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269 帝都陥落

 最終決戦の火蓋は、俺が仕掛けておいた物によって切って落とされたと言えるだろうか。


「何だ――?」


 人々が見上げる先、そこは帝都にある唯一の城がある方角だ。

 そこの尖塔の一つにぶら下げられている遺体に、誰もが顔を見合わせてヒソヒソと言葉を交わし合っていた。


「罪人か?」

「それにしては、なんだかおかしいぞ。」

「着ている服は上等そうだしねぇ――。」


 交わされる会話を暗い路地に開いた【転移門】越しに聞きながらも、内部の様子を探っていく俺。

 概ね、思った通りの反応だった。


(やっぱり、平民には誰が勇者かは伝えられていなかったか――。)


 縄でぶらさげられている遺体は、赤みがかった茶色の髪と顔に、べったりと血の跡を着けている少年だ。

 その虚ろな瞳は何も映さずに、ただ地上を見下ろしており、風に煽られて時折揺れていた。


 勇者。


 かつてそう呼ばれ、この地に召喚された者の成れの果てである。しかも、何の功績を上げずにただ死んでいった者の遺体だ。

 その遺体に気付いた城は、俄に慌ただしくなってきている。

 何せ、腰には聖剣と呼ばれた折れた剣が納まっているしな。それがどういう事か気付いた者達にとっては、一大事だろう。

 実際、


「――お、おい!これ!」

「嘘だろう!?なんで!?なんでなんだ!?」

「ゆ、勇者様!」


 それぞれ驚き、不安を浮かべて焦っている。

 そんな慌てている連中は平民ではなくて、勿論上層部の奴等だ。

 民からしてみれば、顔も見た事の無い誰か等どうでも良いだろう。ただ少し不安を感じるくらいで済む事だ。

 そもそも何処の馬の骨とも知れないガキの事なんて、眼中にすら無いのがこの国の民である。


 しかしながらも――帝国からしてみれば堪ったものじゃないだろう。


 何せ、城に留めていたはずの最高戦力保持者が暗殺されたわけだからな。

 この為に、その責任の所在と追求で、それこそ聖職者達との間に亀裂が走ってもおかしくはない状況だ。

 実際そうなる未来しか無いのだから、さぞかし混乱している事だろう、きっと。

 それを確認してから、俺は野営地となっている一角で口を開いた。


「工作した結果は上々でした。」

「うむ、感謝する。」


 返すは騎士。この地での最高責任者だ。

 名前は――バーモントだっけ?確かそんな名前だった気がするが、微妙に違ってるかもしれない。

 きちんと名乗られたわけではないし、まぁその内知る事も出来るだろう。

 そんな彼へと、

 

「では、これより神殿並びに教会と聖職者達の討伐を始めます。」


 淡々と告げてから、魔法を行使し始める。

 適正があるおかげで、時魔法の使用は氷魔術よりも魔力使用量が少なくて済む。この為、大規模展開だってお手の物だった。

 そんな俺へと、


「御武運を祈る、救世主殿。」

「はっ。」


 掛けられる声に敬礼して返す。

 ただ――それでもやっぱりなんだか微妙に不満げなんだが、この騎士。

 そんなに俺に最前線で戦って欲しいのだろうか。どう考えても自殺行為なんだが、後衛と前衛の立ち位置を間違えてるとか無いよな?


(俺は魔術師だぞ――?流石に最前線で切った張ったは無理だっての。)


