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301 コカトリス コッコ

 その魔物はかつて鶏だった。

 しがない家畜の、何時かは潰されて肉にされるだろう、そんな存在だ。

 幸いだったのは、雌として生まれた為に卵を産む事が出来た為、直ぐには潰されなかった事だろう。


 しかしながらも、鶏の社会は厳しい。


 上下関係を決める為に、上から毎日のようにくちばしで突付かれるのは最早当然の事である。

 それが原因で剥げる鶏も多かった。

 酷いと、彼方此方から突付かれて生きていくのも大変な位なのだ。

 もしもそれが嫌だというのなら、逆に突付き返せる位には強くならないといけない。


 暴力が支配する鶏社会。


 彼らの社会とは、それ程に厳しい世界なのだ――。




◇ルートAorB


 開拓村と呼ばれる場所で、その鶏は一人の老人に飼われて育った。

 雌鶏であるが故に、産み落とした卵は何時も持って行かれる。

 温めていた卵が無くなる事へ、彼女は切ない思いをしつつ日々を過ごした。

 そんな日々が唐突に終わったのは、ある冬の日の事。

 彼女達鶏を飼っていた老人が、老衰で亡くなったのである。

 鶏という家畜はそれなりに高価で、そして大切に飼われやすいが、飼いやすい反面、餌代がどうしてもかかる。


 結果的に、コッコは他の仲間達同様に締められて、食卓に上る事となった。


 家畜として生きて、家畜として生涯を終えた、一匹の鶏の生涯である。

 違う時間軸では、彼女はコッコと名付けられるが、この時間軸のコッコはそんな事知る由も無かった。




◇ルートC


 暴力が支配している鶏の社会において、弱いのはそれだけで苦労の連続である。

 餌を食べようとすれば突付かれ、水を飲もうとしても突付かれ、巣箱に入っても突付かれる。


 コッコは、生まれてから一年くらいは、そんな突付かれ通しの日々だった。


 それが変わったのは、住処ごと住む場所が変わってから。

 深い緑の匂いがする中に、コッコを含めた数羽の鶏が放たれ、伸び伸びと飼われるようになった。

 そこはまさしく新天地。

 今までとは違い、萎びた野菜や毒草が与えられる事もない。


 そんな餌を与えてくれる飼い主は、コッコ達と同じ色をしていた。


 当時、コッコには大した知能は無く、それくらいしか理解は出来なかった為に、白くて餌をくれる人という認識しか持っていない。

 それでも餌には新鮮な葉っぱが与えられるし、時には細かく切られた野菜の皮等も貰える。

 怪我や病気にも手をかけてくれて、概ね満足の行く暮らしの中、時折突付かれながらもコッコは大変満足していた。


 何せ、突いて来る相手の数が圧倒的に少ない。


 それは最底辺ではあっても、痛い思いを余りしないで済むという事。

 餌だってたっぷりと貰えるし、水も川から直接引かれている為に何時でも飲み放題だ。

 おかげで飢えも乾きも無く、怪我や病気にだって怖れる事は無い。

 外敵も排除された環境の中、コッコは家畜らしく大人しく暮らして、森での時をしばしの間、問題無く過ごしていった。




◇ルートC


 飼い主が帰ってこない――。

 その事が鶏でも分かったのは、果たして何時の事だったか。

 毎日のように与えられた餌が朝になっても無く、前日の残りを他の鶏達と食べる。

 食べてる時も突付かれて、コッコは他の鶏達の顔色を伺いながら何時ものように餌にありついた。

 だがしかし、翌日になっても餌が与えられない。

 既に前日で食べつくされた餌箱を前にして、コッコは地面に生えた草を食べて何とか飢えを凌ぐくらいしか出来る事は無かった。

 しかし、草は美味しくない。

 美味しい葉っぱは常日頃から食べられている為に生えておらず、コッコは美味しくない草を食べて空腹を誤魔化すしかないのだ。

 不満は溜まる。

 だが、それでも飼い主は帰ってこず、餌も無かった。

 二日目になっても餌が無いのだ。

 何時もあった、美味しい餌がである。

 この為、コッコだけでなく他の鶏達も草を食べて誤魔化し始めた。


 但し――それをしたのは雌鶏だけだ。


 雄鶏は数が少なかったおかげで未だ餌箱には餌が残っており、板一枚隔てた向こうで飢えを知らずに居た。

 それに恨めしく思いながらも、コッコ達は地面に生えた草――魔力の籠もった物を食べ続けた。

 それが、彼女達を進化させるとも知らずに。


 だが、やはり飼い主は帰ってこない。


 捨てられたのか、それとも何かあったのか、とにかく帰ってこなかったし、コッコ達は三日目になっても餌がもらえなかった。

 現状、コッコ達の世話をしてくれていたのは主に二人の人物だったが、そのどちらもが姿を見せないのだ。

 気まぐれに葉っぱを落としてくれるもう一人の存在もあったが、コッコ達は彼については忘れていた。

 何せ、本当に気まぐれで時偶の餌やりだったのだからしょうがない。

 鶏の頭では、多少賢くなったとしても、そんな人物を覚えていられる程に容量は足りていなかったのである。


 コッコ達はそれでも待った。


 それ以外に方法が無かったとも言えるが、必ず帰ってくるはずだと信じたのだ。

 別にそこに根拠なんて無い。

 ただ、今まで当たり前にあったのだから、これからだってあるはずと、安直にもそう信じたのである。

