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128 その錬金術師は訓練場へと連れ込まれる

 戦闘描写が少し入ります。尚、グロは無し。


 冒険者組合へとおろした薬草は、それなりの金額になった。

 何せ一番安いヨモギドクダミの束一つでも、銅貨一枚にはなる。それが数百束もあれば、銀貨数枚分なのだから美味しい。

 これだけでも顔くらいの大きさのパンが数十個は買えるし、宿を数泊分くらいは払える計算になるので、非常に有り難い事だった。


(依頼がとどこおっていて、結果的に報酬金額がね上がっていたのはラッキーだったな。)


 高く売れた物があったおかげで、全部で大銀貨どころか金貨数枚分の金になってホクホクである。

 間違いなく今回の仕事も、十分な稼ぎになったと言えるだろう。

 後は、帰り道に気を付けるだけだ。


(よし、帰る前に何かを買って帰るとするか!)


 今回の金の使い道だが、どうせだからメルシーも連れておっちゃんのところで何かを仕入れようと思う。その際には彼女が欲しがる物を優先して購入してやればいいだろう。

 何せ、薬草の採取にはメルシーも手伝っているからな。お駄賃だちん代わりとして、それくらいはしてやるべきだと思える。


(どうせ金なんて持ってたって、物価が上がればゴミと化しかねないからなぁ。)


 魔導王国時代では、通貨がほぼ無価値な状態にまで下がっていた。

 何せ、馬鹿みたいに強い魔物が出れば、その辺にある町や村なんて簡単に滅びるからな。それだけでも物価なんかは跳ね上がるので、ピカピカしている金貨よりも小麦の袋一つの方が価値が高いなんて事も有り得るのだ。

 となれば、金は少しだけ残しておけば十分だろうとさ思える。それでも残しておくなら、宵越しの金は無駄にならない程度にでも押さえておけばいい。例えば、宿一泊分とか。

 ――なんて事をつらつらと思っていたんだが。


「何故に俺は担ぎ上げられているんだ?」


 気付けば、誰かの肩に乗せられていて、見晴らしの良い体勢を取らされていた。


(解せない。)


 見えるのは、赤茶けた地面と高い塀だ。それにずらりと並ぶまとと、まばらな冒険者達の姿が見える。

 しばらくはそれをほうけて眺めていたんだが、ゆっくりと降ろされた事で足の裏に地面の感触を感じ取り、手の中の硬貨がこすれる音も聞こえてきて、ようやく正気に戻った。

 一体、何が起きたんだ!?


「――ここでなら心置きなくやれるな。」

「は?」


 呆然としている中で突如として聞こえてきた声に、俺は思わず二度見する。


「何で、お前がここに――。」


 居るのか。


 理解が追いつかない中でも視線を奪う程に、燃えるように赤い髪と珍しいオレンジ色の瞳が、一際目立って自己主張している。

 その容姿は、野性味溢れるイケメンそのものだ。通りを歩けば十人中九人は振り返るだろう。

 しかしながらも――こいつは勇者と手合わせしたいなんて曰った、あの狂人である。見た目はともかくとして、その中身は十分にヤバい。

 そんな赤毛に、まるで当然のようにして真横に立たれてしまっていて、俺の中で混乱がきわまっていく。


「あ、あれ?」


 今さっき俺を降ろしたのって、こいつだったよな?

 一体、何時担ぎ上げられたんだ?そもそもとして、受付からここまで、どうやって移動してきたんだ!?


「俺、ついさっきまで、受付で金を受け取ってたはず――」


 それなのに、気付けば屋外に居て、ここに至るまでの記憶が無い。まるっきり無い。

 それどころか、瞬間移動してきたかってくらいには何も覚えが無かった。


「え?え?」


 そんな俺の手の平の中には、未だに確りと感じられる硬貨の冷たさと硬質さ。

 それを懐へ収めるよりも早く、気付けば屋外へと居るという、有り得ないはずの状況。


(どう考えても、おかしいだろう!?)


 思わず、内心で突っ込みを入れてしまう。

 それくらいには、金を受け取ってから連れ込まれるまでが短すぎるのだ。

 一体、何が起きたんだ!?


「いやいやおかしい。これはおかしいぞ。絶対におかしい――。」


 ブツブツと呟く俺の横で小首を傾げたのは赤毛。

 俺は、そんな元凶だろう奴に向けて、一気にまくし立てていた。


「何で外に出てるの!?しかも一瞬とか何!?瞬間移動なの!?なぁ、一体なんで!?」


 これに、


「運んできた!」


 親指を立てて、イケメンスマイルを赤毛がかましてきた。

 清々しさまで感じられる笑顔だ。

 しかし、それに俺は思わず絶叫していた。


「――簡潔過ぎてさっぱり分からんわー!」


 運んできたじゃねぇよ!運んできたじゃ!

 状況の説明くらいもう少しまともにしてくれ!いくら狂人だからって、これは無いわ!酷過ぎるだろ!?

 そう思っていたら、


「よし、やろうぜ!」


 こちらの事などお構いなしに、ギラりとした目で笑みを浮かべた赤毛が、スッと重心を移動させて見せた。

 その構えに、俺は思わず顔を引き攣らせて後退りする。

 なんでやりあう事になってんだ!?どう考えても、この状況はおかしいだろ!?


