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027 その錬金術師は安心安全な拠点を作る

 ようやく拠点作りに入ります。耐震性とかは日本とはそもそも違うので、ツッコミ入れないでっ。


「終わった――。」


 長かった森の掃討。一人黙々とこなす日々を数日続けて、ようやく魔物の気配が探索魔法に引っかからなくなる。


「あー、疲れたぁ。」


 思わずその場にズルリッと座り込めば、巨木の葉が頭上でざわめき、清涼な風が周囲を吹き抜けていくのが分かった。

 この、ようやく終わった掃討依頼も、別に報告する必要性は無いだろうと、俺は疲れて吐息を吐き出す。

 どうせならば、このまま失敗したとでも思ってもらって、死んだ事にでもしてもらいたい。その方が何かと楽だ。

 しばらくは姿を隠しておかないと、余計なトラブルが舞い込んできかねないからな。領主婦人と領民への口止めは出来たが、領主その人とは接触もしてない。この為に、今後どんな無理難題を吹っかけてくるか分かったものではなかった。

 権力者ってのは大体そういう傾向があり、俺は大っ嫌いなんだよ。だから、こうして避けているわけである。


「面倒臭いからなー、あいつらって。」


 俺はあくまで生産職。例え魔力量が劇的に増えていようとも、戦闘のプロじゃないのだ。むしろ、そちら方面はどうにも苦手である。

 得意とする属性も水と氷だけで、しかも攻撃よりも補助を得意とする縁の下の力持ちだ。間違っても、攻撃系統は向いていないし、前線にだって立てない。

 大体、殺傷力としては他に比べると低い属性なのが水なのだ。氷も同様で、防御にだって向いてはいない。どうにも戦闘には不向きな属性がこの二つだった。


(他でまともに使えそうなのってなると、土くらいだよな?けど、土は防御方面だし――。)


 ううむ、やっぱり、戦闘は無理じゃないか?

 大体、水や氷は、耐性を持つ相手にはそもそも効果が無いどころか、下手すると逆に活性化させてしまうという性質まで併せ持つ。つまりは、使い勝手も悪い属性なのだ。日常では重宝するのに、戦闘になると途端に使えない子になるんだよ。

 そんな微妙な属性を得意としていて、戦闘のイロハも学んで来なかった錬金術師如きが、ここまで魔物の殲滅が出来ただけでも上々だろう?プロならば、それこそ余裕を持って三日もあれば終わってる事だと思われる。


「まぁ、雑魚として有名なゴブリンと、魔術との相性が良いスライムだけが相手だったしなぁ。魔力量が増えてるおかげで、俺でも何とかなっただけでも良かったとするか。」


 どちらも俺にとっては弱い相手だったが、数の多さは厄介である。何せ万単位だ。普通なら魔力枯渇が先に来て、身動きが取れずに死んでいただろう。

 しかし、ネックだったはずの魔力量が劇的に増えたおかげで、危険も無く討伐が出来た。一日の討伐なんて、纏めて凍らせる芸当とかが身についたしな。おかげで楽になって捗った。あと、何気に探索魔法の範囲が広がったのが助かったとも言えるだろうか。


「はぁ。」


 そんなこんなで、何とか対処出来る相手だった、というのが今までの話だろう――そんな俺が強い魔物と下手に遭遇してみろ。為す術もなく殺されるのがオチだ。完全に自殺行為である。


「よいしょっと。」


 そんな戦闘を回避すべく、安心安全な暮らしの確保の為に今日まで戦闘を続けてきた俺。勿論、それは必要に駆られたってのが一番の理由でしかない。

 故に、ここまではサバイバル~駆け出し魔術師の話だ。

 思い出していただきたい。俺の職は?得意とする事は?飯の種は何だ?

