162 閑話 その錬金術師を求める者達
新章に入る前の冒頭みたいなものです。
確りと手に書類を握り締めたままで眠る横顔。
それを見つめていた少女が二人、眠る人物の部屋を出てすぐに、互いに目配せしあっていた。
「――どう思う?」
僅かな沈黙の後に口を開いたのは、黒い髪を二つに結んだ少女だ。
ワンピース風のローブを身に着けて、頭にはトンガリ帽子を被っている。
手に持つのは捻れた杖。それに、大きな鞄を一つ提げていて、飾り気も何も無い。
「私は若すぎると思うなぁ。」
それに口を開いたのは、同じく黒い髪を三つ編みにした少女だった。
こちらもまた、ワンピース風のローブを身に着けていて、頭にはトンガリ帽子を被っている。
手に持っているのも杖だが、先の少女とは違い、真っ直ぐに伸びた杖の先には赤紫色の宝石が付いているのが若干の違いだろうか。
提げている鞄も同じもので、杖と髪型以外はそっくりな双子だった。
「だよね、だよね。絶対におかしいよね。」
「うん、絶対におかしいと思う。」
顔を見合わせて何事かを囁き合う二人だったが、もしも彼女たちの姿を見た者がいたならば、こう呼んでいた事だろう。
即ち『魔女』と。
ほぼ黒一色の出で立ちに、今時トンガリ帽子を被っている者なんて早々いない。
同じ魔法を扱う者でも、この見た目だけで魔法使いと魔女とでは明確な差があるのだ。
「――やっぱり、おばば様と一緒なのかなぁ?」
そう口にするのは、髪を二つに結んでおさげにした少女。
彼女は独特の薬草の匂いを振りまきつつ、年頃の娘には相応しくない質素な格好で、指を唇へと押し当てて呟く。
容姿が整っていようともその格好だけで疎まれる事も珍しくはない。その反面、持っている技術や知識を望まれる事も珍しくないのが『魔女』である彼女達だった。
そんな『魔女』である二人は、現状では何とも面倒な立ち位置にあると言えるだろう。
それを知ってか知らずしてか、揃ってコソコソと話を続けていた。
「だとしても、何かおかしくない?」
「だよね。魔力の流れ、変だったよね。」
扉の向こうの人物を気遣うでもなく話す二人に、遠慮や容赦等は無い。
そのまま、感じた事を互いに口にしては確認し合うだけだ。
「生きてる感じしなかった。何アレ?」
「本当に生きてるのか不思議。脈はあったけどさぁ。」
「一応、呼吸もちゃんとしてたよ。」
眠る麗人。その顔は血の気が引いていて、真っ白だ。
その事を思い浮かべつつ、
「うん、でもやっぱりさ――。」
何事かを囁き合う二人。
一度溜めを作ると、
「「綺麗な死体みたーい。」」
揃って同じ言葉を口にしていた。
そうして直後には、
「でも、あんなに綺麗なら。」
「絶対イケるよね!」
等と呟いて、キャーと甲高い声を上げてはしゃぎ出した。
場所は、とある領地に構えられた冒険者組合の支部。
そこに姿を現した二人の魔女との関わりが、未だ眠りに就いたままでいるルークの今後の運命を大きく変えていく事となる。
何がイケるのかは先の話で判明します。
主人公にとっては多分二度と味わいたくなかっただろう事態。
男性にとっては羨むのか顔を青ざめるのか筆者♀には分からない展開が待ち受けてるとだけ記載。
2018/12/31 加筆修正を加えました。ちょっと文章足りない。
2019/01/03 加筆修正を加えました。




