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026 閑話 その錬金術師の偉業を人々は知る

 森の中から、巨大な火の柱が立つ。


「な、なんじゃぁ?」

「ありゃ、なんじゃ?何があったんじゃ?」

「ほほう、こりゃまた凄い火柱じゃのう。」


 つい最近まで魔物の驚異に怯えておったが、非日常は未だ続いているのか、村中から続々と人々が広場へと集まってくる。

 鍬を手に持つ者、手にとりあえず掴んだといった様子で椅子を引きずってくる慌て者、料理途中だったのか鍋を持ったまま走ってくる主婦、実に様々だ。

 そんな中で、爺婆共である儂らは呑気に日向ぼっこをしつつ、井戸端会議に花を咲かせていた。やれ、昨日の人物がどうだ、やれ村の娘っ子達がどうだ、となぁ。


「ありゃ、何があってるのかのう。」


 村で一番の心配性なゲンさんがそう口を開く。辺りは蜂の巣をつついたような騒ぎじゃ。ゴブリン共が襲ってきた時並じゃの。


「知らん。わしゃ、何も知らんぞ。」


 そんなゲンさんに、止せばいいのにガンドが口を開いた。

 阿呆じゃのう。そうやって反応するから、いじられるんじゃぞ?


「なんじゃ、お主知っとるんか。何があってるか教えてくれんか?」

「知らんと言うとろうに。何ぞお主、儂を疑っとるんかの?」

「そうじゃなく、知っとるんなら教えて欲しいと聞いとるんじゃろう?」

「わしゃ知らんと言うとるじゃろうがっ。知らんといったら知らんぞ!」

「怪しいのう。」

「そうじゃのう。」


 そら見ろ。ドンコもゼイクもいじり始めた。じゃから止せばいいのにとわしゃ言ったんじゃ。


「言うとらんではないか!」

「おや?そうじゃったかのう?」


 どうやら、思うばかりで儂は口にはしとらんかったようじゃ。こりゃ失敬失敬。

 尚も「知らん」を連発するガンドじゃが、それをいじるように口を揃える二人の爺婆。どうやらいじり倒す事にしたらしいのぅ。

 そんな爺婆共の騒ぎを横目にしてヒソヒソと噂するのは年若い女性達じゃ。その内容は、ここ数日、村に泊まっていた若者に関してじゃろう。揃いも揃って色気付きおって、お盛んなこった。


「――今朝、あちらに向かったのを見たのよ。」

「じゃぁ、あれはあの人が?」

「そうかもしれないわねぇ。」

「凄いわねぇ。」

「本当にねぇ。」


 どうやらこちらは事情を知る者達の集まりらしいのぅ。

 それを見て、特に心配はいらないようだと判断したのか、村の者達がポツポツと仕事へ戻っていったわ。


「やっぱり、大魔法使い様ってする事が違うのね?」

「ほら、また火柱。凄いわぁ。あんなに高く火が上がるなんて。」

「ね、ね。森は燃えないのかしら?あんなに火を使ってて大丈夫なの?」

「そこはほら、魔法で何とかするんじゃないかしら?だって――。」


 全員で顔を見合わせて、息を揃えて言う。


「「大魔法使い様だものぉ。」」


 その後も、女性陣はキャッキャッキャッキャ大はしゃぎじゃ。

 ――ゴブリン共に怯えていた頃とは大違いじゃの。



 ルークが聞けば、間違いなく盛大な勘違いだと突っ込んだ話だろう。

 彼の本職は錬金術師だ。それも、人を癒やす事を目的とした、医療従事者である。

 病気や怪我への対処、薬の製造は勿論の事、魔法薬と呼ばれる物を世に生み出す事だって出来る職である。それは、今では数少ない正真正銘の錬金術師であった。

 だが、今の世ではそんな彼の本職は詐欺師と認識されてしまっている。それは、過去に錬金術師を名乗った連中が、こぞって黄金を生み出せる等と宣い、詐欺を働いたからである。

 だからこそ、誰も彼を錬金術師だなんて思わない。幾らルークが訂正しても、決して受け入れては貰えないのだ。


「錬金術師って言っとったが、ありゃどう見ても大魔法使いでしかないよな。」

「んだべ。でなければ、勇者様か英雄だろうて。何故に、詐欺師を名乗りたがるのか分からんこってなぁ。」

「だが、大魔法使いも魔法使いも嫌なんだろう?俺らはなんて呼べばいいんだ?」

「名前は、ほら、制約がどうのとかで出来んし。」

「あれじゃろ、領主婦人のお触れじゃろ。名前は口にしちゃいかんという。」

「そうそう、それじゃ――困ったもんじゃて。」

「どう呼べばいいんだろうかのう?」

「のう?」


 それは、彼らから恩人を呼ぶ事すら困難とさせている話である。

 ルークが大魔法使いと呼ばれるのを了承してくれれば、村人は何の疑いも無くそう呼び、そしてそうだと思い込んだ事だろう。

 しかし、それは否定され、尚且つ恩人たる彼を困らせたのだ。これはいかんと、善良な村の者達は考えたのである。


「困ったわねぇ。」

「困るのう。」

「困ったもんだ。」

「わしゃ知らんぞ!」


 一人、未だいじられてる老人が哀れみの目を向けられるが、彼はそれを気にせず、その場でふんぞり返った。

 そして、未だ悩み続ける彼らを見て、一言こう述べたのである。


「救って下さった恩人なら、そのままそう呼べばよかろうに。」

「!!」


 その一言に、村人は悟る。

 なんだ、大した問題じゃなかったと――。

 そうして後に、人々は彼をこう呼ぶようになるのだ。それはまさしく、この村から広まったと言っても過言ではない。

 即ち、救世主ルークの誕生であった。


 いじられ老人ガンド、場を纏める。

 お年寄りのほのぼのした話は書いてて楽しいですね。特にいじられキャラが一人いると、ボケとツッコミが出来上がって書きやすいです。


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