 そもそもとして、適材適所っていうのがある。それを無視して配置されるのは勘弁願いたい話だ。

 そんな内心のぼやきを抑えつつ、裏路地に展開していた【転移門】を閉ざしておく。

 そうして、新たな場所へ開く為の時魔法を再度行使して、六角形に切り取られた空間を幾つも生み出していった。

 そこへと、


「邪神の手下共の討伐が終わり次第、軍は前進する!」

「「は!」」


 騎士バーモント?殿の演説が入ってきて、居合わせた兵士達からの返事が大きく響き出した。

 最終局面だからだろう、誰も彼もが気合の入った様子だ。

 此処に至るまでかなりの時を費やしてもいるし、死傷者もやはり出ている。この為、誰もが真剣だった。


「良いか!一人として生かして残すな!帝国人は女子供赤子に至るまで根絶やしだ!」

「「は!」」

「生き残らせても、邪神を崇めている以上は許されない!奴等は決して改心等せぬのだ!それを心得て対処せよ!」

「「はっ!」

「死こそが彼等にとっての唯一の救いとなる!故に、決して躊躇うな!絆されるな!邪教徒が一人でも生き残れば更なる勇者を喚び、この地に死を撒き散らす事となる!これ以上の犠牲を出さぬよう、心して掛かれ!」

「「ははっ!」」


 一切騎士の言葉へ疑問に思わない様子を兵士達が見せているが、これは昨夜の内に解消しているからだろう、きっと。

 捕虜にはやけに信仰心の高い奴等が居たからな。そういった奴等は今後、絶対によからぬ事を企む。例えば勇者召喚とか勇者召喚とか勇者召喚とか。


 なので、敢えて改心を迫ってやったのだ。


 言葉を用い、金や食い物をちらつかせ、靡くようにもした。それでも駄目なら鞭打ち、気絶するまでの拷問である。

 だが結局、それは全て失敗に終わっている。それどころか、勇者に殺害された被害者達を「邪悪」と称して、義勇兵達の憎悪を一身に集めてくれた程だ。

 おかげ様で誰も彼もが帝国人を憎み、殺意を募らせていて、言い出した俺としてはちょっと居心地が悪かった。


(いや、そうするように焚き付けたのは俺なんだけど。俺なんだけどもっ!)


 なんかちょっと解せないのは、騎士の人気っぷりを目の当たりにしたからだろうか。

 俺が色々仕込んでおいたというのに、彼が動く場合はちょっと効果的過ぎるのだ。それこそ、巻き戻す前の過去の俺と見比べてみて、内心で凹んだ程に。


(やっぱりナヨっとした魔法使いよりも、ガッシリしていて縦にも横にもデカイ騎士様の方が、人気があるって事なんだろうか――?)


 それに理解はするけど、ちょっと納得は出来そうに無い。


(――別に良いさ、俺は俺で頑張るし。頑張って此処まで来てるし。誰かに褒められなくても、自分の目標を達成したいだけだし、良いんだ、うん。)


 そんな風に内心で愚痴愚痴と言いつつも、幾つもの場所へと一斉に【転移門】を開く。

 開く先は勿論、聖職者共の居る場所である神殿や教会、そして――城の中だ。

 これに此方に気付いた一部が、驚いた表情を浮かべたが知った事じゃない。

 一気に魔力を浸透させて、練り上げたものを打ち込んでいった。


「【凍結】!」


 瞬間、転移門の先が瞬く間に凍りついていく。

 出入り口となる扉の封鎖は勿論、窓も門も凍らせて逃げ場を封じておいた。

 そんな中で、驚いた表情のまま固まる者、気付いて逃げ出そうとして固まる者、凍りついた足が砕けて悲鳴を上げたままに固まる者――と、とにかく酷い状況だ。

 それを見ながらも、その先を探索魔法で確認し、精度を上げていく。

 狙うは上層部の連中と聖職者共だ。特に聖職者達は、白いローブ姿が非常に目立って目障りで似合っていない。大体が腹黒いから、逆に真っ白なのが胡散臭いのである。

 それを探す為に、


「【千里眼】、【立体地図】、【座標固定】、【映像化】――。」


 発動させる魔術によって、脳裏に浮かんできた幾つもの場所を覗いていく。

 生者のままでやるのはちょっと大変だが――まぁ出来ない事は無い。

 ただ少し、頭が熱を持って長時間の運用が難しいというだけだ。今が頑張りどころだし、此処で踏ん張らなければ何時踏ん張るんだって話である。


(えーっと、えーっと。)


 そんな中で彼方此方を覗いては、目標を片端から【凍結】させていく。

 軍服を着こなした連中に、全身甲冑姿の近衛らしき者達、綺羅びやかでゴテゴテしい衣装を纏う偉そうな連中。とにかく片端からだ。


(あ、帝王居た。こっちは継承者だっけ?ドレスの方は――妃か何かかね?)


