210 半死人
「ルーク殿、その目は一体――。」
地下に匿っていた状態の生者達の下を訪れると、そんな言葉を掛けられて酷く驚かれた。
「目――?」
居たのはサイモン殿とその妻のネメア婦人、それに商人のディアルハーゼン氏とアレキサンドラ氏だ。
どうやら、他の者達は今も地上への道を掘り進めているらしい。そのせいで姿が見えなかった。
「目がどうかしました?」
「え、ええとだな。」
何故か歯切れの悪いサイモン殿の様子に、首を傾げる。
ただ、今はそれどころじゃない。一応、彼らの行動にも口出しをして情報を伝えるべきだろう。
この為、
「それよりも、地上に向けて穴を掘ってると、その内沼地に繋がって溺死しますよ?」
危険性をそう告げながら、居合わせた面々を見つめた。
以前にも伝えたはずなんだが、どうやら掘る方角を今度は変えてチャレンジしているらしい。
サイモン殿が「これなら沼地を避けて地上への道が作れるはずだ」と豪語して引かなかった。
「ええと、大丈夫なんですか、それ?」
これに、
「いける。きっと、いけるはずだ!」
「そ、そうですか――。」
力強く頷いて返されてしまう。
どうやら説得も無理そうだ。まぁいいかと、話を切り上げる事にする。
(――もっとも、あの沼地の広さから考えると無駄な気がするんだがなぁ――。)
多少方角を変えた程度ではどうしようもないだろう。元々は川だった場所だしな。水気が多い。
ただ、口は挟まないでいた。
此方はそれどころじゃないのだ。今も尚発動している【読心術】を維持して、アンデッド達が地上に行かないようにするので精一杯だし。そのおかげで、余裕が全く無い状況にさえあった。
「――それで、勇者の討伐が済んだと?」
「ええ。」
集まった面々へと上で何があったのかを知らせて、現状危機が一時的に去っている事を伝える。
あくまで一時的だ。そう遠くない未来に、新しい勇者が沸いてくるのは師匠の言葉からして確定事項である。
ただそれでも、ようやく地上へ戻る目処がたったと言えるだろう。
この為、穴を掘らずとも彼らを地上へと連れ出せるはずだ。
大体、仮死の魔術陣だって使いたがる者はいないと思われる。ならば、もうこの場に留まる意味も無かった。
「――師匠と引き換えに、ですけどね。後、今後も勇者が沸くそうです。それも、そう遠くない内に。」
「それは――。」
書庫らしき場所で聞いた師の言葉。あれは、おそらくは生前に録音されたものだと思われる。
故に、狂言でも嘘でも無い。あれから分かった情報も付け加えて、戻って来た面子も合わせて話を進めていく。
これに、
「しかし、賢者殿が死へ戻られたのは良かったのやもしれぬぞ?これでようやく、安らかな眠りに就けるであろう?」
サイモン殿がそう口にして、その場でほぼ全員が黙祷を捧げる。
黒い骨となった師匠に一度は全員遭遇しているらしい。何を思ったのかは知らないが、此処に来た事があったようで、どれが師匠であったかを伝えると、とても驚いた表情をされた。
「その節は、ご迷惑をおかけいたしました。」
そんな師の行動に頭を下げると、
「いやいや、謝るような事ではない。悪いのは我々だ――此処の死者達は、少なくとも敵ではない事は分かっている。」
「悲鳴を上げたり逃げ惑ったりと、随分と迷惑を掛けてしまいましたわ。」
ネメア婦人は未だにアンデッドへ慣れないでいるらしいが、それでも現状は受け入れているつもりらしい。
腕に抱いている赤ん坊――王子に、貴族としてみっともないところを見せられないのだとか。
そんな二人の言葉に、残りの者達も矢継ぎ早に口を挟んで言葉を交わしていく。王子と彼によく似た赤子はすやすやと眠っていた。
「お食事、何時も運んでくれるよね。」
「お湯が欲しいとお願いしたら、水だけど綺麗な物をタライに入れて運んでくれたよ。」
「他にも石鹸とか着替えとか、色々持ってきてくれたの。」
「何か、思い出したー!って感じだったな、あれは。」
「結構人間臭いっていうか、生前の癖みたいなのが見えるよねー。うっかりしてるところとか。」
「ですが、此処をそろそろ出してはもらえないですかな?いい加減、陽の光が恋しいところです。」
「不満と言えば、まぁそこが不満だな。今が何日かも分からなくなっているし――。」
後半の二人は、ディアルハーゼンとアレキサンドラ。
彼らの言い分も分かる。誰だって、真っ暗な地下で過ごしていたいとは思わないだろうから。
それに、色々と知りたい事も多いだろう。地上がどうなっているのかとか、家族の安否とか、それこそ店や領地の状態とか。
(まぁ、地上は一時的とは言え、今は安全か――?)
