018 その錬金術師は土木作業で崇められる
「はーいそこー。止まれー。」
ズシリっと思い音を響かせて進むは、我がクレイ・ゴーレム三号以下略達。
一号と二号が崩れた昨日同様、俺は新たに作り出したそいつらに指示を与え、建設予定地に向けて移動を命じ、辿り着いた先から魔力供給を解除して土に戻すという作業を続けていた。
「……。」
そんな俺の横で、ポカーンと口を開けたまま呆然としてるのは、建設に携わる現場監督である人物だ。
人型は人型なんだが、人間ではなくその身長は低い。身長180cmの俺の腰くらいしかないし、ずんぐりむっくりとした体型で、筋肉質なその身体は、髭と髪の毛が合体した厳つい顔なのもあって頑固そうな親父に見える。
そんな監督は、どこからどう見てもドワーフと呼ばれる岩妖精の別名をもった妖精種だった。
「おーし次ー、進め―。」
そんな彼を放置したままで、俺は淡々と魔術を地面に描き、魔力で練り上げたそれらを起動し、クレイ・ゴーレム達を次々に生み出しては移動させ、予定地へとその身に抱え込ませた土を届けさせる。
いやぁ楽だ。何が楽かって、今回使われる材料が自分から移動して行ってくれるからだ。それも、距離はそんなに遠く無い。むしろ近いくらいだ。なので、俺でもへばらずに一日中出来そうな仕事である。
(こんな割りの良い仕事、滅多に無いよなぁ。ラッキーだ。)
これで衣食住にお給金まで入るのである。短期バイトとしても最高だろう、多分。
更には仮死状態が長く続いたせいか、魔力量が無駄に増えているらしい。おかげで、余り得意じゃない土魔術でも、ネックだった魔力枯渇が起きる気配が無かった。
まさにいい事づくめな本日である。
(あとは魔物の氾濫が起きた場合の対処だけだなぁ。まぁ、あのゴブリンとブラッディースライムだけなら、来たところを凍結で何とかなるだろうけど。)
今の魔力量ならば、周囲見渡せる範囲でも全て凍らせる程の威力で放てるだろう。そして、そこまで魔力を使ったとしても、ギリギリで意識を保てると思われる。
それでも無理なら、最悪逃げるだけだ。そのくらいの余裕はあるだろう、多分。
「よっしゃ、次――。」
「ああああああ!」
そんな思考に至ってたからか、俺は突如として横から響いた大声量にビクッと身を竦ませていた。
驚いた。めっちゃ驚いたぞ。何だ何だ?
「――は?何?」
「おおおおおおお!」
そんな俺の横から尚も響いてきたのは、大声量の野太い声である。
叫んでるのはドワーフのおっちゃん。ここの現場監督を任された奴である。
ただ――どうした?このドワーフ。まさかの欠陥品か何かか?いやいや、生き物だし欠陥品は無いよな?ただ単に、頭の中が壊れたとかそんなところだろう、うん。
(いや、それはそれで失礼か?)
とりあえずは、俺は尚も意味不明な叫びを上げ続けるドワーフのおっちゃんの肩をポンッと叩く。
「おっちゃん、まずは落ち着け。とりあえず、深呼吸だ、ほら。」
「おおおお――お?おお。」
「深呼吸、深呼吸。はい、吸ってー吐いてー。」
「すーはーすーはー……。」
何とも素直な事に、俺の言葉に従って深呼吸を始めるおっさん一名。
そんなおっさんの横で、吸ってー吐いて―を繰り返し伝える俺。何ともおかしな光景である。
「――んで、落ち着いたかな?」
「う、うむ。何とかな。」
程なくしてドワーフのおっちゃんは叫ぶのをやめた。
割りとうるさかったのでこちらとしては大助かりである。
ただ、
「何とかなのかー。そこは大丈夫だって言ってほしかったんだがなぁ。」
「うむ……。」
苦笑いを浮かべれば、どこか呆然とした様子で返された。まだちょっと、心ここに非ず状態にあるようだ。
まぁ、突っ込むのは程々にして、本題に移ろうか。
「で、どうしたん?いきなり叫び出してたが。」
「そう、それだ!それだよ、お前さん!」
「は?」
いや、何が『それ』なのやら。
さっぱり分からない俺は目を瞬く。
そんな俺に、ドワーフのおっちゃんは盛大な爆弾を投下してくれた。
「ゴーレムなんぞ、一体か二体が限度だというのに、なんという凄まじい魔力量だ!ただの土魔法使いじゃなく、大魔法使いだったか!」
「――はい?」
「これだけの数のゴーレム使いなぞ、国中探しても見つからんだろう!どっかの王宮魔術師とかなんだな!?今はそれで、お忍びの旅とか修行中とかなんだな!?」
「はぁ?」
いやいや、おかしい。
魔法使いに大はつかないとか、それ以前にクレイ・ゴーレムなんて魔術でちょいちょいと入門編で教わるような代物だとか、それ以前に魔力量は増えてても王国滅亡前なら五万といたとか、ツッコミどころが満載だ。
てか、国中探しても見つからんって、今どれだけ魔術師の数減ってるんだ?俺なんて、本職からしたらそれこそ指差して笑われるレベルの事しか出来てないぞ?これで土魔法使いとか名乗れ無いって!
なんて思ったんだが、
「お前たち、俺らはついてるぞ!何せ大魔法使い様がいらっしゃるんだからな!」
「「おおおおおお!」」
「――はいぃ?」
何故か俺を置いて盛り上がる周囲の方々。そして、聞こえてくる言葉に、首を傾げるしかない俺だった。
そんな俺の手を取り、ドワーフのおっちゃんが何故かブンブンと振り回しだす。
なんつーか、勝手に感極まってるんだよ。何がどうしてこうなったんだ?俺にはさっぱり状況が掴めていないんだが。
「これで、これで俺達は助かる!」
「誰も犠牲になんてしなくてすむんだ!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
そんな俺達の周囲では、熱狂に満ちた声が轟いていて、非常に熱気に満ちていらっしゃった。
温度差あり過ぎ。そして、説明プリーズ。
(何がどうしてこうなったんだ!?)
ただ一つ分かるのは、温度差が酷過ぎるって事である。
そして、俺の中で、解せない事がまた一つ増えたという事実だった。
土魔法は地味だなんだと言われますが、縁の下の力持ち的な属性だと思います。
地面から貫く不意打ちに、ゴーレム等の使役、更には砦やちょっとした拠点を築き上げる方面に秀でる傾向にあって、概ね防御と暗殺に特化してるかなーと思うんです。
派手な火魔法は攻撃に、生活魔法として使い勝手の良さそうなのは水魔法で、空を飛べて戦術的に強そうなのが風、そして土は先に上げた通りでしょうか。
そして、概ねその通りに主人公の傾向が固まっていきます。これは、その段階の一つといったところです。




