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153 その錬金術師はお守りを任される

 一週間もかけてみっちりと武術を叩き込まれた翌日、指名依頼とかいう依頼が舞い込んできた。

 ただ、


「――え。」

「ですから、拒否権は無いんです。受けるか、脱退するかの二択となりますので。」

「何ソレ。」


 思いがけない言葉を返されてしまい、受付で固まってしまった俺は何もおかしくは無いと思う。

 都市への滞在中には宿にも戻れずに、只管冒険者組合に引き留められ続けたからな。その挙げ句、訓練という名の扱きを受けたんだ。

 その上で、更に拒否権無しの指示だとかいうこの強制依頼へは、流石に何を考えてるんだと思わざるを得ない。

 大体、強権を発動するにしても、もう少しマシな選択肢は残せなかったんだろうか?承諾か脱退かの二択は、余りにもおかしな話だ。


(極端な二択しか残されて無い状況だけども、実質一択だよな?これ。)


 少なくとも俺にはそうとしか思えずに、しばし頭を悩ませた結果、幾つかの注文をつけておく事にした。

 メルシーは当然お留守番だ。彼女はおっちゃんの店に預けておくとしても、森の中の家で飼ってる家畜が問題だろう。

 そう思い、少し相談してみる。


「鶏ですか――?」


 怪訝そうな表情を浮かべた受付嬢へ、俺は確りと頷いて返した。


「そう、雌鶏がちょっとした魔物と化しつつあるんだけど、言葉を理解するくらいには知能が上がってるし、意志の疎通が図れるんだよ。悪いんだが、その鶏達の餌遣りを誰かへ頼めないか?」

「ええと――。」


 ちょっとしたどころか明らかにコカトリス化しつつあるんだが、そこはそれ。

 魔物化は餌を求めた結果だろうし、それを防ぐ為に都市まで出てくる時にはたっぷりと穀類を置いてきてある。早々足りなくなるという事も無いだろう。

 しかし、このまま依頼で長期不在となれば話は別だ。メルシー一人で森に残すわけにもいかないし、別の誰かに頼む必要がある。

 強制なのだし、このくらいは融通すべき――そう思って相談してみると、


「はぁ。餌を与えるだけなら、確かに職員でも出来ない事はありませんけど。」

「頼むよ。」


 言質が取れたので、俺は組合へ押し付けという名のお願いをしておいた。

 これで前みたいに餌が無くなり、飢えて恨めしい表情を向けられる事も無いはずである。

 特に盗まれて困るような物も置いていないので、家の鍵も預けて居候中のリルクルについてだけ注意点として話しておいた。

 とりあえずは、聖獣である事は伏せておいて、獣人に嫌悪感が無い人材を頼むと注文をつける。

 結果、


「――では、受けて頂けるという事でよろしいですね?」


 件の依頼の件へと戻ってしまう。

 それに、俺は苦い表情を浮かべつつも頷いて返すしかなかった。


「よろしくは無いけど受けるしか無い状況だろ?これ。」

「ふふっ。」

「笑って誤魔化さないでくれよ――全く、何でこう面倒事が次から次にやってくるかなぁ?」


 波乱万丈にも程があるだろう。俺に平穏な生活は無いのか?

 そうは思うも、断るに断れない状況だし、冒険者組合への商品の卸しは金を稼ぐ上で唯一とも言える手段だ。狩人組合でも薬草は卸せるが、加工品は受け付けていないのである。

 それを考えると移るというわけにもいかず――泣く泣く受けるしかなかった。

 というのも、


「――よ!今回はよろしく頼むな!」

(絶対よろしくはしたく無ぇえええええ!)


 依頼の内容が『あの』赤毛の護衛任務だったからだ!

 なんでもこいつ、貴族でありながらも絶賛家出中らしい。この時点で面倒事の予感しか無いのに、更には当人が戦闘狂バトルジャンキーという問題児だった。

 そんな問題児をお隣の領にある都市まで送り届けないとならないらしく、しかも断るのならば冒険者組合からの脱退というお達しである。


(何でこうなった――?)


 先週やらされた武術の叩き込みは、この為の布石だったのか?

