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254 操作方法

 自由都市での一件以降、暗殺やアルフォードの身柄引き渡しを要求してくる阿呆共は現れなくなった。

 おかげで時折姿を現す帝国兵の抹殺だけで済む状況だ。実に気楽である。

 何せ冒険者組合も傭兵組合も傘下に置いた後だからな。武装が許されるのは残りは狩人組合だけである。

 

(狩人組合も傘下に下っているし、何の心配も無いしなぁ――帝国の人間と、それに内通していて手を貸してる奴らは全部筒抜けだし、すぐにでも捕縛出来るのは有り難い。)


 元々はサイモン殿の役に立ってもらう為に脅して制圧したのだ。

 しかし、思わぬところで利用価値が出たと言えるだろう。


 何せ、顔を見せる度に自主的に情報を持ち寄ってくれる程協力的だからな。


 流石に国が潰れるとどうなるか、末端の者達でも理解が出来たらしい。

 この為に現状の関係はとても良好だとさえ言えるだろう。


(うん、上の挿げ替えも終わったし、下も協力的だし、何も言う事無いな。)


 そうなるように仕向けたのは俺なのだけど。

 ――バレてないし別に良いだろう。


(とりあえずはしばらく現状維持だな――。)


 次の勇者がやって来るまでは未だ時間がある。

 この為、物資の調達を行って備蓄を増やしておき、人の移住と人材の確保を済ませてしまった方が良いだろう。

 下手に散らばっていると勇者の攻撃の対象になりかねないからな。主に貴族達にはサイモン殿と共に復興へ協力してもらおう。


(そもそもそれが仕事のはずだしな。私服を肥やそうとするような奴はいらないし、そんな奴が出るくらいなら現状を利用して潰しておくのが良いに決まってる。)


 実際にアンデッド達を【空間庫】へと移動させて、潰す対象の下まで運び込んでから解き放ち、襲撃させるといった手を繰り返し使っている。

 これによりサイモン殿と対立している貴族の連中は数を減らしているし、次代が後を継ぐ等基本的に此方に構っていられない状況だ。


(それでも王子の身柄引き渡しを要求する阿呆には、一族郎党纏めて処分させてもらってるが。)


 その内噂として広まるだろうが、広まる頃にはそれどころじゃなくなるのだし良いだろう。

 大体、帝国兵が身分を偽っていたのは、戦闘系の組合だけじゃない。商業組合等、各地を移動していた行商人の中にだって少なからず混ざっているのだ。

 この為に情報戦としても戦いはまだまだ終わっていない。


(行商人に扮した帝国兵の奴は、補給と伝令兵としての役目を担ってるし、優先的に潰さないとだなぁ。)


 流石に情報を帝国に持ち帰られても困る。

 出来る限り不透明なままであるのが良いのだから。


(判断材料だけは与えないようにしないとな――。)


 そんな行商人を騙る帝国兵だが、奴らは天然の洞窟を根城にして活動していたりもする。

 この為、随時洞窟ごと潰していかないとならないだろう。


 何せ、伝達を途絶えさせると同時に隠れられる場所も潰してしまえる。


 その上、貯め込んでいた物資の強奪だって可能になるのだ。

 最早一石二鳥どころか一石三鳥とさえ言えるだろう。


(旨味はあるんだよな――でも。)


 気付かれて伝令ばかりが増えると厄介だ。

 この為に、情報の伝達速度が上がる前に葬ってしまおう。


(俺一人ではどうしても手が回りきらなくなる可能性があるしな。)


 この為に気付かれないよう、夜間に襲ってしまうのが良いだろう。

 幸いにも俺は夜目が利くし、巻き戻してきた過去のおかげで敵の情報は多い。イレギュラーにだけ気を付けていれば、きっと大丈夫なはずだ。


(後は――普通の商人や職人は流石に偽れないだろうから大丈夫か。拠点を構えるにしても町中だと住民票が必要になるし、自由都市の方は既に炙り出した後だから、当面は安全か?)


