181 閑話 その錬金術師を死へ向かわせる者
数話分、他視点の他場所での閑話を挟みますので、主人公が出て来ません。
主人公の知らない所で起きた話としての補足回となります。
まずは初登場となる『勇者』視点から。少し時間を遡って登場。
――世界に蔓延る邪教徒の群れを殲滅して欲しい。
なーんて、ようするに人殺しを頼む女がいるんだけどさ、結局はそれって、他の女が邪魔なだけなんだよな。
何せそいつ、嫉妬心剥き出しだしさ。ちょっと他の女口説こうとしただけで「神託です」なんて言って、口説こうとした女の子達の皆殺しを命じてくるくらいだぜ?
頭おっかしいよなー、本当に。
「――魔女は人心を惑わせ、男を誑かす悪女です。どうか、貴方に授けた力で、あの邪悪な者達に天罰を下して下さい。」
「はいはい。」
そんな言葉で連れて来られた女の子達。全員、俺が口説こうとした可愛い子達だ。
だけど、処刑場に選ばれてここまで連れてこられた彼女達は、どれもこれも薄汚れていた。見るからに汚くなってるんだよ。
(本当にコイツらって魔女なのか――?)
それでも思うのは疑問。
だってコイツら、魔女って割りには魔法も使えないし、大釜でトカゲとか煮込んだりしていないし、俺が見る限りでは、至って普通のシスターって感じだったんだよな。
でもまぁ、汚れてるなら俺も口説こうなんてもう思えない。だから、魔女だろうが悪女だろうが中古女だろうがもうどうでもいいんだけどさ。
(でもでも、あれあれ、おっかしいなー。おっかしいよー女神ちゃん、俺っちってば、勇者様だったんじゃねぇの?)
実際勇者として呼ばれたはずの俺。世界を救う為に力を貸してくれなんて言われて、ホイホイ乗ったりしたんだけどさ、現状とは違和感しか感じられねぇぜ?
大体、全く無関係な世界に放り込まれるとか、それ拉致誘拐だからね?しかも拒否権は実質的に無ぇじゃねぇかよ、これ。
んで、気付いたら口説こうとしていた相手を殺せなんて言われてるわけで――まるで、中世に起きた魔女狩りの中に放り込まれたみたいだぜ。
まぁ、殺るんだけどさ。殺るんだけど。
「さぁ、聖剣を振るい、断罪を。貴方は神の遣わした勇者なのですから、何も案ずる事はありません――。」
「はいはい。」
ちょーっと疑問に思えば、畳み掛けるように言われる言葉。
女神ちゃんてば、めっちゃ焦ってない?大丈夫?これ。本当に大丈夫なの?
まぁ、言われた通りに殺るけど。
(この剣軽いなー。もしかして、女神ちゃんの体重くらいだとか?)
それなら驚きの軽さだ。猫よりも軽いんじゃね?