思うのは、書庫で聞いた話だ。
゛今後、数多くの勇者達がこの地にて暴れる事だろう。時には同時に、多発的に、それこそ先読みの言葉通りにこの地を人の住めぬ場所へと変えてまで――。”
師が語った言葉に出てくるこの『先読み』という存在。これは、確定した未来だけを告げるとされる者らしい。
時に子犬の姿で、または少女の姿で、あるいは老人であったりと、とにかくその姿は多種多用で一定していない。
同じ特徴としてあるのは、白い体毛に紅い瞳を持っているという点。そして、口にした未来が確実に当たるという点だろう。
その他は一切が謎で、何時、何処で生まれたか等も含めて知られていない。
(此処へ来た時、師匠は俺を見て何かを確信していた。そして、先読みの言葉通りになったと言っていたな――。)
つまりは、語られた内容が間違いなく今後起こると思ったのだろうか。
――正直、それが当たっているのならば、最早滅亡する未来しか思い浮かばないのだが。
(それを避ける為にも、死神の降臨をって話なんだろう、多分。)
俺としても死神の降臨は望むところだ。
聖剣に閉じ込められたままの魂達を解放する術が無いので、唯一期待を持てる存在が死神だったし、ただ人の身ではまずどうしようもないのだから。
(クドラクが今、あの剣に閉じ込められている魂の開放手段を探してるけど、見つかりそうにないしな――。)
剣の中には魔女の魂も閉じ込められてしまっているらしい。
おかげで、今では書庫に籠もりきっていた。
剣をインゴットにしてしまうかとも話し合ったのだが――仮にそうしても、最悪彼らはそのままの可能性が高い。
下手に弄って手が出せなくなるよりは、現状維持の方が良いだろう。
(あれは魔剣っていうよりも邪剣の類だしな。只人にはもうどうしようもない――。)
故に、何時現れるかも分からない死神へ頼るしかない状況だと言えた。
そんな死神を降臨させる条件の一つが、俺がアンデッドを率いる事らしい。
何がどうすれば繋がるのかは不明だが、おかげで今はその親玉となる方法を模索中である。
(早いところ、死霊術を習得しないと。)
未だ眼の前で語り合う彼らを眺めつつも、そう、一人心の中で決める。
ただ、サイモン殿が少し前に言った安らかに眠れるという言葉については、正直には頷いて返せないものがあった。
多分だが、師匠は死後の世界で安らかな眠りになんて就けていないと思うのだ。
きっと、友を何とかしようと躍起になってるはずである。
そんな師匠が賢者なんて呼ばれていて、俺の師である事を知っているのはサイモンだけ――だったはずなのだが、どうやら他の者も知っていたらしい。その表情には全く驚きが無く、思っていたのと違う感情が浮かんでいた。
あるのは以前のような猜疑心でも無く、戸惑い。何処か、此方を心配しているような感じである。
(何でだ?)
俺は自身が半分アンデッドかもしれないという事は既に伝えてある。
となれば、生者ならば周囲がアンデッドに囲まれている今の状況は、俺を警戒する事はあっても心配するような事は無いだろう。
それなのに、
(【読心術】で読み取ってみても上辺ってわけじゃない感情だな――全く俺を怖れていない?怖く無いのか、皆――?)