 間違っても戦闘じゃない。それは、俺の本職とはかけ離れているものである。


「錬金術だろう、俺の得意なのって。バリッバリの生産職だぜ?間違っても戦闘職じゃねぇよ。無理にも程があんよ。」


 にも関わらず、戦闘を行ったのは、単に何も持っていなかったからである。

 金が無ければ何も買えない。家財道具に工房と自宅と店舗と揃って畑まで故郷共々一緒に全部失ってしまった俺に、襤褸を纏っただけの状態から道具一つ揃えるのですら、もうかなりの無理があったのだ。

 故に、苦手な戦闘を請け負い、こうして先払いで色々と手に入れておいたのである。それによって得たかった――欲しい物が手に入ってしまえば、後はもうどうでもいいとさえ言えるのだ。


「おし、今日こそは拠点作りだな!そして、安心安全の快適ライフを今度こそ取り戻すんだ、俺は!」


 目指すのはお布団――じゃない、それよりももっとでかく!家だ!

 幸い、森の中はもう危険がないはずである。これから他所から魔物とか野盗の類いが流れ込んでくるだろうが、それだって当分先だ。今から対策をしておけば、十分に間に合うはずである。


「場所はこの辺でいいかー。」


 家作りで始めるのは、まずは土台作りから。

 拠点を作るにしても、しっかりとした土台が無いと簡単に崩れる。後、地下室も作っておきたい。それがあったから、俺って生き延びれたんだしな。最早必須だろう。


「んー、材料はその辺に転がってた岩でいいかな?」


 メルシーちゃんのある開拓村から真っ直ぐ、森の中を少し進み行って、そこにあった岩を丸ごと空間庫へ仕舞い込んでおいた。

 更にそこから今度は川の近くまで移動してきて、今は少し離れた位置で地面をゴーレムに変えて巨大な穴を掘ったところである。

 穴の形は真四角。それなりに深さもあるし、使い勝手は良いようにしておいた。


「まぁ、地下の広さはこんくらいあればいいかぁ。そいじゃ、ま【火球】を――って、おお!?」


 今しがた真四角に掘った穴へ、火の魔術を打ち込んで豪快に焼こうとしたらビビった。

 ちょっと焼こうとしただけなのに、轟音とか火柱とかがすごい。前回都市の塀を築いた時は、あれは強めに焼かないとと思って魔力を結構籠めた。なので、大して驚きはしなかったのである。

 まぁ、やけに調子が良いなって思ったが――それがどうも、ここにきて認識を改める必要性があるっぽかった。

 火が収まってから見てみると、いい感じに地面が固まってる。その表面は溶けていて、若干ガラスっぽい光沢が出ていてキラキラとしていた。


「威力、ありすぎね?」


 なんだろう、火の適正まで上がってるんだろうか?

 俺ってもしかして今、魔法使いだって名のれるくらいには魔力量も適正もあるとか?


「うーん――まぁ、いいか。」


 考えたが、その思考はあっさりと放棄しておいた。

 重要なのは、それを使いこなせるかどうかだ。使いこなせなかったら、それはもう歩く凶器である。そこは問題なので、どのみち修行するしかないだろう。その上で名のれるかどうかはまた別の話だ。


 とりあえず、今は目の前の事が最優先である。


 空間庫から取り出した岩を水魔法で切ってレンガのように加工する。それを地下用に掘った穴の中へと重ねていった。

 間に塗り込むのは川辺で採取出来た粘土だ。この辺りなら、僅かではあるものの採取も可能らしい。


「あ、んでもって、もっかいファイアーな【火球】!」


 敷き詰めた地下部分で、再び上がる火柱と轟音。わぁ、すごーい。

 ――ちょっと、トラウマ思い出しつつ目が遠くなった……。

 冷やしてから地下に降りて確認すれば、レンガ代わりの四角く整形された石が、間に塗り込んでおいた粘土が接着剤の代わりを果たしてくれて、焼く事により強固な壁と床になってくれていた。

 叩いても硬質な音が返ってくるし、これなら余程の事が無い限り大丈夫だろう。上々だな。


「うし、ちょっと予想外な事があったが、概ね問題無くいけそうだ。」


 火の魔術はあれだ。ちょっと気分が上がり過ぎてて、魔力の調整をミスったんだ。多分、きっと。更に魔力量が上がったとか、適正値が有り得ないレベルまで上昇してるとかじゃない。多分、無いはずだ。

