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263 戦争開始

 西国から最先端の帝国への侵入経路は三つ有る。


 一つは海の上を船で行くという方法。

 勿論これは海洋生物に襲われて死者を生み出すだけとなる為に没だ。

 馬鹿みたいに被害を出しながら進軍する意味は無いし、そんなの誰もやりたがらないだろう。


 二つ目は地下で繋がっている道を使い通る方法。

 こちらは無理とまでは言わないが、全員が通り切るには到底時間が足りないだろう。

 何せ五十万の兵士と、後方支援部隊が続くのだ。確実に帝国側で気付かれる上に初動が遅れてしまい、後手に回ってしまう。


「というわけで、私の魔術であちらの陸地へ送ります――【転移門】!」


 早朝、出撃の準備が整った兵士達の前で軽く演説と紹介をされた後に、此処まで伏せていた魔法を披露する。


「なんだこりゃ!?」

「景色が揺らいで見えるぞ!?」


 ――ちょっとしたざわめきが起こったが、まぁ無視して説明を行っていこう。


「空間同士を繋ぎ合わせる秘術です。これにより、遠く離れた地であっても、魔力が続く限り人や物を運べます。」

「おお!これは凄い!」

「隊列を崩さずに済みそうだ!」


 喜ぶのは主に上に立つ連中。指揮官とか班長とかそういう役目についている者達だ。

 勿論、物資とそれを運ぶ後方支援隊は地下の通路を通って帝国へ侵入する。彼等は別に遅れて辿り着いても問題は無いからな。最低限は兵士達と共に行動するし、入れ替わりで補給活動は行う予定である。

 それに、帝国側にあった関所については、昨夜伯爵達を処刑した直後に俺の方で潰してある。この為、戦力が無い部隊でも移動してしまって良い状態だった。

 潰した帝国兵は、アンデッドとして待ち構えたりしないよう既に対しても対処済みである。潰された関所に居た帝国兵は皆殺しにした上で、その遺体は【座標転移】で抜け出せないような場所に隔離してあるし遭遇は絶対に有り得ない。

 これらの遺体は後々にまた有効活用する事になるのだから当然だ。放置するなんて勿体無い。例えアンデッドであろうとも、俺なら安全に利用出来るし捨て置くのは資源の無駄だとさえ言えた。


「よっと!」


 そんな事はおくびにも出さずに、開いた【転移門】を広げていく。

 地下を進む部隊とは別に、本隊となる部隊へ向けて地上に築いたのは、左右に長く伸びた巨大な『門』である。 

 使っているのは勿論、以前サイモン殿達を助ける為に使った時の魔法と同じだ。ただそれがやたらと伸びていて大きく、規模が違うだけである。


「これは――。」


 何やら言いかける騎士がいたが、俺はそれを追い立てるようにして言葉をかけておく。


「余り長くは持ちませんよ!」


 実際、この【転移門】は魔力の消費が桁違いに多い魔法だ。発動で【凍結】の百倍、維持にも一秒辺り【凍結】の一発分といったところを消費するだろうか。

 これで適正有りだというのだから、本当に魔力喰らいの属性だと思う。それを使いつつ、


「さぁ、早く!」

「ぜ、全軍進撃!」


 急かしてやれば、慌てながら指揮官である騎士が命令を下した。

 瞬間、


「「うぉおおおおおおおおおお!」」


 五十万という数の兵士達が雄叫びを上げ、続々と移動していく。

 空間と空間を繋ぎ合わせて移動を行う事が出来るようにされた魔法なので、当然彼等は何の問題も無く『門』を通過して侵攻を開始していく。


 実は、この魔法を開発するきっかけとなったのが、この場所のこの時だったりする。


 何せ地下通路を渡っていたんじゃ時間が掛かり過ぎるからな。どう足掻いても途中で帝国に気付かれる為に、この先の戦では死者が多発してしまっていたのだ。

 それを緩和する為に作ったこの魔法。魔力は当然かなり食う事となるが、それを補って余りある成果を上げてくれる俺のオリジナルの魔法である。


(別に帝国側に死人が増えるのはどうでも良いんだがな――。)