彼らからしてみれば、現状は決して楽観視出来ない状況で間違いは無いだろう。
だが、それでも浮かべられている表情には、気遣いだとか不安そうなものがあった。
(労られるような事は、無いはずなんだがな。)
いまいち理解出来ないままに、閉じ込められていた状態の彼らを地上へと連れ出す為に動く。
先にクドラクの了解は取り付けてあるし、おそらくは大丈夫なはずだ。
「邪魔しないね?」
「そうだな。」
リルクルの言葉通り、俺が【読心術】で多少なりとも制御出来ているのか、あるいは半分アンデッドらしい俺が一緒だからか、アンデッド達は妨害しないようだった。
揃って此方を眺められるも、一体に途中まで案内させて、そのまま問題なく古代遺跡への道まで通れたのである。
その後も、ゴーレムもほとんど見かけないままに古代遺跡を抜けられて、地上へと出られた。
瞬間、
「やったー!外だー!」
「ようやく出られました……。」
歓声が響いて、眩しい陽の光の中へと揃って駆け出して行く。
それを見送りながらも、一歩外へと出て――慌ててフードを目深に被り直した。
口元もマフラーで覆い隠して、素肌を極力晒さないようにする。
「――どうした?」
「いや、何でも無い。」
途中振り返ってきたロドルフの言葉に軽く返しつつも、周囲を探索魔法で念入りに確認していく。
そこで、嫌なものに気付いた。
「ロドルフ。」
「何だ?」
振り返ってきた彼へ、素早く言葉を掛ける。
木々の隙間には、幾つもの人型。そして、すぐに近くで悲鳴が聞こえてくる。
「きゃあああああああ!?」
「何だ!?」
「今のは――。」
おそらくはネメア婦人の声だろう。
複数人が駆け出す足音と共に、狼狽えるような声も聞こえてくる。
そんな声を聞き流しながらも、俺は素早く行動を開始する。
「この周囲で、人が倒れているぞ。」
「なんだって!?」
即座に振り向いてきたロドルフ。
そして、それよりも少し先にいたアルフォードが声を張り上げる。
「手分けして見て回るぞ!」
「お、おお!」
それぞれが別々の方角へと移動していく。
その中を俺は、探索魔法で気付いた最初の者へと近寄って行った。
途端に漂ってくる匂い。見えた状態から、警戒する必要も無いと判断して、息を吐く。
「腐っているのか――。」
それは、既に腐敗が始まり、腐臭を広げていた。
転がっているのは、おそらくは冒険者だったと思われる人物だ。
見れば、背中の鎧が一刀両断されている。完全に胴体が泣き別れとなっていない為に、後ろからの不意打ちを受けたらしいとかろうじて判断できる状態である。
「酷いな――こっちもか。」
もう一つは、剣ごと切り裂かれたと見られる遺体。完全に体が二つに別れてしまっていて、此方は勇者が貿易都市で行った殺し方と一致している。
そこから、一つの仮説が浮上してきて目を細めた。
「もしかして――。」
勇者は地下に居た誰かを追いかけて、此処まで来たわけではないのか――?
仮にそうだとすると偶々この場所を知り、突入してきた可能性が出てきた。
というのも、この辺りの遺体は古代遺跡とは目と鼻の先だ。侵入するよりも前に、他の誰かが逃げていたとしたら、その者を追って近くの村や町を襲っていたかもしれない。
「確か、この近くの都市ってあそこだよな――。」
貿易都市の隣にある領土。それも、冒険者組合もあるそれなりに大きな都市だったはずだ。
まさか、そこを壊滅させてから戻ってきていたのだとしたら――。
(ゼウスさん達は?彼らは、一体どうなった!?)
確認したいところだが、ジリジリと焼けるような陽の光が痛い。
それに、今の俺はそう遠くまで動く事が出来ない状況だ。
都市までは確認に行けそうになかった。
(クソ――っ。こんな時に!)
思わず顔を顰める程には、何ともついていない。
まるで偶然に偶然が重なったような、そんな最悪なパターン。それを引いてしまっているような感覚に陥って舌打ちする。
(肌も焼けるように痛いし――何なんだよ、一体!?)
