139 その錬金術師は最善を尽くす
この回にはグロはありません。
塔に籠もっている間に空が白み始めて、徐々に明るくなってきた。
住民は生き残れたものの、どうやら夜間からずっと続けた魔物の掃討は、夜の間には終えられなかったようだ。
というのも、地上からその姿を消している。多くは地下に逃げ込んだみたいで、ここからでは把握がし辛かった。
(面倒な――。)
その事に気付いて、そっと息を吐き出し伸びをする。
ボキボキと体中から鳴る音を無視しつつ下を見下ろせば、炊き出しの煙が空に立ち昇って来ていて、幾筋も棚引いて見えた。
風に乗って運ばれてくるのは朝餉の匂いだろうか。それに、にわかに騒がしくなってくる地上の喧騒も遠く聞こえて来ていて騒がしい。
「朝かぁ。」
思うのは、今後の動きだ。
大半の者達はまずは朝飯だろう。その為の炊き出しが地上では行われているしな。それから動く事になるはずだ。
ただ――俺に空腹感は無いし、むしろ散々飲み続けた魔力回復薬のせいで、胃の中は何度も嘔吐したというのにいっぱいになったままで、気持ちが悪かった。
「食える元気があるのは、羨ましいな。」
漂ってくる香りに、心底嫌気を感じつつも呟く。
正直、気持ちが悪いのさえ通り越していて、死に体になっている気がしないでもない。
そこに、
「失礼します――っ、ちょ、朝食はどうされますか?」
「あー……。」
やってきた兵士が声を掛けて来て、何やら詰まっていた。
それに視線を向けて、俺は頭を掻く。
驚いた様子を見せているが、それに構っている暇はない。今はどう答えるかを考えつつも、状況を先に見直しておくところだろう。
(見落としが無いかは確認し終えているよな――よし、貧民街の魔物の掃討は完了してるし、後残るのは工業区だけだ。)
ただ、地下に潜ってやがる奴らが居るし、そちらの対応に出向かないとならないだろう。
どうやら下水道で増殖する事にでもしたようだ。完全に戦況は水面下へと移行していて、地上では見つけられなくなっている。
この為に、
「食事はいらないかな。その代わりに領主へ伝えてくれないか?」
「は、はい。」
了承して貰えたので、続けて口を開いていく。
「貧民街の討伐は完了した。冒険者や兵士達には工業区の方を頼みたい。後、俺はこれから地下を全域に渡って凍結させてくる。」
「――は?」
「何度も言わせないでくれよ――。」
これに意味が通じなかったのか、怪訝な顔をされたが、再度告げつつも最上階の部屋から出る。
「貧民街の討伐は完了済みだ。一部生き残りが居るが、保護も終えているから当面大丈夫だろう。冒険者と兵士達には工業区の探索と討伐に向かわせてくれ。俺は地下に逃れた魔物をこれから凍結させてくる。分かったか?」
一度にそう告げてみれば、
「は、はぁ。」
「んじゃ、頼んだよ。」
返事をしてくれたので、若い兵士をその場に置いて塔を降り、まずは城の中へと入る。
トイレと排水口から下水までの位置を探索魔法で確かめると、その場で魔力を練り上げていった。
「まずはここだな――。」
狙いを定めたら、一気に魔術を解き放って下水から登ってこれないよう、防壁となるものを生み出す。
作るのは分厚い氷だ。これで、侵入を拒む為の壁を築き上げる。
「【凍結!】」
唱えた瞬間には、下水の入り口となる場所だけに分厚い氷が出来上がっていて、真っ白になって塞がれていた。
それを探索魔法でもう一度確認するが、十分な分厚さが出来ているようだ。
これなら今日一日は持つだろう。
「よし、とりあえずはこれで良いか。」
城の安全については、これで確保出来たはずだし、領主への説明は兵士がしてくれるだろう。
今後の指示も、多分大丈夫だ。
そう思って、城の外へと向かう。
(後は、都市の中なんだよな――。)
下水への入り口は幾つかあるものの、先にそれらを凍結させて回らないとならない。
途中で逃げ出されて地上に出られても困るし、先回りして出入り口を塞いでしまう必要があると思えるからだ。
折角パニックにならないよう、住民へは情報を伏せているしな。それが無駄になる事態は、どうせなら避けておきたかった。
(知能はそれなりにあるが、だからって頭が良いってわけじゃないみたいだし、せいぜいが待ち伏せ程度なんだっけ?侵入できそうなところがあれば、入り込む性質があるくらいなのが特徴かね?)
