手や物資が足りずにジリ貧状態。更には冒険者組合も撤退を視野に入れていて、何時見捨てられるかも分からないでいる状況にある。」

「え。」


 何それ知らない――と、リルクルは頭を抱えた。

 冒険者組合とは、武装した者達が集う、言ってみれば権力者からすると不穏因子の集う場所である。

 そんな連中、普通なら蹴散らされるか取り込まれて終わりだろう。


 実際、そうなりかけた過去は沢山ある。


 だがしかし、実際にはそんな事にはならずにしぶとくも存続している。

 これには勿論絡繰りがあった。


 冒険者組合というのは、対魔物に特化した集団である。


 この為に仕事の内容は討伐や野外においての活動が多い。

 一部に新人や駆け出しに向けた『お使い』程度の依頼がある程度で、本来は荒事専門の組合なのである。

 この武力を人や国に向けない事は当然だが、魔物の氾濫といった有事の際には無条件で協力する事が求められていた。

 この有事というのが、ゾンビ大繁殖中の今の状態だと言えるだろう。

 そんな時に撤退しようとしている。

 それはつまり、約束を反故にしようとしているという事だ。

 そして、撤退の情報を流された無いという事は――組合から切り捨てられたに等しい。


「信用できない組合に何時までも所属している必要は無いさ。」


 ルークが言う。


「今後は俺と一緒に行動すれば良い。そうすりゃ食いっぱぐれる事は無いし、どさくさに紛れて殺される事も無いよ。」

「え?え?それってもしかして――。」

「今、お前は命を狙われてるんだ。薄々でも勘付いてるんだろ?」

「……。」


 サラリと言われる言葉に、何で知ってるの、とか、何処まで知ってるの、とか、リルクルの脳内がフルで回転する。

 けれども、先に言われた言葉でリルクルはそれらの考えを一時、放棄した。

 ――だって、一緒に行動すれば良いって言ってくれた。

 そうすれば食いっぱぐれないって、殺される事も無いって、そう断言したのだ。

 しかも、やけにゴロツキに絡まれたり、野盗に襲われたりしていたのを見抜かれていた。

 それが何処から差し向けられてたものなのかも、きっとお見通しなんだろう。

 だから、


「リルクルの力は絶対に役に立つからな。手を貸してもらえると助かるよ――なんなら、新作のお菓子を報酬に出して良いくらいだ。」

「お菓子!?新作!?」


 その後に告げられた言葉に、別に釣られたわけじゃないのだ。

 決して、そうじゃないのだ。

 命が掛かっているのだから――多分危機感が反応したのである。

 多分、きっと、おかしじゃないのだと、リルクルは思った。




◇ルートC


 リルクルは雷魔法を覚えた。

 ルークに言われて、修行した成果だ。

 才能があるらしくて覚える事自体は早かった。

 ただ、命中率が中々向上しなくて、随分と痛い目にあったが。


「うあー、しぴれるぅ。」

「出現場所を明確にイメージしないからだ。」


 魔法はイメージが重要らしい。

 そのイメージでリルクルが出すと、自分が焦げる事になってしまう。

 解せない、とリルクルは思った。

 何せ、主に自分で生み出した魔法で感電するのである。

 痛いしどうしてこうなったのかと頭が痛かった。


「――呼んだー?」


 そんなある日の事、ルークに呼ばれてリルクルは地下へと移動していた。

 事前に開かれた【転移門】を通過しての移動だ。

 魔法というのは極めればこんなに便利何だなと、リルクルは思った程である。

 そして、その便利さをお菓子作りに生かせないかと、実はこっそりと思って試していた。


 バレバレである。


 あちこちがゾンビパニックに襲われている中で、甘い匂いを漂わせていれば分かって当然だろう。

 ルークの手伝いが済んだ後、口酸っぱくして「お菓子作りに魔法を使うな」と念押しされてしまった。

 その代わりに飴玉を貰える事になったので、リルクルは言う通りにして開拓村へと戻ったが。


 その翌日。