 仕事に就こうと思ったら、まずは組合にでも加入する。

 これは何処の国でも同様の事だ。

 それ以外だと、国の民として登録されるよう何らかの条件を満たすか、あるいは親戚などの伝手を頼る以外に方法は無いだろう。


 というのも、人は信用のおけない者とは基本的に取引しないのだ。


 雇うにしても、素性が知れない者なら門前払いする。

 そうでなくても、初めて雇う場合には監視するのが当然だし、いきなり信頼して仕事を任せるなんて有り得ない事である。

 何せ、下手に知らない者を雇い入れると、売上を奪って逃げられたり取引の邪魔をされたりする可能性があるからな。この為に誰もが雇い入れるのには慎重だ。


(冒険者組合だって、規約でガチガチに固めて末端は取り締まられるし、この辺りは他の組合も同様だろう。)


 結果、どのような職業であろうとも、就職するには身分証となる物が求められる。

 それが手っ取り早く手に入るのが組合であり、それを抑えてしまっている状況では対処がしやすかった。


(後例外なのは盗賊とかの犯罪者だけか――。)


 これらについては、自由都市の奴らが自主的に動いてくれているので大丈夫だろう。

 怪しい奴の情報を勝手に集めて来てくれているので、現状では十分に情報が出揃うし行動は可能だ。


(多少の違いが今回は多く見られる分、それによる変化が悩ましいところだな――でも、悪くは無い。)


 出来れば、このまま良い方向に影響してくれると良いんだが。

 最悪、時を巻き戻してやり直せるとは言え、何度も繰り返すのはいい加減もやりたくない。

 この為に事前に把握出来る可能性があるのは素直に有り難かった。


(――吸血鬼だった時には思いもしなかった状況だな。脅迫以外の方法が無かったのに、生者であるだけでこうも違うか。)


 まぁ、少し前までは俺だって怯えてたりしたのだから、分からないでもない。

 それでも、良好な関係が築けるならそれに越した事は無いだろう。

 大体、俺が仕えているサイモン殿が治めている国は、未だ帝国に侵略されている真っ只中にあるのだ。

 仲間内で敵味方に分かれかねない状況は、出来るだけ避けるべき事である。


(――そういや、帝国兵の身柄を返還する要求が来てたな。)


 備品置き場のチェックをしながらも、手元のバインダーを捲っていけばその手の書類が出てくる。

 それを見る限りでは、どうやら間違いは無いようだ。

 厚かましいというか、頭が悪いというべきか、他国に武装した人間を送り込んでおいて良くも返せ等と言えるものだ。普通に考えて有り得ない神経をしている。


(普通なら知らぬ存ぜぬするところなはずなんだがなぁ?)


 それどころか、こうして身柄を返還するように要求してくるのだから、相当な無能が上についていると言えるだろう。


(自由都市のトップ連中よりも酷いかもしれない。)


 要求として送られてきた書状なんて、不当な侵略行為の証拠として使える。これはこのまま、他国にさえ知らしめる証拠として提示すら出来る品だ。

 つまりは、戦争の口実を帝国自らが持って来てくれたのである。

 これでこの国は孤立する事は無い。戦争の際には周辺国へと協力を要請出来るし、実際そのきっかけを自ら作り、隣国の女王は協力関係が得られる。おかげで包囲網を作っていく足掛かりが出来た。


(この辺りは、巻き戻す前の過去と変わらないな――。)


 ちなみにだが、帝国からの要求には応じなくても良い。


 何故ならば、奴らは現在進行系で不法侵入したままでいるからだ。


 その上で破壊活動や工作活動を未だにしているのだから、国の法でも裁けるし組合の規約違反者として罰する事も出来る。

 何よりも勇者の支援を行っていたのは分かっている事。

 この為に逃さず、このまま彼等には故郷の地を踏む事なく消えて貰うつもりだった。


(下手に戻して、情報を持って行かれても困るしなぁ。)


 何よりもまた侵入してくるのが分かっていて、戻してやる必要も無いしそんな馬鹿な真似をするわけもない。

 あの国の手口は誰よりも俺が知っているのだ。巻き戻す前の過去で、何度も苦渋を飲まされてもいるのだから、今の内に戦力を削っておくのは当然の事。この為にも絶対に手を緩めるつもりはなかった。

 ――私怨だろうと実際に害にしかならないのだから、帝国の人間という時点で排除は必要な事である。


(大体、此処で奴らを徹底的に排除しておかないと、この地の復興も何も上手く行かないししょうがない。)


 表向きは、だが。

 国を相手に引っ掻き回せるだけの存在――勇者が今後も帝国から送り込まれてくるのは分かっている事だ。

 そしてそれらが何時、どのタイミングでやって来るのかも、巻き戻してきた過去のおかげで把握済み。

 この為に今回はその来訪場所となる自由都市へ、先に命令も送ってある。


(一先ずは、これで大丈夫だろうな――。)