 愛人とか妾とかそういった線も有り得るが、どの道全部が殺害対象だ。後回しにするのは侍女と見られる連中ばかりで、後は執事らしき者達がほとんどである。

 そんな中で、白いローブや杖を手に持つ連中は見逃せない。間違いなく聖職者と魔法に携わる者だからな。確り息の根を止めておかないと兵に被害が出てしまう。

 それらを潰していると、気付けば巨大な六角形の先では目標が見当たらなくなっていた。


「――あれ?」


 ちょっと、おかしい――。

 思い返してみても、姫の姿が何処にも無かった。

 あれだけ目立つ豪華なドレス姿の少女を見落とすはずが無いし、城の中には居ないって事だろうか――?


(――いやいや、それは無いだろ。何処行った?)


 勇者が死んでるのだから、危険を感じて身を隠すくらいはあるかもしれないが、それにしても見つからないのはおかしい。

 隠れていても、間取りから何から立体的に俯瞰出来るのだから、隠し通路の中までお見通しである。それでも見つからないというのは、有り得ないだろう。

 この為に、彼方此方を探して回る。ついでとばかりに見つけた連中は氷漬けだ。侍女だろうと執事だろうと今はもう関係ない。

 城の中から外へは出られないよう、予め門や扉は何処も凍らせておいてあるから、逃げ場は無いはずだ。実際、多くが身動き出来ずに城の中を逃げ惑っていたが、結局は全部凍りついていった。


(居ないなぁ――。)


 動く者が居なくなった城内をそれでも探して回るが、中々に見つからない。

 帝国の血は、此処で途絶えて貰うつもりなのにこれは困った。


(根絶やしにするつもりだったのに――。)


 おそらくなんだが、前身であった俺の出生国の王族の血を帝王が引いているはずだ。

 この為、決して生かすつもりは無い。当時の国を治めていた、あの愚王の血筋なんて途絶えさせるべきだ。


(復讐ってわけじゃないけども――母さんを死なせる原因を作った血は、絶対に後世には残したくないしな。此処で消えてもらわないと――。)


 勿論、俺自身も子供は設けないつもりだ。そもそもとして伴侶を得るつもりもないし、出来ないだろうからな。確実に途絶えさせられるはずである。

 それを不確定にしかねない因子は、確実に此処で潰しておく。

 でないと俺がムカつくからな。気付いたら仲間に混ざってましたとか、死んでも死にきれない。それくらいには祖父――王族の血筋が残るのは苛立ち要素満載だ。


(父親だって嫌いだし、母さんを捨てた野郎と、その親族――全部嫌いだっ。)


 この為にその血を引いてる可能性が高い残るお姫様を探していたのだが、既に凍りついて死んでるのを見つけてホッと息を吐きだした。

 驚いた表情と、霜の降りた豪奢なドレス。

 壁際に押し込まれるようにして、彼女は氷像と化していて、確実に息絶えていた。


(何だよ――近衛に庇われて見えなかっただけかよ。)