そんなやけに軽い聖剣とかいう、でもかなり気味の悪い剣を振るう。
これ、聖剣なのに、気色の悪い目玉が一個ついてるんだよな。それがギョロギョロと動くものだから、不気味ったら無いんだよ。
「神、よ――。」
そんな俺が持つ聖剣へと、掠れた声で祈りの言葉を唱えるシスターだった女の子。
でも残念、その祈りは、捧げてる相手が死を願ってるんだぜ?救いが無ぇよなぁ。
だから、
(無駄なんだよなぁ。)
その声を無視して、一人一人を斬り伏せていく。まるで豆腐みたいに人の首が刎ね飛ぶものだから、全く現実味が無かった。
血の匂いもしない。そういうのは生理的に遮断される仕組みらしい。一体どういう仕組だよ。
(まぁ、異世界だから何でも有りか――ゲームみたいだもんな、ここ。)
実際、いきなり拉致誘拐された挙げ句に、連れ込まれた場所は色々とおかしいしさ。誰も彼もが、俺の殺る事を持て囃すんだもんな。一体どこの蛮族だよって話だ。
その証拠のように、一人を斬り殺す度に、周囲は熱狂していく。
そんなに良いのか?この女の子達を殺すのがさぁ――。
思わず、呆れ返りそうになる俺の耳に、そんな俺を称える声がガンガン響いていく。
正直、キメェと思わないでもない。
「おお、勇者様。」
「我らが救世主様。」
「今こそ、憎き魔女共を懲らしめる時!」
「皆の者!東の邪教徒の国を滅ぼす時ぞ!」
「「おおおお!」」
勝手に騒いで、勝手に熱狂して、ワーワーと声を上げる連中。とにかく煩いし鬱陶しい奴等だ。
そんな奴等に召喚された俺。これが女神ちゃんのお願いじゃなかったら、絶対ブッチしてたね。
思わずうんざりとした溜息が溢れていくくらいには、周りは野郎ばっかりでむさ苦しいし、凄くウゼェ。
これに、
「おや、如何されましたか?勇者様。」
「お疲れですか?救世主様。」
「ささ、こちらへどうぞどうぞ。お茶の用意は出来ております。」
「お菓子もご用意致しておりますぞ。」
「はいはい。」
目敏く話しかけてくる奴等が居て、更にうんざりとした溜息が漏れていった。
そいつらの足元に転がっているのは、数人の若い女達の身体だ。俺がさっき刎ねた奴等な。
全員裸に剥かれていて、乱暴された跡すら見えているのに、コイツらは「魔女だから」で何をしても許されると宣うクソでしかない。
そんな奴等に声をかけられて嬉しくなるわけがないだろ?大体俺、女の子以外興味無いしさぁ。男は男でも、肥え太った脂ぎったオッサンとか、マジ勘弁だぜ。
「――よくやりましたね、私の勇者。さぁ、少し休んだら、早速他の邪教徒共を殲滅に向かいましょう。大丈夫、貴方は何も心配いりません。私がついているのですから。」
「はいはい。」
そして、この『ついている』のが問題だった。
俺に囁く声の主は――女神と自身を称していて、俺をこの世界へと放り込んでくれた見た目だけは良い女である。
何せこいつ、俺が声をかける女の子を『魔女』に仕立て上げて、とにかく殺せとコールしてきて煩いんだもんな。そのおかげで、未だ誰一人としてデートも出来ないでいるんだよ。生殺しかっての。
(勇者って、チート貰って異世界でハーレム築いてウハウハじゃねぇの?何で邪魔されてんの、俺?)
それとも、ヤリ捨て放題って事か?これ?
ただ厄介な事に、この世界に放り込まれた時に手渡された聖剣とかいうのから響いてくるこの声の持ち主、機嫌損ねるとすっげぇ面倒くさい。
あれだよ、メンヘラとかヤンデレとかそういう奴。完全に痛い子なんだ。
それでもこの聖剣が手放せないのは、コイツが唯一俺を勇者と証明する物だから。
正直、これに頼るしかない今の俺には、本当にこの『ついている』奴は、質が悪かった。
「はぁ――。」
うんざりだ。
うんざりだよ。
やらされているのは、確実に憂さ晴らしと証拠隠滅でしかないんだもん。
これのどこが『勇者』だって?まだ『悪漢』って呼ばれた方がしっくりくるぜ、全く。
もっとも、
(利用するだけ利用させてもらうから、今は好きなだけ持ち上げてくれて構わないけどな。)
打算で付き合う俺としては、決して口にはしない。
だって、コイツら、最高に頭悪いんだもん。
これ以上無いってくらい、捨て駒にはピッタリだろ?
女神って自分を称した奴は――まぁ、可愛かったから、事が終わった後に一発やらせてもらうけどさぁ。
それでも、やらせて貰うまでの間に『練習』くらいはさせてもらってもいいよな?そう思うのに、デートすら出来ないでいるんだぜ?マジでもう本当生殺しかよっての!
