表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/302

190 滅亡


 注意点がある為、この場を利用して先に申し上げます。


 当作品は『Bad ending/バッドエンド』ではありません。

 同時に『Happy ending/ハッピーエンド』でもありません。

 また、ほのぼの作品でもございませんので、合わせてご注意下さい。

 今後も大量の人死に表現が多発します。


 ※当作品の分類は『ダークファンタジー』となります。


 この為のR15表記ですので、グロやホラー要素への耐性が無い方へは、元々不向きな作品となっております。

 ここまでは、耐性付けと傾向把握の為の回でした。

 故に、前半のほのぼのとした雰囲気に惹かれて来てしまった方は、どうかご注意下さいませ。

 これ以降はダーク一直線ですので「ほのぼのじゃないと嫌!」「キャラが死ぬのは嫌!」って方には全く向いておりません。

 よくよくご注意下さい。


 これとは別に、現在グロやホラー無しの生産スローライフ(完全ほのぼの)を執筆して貯め込んでいます。

 この作品が書き上がり次第、エブリスタにて繋がりのある作品の改稿作業と同時に投稿開始予定です。

 グロやホラーが苦手な方は、そちらでお会い出来ましたら幸いである事を、この場を利用して合わせて記載しておきます。


 家の中は惨憺さんたんたる有様だった。

 斬り殺されたメルシーの遺体を筆頭にして、物色された跡。ベッドも何もかも土足で乗られたのか、あちらこちらへと靴跡が残っている。

 見れば、屋根裏に着けていた窓が割られていて、そこにも靴跡があった。

 ――どうやらここから、上へと上がったらしい。

 砕けた硝子の破片がそのままに散らばっていた。


「何なのこれ――。」


 玄関から動けずに絶句するリルクルを他所にして、俺は一度一階まで降りると、台所で調合を始める。

 作るのは聖水――対アンデッド用の劇薬だ。

 これを使うのが果たして良い事なのか、それとも死体蹴りする程の悪行と呼べるものなのか、俺には分からない。

 しかしながらも、魔力が潤沢な者程アンデッド化しやすい傾向にあり、過去にはそれで差別や迫害が頻発している。少なくとも、このまま放置する事だけは出来なかった。


「ねぇ、何があったのさ!?」


 二階にある玄関口からは、台所から見上げると丁度丸見えになる。そこで、リルクルが騒々しく叫んでいた。

 一階部分にある台所キッチン食堂ダイニング居間リビングの三つは吹き抜けになっているからな。しかも、二階にある廊下と玄関の手摺り越しに確認が出来る作りになっている為、声がはっきりと届いてくる。