 命じたのは酒や食事を振る舞い、上等な宿に泊まらせるだけ。

 決して逃げられないよう、油断もさせておく為の措置だが、実際に手を汚す俺とは違ってそこまでの環境を整える人達には何ら後ろめたい事等無いだろう。

 この為に協力は得やすかった。


(法に触れるような事でもないしな――。)


 むしろ、こんなので良いのかと逆に問われたくらいだ。

 それへは十分だと返しておいたので、新たな勇者が姿を現したら、その時点で接待という名の罠が発動するだろう。


(内に引き入れて脱出が出来ないようにさえしてしまえば、後は俺が何とか出来る。次に来る勇者は特に頭が悪いし、力はあっても罠にはかかりやすかったはずだ――。)


 この為の指示そのものは、冒険者組合と傭兵組合へ下してある。

 この二つはどちらも勇者が良く所属する組合だが、彼等は成り上がりの場として利用しようとする傾向が強い。

 故に、トップの人間が持て成すように見せかければ、大抵気分良く罠に嵌ってくれるし足止めが可能だった。

 その後で行うのが――暗殺である。


(相手が年若い少年だろうと青年だろうと関係ないからな。敵は敵だ。見た目に騙されてその背後に居る連中の思惑に引っかかる方がどうかしてるし。)


 既に何度も奴らの自分勝手な正義を俺は見てきているし、全く同情も何もしないくらいには感情は冷めきっている。

 とにかく敵だ。明確なまでに敵なのである。

 奴らは倒すべき敵であって、決して同情したり許したり出来る存在ではなかったのだから。


(少しでも活動出来る余地を残せば、そこから帝国の活動拠点にされかねない。そんな場所は元より、補給場所も全部潰さないと。一つ残らず、完膚なきまでに侵入出来ないものだと思わせてやる。)


 特に聖職者、奴らは駄目だ。見かけた時点で首を刎ねるレベルで生かしてはおけない。

 奴らが聖水と呼ぶ物は、正式名称は聖魔水と言って『劇物』である。人の頭にでもかかれば、その時点でかけられた者は廃人か人格障害を引き起こし、正常な思考能力を失ってしまう程の危険な品だ。

 それを好んで使うのだから、決して生かしてはおけない。

 何よりも奴らに誰かが乗っ取られかねない危険性もあった。


(聖職者が得意としているのは、実際には闇属性の中でも邪道とされる魔法ばかりだしな。)


 俺が使う【読心術】を更に改悪したようなもので、上げられるものには【魅縛】や【精神操作】等、人心を惑わし意のままに操るものが多いだろうか。


 そして、これは今の世でもおそらく変わらないと思われる。


 その証拠のようにして、門番として立っていた兵士の一人が犠牲になりかけた。

 聖水は頭部に浸透はしなかったものの、その後に使われた【精神操作】で本来のシフトと関係ない行動を始めて、聖職者を王の下へと案内しかけたくらいなのだ。

 それに気付いた俺が侵入者として聖職者の首を刎ねたのだが、しばらくは術が解けなくて大変だった。

 今はそれも解けて仕事に復帰しているが、出来ればあのような騒動は御免被りたい。


(奴らの対策をしようにも、現状ではどうしようもないのがなぁ――。)


 何せ、遭遇すると同時に魔法を使いやがる。

 おかげで俺ですら下手に近寄れないのだ。


(面倒臭い。)


 遠距離からあちこちにある奴らの根城を潰しても、地下に逃げられるのがオチだ。それこそイタチごっこになってしまう。

 この為に来訪する時と場所を把握しておいて、魔法を掛けられた者が出るか聖水を取り出した時点で殺してしまうのが最善に近いだろうか。

 魔法は掛かっても時間差で解ける。聖水は掛かる前に殺害してしまえば何も問題無い。どちらも後手なのが精神衛生上よろしくないが、対処は出来るのだから他に考えつかない限りはこれで納得するしかないだろう。


(聖職者と名乗るなら、その辺のアンデッドにでも聖水をかけていれば良いのに。)