地下下水道へと逃れたのも、おそらくは偶々なのだろう。
ただ、スライムである奴等は何でも取り込む性質がある為に、下水を流れる汚水はそのまま餌と成り得る。
さっさと潰してしまわないと集合体みたいになってしまい、その内、冗談抜きにグラトニー・スライムが誕生しかねなかった。
「ったく、厄介な――。」
まずは工業区へと、探索魔法を向けて探りを入れてみる。
理路整然とした区画な為か、貧民街とは違って確認がまだ容易く行えるのが有り難い。
それでも、多少時間は掛かってしまったが――とりあえずは、目的地までの道や建物の中には、件の魔物の姿も人の姿も無いようだった。
「とりあえずは安全かな?」
足を進めてみるが、特に危険も無いままに目的地へと辿り着く。
下水道への入り口は溝川の終点に一つ、後は建物の中のトイレと直通で何箇所もあるようだ。
ただ、このトイレは途中で合流している為に、合流先を見定めてから城でやったように凍らせてしまった方が速い。
ひとまずはこれらを凍らせてから、次へと移る事にしよう。
「――【凍結】!」
溝川の終点からトイレの合流地点を探り当てたら狙いを定めて、凍りつかせていく。
そこから更に溝川の終点も覆うようにして凍らせておいた。
工業区の安全が確保されるのは早くても昼前だろうし、それまでに他の入り口も塞いでしまいたいから、今の内に体力回復薬と魔力回復薬を呷ろう。
そう思って、胃に流し込んでみたんだが、
「うえっぷ――きついな。」
散々飲んでいるので、胃も喉も荒れ放題だ。
またあとで体力回復薬も飲んでおかないとならないだろう。
とりあえずは、
「次は、商業区が先にした方が良いか?」
気持ち悪いのを我慢しつつも、言葉にして思考を纏めていく。
あっちにはメルシーを預けてるおっちゃんの店もあるし、さっさと安全を確保しておく方がいいだろう。でないと、俺が安心出来ないしな。
この為に、商業区の方へと探索魔法を掛けて探っていく。
下水の入り口はどうやら橋の下にあるらしい。川の横手に階段があったので、それを降りて下水への入り口を開いた。
「鍵は無い――って、二枚扉なのか。」
中に入ると、人一人分のスペースを残して、更に扉が一つあった。
こちらは鍵がかかっていて中には入れないようだが、扉一つ隔てているくらいなら、別に確認出来ない事も無い。
「こうして、手を当てて――っと。」
扉に手を押し当て、中に魔力を浸透させて探りを入れていく。
途中、鼠のようなやけにデカイ四足型のスライムを見つけたが、速攻で【凍結】しておいた。
更に奥を確認していく。
(他は何もいないっぽいな?どこに逃れたんだろう?)
工業区の方にも見当たらなかったし、どこか別の場所にでも固まっていそうだ。
さっさとここを終わらせて居住区の方の安全を確保しないと、そちらに沸いてきそうに思えて冷や汗が伝い落ちて行った。
急いでトイレの合流地点と排水が合流する地点を探り当てて、凍らせてしまう。
「よし、次――。」
早足で居住区へと向かって、探索魔法を飛ばす。
陽が大分上に上がってきているが、移動に時間がかかるのはしょうがないだろう。
念入りに確認して、ここも問題無く終わらせる事が出来てホッと息を吐く。
「後は、貧民街だな――。」
居住区を抜けて貧民街へと辿り着いた頃には、もう太陽は頂点を超えてしまっていた。
本来なら昼の時間だが――食欲は全く無い。未だに胃の中には余裕がほとんど無い有様だ。
そんな体を引きずるようにして狭い路地裏を通っていると、ゴーレムに護らせていた建物から、冒険者や兵士によって救出された人々が次々に護送されていくのが見えた。
その一団を避けようとしても、結局は別の兵士と遭遇してすれ違いそうになり、先に声を掛けておく。
「お疲れ様です。」
「お、おう。お疲れ様――って、救世主様じゃないですか!?」
声を掛けてみると、やや素っ頓狂な声で返されてしまい、通り過ぎたところで振り返る。
何やら驚いた様子を見せているので、軽い調子で言葉を投げておいた。
「この辺りの安全はほぼ確保出来てるけど、地下に逃れたのが沸いて来るかもしれないから、油断だけはしないでくれよ。」
この忠告には、
「は、はい!十分注意して行きます!」
「うん、それじゃ。」
「はっ!お気をつけて!」
あっさりと承諾してくれたので、片手を振りながらも先を急いで足早に過ぎ去る。
最初に入ったのは、トイレがある建物だ。この辺りの建物は後から増設したりした建物も多いようで、トイレが有ったり無かったりするのが面倒臭い。
この為に、トイレの有る建物を探すのに時間が掛かりかねないところだったが、昨夜の内に俺は確認しておいたので、ほぼ問題は無かった。
――匂い以外は。
「うぷっ。酷い匂いがするが、まずはここからだな――。」
探索魔法を向けて、地下を探っていく。
すぐに、途中でスライムを見つけて魔術を放った。
「【凍結】――ん?」
――スライムを見つけた?