 そう思ってげんなりとしていると、


「道中の飯は俺が上手く焼いてやるから期待してろ!」


 火魔法使いらしく、火力調節はお手の物らしい赤毛がそう口にする。

 お調子者通り越して何も考えて無いだろうって思うのは、別におかしくは無いだろう。

 何せ旅支度とか何もしてないのだから。その状態で出発しようとするんだ。慌てて首根っこを掴んで引き止めたとも!


「待て!待て待て待て!」

「んぁ?」

「そんな格好で長旅出来るわけが無いだろう!ちょっと待て!」


 コイツの格好は何時もと一緒なんだよ。凍結薬が配布されるようになってから、腰にポーチを付けた程度しか変化が無いし、寝袋とかそういうのは持たないらしいんだ。

 背負袋の一つも無く、更にはマントすら羽織っていない――野宿の場合、どうやって冷気を防ぐつもりなんだ、コイツは!?


(マジで何も考えて無いな!?)


 梅雨前とはいえ、夜間はまだまだ冷え込む。何より今後雨が降ってくるのは分かりきった話だ。防水対策やら色々とやる事は多い。

 その事に思い至って、俺は溜息を吐きつつも口を開いた。


「保存食はあるから問題無い。後、一応火属性は俺も使えるから大丈夫だ。」

「お?マジか。なら、飯は期待出来るな!」

「期待するんじゃなくて、自分の分は自分で何とかしろよっ。そこまでは請け負っていないぞ、俺は?」

「ええ?マジで!?ケチ臭い奴だなー。」


 ブツブツと呟いているが、それを無視して俺は遠い目になる。

 今から『コレ』と二週間前後共に行動する羽目になるのか。冗談きっついぞ。


(色々と辛い。マジで俺が辛い。よりによって『コレ』のお守りとか、絶対道中に問題が起きるだろ。)


 大体護衛任務ってCランクからじゃなかったか――?

 そんな疑問へは、


「そうそう、忘れるところでした。」


 そう口にした受付嬢からの説明で、一気に解決される事となった。

 もっとも、解決されたからって腑に落ちるかと言えば、その答えは否だったが。


「カードの更新が滞っておりましたので、こちらで処理しておきましたよ。古いカードは回収しますので、今後はこちらをお使い下さい。」

「それはご丁寧にどうも――って。」


 古いカードを取り出し、新しく渡されたカードを手にとって、本日二度目のフリーズ。

 固まる俺の視線の先には、そこに記されたランクが載っていた。


「は?C?」


 いや、材質も違うんだが、それよりもランクが変わっている方が驚きだ。

 古いカードのランクはEだった。そこからの一段階飛ばしのランクアップである。驚かない方がどうかしているだろう、これは。


「――何で、Dランク飛ばしていきなりCになってるの?俺。」


 この疑問には、


「更新が滞っていた為です。」


 にっこりと迫力のある笑みで返されてしまって「あ、そう」としか言えなかった。

 ――完全にこれ、上の思惑が色々と入ってるよなぁ?


(本当に面倒事の予感しかしない。)


 行き先はここから半月程の場所だ。

 その間も色々と面倒事が起きる予感しかしなくて、俺はそっと溜息を吐き出した。

 そんな俺に向けて、


「ご武運を!」

「よし、行こうぜ!」


 やけに張り切った様子の赤毛に腕を回されてしまい、更にげんなりとした溜息を俺は零していた。


 告知通りに絡んでくる赤毛のターンが始まる――っ。

 ヘイト上げそうだから、先に活動報告に理由を乗せておきます。が、下の注意を読んでご自身の判断の下、閲覧するかどうかは決めて下さい。

 ※ネタバレ覚悟ででも安心されたい方に向けて載せます。逆にネタバレを嫌うなら読まれない事をお勧めします。以上。

 リアルタイムで追っていなくて、活動報告が増えた結果どれか分からないという方には、タイトルを『153話について』としておくのでそれで探してみて下さい。

 筆者的には「ヘイトあるキャラは全部ざまぁすべき!」な考えには同調する気は一切ありませんとだけ申し上げておきます。


 2018/12/24 加筆修正を加えました。


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