 少なくとも人に使う時点で傷害罪が適用出来る。

 何せ、聖水は何度も言うが劇物だ。劇毒なのだ。

 この為に殺人鬼としても扱えるし、法律上厳しく取り締まる事が可能だった。


「まぁ、当分はこのままで行けるか――。」


 俺から魔法薬に関する情報は纏めて提出したし、それに伴う弊害を避ける為の法整備も済んでいる。

 前王と取り交わした契約もサイモン殿と話し合い、更新済みだ。ドロシーとリリィのいざという時の保護もこれで問題無いだろう。


「後は――。」


 呟きつつも、今後魔術に必要となる触媒を確認していく。

 時を巻き戻すのに使う触媒は集まっている。

 この為、次に集めるのは仮死の魔術陣の材料だった。


「必要になるのは――どれも購入可能だな。」


 何せ今回は商業組合の本部が生きているからな。

 自由都市を滅亡ではなく脅迫によって支配下に置いたので、物流の滞りが思った程無い。おかげで品物の不足は大体解消されている。

 勿論、手に入れるには相当な金額が必要だったりするのだが、そこはそれだ。足りなければ滅亡している所からでも根こそぎ頂いてくれば良い。

 現状、壊滅した場所は回収も何も手付かずだし、引き継ぐべき嫡子も揃って領主共々居ない所が多い。この為、サイモン殿の許可さえ得られれば何ら問題無かった。


「えっと、今一番人件費が高いのが大工だろ。削るにしても、ここは都市計画上必要な経費になるし――。」


 ブツブツと呟きながらも、サイモン殿に渡す分と自分で手元に保管しておく分を計算していく。

 そこにディアルハーゼンが開いている店の運営資金等、今後の事も考えて弾き出さないとだった。

 しばし、帳面と睨み合いをしつつ計算を続け、算出された額に顔を顰めた。


「うーん――一箇所だけだと足りなさそうか。でも、だからと言って、王都に手を付けるのはちょっとなぁ。」


 あそこが一番物資も金も手に入るが、同時に一番アンデッドが多い場所でもある。

 かつての王と王妃が彷徨っていないのだけは救いだろう。

 だが、だからと言って持ち出すのはサイモン殿が反対すると思われた。


(王の眠りを妨げたくないとか言いそうだよな――巻き戻す前の過去でも実際そう言われたし。)


 この為に、候補地としては省いた方が良いだろう。

 大体あそこの掃除をしようとしたら、それこそ一夜二夜では終わらない。

 今までの場所とは、規模から何から違う。


「うーん、うーん。」


 この為に候補地を何処へするかで唸っていると、


「――いた!」


 やけに元気というか、聞き覚えのある声が響いてきて振り返っていた。


「アルフォードか――何か用か?」

「おう!ちょっとな!」


 振り向いた先に居たのは、見事な赤毛。そしてにっかりと笑みを浮かべたイケメンである。

 少し前まではトラブルメーカー『だった』男だ。

 過去形なのは、ここ最近の彼に問題行動が見られない為にあると言えるだろう。

 課せられた仕事は愚痴一つ言わずきっちりとこなすし、以前のような意味不明な行動もしなくなっている。誰かに迷惑を掛けるだとか、新人いびりと取られかねない訓練場への引きずり込みも無くなっている。

 それもこれも、彼を取り巻く環境が変わったからだろう。以前にも増して明るく、騒々しいのではなくにぎやかな人柄に変わりつつある。


(まぁ、その理由は分かりきった事なんだが。)


 何せこうなるように動いたしな。憂いが消えたようで、妙な緊迫感と言うか焦りのようなものも無くなっている。

 アルフォードは貴族だ。例え家出していようとも、実家からの干渉は相当なものがあったのだろう。

 だがしかし、それが途絶えて命も狙われず、実家に引き戻そうとする連中に追い回される事も無くなっている。

 何せ貴族の代を継がせたかった両親も、それを邪魔に感じて排除しようとしていた兄弟も、更にはあわよくば自分達にその椅子が転がり込んでくる事を狙っていた親戚一同も、全てが今は土の下なのだ。

 この為に彼が今日この場にやって来るのは、巻き戻してきた過去からも分かっていた事。

 故に、


「有難うな!」


 きっちりと腰を折り曲げて、頭を下げてくる奴を見ても別段驚きはしなかった。


(やっぱり今日だったか。)


 代わりに思うのは、納得。巻き戻してきた過去と寸分変わらぬ状況への、少しばかりの安堵である。

 意外とと言うとアレなのだが、こいつはこいつで良く考えた上で行動をしていたのだ。周囲に迷惑が掛かっているのも理解していたくらいで、決して頭は悪くないのである。

 それでも周囲に迷惑掛けて動くしか、周りを巻き込まない方法を見つけられなかったらしい。多少思考停止していたところはあるのだろうが、実際俺も同様の状況だと逃亡は難しいと思えた。


