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114 その錬金術師は魔術の基礎を叩き込む

114 その錬金術師は魔術の基礎を叩き込む


「――魔法まほうというのは、先天的に使える超常現象を引き起こすすべだ。主に、魔素まそと呼ばれるものを体内で魔力まりょくに変換し、周囲の魔素まそ伝播でんぱさせて現象を引き起こしていると言われている。」


 翌日から早速弟子に魔女まじょとしての教育を施す為、朝食をってすぐにメルシーには魔法まほう魔術まじゅつについての講義を始めた。

 これに、彼女はぽやんとした様子で聞き入っている。

 ――一応、聞き入っている。


「対する魔術まじゅつは、後天的に魔法まほうのような現象を引き起こすすべだ。こちらも魔素まそ魔力まりょくに変換して伝播でんぱするんだが、違いはその伝播でんぱさせるのに必要となる魔力まりょく量そのものが少なくて済む点だな。」


 魔素まそだの魔力まりょくだのと専門用語が並ぶが、魔法まほう魔術まじゅつを使うと、体力たいりょくの代わりに消費されるものだとでも思ってもらえれば良い。

 どちらも人体には多かれ少なかれそなわっているし、その中でも多い者がより超常現象を引き起こしやすい傾向にあるのが特徴だと言えるだろう。

 なお、使い込みすぎれば命にも関わるが、大抵はその前に頭痛ずつう等の二日酔ふつかよいと似た症状に悩まされてぶっ倒れるので、死ぬ程使い込むような奴は滅多に居ない。


「この違い、何か分かるか?」


 そんな本質をこの会話から見抜けるかどうかを試してみる為に、メルシーへと質問する。

 これに、


「――えっと、魔法まほうよりも魔術まじゅつの方が少ない魔力まりょくで、現象が引き起こしやすいって事ですか?」

「その通りだ。」


 弟子である彼女は、しっかりと理解してくれたようで、正解を叩き出してくれた。

 俺はそれに、ニコリと笑みを浮かべて頭をでてやる。


「ちゃんと聞いて、理解出来てて偉いぞー。」

「え、えへへ。」


 撫でてやれば、多少ぎこちないものの、彼女の顔にも笑みが浮かぶ。

 内心で少しホッとしていた。

 昨夜一日中着いてやったのが良かったのか、あるいは会話で不安を解消出来たのか、その顔には明るい表情が戻ってきている。

 今までの貼り付けられていたような表情に比べると、まだ無理が無いようにも見えるし、恐らくだが、今までのは空元気とか演技だったのだろう、きっと。

 この調子なら、少しずつでも快方に向かうと思えた。


(ま、無理せずゆっくり回復すりゃいいさ。)


 そんな事を思いながらも、講義を続けていく。


「さて、魔術まじゅつで扱える属性ぞくせいには色々とあるんだが、個人が得意とする属性ぞくせいを冠して、一般的に○魔術師まじゅつしと呼ぶのが多い。例えば、みず魔術師、魔術師って具合にな。これは、魔法使まほうつかいでも同じになる――。」


 この冠している属性ぞくせいによっては、何を得意とするかが明確に分かれている。

 例えば。攻撃一辺倒な属性ぞくせいである為に、習得までの間に何度か火傷やけどしたりひどい目にうんだが、その分、攻撃力としては文句のつけようが無い。何せ、最大規模の最大火力を叩き出すからだ。

 逆にこれがみずになると、攻撃には向かずに生産一直線である。みず属性ぞくせいはそれぐらい戦闘には向かず、日々の暮らしの中で役立つ方面の魔法まほうが多い。この為に、不遇ふぐう属性ぞくせいなんて呼ばれたりもしていた。

 ――まぁ、そんなみずが、俺の得意とする属性ぞくせいなんだが。


「――んで、これらの属性ぞくせいを調べる為にも、今からメルシーの体に魔力まりょくを流し込む。そのまま流すんじゃなくて、同調してやるから体への悪影響は無いし、反発しなければ負担にもならないから安心してくれよ。」

「は、はい!」


 講義の途中だが、体内を巡る魔素まそを感じ取る為に、背中側から魔力まりょくを送り込んで、その感覚を覚え込ませてやる。

 この作業は必須だ。

 何せ、自力で使いこなせるようなら、とっくに覚えてるもんだからな。そうじゃなければ、外部から刺激を与えて魔素まその流れを覚え込ませ、魔法まほうを使えるようにしてやるしかない。


