148 その錬金術師は服をリメイクする
都市で買ってきた古着だが、そのままでは当然着れない物もある。
例えば、解れやサイズ違い等だ。
解れは縫い直せば良いだけだが、サイズ違いとなるとそうもいかない。
この為に、布面積を増やすなりして何とか着れるように手を加える必要があった。
「――子供は横にも縦にも伸びるからなぁ。」
というのも、手直しする必要があるのはメルシーの服だからである。
彼女の歳は今現在で十二歳。もうすぐ十三の誕生日を迎えるようだが、この辺りでの祝い事は七五三と十五になってかららしい。
なんで十五なのかは、過去の風習でもあるのだろう、きっと。
もっとも、女なら十三だったはずだが、男女構わず十五に統一されているようだ。
(その辺りは面倒にでもなったんだろうな、多分。ただ、平民の間ではそれが成人扱いなのが何とも言えないんだが。)
とにかく、まだ成長期途中の彼女は初潮すら未だのようだから、食事事情が改善されてからというものの、最近ちょっとばかり背が伸びて来ているようで服が窮屈そうだ。
このままだと着れなくなる服が多数出てくるのは間違い無い為、今の内に何とかしてやる必要があった。
ただ、
「なーんか、洒落っ気が無いんだよな、あの子……。」
一応女の子に生まれたというのに、メルシーは自分を飾り立てる事を好まない傾向にあるらしい。
普段からシンプルで動きやすい物ばかりを着ているし、飾りが多い物や装飾過多な物は着ようとはしないのだ。
おかげで、箪笥の肥やしになってしまっている衣服が結構あった。このまま着ずに放置されるのは、流石にちょっと忍びない量である。
「色も黄色と緑ばっかり着るよな、何でか知らないけど。」
他にもピンクとか薄紫とか女の子向けの色は取り揃えてあるのに、一向に見向きもしない。
同じ服をほぼローテーションしている感じで、着古すまで着そうな感じだった。
「――しょうがない、アクセントにでもするか。」
止めろと言ったところで納得はしないだろうし、好みじゃない服を無理矢理着せてもストレスになるだけだろうから何も言わないが、今の彼女の服選びに関しては流石にちょっとどうかと思う。
とりあえずは、黄色と緑以外の衣服は裁断してしまう事にして、錬成陣を用いてラインとして使う程度の切れ端に変えた。
それから、足りなくなりつつある裾部分を同じく錬成陣を用いて継ぎ足し、リメイク品としてどんどん作っていく事にする。
覚えてて良かった錬成陣。使い勝手がとても良い錬成陣。革用は知らないが、裁縫用は良く使ってたからお手の物だ。
「機能美でも追求すればいいかな?」
その錬成陣を用いってリメイクしている服の持ち主は、今現在お勉強の最中にある。藁半紙に書いた計算問題と、文字を書く練習をさせているところなのだ。
集中力がかなりあるのでしばらく放置出来るとあり、俺は家事や畑の手入れをしていたんだが、それも済んで中途半端な時間が空いてしまったので、彼女の服に手を加えている。
夏になれば、森の中であろうと暑さは感じるようになるからな。今の内にリメイクだ。
それで、ついでに他の服も手直しを――と思ったんだが、彼女の服を引っ張り出してきたところで、当人の好みに気付いて頭を悩ませたわけである。
問題なのが、これらをどうリメイクするかって点だったからな。
まぁ、普段の好みは見ていて知っているので、それに合わせて作る方向に持っていくしかないのだろうが、洒落っ気が無い物ばかりが出来そうで生産職からすると考えものだ。
「リボンは袖を捲くる時の襷代わりにでも使うかね――裾はこれでいいとしても、袖も少し伸ばした方が良さそうだなぁ。」
飾りは少な目だが、色や釦に手を加えていく形で妥協する事にする。釦には小さな刺繍を施した布を被せれば、ワンポイントとしては十分だろう、多分。
一着だけは編み紐等も付けてフリルたっぷりに仕上げたが、これは都市に行く時用の外着にしてもらおう。
流石にシンプル過ぎる服はどうかと思うからだ。田舎者丸出しになりそうで、以前みたいにクソアマ共に絡まれそうな気もする。
「うーん。」
和服も買い与えてあったが、こちらは冬用に備えて残しておく事にしよう。
とりあえず、
「――うん、こんなもんだな。」
出来上がった服はシンプルなものばかりとなったが、ワンポイントで多少はマシな見た目になったと思う。
だだ、それとは別に森での作業に向けて作った物は、赤いフード付きのケープの中へ白のレースを合わせたり、作業用の厚手のミトンなんかも作っておいた。
服が汚れ無いようにエプロンも数枚作り、メルシーの集中力が切れたところで、俺はこの日の作業を終えたのだった。
ミシンも無いのに縫うのが速い主人公。変なところでスペックが高い――というわけではなく、錬成陣の中に裁縫関連もあるというだけのお話。
魔術陣に刻まれた文字によりイメージを視覚情報で固定、そこから更にイメージを膨らませて継続効果のある魔法を使う――という使い方が錬成陣となります。
この為に錬金術師御用達の魔術陣の攻撃や防御を中心としたものと区別する為に、錬成陣という言葉が作中に登場。
魔力が豊富にある+いざという時は魔力回復薬使えばいいやという短絡思考で、手作業から魔術へと作業を切り替え始めた主人公のとある変化でした。