 散々探し回ったのに、結果がこれだったとは――。

 良く見ればちょっとおかしな体勢だし、考えれば分かりそうなものだったが、気付けなかった。

 その事をちょっと反省しつつ、


「――討伐完了です。」


 広げていた魔法を打ち切って、同時展開していた魔術も全て解除していった。

 途端に、六角形に広がっていた空間が元に戻っていく。

 ただ、頭がっていうか――全身が熱い。かなり熱が籠もったようで、息を吐き出せば身体の熱を余計に感じた。

 それに再び息を吐いていると、


「――予定通り帝都を目指して、全軍進撃だ!邪教徒共をこの地から討ち滅ぼせ!」

「「おおおおおおおおおお!」」


 背後から雄叫びが響いてきて、続々と足音が近付いて来た。兵士達である。

 彼等は俺を避けるようにして、真っ直ぐに進軍していく。一糸乱れず、この戦いの間で培ったものがきちんと発揮されているようだった。

 そんな進む兵達の隙間で、進軍して行く彼等の声に耳を傾ける俺。士気も高いし、良い言葉が聞こえるだろう――なんて思ったが故の行動である。

 ただまぁ、それはすぐに間違いだと気付いたんだが。


「我等が前王の無念、今こそ晴らす時!」

「被害者達の仇を取るぞー!」

「「おお!」」


 主に王国兵の言葉だ。

 この戦争の一番の理由だし、王国が帝国を攻める事になった原因そのものな為、多くが声を上げている。

 そこに、


「大義は我等にこそある!」

「共闘軍に勝利を!」

「邪教徒共へ鉄槌を!」

「武勲を立てて錦を飾るぞー!」


 という言葉も響いてきて、一拍遅れて大音声が轟いていった。


「「うぉおおおおおおおおおおおお!」」

「――いっ!?」


 正直、聞くんじゃなかったと思ってしまう。

 すぐ側で大声を張り上げられるのはキツイ。それはもう耳がキンッとなって、音が途絶えた程だ。

 慌てて【座標転移】してみれば、耳鳴りが酷くて何も聞こえない。当面、使いものになりそうもなくて、思わず息を吐いていた。


(――凄いな、こりゃ。)


 彼等から少し離れた位置へと飛んでみたのだが、分散させて待機しておいた兵士達は、四方から帝都へと向かっている。

 俺が居るのは、遥か上空だ。おかげで彼等の進軍する様子が良く見える。

 ただ、落下して地面に叩きつけられるつもりはないので、早々に足下に【空間壁】を展開しておいたが。


(耳が痛いし、体は熱いし――気を抜いたらぼんやりしそうだな。)