 実際、昼になってから飼い主はその姿を現した。

 ただ、それが飼い主かどうか、コッコ達は最初分からなかった。

 所詮は鶏である。

 しかし、分からなかったけれども、餌やりの人だとは気付けた。

 何せ、手には黄色い穀物を持っていたから。

 それは、玉蜀黍トウモロコシと呼ばれる、甘みのある食べ物。

 そんな餌を見せつつも、更なる餌をその人物はチラつかせてきた。


 緑の葉っぱ。


 それは、人参や大根の葉である。

 萎びてもいなければ、枯れてもいない。

 コッコ達は歓喜した。

 待望の餌が来たのだと。

 そして、それはご馳走とも言える程の物だった。


 ――所詮は鶏である。多少賢くなったところで、その程度だった。




◇ルートC


 ある日自由を得たコッコ達は、森の中を気ままに移動して散り散りになっていった。

 散り散りになった先でそれぞれがどうなったかはコッコには定かではない。

 定かじゃないが、多分無事じゃないだろうなとコッコは思う。

 そう思えるくらいには、コッコは知能が上がっていた。


 森に生えていた植物は、どれもが高い魔素を含んでいた。


 何時からそうだったのは定かではない。

 だが、コッコが食べる森の植物はふんだんに魔素が含まれていた為に、コッコの進化の条件を満たした。


 コッコはコカトリスへと進化したのだ。


 しかし、コカトリスは魔物である。

 それも石化の能力を持つ、極めて危険な魔物だった。

 そんな魔物に進化したコッコは、人並な知能を手に入れて暮らし始めた。

 元の鶏同様の大きさながらも、知能だけは人間と互角である。

 だが、如何せん知識が無かった。

 知能があっても知識が無ければ宝の持ち腐れである。

 それでもコッコは考えた。

 考えに考え抜いた。

 ここで暮らしていくは、果たして可能だろうか。

 餌はずっと食べれるだろうか。

 水のある場所を離れてやっていけるか。


 最終的に、コッコは森で暮らすのは難しいとそう判断したのである。


 何せ、他の鶏達と遭遇した事が無い。

 そこから弾き出された答えは、森の中は危険だという事だ。

 この為に、コッコは森を出る。

 出る方向は分からなかったが、かつての飼い主達が何時も向かっていた方角を進んだ。

 そうして――森を抜ける事が出来たのである。

 森の先はコッコにとっては背の高い草が生えていた。

 草原と呼ばれる場所で、しかしコッコは隙間無く丸太が刺さる場所を見つけた。

 その周囲を周り、開いていた隙間から中へと侵入。

 侵入した先で、コッコはかつての仲間達(?)を見つけた。


 鶏達である。


 彼らを前にして、コッコはしばし佇んだ。

 コッコは覚えていたのだ。

 彼らに散々突付かれた事を――。

 そうして、此処に入れば、突付かれはしても安全だという事を。

 餌は萎びているし、水だって新鮮とは言い難い。

 それでも安全には変えられないだろう。

 何よりも、コッコは自由だ。

 鶏達を囲う柵くらい、彼女なら何時でも飛び越えられる。


 右を見て、左を見て、背後を見て。


 そうして彼女は、かつての仲間達――と勘違いした、無関係な鶏達を突き回して、ボスの座に君臨した。




◇ルートC


 鶏達のボスとして君臨してしばらく、コッコは大人しく暮らしていた。

 元々の気性は大人しかったのだ、今更暴れまわるわけもない。

 かつての仲間達と勘違いして突き回したのはノーカンである。

 少なくとも彼女の中ではノーカンったらノーカンなのだ。

 そうして、穏やかな日々を少なくとも彼女の中では送っていた。

 時折加えられる鶏には洗礼とばかりに突き回し、生まれた雛が成長するに従ってそれも突き回したが。


 基本、ボスであるコッコの一日は突付く事にあるのだからしょうがない。


 そうして過ごしている内に、時折気まぐれで餌をくれていく人物が居るのに気付いた。

 コッコは彼が訪れる度、真っ先に近付いた。

 何故なら彼が一番新鮮な葉っぱをくれるのだ。

 それも、森の中で食べていたような、新鮮な葉っぱである。

 他を牽制しつつも、コッコは彼から餌を貰った。

 独り占めである。

 その内、手から直接貰う様にさえなる。

 コッコは知らなかったが、何時もコッコの方から餌を貰いにやってくるのをその人物は気に入っていた。

 まるで懐いてくれているようで嬉しかったのだ。

 対するコッコは、新鮮な餌をくれるだけでなく、他と区別してくれているのに気付いて嬉しかった。

 何せ、他の餌やりに訪れる連中とは違って、独占するのを嫌がらない。


 知らず知らずに、双方共に顔を見せ合うのが楽しみになっていた。


 開拓村が新王都なんて呼ばれるようになった頃の話である。




◇ルートC


「――ゴゲェッ!?」


 鶏から進化し、これ以上の進化等無いだろうと思っていたある日の事。

 知能が発達しただけでなく、知識も何となく集まっていたコッコは、肉として潰される事もなく過ごしていたが、身体に起きた激痛で小屋の中をのた打ち回った。


「ゲキョッ!?ゴゲッゴッゴッゴッ!ゴゲェッゴゲェッ!?」


 体中がギシギシと痛む。

 大凡味わった事の無い激痛に、しばし転げ回り、痛みが引くと同時に盛大に騒ぎ立てた。


「ゴーケゴッゴー!」


 何があったんだコンチクショウめ――!