 その騒々しさに思わず顔を上げれば、狼狽えているリルクルの姿がはっきりと見えてた。


「見ての通りだろ――襲撃された後だ。」

「襲撃って、誰にさ!?」


 返す俺に、叫ぶリルクル。

 構わず、俺は怒りを煮え滾らせたままに調合を続けた。


「ねぇ、誰になの!?ねぇったら!」


 しばらく騒がれたが、構わずに俺は今やるべき事をこなしていく。

 魔法使いがアンデッド化した際に良くなるのは、リッチやヴァンパイアだ。

 だが、これらは事前の準備が揃っていて、ようやくなれるものである。


 そうでないアンデッドの場合は、知能が著しく低下した状態で蘇ってくる――動くだけの死体。


 つまりは、リビングデッドと呼ばれる動き回る死体や、そこから腐ってしまったゾンビに、更にはその腐肉すら落ちたスケルトンへと変わってしまうのである。

 こういったアンデッドは、生前の記憶も抜け落ちてしまったのか、誰彼構わずに襲いかかるという難点があった。

 幸いながらも、頭部を破壊すれば活動は停止するが――それを自らの弟子の、それもいたいけな少女の遺体に出来るはずもない。

 闇魔法にある【黄泉返し】も考えたが、あれは属性がネックになる為に、魔法使いではないリルクルがどう反応するかも分からない為に見送っておく。

 この為に調合を始めた聖水だが、いざという時の為にと材料を入手しておいて本当に良かったと思う。


「ねぇ!?何で襲撃されたの!?答えてよ!ねぇったら!」

「――騒々しい奴だなぁ。」


 騒ぎ立てるリルクルに、俺はそっと息を吐く。

 聖水は劇薬。この為に、作るのに神経をすり減らす作業なんだが、知らない彼は延々と騒いでいた。

 仕方なく、俺は口を開いて告げていく。理解しようがしまいが関係無しだ。


「何でも何も、狂った奴が相手なんだ――まともに考えるだけ無駄だろ。」

「狂った、奴?」


 訝しそうな彼に、俺は「そう」と素っ気なく返しながらも、手元の硝子瓶の中を何度も何度も掻き混ぜる。

 浸透率を上げる為に使うのは、スライムから採取した脂と魔力で練り上げて生み出した唯の水だ。これが均等に混ざって、更には水っぽくなるまで幾度も火に掛けては、水分量を増やしていかないとならない為に、作業にはどうしても時間がかかる。


(面倒臭いな――。)


 対アンデッドに有効である為に、その需要は以前から大きかったが、同時に供給量は限られてしまう為に、馬鹿みたいに高くもあったのがこの聖水だ。

 これは、このスライムの脂の特徴に由来する。


 スライムの脂は、熱を加えられると嵩が減って脂っぽさが失われるが、それと同時に水との親和性が上がって、限りなく水に近い状態になるのだ。


 それ故に、最高級の回復薬であるエリクサーの材料としても、過去には大量に使われていた。

 普通の薬とは違って、魔法薬が一瞬で効果を生み出すのは、主にこのスライムのおかげといっても過言では無い程で、スライムの脂自体が当時は高価だったのである。


(今はその価値を知らない奴が多くて、入手しやすいし助かるがな――この森なら、幾らでも沸くから枯渇する心配もしなくていいし。)


 そんな素材を幾度となく火に掛けては水を加えて、必要になる薬草を放り込んでいく。

 大昔には無かったとされる月読草、一角獣ユニコーンの角の粉末、人魚マーメイドの鱗に妖精ピクシーの花蜜、更には岩妖精ドワーフの火酒と、そのどれもが高額な品ばかりだ。

 一々粉末にしたり別口で火にかけて煮溶かしたりと、手間暇が多い。出来上がるには、やはりそれなりの時間が掛かった。


「やっと、完成か――。」


 後はこれをメルシーに掛けてやるだけだ。それで、彼女は安らかな死を迎えるだろう。

 闇魔法の【黄泉返し】では問答無用にあの世に送ってしまうが、少なくともこの方法を取ってしまうと、復活が出来なかったはずだ。

 幸いな事に、師匠とは再会を果たしている――もしかしたら、メルシーを生き返らせる手段を持つかもしれないので、可能性を潰してしまうような事は避けておきたい。


「御免な、すっかり待たせてしまって。」


 そうして向かうのは、二階にある玄関口。

 未だそこで、歯をぶつけてはカチカチと音を立てている弟子の頭部に向けて、語りかける。

 聞こえてるかどうかなんて、この際関係ない。届けば良いな程度でも、口に出さずにはいられなかった。


「今、楽にしてやるから。」


 ドロシーやリリィ、それに領主婦人の行方は分からないが、此処に居ないという事はメルシーとは違い、逃げ延びてる可能性が未だある。

 もっとも、


(既に此方も死んでるかもしれないがな。)


 森の中で、尚且つ近くの開拓村が無事だった事を考えると、後を追われてしまった可能性は高いだろう。

 もしも死んでるとしたら、この森の中か、あるいは城の中に隠し通路でもあって、その中で死んでるとかだろうか。

 その可能性に心を重くしながらも、手元の瓶の中身をメルシーへと掛けてやる。すぐに彼女の頭部は沈黙してしまい、物言わぬ死体へと戻った。

 そんな彼女の遺体を布で包み込み、氷の棺を作って【空間庫】へと入れておく。

 これに、


「――埋葬しなくていいの?」


 リルクルから疑問の声が上がってきた。

 作業中に一度飛び出し、そして戻ってきた彼だが、その顔は憮然としたままで機嫌が悪い。

 それを視界に捉えつつも、俺は確りと頷いて返しておいた。

 