 そんな失敗から目を逸らしつつも、地下一階と地上一階部分を作り上げる。それから、今度は更なる上を作り込んでいこうとして、周囲へと目を向けた。


「結構良い木が多いな。」


 丁度いい材料は幾つも見つかる。俺はその中から、物色して選んでいった。

 柔らかい木は、残念ながら建築材料には向かない。ただ、これはこれで別の使い道がある。薪や紙の原料だ。特に、紙は今後自作の必要性をひしひしと感じていたので大変ありがたい。

 それとは違い、固い方の木は建材として使える。これを高速回転する水の刃で切り倒し、板状に加工していく。壁や床、柱に使うのだ。天井には梁を巡らせれば、三角屋根を作れるだろう。


「角度は急めに――雪が積もれば、重みで潰れかねんからな。」


 雪深くはなくとも、それなりに降雪量はあった港町。あそこの屋根の形状を思い起こしつつ、大工仕事へと勤しんでいく。

 何で家を作れるのかって?――そりゃ、錬金術師だからとしか言いようがない。

 設計図作ったりとかは結構お手の物なんだぜ?この職って。後、割りと外側から見てるだけでも、ある程度の設計が可能なんだよ。仕事として続けていれば、そのくらいは割りと身につくのである。

 それに、錬金術はいろんな学問と技術の集合体なんだ。となれば、何か作ろうとすれば、それは腕のみせどころってものである。


「あーらよっと、ほいさっさー。」


 そうしていま現在、ノミ金槌カナヅチを使って、釘を一切使わない方法で家を組んでいく俺の姿があった。釘を使わないのは、それを作る為の工房がまだ出来ていないからである。

 それに、この組み方の方が家が腐食し難い。釘って、そのうち錆びるからな。補強には使えるが、補強に使うなら定期的な交換とか必須になってくる。それは面倒臭い。

 幸い、材料となる木材なら周囲を切り倒せばいくらでも手に入る状況だ。家具には歪みが出来にくい桐があったので、それで加工してしまおう。思ったよりもこの辺りはいろんな素材に恵まれている。

 そうして出来上がっていく小屋――というよりは、ちょっとした広さの家は、出来上がり具合は流石に歪になりそうだった。


「まぁ、本職の大工ではないからなぁ。」


 それでもこうして作れるだけ、俺の職業は優秀なのである。

 雨風凌げるように隙間は無くせているし、後はこれに、インゴットを加工したブリキで、トタン屋根を貼り付ければ完璧だろう。


「ペンキとかも欲しいところか。」


 しかし、流石にそこまでは手をかけられそうにない。

 けれども、金属製の光沢は消してしまいたかった。空からの魔物に狙われかねないし、艶消しはいるだろうなぁ。

 てか、単に色なんて塗ったら悪目立ちそうだ。迷彩柄にするにしても、人の手では限界があるだろう。


「うん、まぁ、その辺はまた今度だな。」


 色を塗るのはまた今度にしよう。今は材料も無いしな。

 そうして出来上がった建物は、石壁の一階部分と、木製の二階部分が色も質感も異なる外壁を見せる、割りとそこそこな外観の建物になった。

 屋根は金属板を貼り付けた状態なので、鈍色だ。ところどころ光を反射して白く見える。

 これならまぁ、強風でも吹かなければ大丈夫だろう、多分、きっと。ドラゴンとか出たらどのみち一発で城ですらおしゃかだしなぁ。

 そんな家の壁の一部を切り取って、窓の場所を決めていく。

 外と中、双方から見ても、綺麗に見える出来栄えが理想だ。出来ればシンメトリーなのがいいね。


「あー、後はガラスが欲しいな。」


 ガラスの主原料といえば、砂である。川底を洗ってみたら、割りと豊富にあるようで手に入った。これはやっぱり、海が近いからかねぇ?