苛立つものの、少し深呼吸をして心を落ち着かせる。
下手に心を乱せば、地下のアンデッド達に伝搬しかねない。それくらい【読心術】は精神に作用する魔法だ。
そのまま、ゆっくりと呼吸を繰り返すも――深い緑の香りに腐臭が混ざっていて、少し顔を顰めてしまった。
「なんてはた迷惑なんだよ――。」
偶然、偶々で俺達の居る場所に辿り着いたらしい勇者。それこそ運が悪いとしか言いようがない事だろう。
必然だったらそれはそれで堪ったものじゃないし、誰かを追って辿り着けるのなら、厄介な能力を持っているという事になる。
何にしろ、最低最悪だ。
(本当に、ついていないな。)
師匠も崩落した古代遺跡で押し潰されたというし、運がなさ過ぎる。
とりあえずは、亡くなっている者の遺体を集めて、火葬するという事で話が決まった。
そんな中で、
「二人共、折角生き延びていたのにな――。」
見覚えのある者がいるのに気付いて、俺は抱え込まれるようにして亡くなっている少年の遺体を引き剥がすと、その手を組ませて黙祷を捧げていた。
幸いながらも、この辺りの遺体はアンデッド化はしていなかった。聖水を掛けるまでもなく、このまま火葬すれば良い状況だ。
腐敗が進んでいたが、身に着けた鎧の特徴から、抱え込んでいた方をゼウスさんだと確信してそっと息を吐き出す。
「何で――何でなんだよ……。」
都市を確認するまでもない。二人共、此処で息絶えていた。
間違いなく都市を目指していたはずなのに、程近いとは言え街道から外れている事に少しばかり疑問を覚える。
二人共折り重なった状態で亡くなっていた。
「腐敗が大分進んでいるな――死後それなりに経っているか。」
「となると、勇者に殺られたというわけでも無さそうか?」
そんな二人を眺め続ける俺の耳に、ロドルフとディアルハーゼンの落ち着いた声が聞こえてくる。
どうやら、何が起きたかを予測しているようだ。
薄々とだが、皆気付いているのだろう。これが、勇者の仕業であると。
「どうだろうな――もしかすると、この先にある村や町を襲ってから戻ってきた可能性もあるぞ。」
「そうだとしたら最悪だな。」
「ああ、間違いない。」
地上に出られたというのに、今や誰もがその表情を暗くしている。
そんな中で、現状に危険は無いかと周囲を探索魔法で再度確認してみた。だが、亡くなっていた者達以外には特に何も見つからない。
魔物の姿も無ければ、影も形も無いのだ。
その事へ、そっと溜息を吐き出した俺へと、
「して、如何される?」
「そうですね――。」
サイモン殿が尋ねて来たが、思わず迷って口を閉ざしてしまった。
サリナ嬢が空けた穴へと遺体を運び入れ、アルフォードが火魔法で焼いていっている。ずっと氷の棺に入れたままだったメルシーも、同じように火葬してもらっている最中だ。焼き終わるまでもう少し時間がかかるだろう。
師匠も死に戻ってしまったが、こちらは元々骨だったので骨壷へと入れて地下の書斎に安置されている。未だクドラクが立ち直れていないし、当面はあのままだろう。
暴走していた勇者の方は幸いながらも討伐済み。だから、今後も沸くらしいとはいえ少しなら時間もあると思えた。
問題は、
(アレを召喚するには大量の魔素が必要になる――おそらくだが、早々遭遇する事も無い、か?)