「これでいい――とりあえずは、これでな。」

「むぅ。」


 このことへ何が不満なのかは知らない。

 だが、口をへの字に曲げたリルクルは、咎めるような視線を向けてくる。

 それを無視して、家の中の物を詰め込めるだけ【空間庫】へと詰め込んでいく。


(おそらく、この国はもう駄目だろう――。)


 何せ、俺が魔法への耐性を付けてしまった。これでは、まともに相手を出来る奴がほとんどいないと思われる。

 生者では確実に負けるだろう。対抗出来るとしたら、現状では師匠か兄弟子のクドラクだけだではないだろうか。

 それ以外だと、無駄死にする可能性が高くて――増々奴を強くさせかねないと思えた。


(厄介なんだよな。学習能力だけは無駄に高いって話だし。)


 しかし、討伐を頼むにしても、師匠達はアンデッドだ。まともな交渉が出来るとは思えないし、やりたいとも思わない。

 この為に、現状で出来る事は他にもあるだろうかと考える。


(多分、無いよな?俺は手札を見せてしまった後だし、おそらく氷魔術はもうほとんど効かないし。一撃で倒せなかった辺り、やっぱり半分アンデッドだからなのか――?)


 それなりに威力があるのが氷魔術である。人間サイズなら、骨の髄まで凍らせる事も、今の俺なら可能なはずだった。

 だがしかし――現実には驚かせたり足止めするのが精一杯といった様子である。これでは、倒す事はおろか、この先全く役には立たないだろう。


(火に特化していれば良かった――。)


 攻撃としては最高威力を叩き出すのが火属性だ。

 これならあの『勇者』にも有効だったかもしれない。だが、無い物ねだりしてもしょうがないだろう。

 現状では水の方が得意なのだから、火は必然的に苦手になるし、どの道俺は戦闘に向いていなかったのだ。例え倒せても――生き残れるとは到底思えない。


(しょうがない、のか――?)


 認めたくは無いが、認めるしか無い気がする。

 この拠点も、何もかも捨てるしか無いって、そう思えて心が重い。


「行くぞ、リルクル。」


 それでも、未だ口をへの字に曲げているリルクルを促す。

 しかし、全く動こうとしない様子を見て、彼を小脇に抱えるとさっさと外へと出た。

 これに、


「ちょっと!?僕は荷物じゃないんだけど!?」


 彼から非難の声が上がってきて、俺は鬱陶しく思いながらも家から離れていく。

 その間も、リルクルは騒ぎ立て続けた。


「何するのさ!降ろしてよ、降ろしてったら!」


 ジタバタと藻掻き、足で蹴りつけてくる。

 意外に力が強い。痛みに顔を顰めつつも、彼を連れて自宅を離れた。


「良いから黙って抱えられてろ。」

「むー!」


 見た目通りに軽いリルクルだったが、正直言ってこうして暴れられていると、運ぶのが大変だ。

 途中で鶏小屋から鶏達も追い出して、外へと放してやる。

 そうして、ある程度離れてから――家に火を点けた。


「【火球】。」

「何してるのー!?」


 抱えてるリルクルからそんな絶叫が上がってくる。

 構わずに、俺は淡々と口を開いた。


「もう此処には戻って来れないからな。しょうがない。」


 これに、


「何がしょうがないのさ!?ちょっと、何かあるのなら、ちゃんと説明してよ!?」


 リルクルが食って掛かってきて、思わず溜息を吐き出した。

 まぁ、居候しろって言ったのは俺だしな。いきなり宿無しに放り出すのも良くないか。説明くらいは、してやるべきだろう。

 そう思って、彼を地面に降ろすと口を開く。


「良いか、良く聞けよ――この国はもうすぐ滅ぶ。」

「は?」


 素っ頓狂な声を上げる彼へ構わずに、更に言葉続けていった。


「この国に勇者が沸いたんだよ。となれば当然、その矛先は平和な時代なら王に向けられる。他に向ける要素が無いからな、ほぼ確実だろ。」

「はあああ!?」


 一人騒々しいリルクルを放っておいて、探索魔法に引っかかったものへと意識を向ける。

 人数は――二人と、三人か。前者は馬車で小道を爆走中で、御者にはおっちゃんが乗っている。その中に乗っているのは、やや顔色が悪いもののサイモン殿のようだ。


(こっちに来た――?何でだ?)