 そんな言葉が混ざっていそうな声である。

 非常にコッコは苛立って羽を逆立てた。

 だがしかし、そんなコッコが騒々しくしていたのとは真逆に、すっかりと寂しくなった鶏小屋は、気付けば沈黙していた。

 それは、痛みに耐えられなかったが故の絶命だったのだろう。

 小さな家畜には、到底耐えきれる痛みではなかったのだ。

 耐えられたのはたった一匹。

 コッコだけだった。


「クケェ……。」


 朝日が差し込む鶏小屋の中、転がったまま動かない鶏達を前にしてコッコは理解した。

 仲間達はもう全滅しているのだと。

 そうして、コッコは心配した。

 何時も餌を持ってきてくれていた者達は無事だろうかと。


 ――また飢餓に襲われるのではないかと、食い意地の張っていたコッコは、そこだけ心配したのである。




◇ルートC


 コッコはコカトリスからスケルトンに変化した。

 進化か退化かはこの際考えてはいけない。

 コッコにとっては、少なくとも些細な事で済んでいるからだ。

 仮にそれが退化だと気付いた時、おそらくはそれを成した相手にこれでもかと突付きを食らわせる事だろう。

 だから考えてはいけないのだ。

 成した相手は今は王様なのだから、コッコでは敵わないのである。

 下手に敵対しようものなら、他のアンデッドを作る材料にされてコッコなんて存在はなくなってしまうのだ。

 だから教えてもいけない。

 それを時折餌を与えていた者は、賢くも伝えないでいた。

 そうして、コッコに構った。

 それはもう、構い倒す勢いで構った。


 何せ暇だったからだ。


《やめーい!》

《喋ったー!?》


 そんなある日の事、コッコは【念話】を習得する。

 そこから、コッコと餌やりに来ていた存在――リルクルとの奇妙な関係が始まるのである。


《やめーい!》

《やっぱり喋ってるー!》


 ただ、この瞬間ばかりは、リルクルに良いように遊ばれるだけだったが。




◇ルートC


 コッコはリルクルと直接【念話】で会話をするようになってから、一気に知識を増やした。

 コッコは鶏だった事とか、でも実は魔物のコカトリスという危険な存在になっていたとか、気付かれずに鶏として飼われていたとか。

 更には以前餌やりしてくれてた人達とは、もう会えないのだとか。

 色々と知る事も出来たし、少なかった語彙も増えていった。


 そんな中で、死とは何か、コッコは考えた。


 それ即ち哲学である。

 鶏の癖に、難しい事を考えるコッコは賢いと言えるだろう。

 そんなコッコはアンデッドとなり、既に生命活動を停止している。

 停止しているにも関わらず、以前と大差なく動けている。

 では、コッコは生きているのか?