そんな希望的観測を持ってみるが、しかし遭遇したらその時点でアウトだ。下手したら全滅する可能性だってあるだろう。
となれば、万が一という事も考えて、これからは特に慎重に動いた方が良いだろうと思えた。
(この周囲で亡くなった者達も気がかりだしな。勇者が沸くと、魔物の進化や活動が活発になるし、最悪、魔物の氾濫が起きている可能性もある。)
既に起きていたらもうどうしようもない。それこそ、広範囲殲滅を得意とする魔法使いでも見つけて来ない限りは、人間が生き残る方法は無いと言えた。
もしも、現状で未だ起きていないのであれば、魔素濃度を下げるのが防止策として良いのだろう。だが、それを可能とする方法までは、さっぱり思い浮かばなかった。
この為に、念には念を入れて、何をするにも複数人で組んで行動してもらう為伝えておく。
これに、
「一人行動は厳禁だよね。」
「何かあった時に確実に命取りになるだろうからな。」
「面倒臭ぇけど――まぁ、しょうがねぇかぁ。」
それぞれ頷いて返してきた。
ただ最後のアルフォードの言葉には思わず脱力しかける。
アホの代名詞ってくらいには、トラブルメーカーなのがコイツだ。
この為に、アルフォードが一人で行動すると他が迷惑を被る事になるのは確実。故に、今回は彼には何が何でも言うことを聞いて貰わないとならない。
戦力としてみるなら、現状ではかなり高いのだから。
「一番暴走しそうなお前が理解してくれると助かるよ――。」
そう呟く俺は、そっと息を吐き出していた。
これに、何故か親指を突き出してくるアルフォード。その顔は満面の笑みだった。
「任せとけ!」
――逆に不安しか無い。
ともあれ、班分けとしては魔法使いを二つに分けた形になる。サリナとアルフォードの組、そして双子の魔女の組だ。
他のメンバーはそれぞれに各々分かれて付く形となった。結果としては、サリナ達にロドルフとリルクル、それにディアルハーゼン氏がつき、双子の方へ領主ペアとアレキサンドラ氏が付く形である。
ただ、
「――やはり俺は行けませんね。」
「え?」
疑問の声と共に振り向いて来た顔へと、俺は何とも言えない思いを抱きながらも淡々と告げようとする。
肌が、最早焼けるように熱かった。
「師が残した物を今一度改める必要が出てきていますので――。」
言い訳だ。
本当は、他に理由がある。
「それは、後でも良いのでは無いか?」
「いえ、そういうわけにもいきません。」
実際、疑問に思われ返されてしまった。
その言葉に被りを振って否定する。
残念ながら、問題はもっと他にあった。
「俺には、地下のアンデッド達が地上に溢れないようにする必要があります。」
「それは――。」
「言ってみれば楔ですね。何とか今は止めれていますが、距離が離れ過ぎればそれも上手く行かない。ですので、留まる必要があります。」
現状は、彼らに感情を寄り添わせる事で、地上へ向かおうという意思を削ぎ続けているようなものである。
上に行きたいと願っている彼らに、行きたくないと思う今の俺の感情をぶつける事で、何とか相殺しているような状況だった。
丁度肌が痛むのもあってか、地下の彼らは上っては来ようとしていない。俺にとっては悪い事も、使い方によっては有効だ。
そんな俺に、
「一体どういう意味だ――?」
何も知らない面々。
彼らに向けて、ただ淡々と返していく。
「師が倒された事で、地下のアンデッド達の纏め役が居ないんですよ――俺以外には。」
「「……。」」
沈黙が降りる中、今後の方針を一方的だとは思うがただ伝えていく。
死霊術を身につける事。
それで地下のアンデッド達を支配する事。
可能ならば、地上に溢れたアンデッド達も支配下に置いて、沼地か地下へと連れて行きたい事。
対勇者の力をとにかく身に付けたい事――。
これに、
「出来るのかね?」
「おそらくは。」
サイモン殿から問いかけられたが、変わらずに抑揚の無い声で返しておいた。
最早、熱いを通り越して痛む皮膚。ジリジリと炙られるのが辛くなり、地下へと避難する。
途端に、動いた空気から僅かに焦げ臭さが臭ってきた。
皮膚が焼けた匂い――それに、嫌な予感が当たっている事を確信する。
「それに、ですが。最早出来る出来ないじゃなく、やるしかないんです。この先、勇者が大量に沸いたり、別々の場所で暴れられたりするようなので。」
「だ、だが、それは別に君一人でなくても――。」
「いえ、師の最後の願いでしたから。俺がやります。」
本当は、師匠の願いだからってわけじゃないんだけどな。
勿論、それも理由の一つとしてはあるが、もっと大きな理由があるのだ。
例えば、剣に囚われてしまった魂――メルシーを解放する為とか。
けれど、今はそれよりも、
「陽の光の下を俺はもう歩けませんしね。体が衣類越しでも焼けてしまうみたいでして――こんな風に。」
「「!?」」
捲り上げた袖の先を見せる。
その下の皮膚は、完全に変色して焼け爛れてしまっていた。
それに息を飲む面々へと、頭を下げて告げる。
「そういうわけなので、共には行けません――。」
返事も聞かずに、来たばかりの道を戻ろうと踵を返す。
ズキズキと痛む身体は、酷い熱を訴えてきて苛むようだった。
2019/02/11 加筆修正を加えました。