「でもって、魔法まほうというのは、主に頭の中で思い浮かべたイメージによって発動されるんだよ。この時、特に鮮明に思い浮かびやすいもの程、習得がしやすい傾向にあるんだが――何か、使おうと思ってイメージ出来たものはあるか?」

「え、えっと。」


 魔力まりょくを流し込みながらもたずねてみれば、戸惑とまどいで返されてしまった。

 流石にいきなりは難しいかと思い、いくつかの案を上げてやる。


「なんでもいいぞ?そらを飛びたいとか、でっかいたまを出したいとか、飲水のみみずをコップに注ぎたいとか、あとはすなのトンネルをったりだとか。」

飲水のみみずすなのトンネル……。」


 都市等の一部の大きな場所では、公園と呼ばれるいこいの場がある。その中には幼児向けの遊具もあり、砂場なんかもあるんだが、開拓村育ちのメルシーが果たしてそれを知っているかは不明だ。

 しかしながらも、そんな中で反応を示したのは、飲水と砂のトンネル。一応は見た事くらいはあるのだろう。

 そう思って彼女の様子を眺めていると、地面へと手を着いて、そこから魔力まりょく浸潤しんじゅうして行って、何かが浮かび出てくる。


「――うん、まぁ、一応、思った通りに土属性だったな。」


 生み出されたのは、何故か泥団子どろだんごだった。

 それを見て、俺は若干、明後日の方向を見る。

 俺と同じで戦闘に不向きとか、不憫だなこの子……。


「後、水属性みずぞくせいも少しだが、親和性が高いみたいだな。どろっていうのは、つちみずが混ざりあった物だし、メルシーはそんなニつの属性持ちって事だ。」

「えっと、そうなんですか?」

「ああ、これが土属性つちぞくせいだけなら、水分は動かせないからすなとして分離ぶんりしてくるよ――その場合は、土属性つちぞくせいだけが得意ってなる。」

「へえええ。」


 感嘆かんたんの声を上げて、地面に手を着いたメルシーの少し手前、ポコリと浮かび上がるようにして出来上がっている真ん丸い茶色い物体。それは、まさしくどろで出来た団子である。

 影響を与えた物質は思い通りだし、髪と瞳が茶色い事から、土属性の特性が強く出ているだろうと思っていたんだが――まさか壁にも使えないどろだとは思わなかった。


(防御に向いてるのは土属性つちぞくせいだが、流石に泥壁どろかべじゃ身を護るのには向かないよなぁ?泥沼どろぬまとか作れれば、陸上の敵にはわなとして有効かもしれないが――。)


 何にしろ、攻撃にも防御にも不向きという事になる。この時点で、メルシーは俺同様に戦闘職から外れるだろう。

 本来、土属性つちぞくせいが一番得意とするのはすなだ。その次がいしとかいわになり、地面のつちどろの順となる。

 属性上ではこれらを全部土つちとしているものの、実際には水分が含まれていると、それだけで魔力まりょく浸潤しんじゅん阻害そがいされてしまい、上手く作動しなかったりするのだ。

 この為に、純粋なつち魔法使まほうつかいが得意とするのはすなである事が多いんだが、メルシーはどろだったので、水属性みずぞくせいもかなり混ざっているという事になるだろう。


つちみずの二つに親和性が高いのは予想通りだし良いんだが――問題となるのは、石や岩ですら無い分、強度も何もかも足りないという点だな。)