(ったく、少しは好きにやらせろよな。殺る方じゃなくて、犯る方をさぁ。カワイコちゃん達とあんな事やこんな事したいってのに――。)
ブツブツと内心で愚痴を呟きながらも、ただ只管甘ったるいだけの菓子を紅茶で流し込んでいく。
どうもこっちの世界だと、砂糖を大量に使えば高級って考えがあるらしい。おかげで劇甘過ぎて煮詰めた砂糖を口にしている感じだ。
飯もやたらと辛かったり、香辛料が効き過ぎていてクソ不味いし、ストレスばかりが溜まる。旨い飯が食いたいなぁ。
(オムライスと、ハンバーガーと、あと、唐揚げとかも食いたいなぁ。)
お菓子は日本で売られてた煎餅とか、醤油辛い物がなんか食いてぇ。
でも、ここで出てくる飯も菓子も、何時の時代の価値観だよってくらいには遅れた物ばかりだから、期待なんて出来ない。
見た目とか、いかに金を掛けるかで競ってるような感じだから、味なんてのは二の次三の次だった。
おかげで――ここに居る奴等をぶっ殺したくなってくる。どうにもイライラして堪らない。
「出発の時です――さぁ、世直しの旅へと参りましょう。」
「はいはい。」
そのイライラをぶつけるように、口説いていた女達をセレモニー代わりに殺らされて、少し休んだら移動らしい。
なんつーか、完全にレールの上を歩かされてる感じだよな、これ。
向かうのはここから遥か東にあるとかいう王国らしいし、行き先すら勝手に決められている。何でも王様が治めてるから王国で、でも国土面積はそんなにデカくない国だから、幾らでも言うことは聞かせられるんだとか。
その為に、まずは王都を目指すそうだ。そうして、王に直談判して、魔女の討伐軍を借りるって手はずらしい。
だけどさ、
「俺、ゾロゾロ野郎引き連れて歩いて行くとか御免なんだよね。」
「勇者、様――?」
「せめて乗り物くらい用意しろよ、この無能――現代人の足腰の弱さ舐めてんじゃねぇぞ、ったく。」
最西端にある国の奴等は、俺からしたら俺の日常を奪ったクソでしかない。しかも、利用するだけ利用して、甘い汁吸うつもりなのが見え見えだ。最悪、殺す事まで視野に入れてるのは間違い無いだろ。
そんな奴等を連れて行くとか冗談じゃないってね。
聖剣の向こう側で、女神がなんか金切り声あげてっけど、金だけあれば何とかなるじゃん。へーきへーき。
「勇者!私の勇者!何をしているのですか!?その者達は敵ではありません!敵は、王国にいるのですよ!?」
「やだなぁ――。」
俺はヘラヘラと笑いながらも、俺を召喚したとかいう奴らの国を出た所で、この腰巾着兼不安要素共を切り捨てておいた。
「俺、一応働きながら学校行ってた苦学生だぜ?それなりに社会にも揉まれてるっての。それに、こんな邪魔者無しに女神ちゃんと二人きりの方が良いに決まってるじゃーん。」
これに、
「ふ、二人きり、ですか?」
狼狽えた声が、聖剣から漏れてきた。
やっぱあれだね、バカ女は扱い易くていいわ。簡単に流されそうになるし、実際流れてくれさえする。
女神って言ってても所詮はバカ女。幾らでも転がせられるってな。
「そーそー。二人きりだよ、二人切り。邪魔は一切無しの二人旅!な?これって、新婚旅行みたくね?」
「し、新婚……。」
この言葉に、夢見がちっぽかった女神ちゃんが速攻で考えを切り替えたのが分かった。
やっぱ最高だわー、こういうのバカ女って。簡単に態度変えるんだもん。地雷さえ踏み抜かなきゃなんとかなるってのも良いね。
「そ、そういう事なら、致し方ありませんね。他ならぬ、勇者の望みですし。」
で、やっぱりこっちの思った通りの反応になる。