 全員皆殺しにする予定だし、子供に至るまで死んでもらうのだから、奴らが死ぬのはむしろ歓迎である。

 だけれども自軍である共闘軍からの死者が多発するのは、流石にご遠慮願いたいもの。

 彼等にはこの先、まだまだ役に立ってもらわないとならないのだから当然だろう。帝国の者とは『利用価値』がそもそもとして異なるのである。


(その為に食料や武具等の物資を集めてきたんだし、精々頑張って貰わないと。)


 此処で揃ってくたばられてアンデッドになられては困る。

 出来る限り、生きて帰ってきてもらわないと。


「さて、布陣が完了し次第にあちらでも即行動へと移して下さい。迅速に、確実に――戦場での動きは、全て貴方の指揮に掛かっていますから。」

「う、うむ、かたじけない。」


 内心を隠しつつ告げた俺の言葉に返すのは、残っている指揮官。

 彼は一番最後に移動するつもりらしい。

 隊は横隊陣で横一列を保った状態で進んでいるし、最前線は鍛えられた兵士達な為にまぁ乱れる事も無いだろう。この為、彼の到着は遅れても問題無いのかもしれない。


「では、私は私で遊撃してきますね。勇者と思われる者がいれば、例え複数でもお知らせ下さい。此方で潰しますので。」

「それは――心強いな。」

「無理だけはなされぬよう。兵は王より預かったものですから。」

「心得ている。」


 騎士から返ってくる返事が少し詰まったりしたが、まぁ大丈夫だろう。

 精度を上げて行うので誤射もない。送り込んでからすぐに勇者と遭遇するわけでもないし、俺としても魔力の回復に務められるので十分に対処は可能なはずだ。


「では、どうかご武運を――。」


 俺のこの言葉を最後にして、騎士爵である彼は敵国の地を踏んだ。

 それを西国で見届けてから、俺は【座標転移】して飛ぶ。


「さて、此処の活用だな。」


 転移した先は、潰したばかりの帝国側の関所だ。

 古代に作られた地下通路の出入り口でもある場所である。

 そこに先に転移して、後からやって来る部隊の拠点を築き上げてしまわないとならない。帝国側からの最終的な防衛戦にもなるので確り作り上げよう。


「まずは――兵士達を入れても大丈夫な外壁の建設からか。」


 幸いにも石材は豊富だ。何せ、関所に使われていた建材がそのまま流用できるからな。

 いざという時の補修用なのか、あるいは襲撃されるのを薄々感じ取ってか、予備も豊富に存在していた。


「纏めていただくかね。」


 それらを予定地まで【座標転移】で送り、かなりの広さを確保する為に森の中まで横断する形で広げていく。

 ただ、建設予定先にあった砦が邪魔だ。なので、日中ではあるが襲撃を仕掛けて潰しておく事にした。


(ったく、面倒な――。)


 気付かれないように、こういった砦の連中を潰す方法だけならそこまで難しくも無い。

 街一つ潰すならともかくとして、砦である以上は大体縦に長いからな。横に伸びている分はそこまで広くも無いし、奥行きも大差無い。

 更には出入り口もとても狭いので、潰すのは比較的簡単だ。


(問題は逃げ出そうとする連中と、隠れる連中。探索魔法で地理の確認が必須だが――実はここだといらないんだよな。)


 何せ過去にも潰した事がある場所なのだ。おかげで内部の隠し通路まで含めて網羅済みである。

 この為に裏口も含めて全部【空間壁】で抑えてしまい、さっさと出入りが不可能な状態にしてしまう。

 これだけでも脱出不可能になるので、中の帝国の者達を完全に袋の鼠にしてしまえるのだ。


(うん、此処までは楽だな。)