「いやいや、俺は生産職だって言っただろう?それなのに、なんでお前とやりあわきゃならないんだよ!?」


 ジリジリと距離を開くように下がりつつ叫び返したが、


「ん?面白そうだから?」

「――お前、他人(人)の事何だと思ってるの!?」


 首を傾げながら疑問形で返されてしまって、思わず脱力しかけた。

 俺はサンドバックじゃ無いぞ!?勘弁してくれ――!


「まぁまぁ、いいからやるぞ。構えろよ?」

「は?え――?」


 いきなりそんな言葉が聞こえたかと思えば、まるで瞬間移動のようにして目前に赤毛が迫って来ていた。


「ちょ!?」


 咄嗟とっさに狙いを判断して、腕によるガードを行う。


「――っ。」

「お、受け止めたか。」


 間一髪、その一撃は何とか受け止めたものの、思いっきり殴られたせいで体勢が崩れそうになってたたらを踏む。

 そんな状況の中で、赤毛からは連続して拳が振り翳され、慌てて受け流しては右に左にと逃げ惑う。

 いきなりとか、容赦無さすぎないか、なぁ!?


「やめっ、やめろって!」

「安心しろっ。魔法は使わないでおいてやるからな!」


 その割りにはめっちゃ速いんだけど!?


「使わない――とか言いつつ、身体強化に、ガンガンまわしてるんじゃねぇか!これ――嘘つき!」

「はは!バレたか?でも、まだまだ上がるぜ!」

「上げるなー!」


 バレても悪びれず、非難しても止めない。

 その上、笑いながら殴ってくるとか、冗談抜きに酷いし厄介だ。


(痛い。マジで痛い。絶対にこれあざだらけになってるやつ!)


 しかもスピードが乗ってるからか、一撃一撃が無駄に重くて受け止めると腕がしびれてくる。

 かといって魔法も魔術も無理な状況し、これだけの至近距離で連続して畳み掛けられると、最早手も足も出ない。

 何せ、そんな暇も余裕も無いからな!攻撃に転じるどころか、ガードするだけでも必死だっ。

 尚、逃亡自体はは速度的に確実に不可能だろう。


「――あ、くそっ!?」


 そんな中で耐えられるギリギリを見定めてか、徐々に威力を調節してきた攻撃に重みが増して更に不利になってくる。

 さばききれずに軽く掠っていく攻撃も増えてきたし、やめろって言っても聞かないし、本当に堪ったものじゃ無い。


「――へへへっ、足元がガラ空きだぜ!?」

「ちょ、おまっ――っ!?」


 息が上がってフラついて来たところに、足払いをかけられて転倒し、天地がひっくり返った。

 瞬間、したたかに打った背中から痛みが上がってきて、息が詰まる。


つうぅ――っ。」


 その間にわざわざ馬乗りになってきた赤毛が、寸止めの拳を押し当ててきた。

 それに、俺は精一杯の抵抗で両手を上に上げて、降参のポーズを決める。


「もう無理。」


 本心からのこれに、


「お前、弱くね?」


 聞こえて来る呆れた声と態度に、俺はまなじりを吊り上げてた。

 弱いのは当たり前だ!この阿呆!


「――俺は生産職だっつっただろうが!人の話を聞けよ!」


 しかも、勝手に始めた上にのたまう事まで勝手。

 どんだけ傍迷惑はためいわくな奴なんだよ、こいつは!?


(ああもう、勘弁してくれよ!誰かコイツをもう止めてくれ!)


 そう思って視線を彷徨わせたんだが、


「――いやぁ、良い動きだった。」

「生産職という割りには、中々素早かったな。」

「あの暴走魔に連れ込まれた時はヒヤヒヤしたもんだが、結構出来るじゃねぇか。」


 なんて声が聞こえてきて、俺は転がったままに固まってしまっていた。

 そこには、何時の間にやら観戦モードになった先客達が呑気に駄弁っていて、助ける素振りは無い。

 その事に、思わず恨めしい視線を向けて口を開いた。


「――止めて?そんな感想も観察もいらないから、誰かコイツを止めて?」


 俺のこの言葉は、


「よし、今から俺が稽古けいこをつけてやる!一端いっぱしの冒険者になれるよう鍛えてやるから、感謝しろよ!」


 なんてのたまう赤毛と、そっと目をそらした先輩達によって無かったものにされて、しばらく訓練場を転がされまくる事になったのだった。

 傍迷惑な熱血漢=作中の赤毛。しかも戦闘狂で人の話を聞かないヤバイ奴ですが、面倒見は良い可能性がミリ単位で存在している――かもしれない。←

 タグに入れていないように、主人公は決して最強ではありません。この作品、主人公Tueeee!じゃないし。Yoeeeeeでもないけども。

 特に近接はダメダメなのが魔法使い。この為に、接近された時点で大体詰むのが魔法使いの特徴です。これは、現状の主人公もこの例に漏れません。

 それを何とかする為、強制的に訓練と言う名のしばきに合う事になったのが今回の話でした。単に目を着けられただけな感じもしますが、実はこの訓練の内容が後々に役に立ちます(伏線って程じゃないけども)。


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