(他国に移動しても、結果は変わらないだろうしな。)


 それに、巻き込まないようにしていても限界はある。

 何があろうと絡もうとしてくる奴も居ただろうし、実際それで彼に関わった奴の中には行方不明になったとか、死体となって見つかったとかいう噂もあった。


 この為に、彼は守れなかったと言えるだろうか。


 腐っても貴族。没落寸前だろうと貴族は貴族だ。

 平民どころか流浪の民が多い冒険者なんて、実家である貴族に絡まれでもしたら、その時点で人生が終わりかねないだろう。

 この為に決して仲良くなれるような者が出ないように、こいつはこいつなりに必死に立ち回っていたのを俺は知っている。


「――別に、俺は何もしてないぞ。」


 故に、この場ではすっとぼけておく。

 こいつと仲良くしたくてやったわけでもないし、利用価値があるから手元に置こうとしたのだし、更に言うならアルフォード以外のエイク家は全員敵だったから潰しただけだ。

 だから、こいつの為というわけでもない。

 あくまでこれはこいつが俺を巻き込まないように立ち回ったのと同じく、俺も同じようにして立ち回った結果でしかなかった。

 断じて、こいつの為とは言えないし言いたくもない。


「それでも!それでもさ!お前には感謝してるんだ!」

「おいおい――。」


 そんな俺を前にして、繰り返すアルフォードに俺は若干呆れつつも言葉を返す。

 火属性の奴は一点集中型。言い方を変えるなら猪突猛進だ。

 周囲が見えていないというか、視野が狭い事が多いのが特徴なのである。それを指摘する為に、俺は口を開いて言った。


「俺はお前の家族も揃って全員断罪してるんだぞ?それなのに感謝するのはおかしくないか?」


 これに、


「構わねぇよ、あんな奴ら!」


 どうも巻き戻す前の過去同様に、血縁者に対して良い感情は無いらしい。

 その後に続く言葉も寸分の狂いなく、過去に聞かされたものと全く同じものだった。


「むしろ世の為人の為になるし!誰が見ても助かるっての!腐ってたのは間違いないんだからな!」

「そうか……。」


 家出するまでの間に何があったのかは、巻き戻す前の過去も含めて知らない。

 だが、ひとまず感謝するのだけは止めないらしい。

 その後も「有難う」を連発するアルフォードを俺はこっそりと観察する。


(まぁ、この辺まではコイツに変化は全く無いな――。)


 闇属性を手に入れたからか、それとも吸血鬼ですらなく半端でも生者であるおかげなのか、いろいろと巻き戻す前の過去とは違う事が起きている。

 おかげで、要観察といった事象が多い。

 ちょっとした違いでも、何らかの前兆だったりする事も多い為、記憶量は増える一方だった。


(――その内パンクしないよな?俺の脳みそ、未だ保つよな?)


 若干その事が不安な最近である。

 俺のこの記憶の焼き付けは、一体何処で限界を向かえるだろうか?


(せめて限界前で止めておきたい。やり過ぎて廃人とかは、何をするでもなく死ぬだけになるしな。)


 そんな事を連々と考えてたからじゃないだろうが、何か協力出来る事は無いかと食い下がられて、ついつい面倒な事を押し付けてしまった。

 とある方面を指さしつつ、


「場所は南西だな――今から行って帰って来ると、夕方くらいになるか?」


 なんて言ったのが良かったのか、悪かったのか、


「おっしゃ!行ってくる!」


 そう口にしたと思った時には、既にアルフォードの姿が消えていた。

 それに何とも言えない気分で「あ」と口にする。


「相手は新種のスライムっていっても、アンデッドだし倒したら跡形もなく消えるんだが――細胞を採取するにしても、まずはそこに気付かないと無理じゃないか?」


 しかし、アルフォードはもう移動した後だ。

 言葉を届けるにも、猛スピードで移動しているとあっては、時魔法で知らせるのも難しい。


「――まぁ、良いか。」


 勝手に走り出すのは何時まで経っても変わらない奴だ。

 今後は先に必要な情報を渡してから、動いて貰うとしよう。


 尚、頼んだ物を採取して戻ってきたアルフォードが、無駄にスライムの群れを蹴散らして帰って来たのは翌日の事だった。


 2019/03/27 加筆修正を加えました。


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