 そこから今度は入り口で騒ぐ連中を無視して、砦の中の者達を上から順に【凍結】で凍らせていく作業である。これが地味に面倒臭い。

 吸血鬼だった時は、単身乗り込んで壊滅させられたが、それだと隠れられたりしてこれはこれで少しばかり面倒な事になったが、上から潰していくのも面倒である。

 だがしかし、今回使うのは超遠距離からの一方的な氷像制作である。材料は俺の魔力と現地の帝国兵なので、安全かつ速やかに事は済むだろう。


(こっちの方が楽と言えば楽だな。)


 隠れられる心配も無いし、逃亡される事も無い。

 やっぱり、氷属性とはいえ攻撃手段を持つのは有用だ。


(そろそろ生きているのは居ないようだな――。)


 確認まで終わった辺りで、地下を移動してきた支援部隊と物資が到着してくる。

 その彼等を他所にして、俺は高い塀を土魔術で一部作り上げると、所々へ物見櫓代わりの塔を建設していった。

 塀の建設だ。

 途中には返しも付けたので、登ってこれない仕組みになっている。とりあえずこれで壁上りは対策出来るだろう。

 また、狭間さまと呼ばれる小さな窓も開けておいたので、いざという時の攻撃用の場所も備えられた。後は此処をいざって時に塞ぐ物を用意しておけば良い。


「まぁ、こんなもんか。」


 それらを一通り作り上げたのが、夜も深まった時間帯。

 勿論、たった一日で五十万もの兵士を収められるだけの長い塀を頑丈かつ機能的に築き上げられる程、俺は土魔術には精通していない。

 様々な機能がある塀だと精々一部を作るので一日が終わってしまうのは間違いが無いし、実際そんな感じになってしまった。

 しかし、別に俺がやらなくてもいいのである。

 何せ今回は、これにとても向いている者が居るからな。その為、ちょっとしたお願いとして呼び寄せてみた。


「――これを此処に建てれば良いの?」

「そうそう。」


 連れてきたのはクドラクである。

 小首を傾げつつ尋ねる彼は、遠くにある火の光が気になるようだが、それよりも目の前にある建材のチェックに余念が無い。

 どうも此処に有る石材は余り質が良くないらしく、顔を顰めては「密度が――」とか「重さが――」とブツブツ呟いているが、人間相手には十分だろう。

 勇者相手にはそもそもどんなに堅牢にしたところで意味が無い。それこそ豆腐のようにスパスパ斬られるのがオチなので、頑丈にしても無意味なのだ。

 この為、作るのは対人間用で十分である。


「コイツと同じ作りで頼めるか?建材は置いているし、置いている場所に沿って作ってくれれば良いからさ。あと、形は半円形な。」


 此方のオーダーに、


「オーケー、任せて。ルーちゃんが作った通りにそっくりにしてみせるわっ。」

「おう、よろしくな。」


 俺の言葉に即座に返事を返してきて即座に魔力を練り上げていくクドラクに、俺は数歩下がって見守る事にした。

 流石は魔力量も高い土魔法使いだ。吸血鬼の始祖となったのもあってか、その異常な魔力量は底冷えする程に多く、ゾワリと寒気が起こる程である。

 そんな中に、


「【城壁生成】。」


 クドラクの呟きが風の中に流れて消えていった。

 生み出されたのは、俺が作ったのと寸分違わない塀。きちんと返しも狭間も設けられているし、物見櫓代わりの塔も同様に作られていてかなりの距離まで塀は続いていた。

 それを遠く眺めながら、


「おー、流石は魔導師の称号に近いと言われた土魔法使い。数時間掛けて俺は作ったのに、一瞬だった。」


 その見事な手腕に、思わず拍手を送ってしまう。

 これに、


「そうでしょそうでしょ?私ってば凄いでしょ?やーん、ルーちゃん分かってるぅ!」

「いっ!?」


 バシバシと背中が叩かれて息を詰める。

 正直、かなり痛くて悲鳴を上げかけた。

 だがしかし、ここで彼の機嫌を損ねる程俺も馬鹿じゃない。煽てるだけ煽てて、こき使わせて貰おう。


