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171 その錬金術師は帰路への道を行く

 魔女の里は下手に干渉するのは悪手。

 この為、外から様子を見守るという話で冒険者支部では纏まったが、問題が一つだけ残ってしまった。


 行く宛も何も無い双子の魔女、ドロシーとリリィの事である。


 どうもおばば様はこの二人を俺に託そうとした感があるみたいなんだが、実際にどうするかは二人次第だろう。

 そう思って尋ねてみたんだが、


「着いて行くよー。」

「下働きでも何でも良いから、こき使って!」

「働いてお金返すって言ったもんね!」

「踏み倒したりもしないって、誓ったしね。」

「お、おう。」


 身を乗り出してきた二人がそう言い出したので、どうせだしと条件を付けておいた。

 これに、


「「弟子入り?」」


 二人揃って首を傾げる。

 本当に一卵性双生児はそっくりな言動を取るなと、変な所で感心しつつも口を開いた。


「そ。お前達が良いならだけどな――風属性持ちが調合出来る魔法薬に、需要があるんだよ。その気があるなら覚えてみないか?」


 そう告げると、


「「やるやる!」」


 揃って食いついてきたので、二人を一時預かりという事にして引き取る事にした。

 風属性を用いて作る凍結薬は、スライム対策に非常に有効だ。この為、覚えられそうな者ならこちらとしても大歓迎である。

 そういった利害関係の一致もあり、その日は保存食等の買い出し等へと追われて、翌日出発という事で落ち着いた。

 勿論、二人には冒険者支部に泊まって貰い、あの宿で嫌な思いをしないようにさせた上でだ。

 そうして訪れた翌日、


「――じゃ、行こうか。」

「「うん!」」


 早速宿から迎えに上がった二人を連れて、早朝に都市を離れる。

 行きよりは確実にマシになるだろう帰路だ。

 何せ、あの『アホード』は居ないからな。これだけでも雲泥の差がある。この二人との旅は比べ物にならないくらい快適だった。

 ただ、魔女の格好は目立ちすぎるという理由から、途中で売られていた女物の旅装を一式渡して、二人には着替えてもらった。

 服はワンポイントにラインが入れられているだけの質素な物だ。ほぼ、生成り色である。

 それでも、


「町娘みたーい。」

「色が黒くなーい。可愛いー。」


 どうやら好評なようで、二人揃って着替え終わった服を見せ合いながら、笑みを浮かべてみせていた。

 多少無理しているのかもしれないが、それでも少しは意識が浮上しているのだろう。表情は幾分と明るい。

 昨日は二人して散々泣いていたようで、今朝は顔が浮腫んでいたりと酷かったが、それも氷と水を使って冷やした事で随分とマシになっている。

 そんな二人へと、


「リリィとドロシーで二番弟子と三番弟子だな。」


 意識して声を弾ませながら伝えておいた。

 多少は自分に嬉しいという感情も無いと演技にしかならないので、凍結薬の製造に関する問題が二人で解消出来そうだと思い込んでおく。

 ぬか喜びになるかもしれない可能性は、この際考えない。今は良い方向で物事を捉えておいて、それに対する期待とか喜びを感じていた方が良いだろう。

 折角、二人に明るさが戻ってるんだしな。それを維持するのに、多少なりとも気を遣った方が、この先絶対やりやすいはずだ。


「一番と二番じゃないの?」

「他にも弟子がいるの?」


 そんな俺に対して、二人から疑問の声が上がってくる。

 その言葉に返しつつも、俺達は話しながら貿易都市目指して帰路の道を進んだ。


「メルシーって子が一番弟子だよ――土属性への適性が高くて、水にも多少親和性がある子だな。反面、風への適正が無いから、二人がその部分の技術を継承してくれるのは有り難い。」


 これに、


「適材適所ってやつ?」


 とリリィから声が返ってきたので、頷いて返しておいた。


「そう。苦手属性は、例え覚えられても疲労感が半端無いし、効率も悪くなりがちだ。得意としている奴が継承してくれるのが、一番良いから助かる。」

「へぇ――里では属性とか関係なく皆薬草を調合してたよね。」

「おばば様なんて色々研究もしてたみたいだけど、属性は何も言ってなかったしなぁ。」


 二人の言葉に、


「錬金術師から習ったんじゃなかったのか?」


 疑問に思って尋ねてみると、二人共悩む様子を見せた。


「その錬金術師さん、魔法薬作るの苦手だったんだって。」

「教えるのも苦手で、見て覚えなさーい!だったらしいよ?」

「ふーん?」


 魔法薬作りが苦手な錬金術師というのは、確かに居る。

 これは、錬金術という分野が多岐に渡るというのにも関係しているんだが、中には鍛冶や彫金に全力で傾倒しているケースもあるからだ。

 中でも火と土への親和性が高い錬金術師にはありがちな傾向で、そういった者の場合だと、魔道具作りにのめり込んでいる事が多かった。

 例えば魔法の籠もった武具とか、飛空艇等の空飛ぶ乗り物だとか、結界石等の魔石加工だとかである。

 そうして、その錬金術師に関して二人から又聞きしていたんだが、


「――あ、誰だか分かった気がする。」

「「?」」


 兄弟子の中にそっくりな人物が思い浮かんできて、俺は頭を抱えたくなった。

 土属性に適正があり、火属性にも多少親和性があった兄弟子である。類まれな才能持ちで、土魔法使いとして結構名が知られてもいた人だ。

 まさしく天才肌なんだが、魔術に対しての好奇心が強くて、禁術が記された本だろうと片端から読み漁るという問題児でもあった人物。当時は師匠すら頭を抱えた人だった。

 その頃の口癖というのも「盗んで覚えなさーい!」だったし、何となく似ている気がする。


(そりゃ、あの人から魔法薬を学ぼうとしたら、劣化もするよな――。)


 何せ水属性への適正値が低い人なのだ。それでも錬金術師の道を選んだ理由が「綺麗になる為」というとんでもない動機である。

 あくまであの人は兄弟子である。つまりは、男なのに美しさを求めていた変人で、はっきり言ってしまえばオネェだった人だ。


(よりによってあの人に教えを乞うたのか――っ。)


 完全に人選ミスだろう、これは――。

 それに気付いた俺だったが、まさか時を超えてまた遭遇する事になるとは、この時は思ってもいなかった。


 2019/01/07 加筆修正を加えました。


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