「コッコー、酷いんだよー。お菓子作りに雷は向かないっていうのー。なら、他の属性教えてくれても良いじゃんねー?」


 なんて、リルクルが愚痴っていた。

 最近の日課である鶏への餌やりに、鶏小屋の前で一人騒ぐも、ほとんどの鶏は寄って来ない。

 何せ、ボスだと思われる鶏が、やたらと他を牽制して近付かせないのだ。

 ただ、そいつは毎回かならずリルクルのところへやって来る。

 だから、、リルクルはそいつにコッコと名付けて可愛がる事にした。

 他が寄ってこないのだからしょうがない。

 しょうがないついでに、その辺からむしって来た葉っぱをチラつかせて弄ぶのである。

 それに、


「コケー。」


 とコッコが鳴いて、左右へと振られる葉っぱに首を傾げてみせた。

 くれるの?くれないの?どっち?と言いたげである。

 そんなコッコの尾羽根は、最早尻尾とは思えない程の形をしている。

 ウロコ状のものがびっしりと生えていて、蛇みたいだ。

 それが、首の動きに合わせて揺れ動いているのが、リルクルの目にもはっきりと見えた。


「コッコはコッコだよね……。」

「クケ?」


 最近その尾は鱗が生えてるだけじゃなくて、口まで開きそうだ。

 最早蛇みたいに見えるのだが、リルクルは至って気にしない事にした。

 例えコッコがコカトリスになっていようとも、コッコはコッコのはずだと。

 だから討伐依頼なんてものが出たら、コッコを引き取るつもりでせっせとリルクルは餌付けする。

 リルクルにとっては、最早コッコは愚痴を言えるだけの友達である。

 見捨てたりするつもりは毛頭無かった。


「はぁ――せめて火か氷だったらなー。そうしたら、焼き菓子か冷菓が作れたのに。ねぇ?」

「コケッコ!」


 魔法をお菓子作りに使う事しか頭になかったリルクル。

 そんなリルクルの愚痴を聞いているのかいないのか、


「コーコッコ!」


 鳴いて翼をばたつかせながらも、飛べない鳥のコッコがリルクルから餌を奪おうとする。

 ただ、高速で振り回される葉っぱに振り回されていたのは、コッコもまた弄ばれる事を楽しんでいたのかも知れない。




◇ルートC


 新しい王都が出来上がったある日の事。

 新しい王様が貿易都市の領主だった人物に決まり、そこから更にルークが王に仕えたりして、彼は多忙な生活を送るようになったらしく、様々な噂が伝わってくるようになった。

 リルクルはそんなルークと個人的な付き合いがその後も続いた。

 言われた通りに仕事を貰い、子供に混じったりして情報を集めて回る。

 主な仕事は市井の調査だ。

 そして、ルークに関する噂と、勇者についての情報収集。

 それをコロコロと話題が変わる子供達の会話から引き出しつつ、ルークに持っていく。

 時には闇に紛れて、忍び込んだ酒場の屋根裏で冒険者達の会話を聞いたりもした。

 住む場所は以前ディアルハーゼンに貸し出されていた倉庫が空いたので、そこを借り受けた。

 借りる際にはルークが保証人にもなってくれたし、初めての自分の家をリルクルは持ったのである。

 倉庫だったが。


 そんな暮らしをしている内に、ロドルフまでリルクルの仕事に付き合うようになった。

 サリナは都市に張り巡らせている結界の整備だ。

 主にルークと一緒にやっているが、ほぼ休み無しでやっているものだから、随分と大変な仕事らしい。

 安全にも関わる事だからしょうがないと、ロドルフは笑って済ませているが、恋人が仕事漬けで良いんだろうかとリルクルは余計なお世話かもしれない事を考えたりした。


 そんなロドルフの家に偶にルークがフラリと現れて、仕事を頼んでいく。


 それにロドルフと二人、それぞれ別方面から情報を集めて精査し、提供していく毎日。

 まるで諜報員みたいだと、ロドルフと二人して笑った。

 新しく出来た王都は人族至上主義を掲げる者に対して厳しく、異種族へ危害を加えた場合同族への危害よりも重い罰則が貸せられる。

 酷いと冗談抜きに処刑されるのだから、聖職者は元より、信者達も紛れ込めない環境になっていて、リルクルには非常に暮らしやすかった。