 中型の魔物の攻撃力は、石や岩程度ならそれこそ簡単に引き裂けるし、ぶつけても大したダメージにはならない。

 その上で、メルシーが作れたのは泥団子だ。農民とかそっち方面では大活躍しそうだが、魔法使いが農民というのも変な話だろう。多分。

 せめて、小型の魔物や人間相手には有効なのが良かったが、高望みしてもしょうがない。

 少なくとも今大事なのは、当人のやる気を削がずに伸ばしてやる事のはずだ。

 大抵は上手く出来ずに、一日くらいは費やすところだし、才能があればその分早いとはいえ、メルシーの素質自体は上々だと思うので、この辺りは褒めるポイントだと思われる。


「うん、初めから出来るあたり、メルシーは優秀だな。」


 そう思って、魔力を流し込むのを止めて、茶色い頭をポンポンと軽く叩いてやる。

 これに、


「そ、そうですか?」

「ああ、大抵はそうすぐには魔法は使えないからな――補助してるとはいえ、大したもんだよ。」


 どこか狼狽うろたえた様子を見せながらも返してきたので、ワシャワシャと髪をみだしてやる。


「変に空気読むなっての。少し間が空いたからって、不安を感じる事は無い。お前は優秀な方だ。」

「わ!わ!?」

どろって事はさ、水にも適応してるって事だから錬金術師の道も歩めるし、メルシーには色々と進める道があるんだよ。その点は、誇って良いんだぜ?」


 そう伝えてやれば、メルシーの顔がパッと輝く。


「ほ、本当ですか?私にも、ルークさんみたいな染色、出来ます?」

「おう、出来る出来る。なんなら、明日からでも出来るぞ?」

「わあああっ!」


 食いついてきたメルシーだが、俺の事をさん付けで呼ぶ。

 師匠呼びよりは、こっちの方が距離感を近く感じられるらしい。呼び方は別に何でも良いので好きにさせる事にしたら、どうやら彼女の中で定着してしまったようだ。

 そんな彼女に向けて、俺はニヤリとした顔を浮かべる。


「もっとも、冬場は水が冷たくて辛いがな。それでもいいなら、今度一緒にやるかー?」


 これは冗談だったんだが、


「是非、お願いします!」

「お、おう。」


 まさかの乗り気で返されてしまった。

 まぁ、一日くらいならいいかと、明日以降にでも予定を組むことにする。


「ま、染色だけでなく、魔法薬だって作れるようになるんだ。その内、彫金とかにも手を出してみるといい。」

「えっと、彫金よりも、染色がしてみたいです、私!」

「あー、なら、試した後にでも、素材採取の仕方とか教えてやるよ。」

「有難うございます!」


 会話してると、ぎこちなさが幾分取れた、良い笑顔になってきた。

 そのまま少し会話を続けてみると、心底楽しそうにも見える表情と雰囲気で、大分元の彼女らしくなってきたなと思える。


「――さて、話を戻すが、魔法まほう魔術まじゅつには属性ぞくせいというものがあるのはさっきので分かったな?」

「はい。」

「よし。それでこれら属性ぞくせいなんだが、実は本人の性格や、髪と瞳の色との間に、多少傾向があるのが分かってるんだ。」

「へぇ――。」


 俺のこの言葉に、


「茶色いと、土属性みたいにですか?」

「おう。」


 メルシーが自分の髪を指差しながら尋ね返してきた。

 俺はそれに、頷いて返しつつも言葉を続ける。


「そうだな。俺なんかは、瞳の色が紫色をしているだろ?これ、みずに適正があるんだが、中でもみずへの適性が高かったんだ。」

「へええ。紫って、お得なんですねぇ。」

「まぁその分、中途半端になりやすいんだがな。」


 メルシーの感想はともかくとして、今の俺はは苦手だ。

 学生時代に丸焼きにされかけたのがトラウマになって、どうにも上手くコントロール出来なくなってしまっている。


「こういった属性ぞくせいの中で、一番再現がしやすかったみずかぜつち四大属性よんだいぞくせいとか基礎属性きそぞくせいって呼ぶんだ。この上にもまた属性ぞくせいはあって、更に影響しあってるところにまた別の属性ぞくせいが存在している。これらを細かく分類してしまうと収拾がつかなくなるから、四大元素よんだいげんそまでを大分類、それ以外を小分類と呼んでるんだ。」

「えっと、えっと。」

「この辺はサラッと聞き流して良いぜ。重要なのは、魔法使まほうつかいが使う魔法まほうは、基本的にみずかぜつちって事な?」

「は、はい!」


 まれに、ひかりやみを使える奴もいるらしいが、こっちは本当にまれだ。魔法使まほうつかい全体の五十分の一くらいにまで減る。

 後、ひかりだと思ったらねつがほとんど無いだったりする事もあるので、実際には疑問視されてもいた。


「さてと――ここから先は魔術まじゅつにおいてのメルシーの属性ぞくせいに関する事だ。習得しやすい範囲だから、その内覚えてもらう事になるし、一応頭の片隅にでも置いておけよ?」

「はい!」


 幾分いくぶん、キリッとした表情で真剣さが増した彼女に、俺はうなずき返す。


「――良い返事だ。土属性つちぞくせい上位互換じょういごかんに当たるのには、重力じゅうりょく属性ぞくせいとかじゅう属性ぞくせいと呼ばれるのがある。これは、対象の重さを変える事が出来る属性ぞくせいで、急に重くしたり、軽くしたり出来るようになる属性ぞくせいだな。」