 疑問に思うも、それよりも後者が重要だ。徒歩で森の中を彷徨っている感じで、逆に遠ざかって行っているのだから。

 ただ――その内の一人は歩き慣れていないのか、時折木の根に躓いては転びかけて、他の二人に支えられていた。

 それを強化した探索魔法で見て、思わず崩れそうになる。


(良かった、生きててくれた――っ。)


 思わず、目が潤む。

 後者は都市の生存者だ。より詳しく言えば、弟子である双子の少女達と、それに上質な生地のドレス姿の貴婦人――ネメア様その人である。

 黒いエプロンドレスを身に着けたドロシーとリリィに支えられる形だったが、領主婦人を逃がす際に近くに居たおかげか、何とか逃げられたようだった。

 そんな彼女達を迎えに行く為に、そちらへと踏み出す。その上で、リルクルへ情報だけは残しておいた。


「家を襲ったのは『勇者』だ。聖剣も持っていたし間違いは無い。」

「……。」


 絶句した様子のリルクルに、更に言葉を重ねておく。

 下手に和解をなんて言い出されても困るからな。アンデッド以上に言葉が通じない相手が『勇者』と呼ばれる異世界人なのだから、下手な希望は持たない方が良い。


「アレにはもう倫理観とか道徳心なんてものは存在していないから注意しろ。不意打ちで斬りかかってくる辺りに、元からの悪党って線すら有り得る危険生物だ。間違っても、人間だなんて思わない方が良い。家を残せば――確実にまた襲ってくるしな。」

「そんな……。」

「少しだけ待ってろ。今後については、戻ってきたら話す。」


 絶句した様子のリルクルを一人残して、少し脚力を強化して駆け出す。

 おっちゃん達と入れ違いは避けたい。リルクルは正真正銘、聖なる獣だが、獣人と間違えられて邪険にされる怖れもありそうだし、俺が対応した方が良いだろう。

 そう思って、森の中を疾走していく。

 すぐに見えた後ろ姿へ、声を掛けていた。


「二人共、止まってくれ!」

「「――!?」」


 急ブレーキを掛けた事で、靴底が滑っていく。

 振り向いて来たのはドロシーとリリィ。それに少し遅れて振り向くネメア様に、驚愕の表情が浮かぶと同時に、恐怖心が見えた。

 それに気付き、慌てて声を重ねる。勘違いされると大変だ。


「安心しろ、俺はアンデッドじゃない。ちゃんと生きて此処にいる。だからもう大丈夫だ!勇者も退けてある!」


 これに、


「――っ。」

「「お兄さん!」」


 その場に崩れ落ちたネメア様と、それに釣られるようにして尻もちを着いた双子が、安堵の表情を浮かべた。

 それに、ゆっくりと歩み寄る。

 背中を斬られたせいで未だ血には濡れているが、一応は五体満足だ。流れ出た血液で若干貧血気味ではあるし、魔力も回復させたとはいえ、しょうじき心許無いのが辛いところだが。

