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166 その錬金術師は災難続きを嘆く

 意識が戻ってみたら、自分の身体に有るはずのモノが無かった――。

 これで嘆かなかったら男じゃない。

 何せ無くなっていたのは、男として需要な部分、男性器だったからだ!

 せめて、その事を悲しむなり、元凶を怒るなりするものだろう。

 当然俺も、


「お前らなぁ、せめて事前に一言くらい寄越せよ!?」

「「ごめんなさーい。」」


 元凶である魔女二人に怒鳴っていた。。

 揃って頭を抑える二人だが、これは俺が拳骨を落とした為。それを眺めつつも体力回復役を一本飲み干して、ガリガリと頭を掻く。


「ああもう、何でこんな目に――。」


 嘆くのは当然だといえるだろう。

 昨夜飲まされたのは、よりによって性転換薬だったのだから――!

 目が覚めてみれば、股間の寂しさに若干高くなった声と、自分の状況には違和感がバリバリだった。加えて、胃からキリキリとした痛みが上ってきて、最悪の目覚めである。

 それを薬で癒やしつつ、落ち着かなくて深呼吸をする。非常に腹立たしい事に、飲まされた後だから即座に飲み直して男に戻るという行動に移る気になれなかった。

 何せ、性別を変更する秘薬だからな。飲めばそれに伴う副作用で、全身の激痛を味わって再びダウンしてしまう。

 それに、


「魔女の里は男子禁制なのー。」

「女じゃないと入れないから、ね?」

「はぁ。」


 双子の魔女がアタフタと、身振り手振りで説明をしていたからだ。

 男のままでは連れては行けないから、誤魔化す為に性別を女に変える必要があったという事だろう。勿論、その事へ理解は出来るし、分からないでもない。

 だが、それよりも気にかけるべき事があるだろうと、怒鳴り返す。


「ね?じゃねぇよ、ね?じゃ。先に一言くらい言えっ。心の準備も無しにあんなもの飲ませるな!激痛で死ぬかと思ったぞ!?」

「「ご、ごめんなさいー。」」

「というか、普通ならショック死したり、鬱で自殺に走ったりしかねないから、事前説明は必須だろうが!ちゃんと服用させる前に主な作用と副作用だけは伝えろよ!」

「は、はい。」

「了解ですー。」

「はぁ、もう全く――。」


 頭を擦る二人が揃って返してくるが、冗談抜きに激痛でショック死するかと思ったぞ、こっちは。

 こうして目が覚めたからいいものの、劇物扱いの性転換薬をホイホイ飲ませるなっての。本当にこいつら、薬師の卵かと疑う行動だった。

 その事をこんこんと説教しておき、その上で疑問に思った事を尋ねてみる。


「――てか、お前達二人共、調合は苦手なんじゃなかったか?」

「「うん。」」


 これに揃って頷き返す二人だが、適正が高い属性は風らしい。確かに、言われてみれば瞳が深緑だし、その事へ間違いは無いのだろう。

 それでも作れてしまった性転換薬。詳しく聞いてみると、一部の魔法薬なら水属性への適正が無くとも作れる物があるのだという。


「何だそれ?」

「えっと、性転換薬はねー、怪我を治す薬と一緒で『魔水』があれば出来るのー。」

「里の湧き水がこの『魔水』なんだよ。だから、私達でも作れるのー。」

「へぇ。それは便利だな。」


 里を出る前に汲んでおいたのだというその水を見せてもらったが、その見た目は唯の水と余り変わらない。多少とろみがついているだけだ。

 しかし、試しに魔力を浸潤させてみると、普通の水よりもスムーズに浸透していった。

 抵抗も何も無い。どうやらかなり使い勝手の良い魔法の水のようだ。

 これに、


「「良くスライムが沸くけどねー。」」

「は?」

「「水筒の中でも沸くの。」」

「マジで?」


 どうやら、メリットもあればデメリットもあるようで、水筒の中だろうとスライムが沸く事があるのだとか。

 しかし、魔女と呼ばれる女性は魔法が使える。この為にスライム退治は子供でも出来るものという認識らしく、沸いていても潰して水に戻すのだという。


「脂がちょっと邪魔だけどね。」

「でも大丈夫。混ぜれば一緒だし。」


 水筒を振りながらそう口にする言葉に、


「――スライムの消化液は、ちゃんと中和してるんだよな?」


 思わず嫌な予感がして、俺は尋ね返していた。

 これに、


「「え?」」


 二人揃って「何それ?」と言わんばかりに返されてしまって、撃沈しかける。

 こいつら、よりによって劇物に劇物を混ぜてやがった――!


「スライムの消化液は酸性の毒だろうが!それを中和せずに使うとか、殺す気かこのアホ共!」

「うわわわっ、悪気は無かったのー!」

「ごめんなさーい!」


 スライムが体内に持つ水分は毒だ。酸性の毒である。

 それを少量とは言え混ぜられた物を飲まされれば――そりゃ激痛にもなるっていう話だろ!

 王都で元公爵家を欺く為に飲んだお手製の薬とは違って、やけに起きた後も体調が優れないなと思えば、酸性の毒で喉から先が荒れていたらしい。

 とりあえず、


「元に戻る時は自分で調合するから、お前らは材料だけ提供しろ。良いな?絶対にお前らが調合した物をこの先俺に飲ませるなよ?分かったか?」

「「はい……。」」


 釘を刺された事で、幾分凹んだ様子の二人を見て、俺はそっと溜息を零していた。

 赤毛の『アホ』のお守りの次は、この迂闊過ぎる魔女達との旅らしい。

 護衛は任せてとか、夜の不寝番も大丈夫とか昨夜言われたが、当然信用出来ない為に、


「野営も道中も自分で安全は確保する。だから、邪魔だけはするな。」

「「はーい。」」


 自分の身は自分で守るべく、手段を講じる為に頭を悩ませたのだった。


 2019/01/03 加筆修正を加えました。


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