 それもそのはずで、勇者召喚の下地に使われる可能性を欠片でも許さなかった為だ。


 ある意味、対女神の国として建て直されたと言っても過言ではないだろう。

 これに反発もあったはずだが、正当な王位継承者が二人揃って新王都には居るのだ。

 それを押し退けて王になろうなどと出来るはずもない。

 着々と対抗勢力を作り上げていっているようで、戦争が起きてもリルクルは平穏な暮らしの中にあった。




◇ルートC


 ある日、リルクルはアンデッドに転じていた。

 心臓は動いていなかったし、体温も無い。

 何故こうなったのか――と考えた所で、昨夜の配給は何かおかしかったなと思い出す。

 いつもの缶詰のはずなのに、少し甘い味付けだったのだ。

 甘みは大歓迎だったリルクルは喜んで平らげたが、それから少ししてから急激に眠くなった。

 そのままベッドに倒れ込んだ後の記憶が無い。

 つまり、おかしかったのは缶詰である。


「一服盛られた――?」


 でも、何で?とリルクルは考える。

 現状、リルクルには盗まれるような物が無い。

 鞄の中身は空っぽだし、お菓子なんてここ最近めっきり手に入らなくなっていた。

 倉庫の中にある家具は、ベッドだけ。

 そのベッドも健在である。

 そこまで考えて、リルクルはアンデッドになっているにも関わらず、普通に考えられている事に目を瞬いた。


「あれ?」


 リルクルが知っているアンデッドといえば、ほとんど生前の記憶なんて残っちゃいない獣同然の存在である。

 発する声も「あー」だとか「うー」だとか繰り返すだけで、骨に至っては発言すら無い。

 それどころか、人格も大きく変わっているのが彼らアンデッドというものである。

 しかも、生者を無差別に襲う厄介極まりない存在だった。

 少なくとも、リルクルの中でのアンデッドというのはそういうったもので間違いない。


 だが、その存在になったはずなのに――リルクルは記憶も人格も特に変わった様子が無かった。

 そればかりか、生者を襲おうとかそんな考えはこれっぽっちも浮かんでは来ないのだ。

 何かがおかしい――と、寝泊まりしている倉庫を飛び出すリルクル。

 外では多くの人が既に目が覚めていて、そして呆然としたり自暴自棄になったりしてした。

 自分で自分を傷付けようとする者。

 手当たり次第に物を投げたり、殴りつけたりする者。

 何かから逃げようと走り回る者。

 それを追いかける者。

 狂ったような笑みを浮かべている者。

 急に笑ったり泣いたりと忙しい者。

 見るからにおかしい状況の中、リルクルはロドルフの家に向かう。

 そして、そこで固まっている二人を見つけた。


「ロドルフ!」

「リルクル――?」


 サリナの腕を掴んで、脈を測っている様子で揃って青ざめている二人。

 リルクルは状況を見て、すぐに理解し二人へと駆け寄った。

 そこに次いで聞こえてきた声に、素っ頓狂な声を上げる。


「――諸君が現状をどこまで把握しているのか、それをまずは確認し、情報の共有から始めたいと思う。」

「お兄さん!?」


 聞こえてきた声はルークのもの。

 そんな彼の言葉に、現状を知り、揃って安堵の吐息を漏らした。


「なーんだ、お兄さんの仕業かぁ。」


 半分アンデッド状態だったルークならば、何かしらの方法を齎すだろうというのは三人は思っていた事である。

 この為、ホッとした様子のロドルフとサリナも、口々に呟くのがリルクルの耳にも届いた。


「でも、これで将来の不安は無くなったわね。」

「その内何かするとは思ってたが――随分思い切ったもんだな。」


 そう言って笑い合えるくらいには、三人の関係は良好だ。

 尚、この後リルクルが心配で突撃してきたコッコにより、リルクルが散々踏まれまくったのは余談である。




◇ルートC


《やめーい!》

《喋ったー!?》


 鶏の中で唯一の生き残り(?)であるコッコ。

 そんな彼に構っている内に、突然【念話】を習得した。

 それが嬉しくて、リルクルは更に構い倒す。