違和感を覚えて、軽く首を傾げる。
何かがおかしい。
(最初に見つけたのは、どう見てもジェリー・マンの変異種か進化した形態だったよな?)
そう考えてみれば、やっぱりおかしいと思える。
こいつらは動物型だったり人間型だったりはしたが、ジェリー・マンからの派生でほぼ間違いは無いはずだ。
それが、崩れきったジェル状の本来のスライムの形態を取っている――?
(擬態する必要性が無いと学習した?それとも、退化でも起きたか?あるいは――。)
更に進化してしまったか、か。
(いやいや冗談だろ――?)
その嫌な予感に、ぞわりとした寒気を覚える。
仮に進化したとして、どういう方向にだ?
進化は環境に適応する為に起こるものだし、下水道へ逃げ込んだ先で進化するとしたら、どういう風になるだろうか?
(擬態の能力を身に付けた種が、それを捨てたりするか――?いやいや、無いな。無い。むしろ、より擬態を巧妙なものに変えているはずだ。)
人型は、少なくとももう無いだろう。
頭部は精巧に擬態出来ていたが、それ以外は上手く出来ていなかったし、下半身に至っては最早完全に別物だった。
あそこから更に進化したとしても、こうして討伐されている事態へと気付いて逃亡した後では、これ以上真似る気は起こらないだろう。
では、動物ならどうだろうか?
先程倒した鼠のような『何か』は、毛が無い鼠のような感じだったが、手足は無くて、腹側に無数の触手があった。
地下に逃げ込む前にも馬型を取っていたりもしたし、こちらも同様にこれ以上真似る事は余り無さそうな気がする。
(人型と動物型に差は無いな――となると、先程のジェル状が『答え』になるのか?)
擬態をより上手くするよりも、汚水にでも紛れられる姿に変える方を選んだ、というところだろうか。
(まさか、こっちの裏を読んできている?いやいやまさかな?有り得ないよな?)
もしそうだとすると、非常に面倒な事態に陥ってるだろう。
下手をしたら、汚水に紛れて待ち伏せしてる可能性がある。
もしそうなら、非常に厄介だ。見分けが完全に付かない。
(地下は他の奴が入らない内に終わらせよう。間違ってもこれ、先行させちゃ駄目なやつだ。)
確実に犠牲者が出る。怪我人で済んでいたところが、死者多発だ。
そうなる前にも、さっさと全部凍りつかせた方が良いだろう。
これ以上の進化は確実に致命的だし、急いで下へ下へと探索魔法を向けていった。
(ここだな――。)
そうして、ようやく見つけた下水への入り口付近を凍りつかせる。
直後、他のトイレから這い出していないかを遡って全体を確認していった。
(ええと――二体、三体、んで――こっちは五体!?はぁ!?更に六体もいるぞこっち!ちょっと多くねぇか!?)