 そんな事を思いつつも【空間壁】の上に乗ったまま、落ちないようにして下を見下ろしてみた。

 ただ――耳鳴りが中々収まってはくれない。

 仕方なく腰のポーチから体力回復薬を飲み干して顔を顰める。


「不味い――っていうか、鼓膜、破れてないよな?」


 自分の発した声が何処か遠かった。まるで、膜一枚隔てたような感じだ。

 それに溜息を吐き出しつつも、地上を再度見下ろす。

 空気は少し薄いが、ひんやりとしてて気持ち良く、これについては悪く無い。その内寒くなるだろうが、その頃に地上に戻れば良いだろう。


「さてと。」


 かなり高い位置に飛んだ為か、豆粒のような小さな人の群れが、帝都へと集ろうとしているのが見える。

 どう見てもその様子は、砂糖に群がる蟻だ。差し詰め、城は巨大な砂糖菓子といったところだろうか。

 それをしばらく傍観し、


「眺めてないで、事前準備に入るかぁ――。」


 呟きつつ魔力を練り上げていく。

 何もこのまま彼等兵士達にぶつかって貰うつもりはない。

 戦争っていうのは守る方が大体有利だ。それを突き崩すのには、攻撃側はあの手この手で策を弄しておかないとならない。

 例えば門を打ち破る為の破城槌とか。塀の上から放たれる矢を防ぐ盾とか。魔法へ対処する為の腕の良い弓兵とか。


 それらを講じるのに、実は魔法使いという職業はこの上なく役に立つのである。


 防衛側よりも攻撃側において特に真価を発揮しやすいのは、どの属性でも同じ。

 属性と力量によっては出来る事への差は出るものの、それでも一般兵なんかよりは遥かに高い効果を生み出せる。

 故に、此処で俺が動かないわけがない。まだまだ攻撃は終わっていないのだから。


「今頃、生き延びた奴等はホッとしてるんだろうけどなぁ。」


 残念ながら、これからが本番である。

 ――時魔法使いの本領発揮だ。


「まずは塀の上からだな――【亜空間】。」


 見張りとして留まっているらしき兵士達には、揃ってご退場願おう。

 その為に発動する【亜空間】は、文字通り此処とは違う何処かに繋がっている魔法だ。勇者なら自力で戻って来れるかもしれない『何処か』である。

 しかし、一般人の場合はその限りではない。ほぼ確実に戻って来る事は叶わず、彼等は一生を飛ばされた先で送る事となるだろう。

 何せ、大地があるとか以前に、そもそも酸素があるのかも分からない次元の裂け目に落ちるんだからな。生き延びられればまだ良い方である。


「良し、一丁上がりっと。」


 そんな【亜空間】を塀の上に居た者達の足下へ展開した為に、彼等は一瞬で飲み込まれて姿を消した。

 おかげで塀の上は誰も居ない状態である。新たに誰かが上って来ないよう、早々に【空間壁】を置いて邪魔をしておくのも忘れない。


「これで門を破壊する際の被害は出ない、と。」


 塀の上に居られないなら、弓矢を放つどころじゃない。塀越しに撃つにしても、そこまでの腕力を持つ者はそう多くは無いだろう。

 伝令なんかは既に城に向けて走っているだろうが、城の門は凍りついていて入れない状態だ。当分指示も何も出て来ない為に、右往左往するのは間違いない。

 何よりも、上層部の連中はこぞって中で氷像と化しているからな。そこから誰が指揮するのかで、更に揉めるのは読めた展開だった。


「さて、後は逃げられないようにしないとな――。」


 囲い込みは兵士達がしてくれるとはいえ、穴はある。

 それの対策も施してはいるが、全てが万全とは言い切れないだろう。

 何よりも、決死の覚悟で最期の抵抗を帝国民がしてくるはずだ。それによる被害は、最小限に押し止めないとならない。


(んーと、兵の詰め所はっと――。)


 そういった事情から被害を軽微なものにする為、共闘軍が門に破城槌を打ち込み始めてるのを横目にして、帝都の上空から下を覗き込む。

 ワラワラと動く人の群れは、既に戦争の気配を感じ取ってか右往左往している。

 そんな中で帝国の兵士達が出入りを良くしている建物を探し出して、その出入り口と窓に【亜空間】を貼っておく。

 これだけで勝手に移動して消えて行くだろう、きっと。


(後は――って、もう門が壊れたか。)


 他を探してみようとすれば、地上からは遠く声が届いて来て、人の流れが外から中へと移っていくのが見えた。

 それを眺めつつも、建物の中から攻撃を仕掛けようとしている連中を虱潰しに潰していく。

 そうして、彼方此方を目を皿のようにして見ながら、助けが必要そうな共闘軍を時折、後方へと【座標転移】してやる。


「うーん――大丈夫そうかな?」


 戦況は完全に押していると言えるだろう。兵の多くは兵舎へと入ってそのまま行方不明だし、帝国民は為す術もなく倒されている状況だ。

 一部は凍っている城の門を破壊しようとしてか、破城槌を帝都の中にまで持ち込んで打ち付け始めてすら居る。

 そこかしこでは虐殺も強奪も起きているし、一部は暴走してただ殺すに飽き足らず、建物の中へと女子供を引きずって行ったり、切り刻んで愉悦の表情を浮かべたりしていて危ない状態だった。

 一瞬、真顔になる。


(なんでこうなってる?)


 正直、頭が痛い状況だ。少なくとも巻き戻す前の過去では、ほんの数名くらいしか目に映らなかったはずなのに、見渡す範囲だけでもヤバそうな奴等が十は軽く超えている。

 当然、そんな危ない連中は放っておくわけにはいかないだろう。

 仕方なく【座標転移】してから、無駄に痛めつけられそうになっていた帝国民を氷漬けにしてしまう。

 そうしてから、


「一体何をしているんだ。」

「え――?」


 周囲に展開した【転移門】越しに見える喉笛を短剣で掻き切って、殺人に快楽を見出していた連中を絶命させた。

 こういった連中は生かしておいてもメリットは何も無いからな。むしろ秩序を乱して問題を起こす為に、早めに消えて貰った方が良い奴等だ。

 その為に喉笛を掻き切ってやったんだが、どうも女王のところから送られてきた兵士だったようで、王国の兵士がトドメを刺したりと尻拭いに奔走してきた。


「お、お手数おかけいたします!」

「あー……。」


 思わず【転移門】越しに頭を抱え込みたくなる。

 これ、絶対に女王は分かっててコイツらを投じただろう。あの女、こっちが下手に出たのを良い事に、犯罪者共を押し付けやがった――!