 コッコは面白かった。

 コカトリスに進化しているのに、自分は鶏なんだと思い込んでいたのである。

 その上、違う開拓村に居た鶏達をかつての仲間だと思い込み、報復として突き回していたという。

 完全に鶏違いであったにも関わらず、だ。

 コッコはルークの所で飼われていた鶏の一匹だったのは間違いない。

 森の中で暮らしていたというのだから、そんな変人ルークくらいである。

 そして、リルクルの事はどうやらメルシーと間違ったりしていたらしい。

 同じ茶髪なので間違えたのだろう。

 後、鶏からしたらリルクルもメルシーも大きい。

 幼児と少女くらいには大きさに違いがあるのだが、コッコは気付いていないようだった。

 そんなコッコに構いすぎて、


《やめーい!》

《やっぱり喋ってるー!》


 リルクルはちょっと避けられるようになった。

 どうやら拗ねてしまったらしい。

 葉っぱをチラつかせようにも、随分前に植物は枯れるか腐るかして残ってはいない。

 荒れた土地にはペンペン草の一つも生えていなかったし、コッコの機嫌を取る物は何も無かった。


《何で生えてないのだー!?》


 そんな大地に対して、コッコは盛大に文句を垂れた。

 それはもう、これでもかってくらいには怒涛の勢いで文句を垂れた。

 余りにも長すぎたのでリルクルは右から左に受け流した程である。

 そのコッコに付き纏い、リルクルはコッコの旅に着いて回る事にした。

 丁度、ルークから各地の様子を見てくるよう頼まれたのだ。

 特に期限も言われなかった為に、リルクルはコッコと彼方此方を巡った。


 同じ様に廃墟とアンデッドが彷徨くだけの町があったり。

 かと思えば、生前と変わらない様子で町を保ち、同じ様に知能が残った状態でのアンデッドにされた者達の住む場所があったり。

 空を見上げれば浮遊霊よろしくゴースト達がフヨフヨと浮かんでいる。

 偶に雨が降る場所もあれば、砂漠が広がって隣の女王様が治めていた国は砂の大地になっていた。

 その先の商人達の国へも足を運んでみたが、そちらには干からびたミイラがウロウロしているだけで面白みも何も無い。

 帰り際、コッコがスライムに呑まれてしまい、仇を取ろうとして実はコッコを攻撃していたなんて事もあった。

 コッコ曰く、


《乗っ取り返したぞ!》


 らしい。

 そして、


《腹減った!帰る!》


 と、鶏小屋に戻ると言い出した。

 小屋に戻っても鶏の餌は無いだろうに、そんな事は忘れているらしい。

 流石コッコ、元鶏である。

 鳥頭で何処か残念なのは健在だった。

 そんなコッコと一緒に、リルクル達は長い年月を掛けてあちこちを見て回ったが、新王都へと戻った。

 見てきたもの、感じたものをルークに報告して、コッコを鶏小屋へと戻す。

 その際、


《餌が無いだとー!?》


 と大騒ぎしたのは、ある意味分かり切った流れだったが。




◇ルートC


 ロドルフとサリナが王国の兵士に志願した横で、リルクルはコッコと気ままに暮らした。

 採掘ブームが到来すれば乗ったし、何故かコッコまでツルハシを振るった。

 揃ってお揃いの石をゲットして、それを使って飾りを作ったのは良い思い出である。

 ただ、作った飾りをコッコは間違って食べてしまっていたが。


 そんな暮らしも、何時かは終止符が打たれる。


 生者なら寿命や怪我等で、命を落とす事で。

 死者なら心が先に死んでしまったりして、この世に留まれ無くなって。


 リルクルとコッコはそのどちらでもない。

 敢えて言うなら、生者のように怪我らしきものを負って、現世とお別れしたという感じだろう。

 それを齎した存在は、何故かルークそっくりだったが。


《やり辛い!》

《無駄口叩かずに攻撃せよー!》


 訓練のおかげもあってか、コッコとリルクルの連携はまさしく阿吽の呼吸だ。

 猫に似た姿の骨であるリルクルをコッコが憑依したスライムの身体で包み込んで、見た目は黒い猫みたいになっているものの、その力は侮れない。