 否。

 それは断じて否だ。

 だがしかし、死んでいるとするにはおかしい。

 何故なら動けてしまっているのだから。

 二度と動かなくなるのが『死』であるはずだ。

 少なくともコッコの中ではそうだった。

 だから、現状がどういうものなのかコッコには分からない。

 分からないなりにも、コッコは考えた。

 散歩歩いたら忘れる鶏だった頃とは大違いなのである。

 だがしかし、知識を得てもコッコには分からない。

 そんなコッコにリルクルは教えてくれた。


 半死半生、それでいいじゃないかと――。


 コッコと違ってリルクルは長生きだ。

 千年近くは生きていたらしい。

 それから更に千年、半死半生なる状態で動けている。

 コッコは不思議だったが、世の中不思議な事だらけだから気にするだけ無駄だとその内諦めた。

 思考停止である。

 考える頭はどうしたのだろうか。

 コッコは賢さを放り投げ、考えるのをやめて頭空っぽで過ごしていくつもりなのだろうか。

 もしかすると、肉と共に腐り落ちた時に、脳みそごと思考するだけの頭を減らしたのかもしれない。

 それでもコッコは良かった。


 何せ、飢えも乾きも知らず、自由だったからだ。


 そして誰からも突付かれない。

 だからそれで良かったのだ。

 ある日、スライムの変異種に溶かされかけて、その身体を乗っ取るまでは、確かに良かったのである――。




◇ルートC


 コッコを溶かそうとしたスライムだが、逆にコッコに取り憑かれてどっちが吸収したのか分からない状態になった。

 しばらくそれに気付かないリルクルが大騒ぎした挙げ句、喧嘩にまで発展したが、コッコにとってそれも些細な事である。

 喉もと過ぎればなんとやら、だ。

 コッコは決して懐が深いわけではないのである。

 単に忘れっぽいだけなのである。

 この辺りは鶏の頃から余り変わっていなかった。

 雷を操るリルクルと、蒸発させられてなるものかと俊敏に動き回り、身体を変形させて回避するコッコとの壮絶な戦いは置いとくとして、コッコはスライムの身体を手に入れた。

 但し、普通のスライムではない。

 コイツもまたアンデッドだった。

 つまりは半死半生である。

 それなのに食欲があるのは何故か。


 半分グールと呼ばれる死肉を喰らう性質があった為である。


 元々スライムは悪食だ。

 上手いことそれが融合でもしたのだろう、コッコにまでその性質は受け継がれた。

 つまり、空腹を感じるようになったのである。

 困った事に、コッコは雑草や野菜、穀物くらいしか食べた事はない。

 だからスライムが持つ死肉を食いたいという欲求に、しばらく気付けなかった。

 おかげで植物を求めて彼方此方を彷徨ったのである。

 しかし、コッコの知る世界は様変わりしていた。

 葉っぱが無い。

 あれだけ緑一面でボーボーだった地面は、ペンペン草の一つも生えていなかった。

 コッコは彷徨った。

 それにリルクルが付いて回った。

 草が無いと騒ぎ、木が無いと騒ぎ、かつて見慣れた森も何も無いと騒いで、挙げ句骨しかいないと文句を垂れた。

 しかし、空腹は感じてもコッコは過ごせていた。

 そうして、脳みそごと失っていそうだった頭でようやく考え直した。


 あれ、これ別に食わなくても大丈夫なんじゃ?と――。


 実際、コッコはその後も何も食べなくても問題なく活動出来た。

 その内、空腹も気にならなくなった。

 つまりは何も問題無かったのである。

 旅に出て損したと、自分から飛び出しておいてコッコは機嫌を損ね、元の鶏小屋へとプリプリしながら戻ったのは余談である。




◇ルートC


 何やら危険が迫っているというから、コッコは奮起した。

 リルクルと共に移動し、襲いかかってくる黒い奴に対して動き回り、振り下ろされる凶刃からリルクルを守って足止めする。

 とにかく黒い奴は速かった。