「そっちこそ済まないな。手を焼いていただろう?」

「えっと、その――。」


 巻き戻す前の過去では、俺が吸血鬼だった為に脅しになっていたんだと思われる。

 それが無い為にこれ幸いと利用しやがったわけだ、あの女王は――。

 ただ、王国の兵士はそんな背景等知らないのだろう、戸惑った様子を向けられた。


「もう少しだけ、頑張ってくれるか?此処が落ちれば、後は帰還出来るからさ。」

「は、はい!」


 俺の言葉に、敬礼で返す王国兵――複数へ向けて、俺も敬礼で返す。

 繋いだ空間越しにその後も似たようなやり取りを交わしつつ、粗方快楽殺人木共を抹殺し終えてからそっと息を吐き出した。


(送り込むにしても、もう少し人選選べよ――。)


 いや、最前線に置いていいとは言ってたけどさ。更には拷問通り越して、殺したがってたのも分かってたけどさ。

 だからって、何もこんな快楽殺人鬼共を共闘軍に混ぜなくても良くないか?


(はっきり言って邪魔でしかないし――後で確り圧力をかけておこう。)


 何時味方に襲いかかるかも分からないし、此処で始末するのは『当然』だ。

 生かして戻すだけの価値は無い。


(物資もタダじゃ無いっての。)


 それにしても、と思う。

 ――総司令官が人間で、更に俺が吸血鬼として支配していないせいか、女王の国から送られてきた兵士はどいつもこいつも質が悪くてまともじゃないようだ。

 快楽殺人鬼は速攻で潰したんだが、次いで多いのが強姦魔。コイツらのやりたい放題な状況には辟易とする。

 そもそも、一度理性の箍が外れれば何度でも繰り返す事になるのが、性犯罪者の特徴である。

 その再犯率は非常に高くて、股間のモノを外科手術で撤去しとけよと思うくらいだ。


(同じ男として情けない――こんな奴等の遺伝子は今後必要無いだろ。)


 特に、帝国の女性だけでなく子供まで片端から連れ込んで行為に至ろうとしているいるのには、本当にうんざりとしてしまう。

 コイツらは一体何をしに来たんだ。戦争は未だ終わってないってのに、勝手な行動するなと怒鳴りたくなる。


「はぁ――お前ら、全員去勢コースな。」

「は?」

「え?」

「うおっ?」


 片端から強姦魔達を引き剥がして【座標転移】で送り込んでいく。

 送り込む先は最高司令官が指揮を取っている場所だ。

 そこへと下半身丸出しで送っておいたので――何があったのかは、まぁすぐに分かる事だろう。

 そうして、味方であるはずの愚かな敵を間引いていく。

 こいつらはもう味方じゃない。邪魔にしかならないし、敵で十分だ。後で確りブツが失われる恐怖を味わって貰おう。


「ったく、無駄に手を焼かせるなよな――。」


 人を玩具にする馬鹿が居れば、それだけで制圧は遅れる。

 そんな事をする奴が居れば当然止めようとする奴だって出てくるし、誰も止めなくても実質働かない奴が兵の中から出ている事になる。

 この為に、実際に働いているのは王国軍だけかもしれないと分かり、苛立ってついつい力が籠もってしまった。


「女王様にはきっちりとこの落とし前をつけてもらわないとなぁ?」


 さて、どんな脅迫が良いだろうか――?

 そんな事をつらつらと考えつつも処理作業を続けて、共闘軍として加わった女王の兵の内、凡そ四分の一を始末する羽目になり、更に頭を抱えたのは余談だ。

 そして、ようやく帝都の殲滅終了を告げる笛の音が、彼方此方から響いてきたのは、夜が明けてからの事だった。


 2019/04/12 加筆修正を加えました。ところどころ誤字があったので修正。


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