 何せ、その状態でもコッコは俊敏に動き回って撹乱するし、攻撃を回避する。

 通り抜けようとする敵の進路はリルクルが雷を落として妨害し続けるし、正しく足止め要員として機能するのだ。


 それでも、ずっとは出来ない。


 相手は滅茶苦茶に早くて、リルクルでも生前だと追えない程の動きなのだ。

 アンデッドになってより強くなったと思っていたのに、魔法を使ってすらギリギリの攻防が続く。


《アホード遅ーい!》

《同感だ!あのバカタレは何をしておるんだ!?》


 揃って文句を垂れる二体の意識が一瞬逸れた隙き。

 それを突かれて、あっという間に敵が遠ざかって行ってしまう。


《ゴメンー、足止め出来なかったー。》


 それに対して、リルクルはとある人物へと【念話】を送る。

 すぐに《良い》と返ってきて、少しばかり安堵の吐息を漏らした。


《アレの強さを肌で感じるのが現状での最優先事項だ。下がってからアルフォードの回収をし、次の行動へ移れ。》

《はーい!》


 どうやら叱責は逃れられると、リルクルは気楽な様子で返す。

 そこに、更なる支持が飛んできて、尻尾をピンと立てた。


《その後は作戦通りだ。指示した場所での待機――出来るな?》

《勿論だよ!僕はアホードとは違うからね!》


 足止めしたら何時もはすぐに追ってくるはずの火魔法使い。

 勇者に並々ならぬ執着を見せる元赤毛の偉丈夫だった彼は、回収先で下半身を失って、どういうわけか骨の身体で地面を這いずる残念な姿になっていた。




◇ルートC


 下半身を無くしててまともに動けないアホード――もといアルフォードを引きずって訪れた地下。

 少し前に作られた広大な穴は、かつてアンデッドを大量に詰め込んでいた場所らしく、怨念漂う地で生者にはちょっと辛い環境だろう。

 勿論、アンデッドになっているリルクルもコッコもそんなのへっちゃらだ。

 むしろ過ごしやすい空気だと言っても過言ではない。

 何せ、その怨念の素は同じアンデッドなのだから当然である。


 そんな地で、最終決戦とも呼べる戦いの火蓋が切って落とされた。


 突入してくる黒い影。

 やはりルークそっくりな顔は、しかし大きな鎌を自在に操って攻撃してくる。

 時折飛ばされてくるのは、暗器の類。

 それが当たれば簡単に骨の身なんて砕ける。

 勿論、スライムの身体を乗っ取っているコッコだって只じゃ済まない。

 だから誰もがその攻撃を弾いたり、防いだりはせずに、回避するのを心がけていた。

 そうじゃないのは鎧姿のリビング・デッド達だけだ。

 彼らだけは、その攻撃を物ともせずに果敢に攻撃を加えようとしていた。


 それなのに。


 それなのに、届かない。

 決死の覚悟で一撃を入れようとするのに、掠り傷一つ付けられない。

 逆にこちらはどんどん味方が倒れて行く状況だ。

 勿論、リルクルだって雷を何度も落としている。

 それでも、攻撃が届かなかった。

 最終的に残ったのは、両手で数えられるだけの人数。


 それが崩れたのは一瞬だった。


 ただ、それをリルクルが知る事は無かった。

 何せ、最初に崩れたのが、彼だったからだ。

 何かをしようとするコッコ。

 それが真っ赤な業火に包まれて蒸発して消えていく。

 その様子に、思わず手を伸ばせば、薄っすらと青い白刃が迫っていた。


《あ。》


 ――最期というのは、何とも呆気ない。

 悪足掻きをする余裕も無く、リルクルは自身の首の骨を砕く音と共に、この世を去っていた。

 ただ最期に、何者かの声を聞いて。


《――個体名リルクルの登録を完了しました。》


 意識が、完全に闇へと呑まれる。


 大分端折ったけどそれでも長い。確認したら2万9千文字あった。

 リルクルでこれだと他はもっと長くなるだろうなぁ(遠い目

 手直ししたら一万文字とかぽーんと増えそうで今から怖いです(((・ω・;)))


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