「津波の際に押し流されてきたか?」


 可能性としては、まぁそんなところだろう。

 そんな砂をせっせと集めて、ガラスの原料にする。

 尚、入り口を二階部分にした為、一階に出入り口は無い。地下は材料を保管する関係で窓も無く密閉空間になる状態だ。一応、換気だけは作っておいた。

 一階にはトイレと風呂、台所等の水回りに、ガラスを作る為に急いで拵えた工房を設置してある。その上で、二階と地下へと行ける階段を築く。

 そこまでやってから、今度は、作ったばかりの工房で炉に砂を入れて溶かし、ガラスを作っていく。

 ちなみに、明かりは二階まで吹き抜けにした窓からだ。つまりは、工房の上の三階分は、全部ぶち抜けになってる。おかげで天井がめっちゃ高くて空気の循環が素晴らしい。ただ、素晴らしく高すぎて、上を見上げたら首が痛くなってしまったが。


「アイテテテ……これは、開け閉め出来ないタイプの窓にした方がいいな。」


 吹き抜けになってる部屋の窓は、全部嵌め殺しタイプがいいだろう。変に開閉できるようにしてしまうと、鍵の取り付けとかで大変だ。

 窓ガラスには、ガラスを板状したのを嵌める。その板状に作るのがちょっと手間取ったが、幸い材料はいくらでも手に入ったので失敗は怖れずに済んだ。

 後はこれで、ポーションを作る為の瓶にも加工して使える。結構いい感じに原料も揃いそうだし、この辺りは拠点としては最良のようだ。


「よしっ。」


 ガラス板を嵌め込んでいく。一部は開閉出来るように窓枠には蝶番も金属で作って取り付けておいた。これで空気の入れ替えとかも出来るようになるだろう。

 吹き抜けになっていない二階部分には、寝室を含めた居住スペースがあるんだが、そちらはかなり広々としている。

 中には特に何の部屋にするか決めていない空き部屋が一つ、空っぽのままである状態だ。その内、この部屋にも何らかの機能を持たせていこう。 


「――ま、とりあえずの形にはなったな。」


 こうして完全に出来上がった家は、地上二階、地下一階の三階建てとなった。一応、二階の上に更に屋根裏部屋があってスペースがある。ここは日用品の保管場所とかになるだろう。

 必要となる設備も、家具の類いも、全部が設置済みだ。トイレとか風呂なんかの水回りも川から引いてきてあるし、上水と下水で更にきちんと分けてある。その上、それらの浄化槽も設置したので、かなり衛生的な環境が整った。

 もっとも、ここまで終わらせるのに丸三日かかってるし、割りと重労働で働き詰めだがな!しかも、寝泊まりしながらの作業だったので、ほぼ休み無しである。

 結構大変だったと言えるが、それでもこうして暮らしていけるようになったので概ね満足だ。今は余り物が無い状態でも、今後徐々に生活環境を整えていけばいい。


「家は出来たとして――もう少し森を切り開いて、見通しを良くした方がいいかね?それに、早く畑も作っておきたいし、安定した食料の受給率も上げないとな。」


 何せしばらくは人と接するのを断つのだ。寂しくて死んでしまいそうだが、こき使われて過労死したり、利用されるだけされてから殺されるなんて事態は避けたい。

 故に、身を隠す場所としてこの森を選んだわけだが――。


「上手くいくかねぇ?」


 正直、こういった事態に陥ってみて、自分に上手く立ち回れるかと言われると微妙だと言わざるを得ない。

 それでも、こうして身を隠す羽目に陥っているので、色々と手は打ってきたのだ。

 ただそれが――どうなるかはさっぱりだったが。


「穏やかに暮らせればいいんだがなぁ。」


 望みとしてはそれくらいだろうか。

 せいぜいが平穏な日々が訪れるように、手を加えられるところは加えていこう。

 俺はその後も生活環境を整える為に奔走していった。


 硝子の製造に関しては後程詳しく。主人公が生活環境を整える上では、錬金術師である為に大体薬草を主体にした物が多く登場します。

 若干女性が好みそうな内容になるのは否めない。薬草ハーブって、女性が好きそうですからねぇ。

 尚、生物学的に女だろうと中身はアレなので、作者は花より団子派です。例え、薬草だろうと食えない物には興味が沸きません。蓬ウマー。


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