慌てて凍らせていき、終わり次第下水への入り口がある近くの溝川まで駆け込む。
こちらも工業区同様に橋の下にあったのだが、最悪な事に異臭漂うこの川を進まないと辿り着けそうに無いようだ。
「マジかよ――ここを通るのか。」
他に道も何も無い。だが、下水の入り口まで溝川を進むとなれば、確実に汚れるだろう。
降りる為の階段はあるとはいえ、流石に汚水に塗れたくは無かった。
しばし考えた後――、
「――よし、凍らせるか。」
先程のジェル状のスライムが混ざっていないとも限らない為に、纏めて凍りつかせようと一気に魔力を練り上げていった。
更に魔力回復を呷ると、溝目掛けて、範囲を指定した魔術を解き放っていく。
「うぷっ――【凍結】!」
今回は溝川全域が対象だ。つまりは、工業区の溝川も含めてとなる。
このかなりの広範囲に渡る作業な為に、一気に魔力が失われたが、その効果は絶大だった。
「おお、凄ぇ凄ぇ。汚物が真っ白になった。」
ビキビキと音が鳴り、溝川だった場所が純白へと染まっていく。
それを呑気に眺めつつも更に魔力回復薬を呷れば、胃が受け付けないようで込み上げて来てしまった。
思わず、道端へと嘔吐して吐き出す。
「う、えええっ。」
何度目の吐き戻しだろうか。胃も喉も熱いし痛いし、確実に荒れまくってる状態なのは間違い無い。
それを激不味な体力回復薬で癒やしつつも、吐いてしまったので更に魔力回復薬を(あお)る。
不味さと柑橘系の香りが口の中でそれぞれ自己主張してくるしで、凄まじく辛い。
思わず身悶えていると、呆れたような声が降り掛かってきた。
「良く飲めるな。」
「――んぇ?」
それに口元を拭いつつ見上げてみれば、何時の間にやら全身黒で統一された高ランク冒険者の姿がある。
その後ろには仲間なのか、数人が凍結薬を片手に立っていて、三者三様な表情を浮かべていた。
「体力回復薬って、飲めるんだー。」
一番年若く見える少年が、そう言って目を丸くして見せる。
そこに、
「いや、普通は飲まないと思うぞ。普通は。」
耳の先が尖った青年が突っ込みを入れて、呆れたような視線を向けてきた。
更に、
「こりゃおったまげたわい、ポーション中毒というやつかの。」
最後の一人、ドワーフらしき背が低い筋肉質な老人がそう言って、白い顎髭を手で撫でて見せる。
「いや、違うから。」
それに俺は突っ込みを入れつつも、一応否定しておいた。
ポーション中毒では無い。無いったら無い。
現状飲まないとやっていられないから飲んでいるだけで、別に飲みたくは無いんだ。あくまでもしょうがなく、である。
「良く飲めるものだな。千年以上も前の品だぞ?」
黒衣の男性のこの言葉に、
「あー、ははは。」
俺は曖昧に笑って誤魔化す。
まさか、作れるなんて言えるわけもない。現状でそれを言ってしまったら、更なる無茶振りが振られるだけだ。
過労死なんてしたくないし、現状は身を守る為にも誤魔化すしかないだろう。
(しっかし、面白いパーティーだな。)
そんなやり取りをしつつも思うのは、彼らのパーティー構成だ。
年齢も種族もバラバラなら、扱う武器もバラバラだし、棘だらけのメイスに、双剣、短剣、戦斧と得物が色々である。
最年少は俺よりも若いし、最高齢はドワーフだから軽く百歳は超えているだろう。
一人は耳の先が尖っているので、妖精種の血が少なからず混ざっていそうに見える。
「皆さん、お揃いでどうしたの?」
そんな一同へと声を掛けつつも【空間庫】を開いて、空になったばかりの空き瓶を放り込んでおく。
組合に薬草を降ろした後だから、中はほぼスカスカだ。
だが、それでもいざという時の為の魔法薬の類はまだまだ豊富だった。
(備えてて良かったポーション。持ってて良かったポーション。これさえあれば、まだやれる!――多分だが。)
なんて馬鹿みたいな事を思いつつも、腰のポーチの補充をしていると、
「――この魔法も凄いけど、いきなり溝が凍ったから見に来たんだよー。」
と最年少らしき少年が、へらっとした笑みを浮かべて答えてくれた。
ただ、笑みを浮かべてはいるが目が笑ってない。どっちかっていうと、突き刺さるような視線を向けて来てるし、見た目とは裏腹に場数を踏んだ歴戦の戦士って感じがする。
声の明るさといい、見た目は明るい少年って感じなのに、それとは裏腹に瞳へと浮かべる感情が完全に冷めきっていて怖い。
それを見てとってしまった為に、俺の頬は若干引き攣ってしまった。
「これはお前がやったのか?」
「あー、うん。」
溝川の方を指差しつつ黒衣の男性から問われてしまい、返事しながらも俺は更に魔力回復薬を呷る。
何か、一本だけじゃ足りない気がする。回復が追いついていないような――?
