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147 その錬金術師は家畜の扱いに悩む

 貿易都市での事があった後、家に戻ると鶏が若干野生的になっていた。


「――なんか、逞しくないか?」


 餌が足りなかったのも問題なのだろう。

 周囲の雑草は見るからに全部食い尽くされていて根こそぎ無くなってしまっている。

 それでも足りなかったようで、恨めしそうにこちらを見る目は目つきが鋭かった。

 揃って気が立っている様子である。


「うーん。」


 買い込んできた玉蜀黍トウモロコシを与えてみようとするものの、こちらをガン見している状態で微動だにしない。

 しばらく眺めてみたが、その様子からはこちらを伺う知性が垣間見えた気がした。


「まさか、魔物化してないよな――?」


 飼い主を忘れたとかそんな単純なものじゃないような感じだ。

 どちらかというと、変質に伴う魔物化の傾向にあるような状態に思える。

 例えば、尾ひれの部分が一つの纏まった尻尾に見えるところなんて、完全に元の鶏の枠からは外れてしまっているだろう。

 他にも、雌鶏めんどりのはずが鶏冠とさかがやけに大きくなっていたりと、見るからに異常な状態にあった。


(ああ、厄介なパターンだな、これって――。)


 過去に魔物の調査資料なるものを読んだ事がある。

 それによると、大型の動物程魔物化しやすい傾向にあるものの、それよりも寿命の長さによる魔物への変化に比べたら、とても可愛いものだと書かれてあった。

 何せ、経験だけでも差が出るからな。長い事生きた動物が魔物化した場合のやり難さったら無い。


 そもそも、知能の向上による知恵が経験と合わさると、対応が難しくなるのだ。


 その資料は猫又と呼ばれる尻尾が二つある猫の魔物に関する資料だったが、眼の前の鶏達はそれと同じく動物の範疇を超えつつあるように見える。

 尻尾は二つ無いが無いはずの尻尾が生えた鶏。若干、雌鶏から雄鶏に変わりつつあるような姿形は、完全に変質だった。

 ただ、


(だからって殺処分はしたくないんだよなぁ――何とか、共存は出来ないもんかねぇ?)


 折角亡き村長さんから譲って貰った鶏達である。

 卵から孵って育った雛共々、メルシーの精神安定剤としてもこのままスクスクと育っていて欲しい。

 しかし、魔物化となると困る。


 鶏の魔物で有名なのがコカトリスだからだ。


 尾が蛇へと変化した魔物で、石化の能力を持つ厄介な魔物だとされている、極めて危険な存在で知られた奴だ。

 しかも、その石化への解除方法が遅れてしまうと、そのまま死へと繋がりかねないし、家畜として飼うには向いていない。

 大体、完全に石となった存在は元に戻す事が出来ないしな。故に、厄介な魔物だと言われていた。


「――このまま卵を取ったら怒るか?」


 これに、


「クケェエエエエ!」

「コーッコッコッコッコ!」

「コケコッコー!」


 こちらを見ていた雌鶏達が揃って騒ぎ出した。

 どうやらなんとなくでも言葉を理解しているようだ。確実に、知能は鶏の比じゃない。

 それを眺める事しばし、


「うん、なら、この玉蜀黍トウモロコシと交換といこうじゃないか。」

「クケッ。」

「コココ?」


 黄色い粒がびっしりとついた、生の玉蜀黍トウモロコシを取り出して見せる。

 反応としては、多分悪くない。右に左にと振ると、鶏達の頭部も合わせて付いてくる。


「クケ!コケコッコー!」


 焦れた一匹が騒ぎ立て、他の鶏達も騒々しく騒ぎ出す。

 更にそこへと、根菜から切り落とした葉の部分を取り出して見せた。


「土産の大根と人参の葉っぱもあるぞ?これで交換するのはどうだ?」


 そう口にしてみると、


「コケッコッコー!コケッコー!」

「コケケケケッ。」

「コーッコッコッコッコッ!」


 相変わらず騒々しいが、寄越せと言わんばかりに雌鶏達が一気に押し寄せてきた。

 どうやらこれで応じてくれるらしい。

 あるいは、餌に釣られてそれどころじゃない、とかだろうか?

 ――まぁ、あくまで気がするという感じだが、何にしろ好都合だ。今の内に、小屋の中の卵を回収してしまおう。


「おう、大量大量。」


 雌鶏達が餌に夢中になっている間に入った小屋の中、そこかしこに産み落とされた無精卵がいっぱい落ちていて拾って回る。

 これらの卵に有精卵が混ざっているかどうかについては、特に気にしなくて良い。

 何せ、普段は雌鶏と雄鶏は別々の小屋で飼っているからな。交配の時だけ、小屋同士を塞いでいる板を取り外して繋いでいる状態だから、その時以外は気にせずに回収出来るのだ。


「うん、良い感じだ。」


 そうして、思ったよりも大量になった卵にホクホクして、雌鶏達用の小屋を後にする。

 それでも雌鶏達は餌に群がっていて、奪い合いの争奪戦をしていた。

 ちょっと前に見た似たような光景が思い浮かんだんだが――あのお年寄り達とは違うはずだ。荒々しさは似ているが、多分違うはずだっ。


「凄いな、こいつら。」


 それを横目にしつつ、雄鶏達にも同様に餌を与えてみたが、こちらは随分と大人しい。雌鶏達とは対局ってくらいには静かだ。

 特におかしい様子も見られず、多分、魔物化は起こらないだろうと判断する。

 しかし、雌鶏が魔物化されると困るんだよな。非常に困るんだよ。

 何せ、生まれてくる雛まで魔物だと、雄まで魔物になりかねないんだ。

 もしもそうなってしまったら、その時は締めるしかないんだろうが、その場合の対処に頭が痛い。

 そっと、溜息を吐き出した。


「やだなぁ、この状況――。」


 魔物に増えられても飼いならせる気がしないし、コカトリスになったら、それこそ討伐しないとだろう。

 うちの小屋でそんな進化が起きない事を切に願いたいところだが、現状、雌鶏達がコカトリスになりそうに見えて、戦々恐々としてしまう。

 どうせなら雄鶏の方が良かった。そうしたら、締めて食卓に上げれるのにっ。


「――普通、コカトリスって雄鶏じゃなかったっけ?」


 疑問が残るものの、それをどういったところで、起こりそうなものは起こりそうなんだからと諦めるしかない。

 最早どうしようもないだろうと、そっと溜息を吐きつつも家の中へと戻った。


 2018/12/20 加筆修正を加えました。


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