「うん、凄いな。やっぱり、クドラクは他とは違うな。」


 叩かれながらもそう伝えると、


「もっと言って!私は褒められたら伸びる子だから!」

「そうだな!これなら勇者が来ても、時間稼ぎくらいはできそうだ!よくやった!」


 そう叫び返すと、途端に声を低くしたクドラクが目を据わらせて、ドスの利いた声を発する。


「勇者ぁ――?」

「え?何?クドラク?」


 いきなりでビックリした。

 だが、別に俺に怒りを向けたわけじゃないらしい。

 彼もまた、帝国に恨みを持つ者。この為に今発している怒りは帝国へと向いているらしく、据わった目は築き上げられたばかりの塀の向こう側を睨むかのようにして向けられていた。

 おそらくだが、相当な怒りを溜め込んでいたのだろう。クドラクの周りで空気が歪んで渦を巻いているのが見える。

 ――それがなんだか怨念渦巻いているように見えるのは、俺だけだろうか?


「ウフフッ、私の可愛い可愛い魔女っ子達を殺害した罪、存分に味あわせてやるわ!待ってなさいよぉ!」

「お、おう。」


 そう叫んだ彼に、俺はここぞとばかりに口を挟んでおく。


「なら、この後の戦争にも加わってみるか?」

「やるやる!是非殺らせて頂戴!」

「了解。一緒にやろう。」

「うん!」


 速攻で返答が返ってきたので、俺は翌日に備えて眠らせてもらう事にしよう。

 直接部隊に加わる事は俺もクドラクも無理だが、遊撃として単独行動くらいなら可能である。

 ただ、俺は一応生者なので睡眠が必要。クドラクには悪いがずっと起きているわけにもいかない。


(引き際は【座標転移】させれば俺の方で調節出来るし、多少暴走しても大丈夫だろう。)


 多分、きっとだが。

 それも合わせて伝えてみれば、


「まっかせて!ルーちゃんが起きる頃にはもう終わらせてあげるから!」

「お、おう。頼んどく。」

「ンフフッ。」


 全力で返されてやる気満々な様子に、若干後退りしてしまった。

 やる気なのは良いが、勢いが凄い。このまま暴走しそうな感じだ。

 ――まぁ、とりあえずクドラクが参加してくれるなら、来年の夏までにはこの戦争も終わるだろう。

 それくらいの戦力は十分にあるし、元々過剰兵力があるしな。残党狩りを含めても、そう時間はかからないはずだ。


(幸い、建設している場所と支援部隊は少し離れているから、後は明日以降でも問題は無いか。)


 彼等が拠点にした場所は地下通路も含めた範囲だし、わざわざ此方にまでやって来る事も無い。

 あちらでの防衛もゴーレムは残っているのだから大丈夫だろう。

 侵入者が出た際には戻すのも、クドラクへは約束として加えてあるし了承も得ている。多分大丈夫だ。

 それに、確認は当然俺の仕事になるが、サイモン殿への報告もあるのだしこのくらいは問題無くやれる。

 この為に塀の建築を完全にクドラクへと任せて、明日から共に行動する為に身体を休める事にした。


「じゃぁ、後は頼んだ。」


 そう告げて築いたばかりの塀の上、寝袋に潜り込むと、


「おやすみっ。良い夢見てね。」

「――ああ、おやすみ。」


 クドラクから言われて、思わず少し詰まる。

 戦場で良い夢とか無理な気がする。何よりも明日からは襲撃する為に動き回るのだし、それを思えば微妙だ。


 ――ただまぁ、クドラクが言った言葉には、深い意味も無いだろう。


 この為に、俺は彼を見送って目を瞑る。

 すぐに睡魔はやってきて、夢も見ないままにぐっすりとこの日は眠れた俺は、翌日から最前線の報告と共に慌ただしく動いていく事となるのだった――。


 2019/04/06 加筆修正を加えました。誤字:疲労→披露の修正。文体もおかしかったので修正。修正ばっかりー。


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