そんな事を考えているところに、
「何故またこんな真似を?」
尋ねられてしまい、俺は目を瞬かせた。
「んぁ?必要だったから?」
「必要?これがか?」
「うん。」
怪訝に思いながらも、頷いて簡潔に返しておく。
それでも怪訝そうな表情で返された為に、橋の下を指差しつつも答えるだけ答えておいた。
「地下に逃げ込んでるんだよ――しかも、擬態を解いてどうも下水に紛れてるっぽいんだよな。おかげで、見つけるのはほぼ不可能になってる。」
そう伝えてやると、
「それは本当かの?」
「だとしたら、厄介どころの話じゃないぜ?」
ドワーフの爺さんと妖精混じりの青年が口を開いて来たので、頷いて返した。
「そうだな。実際、厄介な事になってると思うよ。」
おかげで夜の間に掃討が終わらなかったし。
回復次第、今度は地下へとぶっ放しになるのは間違い無いだろう。
(全く、堪ったもんじゃない。)
そんな事を思う俺の前では、妖精の血が混ざった奴とドワーフの爺さんが顔を顰めている。
残りの二人はというと、こちらは全く表情が変わっていなかった。
どうやら、黒衣の男性と最年少らしき少年二人はポーカーフェイスが得意らしい。
それを眺めつつも、
「このままだと地下で増殖しかねないから、降りる為にこの溝を凍らせておいたんだ。」
そう告げて、新たな空き瓶を空間庫へと放り込んで閉じた。
と、そこに、
「まさか、一人で行く気か?」
「うん。」
更に質問をされてしまった為に、俺は頷いて返しておく。
対スライムに一番有効なのは、氷属性だ。火で蒸発させるのも悪くは無いんだが、それよりは凍らせた方が速いし遠隔からなら危険も少ない。
勿論、石や鉱石が主食のスライムの場合は別になるが――。
「今都市の中で一番対処に向いているのって、俺だろ?だから、やるしかねぇの。」
答え終わったところで大分調子が戻ってきたので、立ち上がって下る階段に足を掛けた。
これに、
「次は下かよ。」
「やれやれだの。」
「いっそ、保管庫にあるデカイやつ持ってきて貰ったほうが早かったんじゃない?」
「誰か気付くだろう、行くぞ。」
ゾロゾロと後を着いて降りてきた彼らに気付いて、俺は後ろを振り返っていた。
「――何で着いて来るの?」
思わずそう尋ねてみれば、
「ひよっこが単身で行動しようとしているのを放っておけるか、この馬鹿者め。」
正論と言える言葉で返されてしまい、一瞬、言葉に詰まってしまった。
ぐうの音も出ないとはまさにこの事だろう。
普通は魔物の討伐は複数人で協力して行うものだ。一人で対処するのは無謀以外の何ものでもないし、突発的な事態にも対処がしきれない。
ただ、今回の相手はスライム。盾なんて役に立たないから盾役は意味が無いし、攻撃役だって弓も剣も物理的な手段は効果が無い。唯一効果があるのは、魔法だけだろう。
この魔法を使える魔法使いが、彼らのパーティーには居るようには思えない為に、思わず考え込んでしまったんだが、
「そういうのは上に任せるもんだぜ?なぁ。」
「単独行動は禁止だよー?聞いて無かったの?四人以上のパーティー必須だって!」
「人の忠告くらいはきちんと理解しろ。」
矢継ぎ早に言われてしまって「ソーデスネ」と片言で返すしかなかった。
つまりは強制という事だろう。
下手に断ると、冒険者組合の方へと告げ口されて、そのままペナルティを課せられるとかありそうだ。
王からもぎ取った証書の類は冒険者組合には通用しないし、告げ口されるのはちょっと面倒臭い展開になるだろう。
そんな事をつらつらと思っていると、
「――もしかして、邪魔かの?」
「いや、そうじゃないよ。」
ドワーフらしき爺さんに言われて、即座に否定して返す。
邪魔かどうかで言うと、居ても居なくても一緒かもしれない。
ただ、最悪の事態を想定したら逃走要員として来てもらうのは有りだろう。
それに、ペナルティを回避するのには、このまま同行してもらった方が良さそうだと思えた。
「うん、まぁ、いいか――。」
そう考えた結果、俺は彼らと共に行動する事を決めて、下水への扉を開く事にした。
2012/12/13 加筆修正を加えました。