 コッコでも動きに追いつくのが精一杯で、突付くどころの話じゃなかった。

 嘴がなくてもコッコは突付くのだ。

 スライムの身体で、鋭利に尖らせた嘴もどきで、それこそキツツキのように突付く事が出来るようになっている。

 それをお見舞いしようと機を伺うも――黒い奴の方が何枚も上手で、突付く余裕が無い。


 リルクルが足止めや牽制の雷を落としてくれていなかったら、あっさりと大鎌で断ち切られていただろう。


 そうなったらコッコは二つになるのだろうか。

 コッコには分からなかったが、それは嫌だなと思った。

 ただ、速くて強くて鋭利な刃物を振り回す黒い奴が、コッコごとリルクルを切り飛ばそうとしてくる敵だというのだけは認識した。

 そいつから向けられてくる攻撃を懸命に避けていると、リルクルがミスをして足止めに失敗した。

 結果的に、遠ざかっていく黒い奴を見送るしかない。

 遠ざかる黒い奴は、コッコなんて見向きもしなかった。

 あっという間に小さくなって見えなくなっていく。

 それは、まるで手を出すまでもないとでも言いたげに。

 その事へコッコは悔しんだ。

 地団駄を踏むように、スライムの身体でベチベチと地面を叩いた。


 仲間達に突き回された時にも感じていなかった、悔しさを感じたのである。


 けれども、コッコは諦めなかった。

 次こそは完璧に打ち倒すと。

 そうして、その身を突き回してやる、と。

 そう闘志に燃えて、再戦へと向かったのである。

 再々、その機会は直ぐに訪れた。

 飛び込んでくる黒い奴が、これまで以上に速く大鎌を振るって動く。

 それによって飛び散る岩。

 直後に白く染まる空間。

 氷と霜が、しかし澄んだ音色を立てて切り裂かれて、次いで走る赤い炎が空高くまで上がった。

 そこを自由自在に飛び回りながらも、切り結ぶのは鋭い刃物だった。

 コッコは見た。

 その中にあってなお、向かって来ようとする黒い奴を。

 そこにリルクルが雷を放つ。

 沢山の甲冑達も殺到し、一撃を入れようとしては失敗し離脱していった。

 倒される者も出てきて、彼方此方に倒れ伏したまま動かなくなる者までいた。


 ――そうして、動く必要のないリルクルから、コッコは離れた。


 このままでは埒が明かないと、勝てないと直感したのだ。


《――コッコ!?》


 聞こえてくるリルクルの声を背に、その身を大きく長く伸ばしていくコッコ。

 平べったく、それでいて縦にも横にも長く、長く伸びる。

 そうしてから黒い奴に覆いかぶさろうとした瞬間に、コッコは業火に包まれた。

 煌めく炎がキラキラとして綺麗に輝き、コッコを飲み込んだ。

 だがしかし、それはコッコを死へ戻す為の炎。

 蒸発していくスライムの身体は、熱にも冷気にも弱い。

 おかげで依代を失い、留まっていられなくなったコッコ。

 むき出しとなったたコッコの魂が、燃え盛る炎に吹き飛ばされて呆気なく掻き消える。

 瞬間、リルクルが叫ぶ。

 それが、コッコの最期の瞬間だった。

 唯一残った、鶏の最後である。


 生存ルート:ルートCで主人公が吸血鬼化していない事が前提条件。


 鶏→コカトリスとなったコッコ。

 伝承では雄鶏の産んだ卵から生まれるとか、バジリスクから派生したとか言われてますが、普通に(?)鶏から変質してコッコは魔物化しています。

 主人公は家を焼いた後に森の中へとコッコ達鶏を放っていますが、その後溢れたアンデッドを薄々感じ取り、人里へと移動して実は鶏達に混ざって開拓村で暮らしていたという。

 その後、気付いたリルクルと行動を共にするようになり、アンデッド化してからも仲良く行動して決戦にまで参加しています。


 2019/05/30 加筆修正を加えました。ルートA・Bの場合が抜けていたので追記。


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