 しかし、勇者を彼女達とは別方向へと追い払えていたのは幸いだ。途中で遭遇していたら、おそらくアウトだっただろう。

 そんな彼女達へと、落ち着いて声を掛ける。


「二人共、怪我は無いか?――ネメア様も、ご無事で何よりです。」


 そんな風に言葉を掛けると、ハラハラと泣き出す淑女。


「ちょ!?」


 そのまま飛び込んで来て、腰の辺りへとしがみついてきて離れなくなってしまった。

 それに便乗してか、双子も揃ってしがみついてくる。


「何度も遭遇しそうになったの!あれに!」

「怖かった!怖かったよう!あんな化物、見たこと無い!」


 一斉に捲し立てられる中に、


「――心配しました。心配しましたわ!無事で何よりなのは、貴方の方ですのよ!自覚なさって下さいまし!」

「はぁ?」

「高位のアンデッドの所に向かっておいて、生きていらっしゃるのがどれだけ幸運だとお思いですか!?もう、死んでしまったとばかり――。」

「あ、ああ。これは失礼しました。ご心配をおかけしてしまったようですね。」

「――っ。」


 思いがけなかった言葉を貴族であるネメア様からかけられて、思わず目を見開いたものの、すぐに思い至った事へと内心でぼやく。


(確かに自覚が抜け落ちていたよなぁ、俺――。幾ら勇者と遭遇したとはいえ、知らない彼女達からしたら、責められてもおかしくはないか。)


 何せ、師匠の元へ向かったのは、つい昨日の事である。

 一応は、死ぬ気で向かったのだから、色々と察せられていた事だろう、きっと。

 再会はアンデッドになってる可能性だってあったわけだし、それこそ死んでしまって、二度と会えないって可能性も高かったんだから、心配されるのは当たり前なのかもしれない。


(まぁ、こうして無事に再会出来ただけ、マシなんだろうな――。)


 メルシーは、間に合わなかったみたいだが。

 しかし、これが全く無関係な人間で、平素であったらここまで心配も何もされなかっただろう。何より、それなりに貢献してきたのだ。多少心配されるのは当然だろうか。

 更には、ネメア様は治めている領地を見捨てて逃走しただろう状況である。

 例え、貴族としては当然であっても――統治者以前に人間として見るのならば、心を傷めていてもおかしくはないだろう。更には森の中を彷徨っていたのだから、遭遇しそうにもなって余裕だって無くなっていたと思える。


(うん、俺の対応が悪かったな――まぁ、それでも彼女達は無事だったんだし、良しとしとこう。)


 何よりも城の中は激しい抵抗の末に、全滅しているような感じなのだ。あれを命じたにしろ、逃げるように下から願われたにしろ、平気ではいられないところだろう。

 とはいえ、双子はともかくネメア様はこのままってわけにもいかない。

 すぐ近くまで領主である彼女の夫、サイモン殿が近付いているのだから、そちらへ誘導すべきだ。

 この話に、


「――あの人が、此処にですか?」

「ええ――御者は俺の知り合いですし、今頃は王都にいるはずの人物ですから、何かあったのかもしれません。」

「王都にですか――。」


 正直、王都に何があったかなんて、予想しか出来ない。

 だが――仮にも勇者が沸いているのだ。何があっても不思議ではないだろう。

 それこそ、ドラゴンが国中を徘徊しているようなものだからな。壊滅的な被害があちこちで起きていても、驚きもしない。むしろ、実際に対峙してみた身としては、十分有り得ると思えるくらいだった。


(それでも、王族は逃げてるよな?少なくとも『あの』正妃様もいるんだし――。)


 正妃に繰り上がった第二夫人は、所謂正統派の姫じゃなかった。小国から嫁いだとは聞いているが、そもそも『力こそ全て』の完全な戦闘民族の出である。

 この為に、姫ではあっても政治的な駆け引きではなく武術方面に滅法強いようだった。多少の礼儀作法はあっても、基本的には影を薄くしている事から、役割が文官とは違うところにあるのだろうと思える。

 そんな正妃が一緒にいるのだから、王の護衛は勿論、王太子予定の第一王子も多分無事だと考えられる。

 そんな風に思って、リルクルを簡単に紹介しつつも、こちらへと向かってくる馬車を待った。


(滅亡まで、カウントダウンって感じかな――。)


 そんな風に思っていた俺。

 しかし、カウントダウンどころか、既に滅亡していると知ったのは、それからすぐの事である。


 2019/01/25 加筆修正を加えました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