「えっと、重い荷物も、それを使えたら楽々運べちゃうって事ですね?」

「そうだな。逆に、歩けなくなる程体重を増やしてやる事も出来るぜ?女性に体重を測定する際に悪戯いたずらでしたら、きっと阿鼻叫喚あびきょうかんになるくらいに。」

「いえ、それはちょっと……。」

「冗談だよ。」


 実際学生時代にやらかした馬鹿ばかが居たが、その後、バレて女性達に半殺しになっていた。

 あれを見た時に、女というのは体重を気にする生き物なんだとさとった。


「まぁ、そういう悪戯いたずらはおいといて、重力じゅうりょく属性ぞくせいは習得出来ると、使い勝手が凄く良いから多分多用するようになる。最終的にはここを目指して修行するから、覚えておくといい。」

「はい。」

「じゃ、ここから先は実技じつぎが続くぞー。とりあえず、泥団子どろだんごいくつ作れるかを確認だ。作れる数によって、魔法まほうが何回使えるかが大体分かってくる。無理はしない範囲で、頑張がんばってみろ。」

「はい、頑張がんばります!」


 雪をき出しき出しにした地面にミトンをめた手を付き、泥団子どろだんごを作っていくメルシーの様子を眺める。

 大体、ニ、三十秒に一個くらいのスピードで出来上がっていた。戦闘では完全に役に立たないが、作っている泥団子どろだんごの大きさや形は一定しているので、先天的に魔力まりょく操作の技術ぎじゅつが高いのだろう。

 これが操作が下手くそな奴だと、綺麗きれいな球形じゃなくいびつな形になりやすいからな。その点を考えれば、魔力まりょくの流れを体内で感じ取れるようにあらかじめ同調させていたとはいえ、一発で成功させただけでもメルシーはとても優秀だ。


「はひっ、ひ、ぜー、はー――。」

「うん、そこまでで良い。良く頑張ったな。」

「は、はい。」


 そんな泥団子制作の途中でへばった彼女にストップを掛けて、俺は出来上がった物の数を数えていく。


「ひい、ふう、みい――全部で十六か。」


 魔力枯渇まりょくこかつによる症状で息切れしているメルシーに、だいだい色の魔法薬ポーションを渡しておく。

 ジュースだとでも思ったのか、そのまま躊躇ためらいなく口を付けた彼女だったが、ややしばらくして目を白黒させていた。


「あ、あれ――薄い?それになんか――。」

「疲れが消えていくだろ?」

「は、はい。」


 朝にも果実をしぼったジュースを出していたが、あちらは百%天然物。

 対する今メルシーが口に付けたのは、それを薄めたような物だ。

 同じようなつもりで飲めば、味に違いが出て当然というものである。


「それ、魔力回復薬マナ・ポーションって言ってな、使った魔力まりょく魔素まその状態で吸収出来るようにした魔法薬ポーションなんだよ。」


 俺のこの言葉に、


「へぇぇ、ポーションには、こういうのもあるんですねぇ。」


 しみじみとした様子で、メルシーが飲み干したびんを眺めた。

 試験管で保存するにも、どうも回復力が足りない気がして、四角い瓶状の物にめる事にしたのだ。

 生産量は落ちるが、こちらは市場に流す分とは別に俺のストック用として作ったので、多少効率が下がってもいいかと思っている。


「それも、その内覚えてもらう事になるさ。魔女まじょになるなら有用な物だしな。」

「楽しみにしてます!」


 明るく答えるメルシーだが、味は後付けでしていると分かっているんだろうか……。


(ま、言わぬがほとけって言うしな。別に良いか。)


 その後も、魔法を使う上での注意点や泥団子の形を変えさせたりして、午前中を過ごした。


属性表

挿絵(By みてみん)


 2018/11/29 加筆修正を加えました。属性の方に嫌ってくらい振り仮名を表記。

 上記の属性表は主人公とメルシーが居る現在地での表記の仕方で、記載通りに火水風土ひみずかぜつちといった読み方をします。

 しかし、別の国では地水火風ちすいかふうと、意味は同じでも読みに若干の違いがあります。陸続きなのに。←

 国ごとの特色のようなもので大した意味はありませんが、服装とかどのルートで入ってきて定着しているかを目安にする為のクッション回です。

 この辺、後々違いとして出てきますからね。和洋混ざりの格好をしている時点で、気付く人は多分気付いてると思いますが。


 2019/05/25 ご報告頂いたルビの誤字を修正しました。でんぱん→でんぱ。


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