色恋沙汰ってのは、先に惚れた方が負けってな。つまり、女神ちゃんが俺に惚れてる間は、こっちの言い分も押し通しやすいしやりやすいって事だ。
「だろだろ?女神ちゃんわかってる―!もう超大好きー!」
その後のオーバーリアクションで、調子の良い言葉を吐けば後は簡単。
味方になった彼女の反応は予想通りで、俺は内心でニヤニヤが止まらないままにあれこれ吹き込む算段を付けていく。
これだから、バカな女を騙すのはやめられねぇんだよなぁ――。
「だ、大好きだなんてそんな……。」
恥じらう女神ちゃん。それに対して、内心ニヤニヤしまくる俺。
でも勘違いしちゃいけない。俺が好きなのは、コイツの場合は中身じゃなくて外面だけだからな。何時でも捨てられるんだよ、俺が惚れてるわけじゃないし。
実際、身体だけが目的だって遠回しに言ってるけど、全然気付かねぇんだもんなコイツ。やっぱ、バカは良いわ扱い易くてさー。
「大体さ、邪魔なんだよね、コイツら。こんな肥え太った連中とか、足手纏いでしかないしさぁ。盗賊とかに襲われたら、絶対人質にされてみっともなくプルプル震えるだろ?んで、足引っ張るの。助けて下さいぃとか言いながら。」
これに、
「え、ええ、そうですね。彼らは戦闘には加われませんし、人質にされると他の者も動けなくなるかもしれません。最後の頼みの綱は、勇者である貴方だけでしょう。」
肯定的な返事が返ってきて「だろだろ?」と声を上げる。
テンションアゲアゲ。めっちゃノリノリで押し切って、この先もむさい野郎が俺の周りをうろちょろしないようにさせないとな。
大体信者()とかいらねぇわ。なんで俺がオッサンに囲まれなきゃならねぇんだっつの。囲むなら、美人と美少女にしてくれよ。あ、胸はデカイ方でな。
「普通に考えてさぁ、アイツらいらなくね?いらないよね?何で着いてくんの?マジバカじゃね?ってくらいには、アイツらって邪魔だったんだよ。分かる?」
「え、ええと――。」
「女神ちゃんと二人きりになりたいのに、それを邪魔しに着いて来るんだもん。な?いらないだろ?」
「は、はい。」
「よし!それでこそ俺の女神ちゃん!」
そしてチョロアマだ!
やっぱ、バカ女はこうでなくっちゃ。無駄に賢い奴とか、正論じみた事しか言わないから興醒めするし、つまんねぇしな。
――まぁ、そういう奴を無理矢理にってのも、それはそれで良いけども。
「んじゃ、道案内よろしくー。」
「はいっ。」
死体から剥ぎ取った金目の物なんかを全部『アイテムボックス』へと入れて、俺は聖剣に向けて語りかける。
ギョロギョロしていた目も、中にあの女神ちゃんがいるって思えば、少しは我慢も出来るって話だ。
ここでの事が終わったら、一発やらせて貰うんだしな。なし崩し的に、そのまま何発もやらせてもらうかもしれないけど。
「さ、行こう――で、どっちに行けば良い?」
これに、
「分かりました。では、まずは街道沿いに真っ直ぐと進みましょう――。」
「りょーかい。」
女神ちゃんをナビゲーター代わりに使って、東にあるとかいう国を目指す。
魔女って呼ばれるのは、ブスだらけなのかな?それとも意外や意外、美人ちゃんいっぱいなんだろうか?
(美魔女だったら良いなぁ。ヤルだけヤって、口封じ出来るんだもん。)
クソみたいな世界だけど、美人も美少女もそれなりにいるようだし、それを引っ掛けるべく意気揚々と旅を始める。
聖剣の女神がうるせぇけど――まぁ、適当に理由付けて置き去りにすればいいよな。
そんな楽観的な考えの俺は、道中、様々な騒動を引き起こして、東にあるという王国で更なる騒動を巻き起こしていった。
2019/01/16 加筆修正を加えました。




