011 その錬金術師は過去と現代を比較する
ハーレムルートを絶対回避した主人公。隙無くその後もフラグを叩き折る。
「こっちかーい?」
「そうそう、この道ー。まっすぐだよー。」
「了解ー。」
俺は今、茶髪の子メルシーちゃんの案内に従って村に向かっている。
幸いというか、方向感覚はしっかりしていたようで、気を失って攫われても、彼女は自身が住んでいる村の方角は分かったらしい。
尚、残りの二人はというと、全く口をきかないでいるし、こちらとしては送るつもりもないのでガン無視である。勝手についてきているが居ないものの扱いだ。
「森がこっちだから、村とは逆でー。えーっと、えーっと。」
最初、そんな感じで何とも頼りないままに方向を示されたわけだが、口を挟もうとした金髪二人には『おはなし』して黙らせておいた。
ただ、以外にもこれが合っていたのである。
メルシーちゃんの方向感覚に従って、ゴブリン共に追いつかれる前にと移動してしばらく、草原の中に見つけた道から、ようやく村のある方向が確かだと判明した。
どうやら彼女、中々の方向感覚をお持ちのようである。頭の回転はトロいが、正確さに関しては文句のつけようも無い。
(それに轍があったってことは、馬車なり荷車なりが使われてるって事だろ――?しかも、それも原始的な方法でさ。)
それは、足元に落ちている馬糞らしき物からも分かる話だ。
ただ、その匂いに、俺は思わず真顔になったくらい、久しく嗅いでいなかった気がする。つまりは結構臭い。そして凄く臭う。
(ゴブリンだけじゃなく、人間も文明レベルが低いのか――衰退してそうだな。)
見た感じ、こんな物が道に平然と散らばるくらいには、見事なまでに文明は衰退の一途を辿ったようである。
かつての王国では、機械じかけの馬車が主流だったのだ。間違っても、糞が出る生物を労働力になんてしていなかった。つまりは、それが必要とされる程には、いろいろと現代では技術とかが逸失しているのである。
(下手に行動すると、目立ちそうだなぁ――大体、俺の格好に疑問を持たないのがありえないし。)
今の俺の格好は、まさに襤褸だ。いつ崩壊してもおかしくないとさえ思えるほどに酷い革製の服を一式身につけている。
例え窮地を救ったにしても、こうして好意的に接するメルシーちゃんの言動には違和感を覚える。
まぁ、それを言ったら残り二人なんて行き過ぎなんだが。過剰反応もいいところだろう、あれは。
(一応、ベルトで空中分解だけは免れてるが、それも果たして何時まで持つかという有様だからなぁ。間違っても、年頃のお嬢さんならばお近付きになりたくはない格好だろうに――良い子なのか単に気にしないだけなのか、判断し難い。)
今の俺の格好を見ても、メルシーちゃんは笑ったりはしなかった。おそらくはそれは、三人の格好からしても笑えないレベルだったからというのもあるのだろう。
多分、きっと、こっちが理由な予感がひしひしとするんだ、今は。
(少なくとも、麻が原材料の衣類に、継ぎ接ぎだらけって、寒村ですら有り得んしな。それを何とも思わず、更には素足で平然と草原を歩ける、と。どこの原始人だよって感じだよな?)
前者はまだしも、後者は普段からそうでないとまず無理だ。大抵の者が躊躇してしまう話である。
しかし、ゴーレムに乗せようとした茶髪の子はともかく、残りの二人はあれだけ我の強い面を見せていたと言うのに、何の躊躇いもなく裸足のまま着いてきた。
それは文句は言わせない――というか、道中一切喋らずにただ着いて来るだけで、魔物に襲われても最悪メルシーを優先し、助けられない時だけ見捨てるという条件があるからだろう。
そんな条件で行動を共にするのを許したのは、メルシーの一言があったおかげだ。この二人は感謝しても感謝しきれない状況のはずである。俺は最初から見捨てて行くつもりだったからな。
(まぁ、それでも難色は示すんだよな、このクソガキ共は。)
メルシーちゃんと違い、先に目を覚ました金髪二名はまさに愚者だ。全くもって助けるだけの価値がないだろう。少なくとも、俺にはそう見えた。
しかし、メルシーちゃんにとっては同じ村で生まれ育った村民。仲間意識があるのだろう。
絶賛、嫉妬の視線に晒されていて、居心地が悪そうだが、それでも捨て置くという選択肢は取らなかった。
(見捨てても良かっただろうになぁ。言わなければ、分からない事だってあるんだぜ?)
それでも一緒にと頼んできた彼女は、間違いなく良い子なのだろう。願わくば、この害獣レベルのクソガキ二人に良いように利用されない事を祈る。
ただ意外だったのは、普段から裸足で駆け回ってるという事実だ。それが、あの踝が硬かった理由のようである。
(生活水準が低いのは間違い無し。問題は、ゴブリンと同等かそれより上かって点だ。)
まぁ、まず間違いなくかつての王国があった時の暮らしは望めないだろうな。この事は、漠然と俺へ不安を抱かせるが、考えてもしょうがない。
滅んだものは滅んだんだ。過去に思いを馳せたからといって、それがかえってくるわけでもない。
(衛生概念、消えてないといいんだがなぁ。)
最悪、そこは死活問題となるだろう。
下水道とかなくて、排水垂れ流しだったらどうしようか。飲水が井戸水だけで、しかも煮沸消毒もしてないような不衛生な環境が当たり前だったら――病気関連、ヤバイだろうな、きっと。
うん、頭が痛い。最悪は、寝泊まりできるだけマシな環境というのも、有り得る話だろう。
――あっれ?これって、地下で目を覚まして魔物が残ってるかもとビクビクしてた時と同じくらい、覚悟いらないか?
(笑えない。マジでめちゃくちゃ笑えない。)
都会っ子が自然の中で一日サバイバルするのだって大変なのだ。辛いのだ。きっついものがあったのだ。
そこに加えて、安全地帯であるはずの人里が、実は不衛生の塊みたいな状況だと、目も当てられない。
(俺、生きていけんのかな――?最悪、自分で何とかするしかないかも?土魔法は苦手じゃないけどさぁ、得意って分野でも無いのに、すげぇ辛いんですけど?)
どんなハードモードだよ、これ……。
思えば、大災害が起きてからというものの、俺の人生は転落に次ぐ転落な気がする。
エリートだったはずなのに、国にも新たな錬金術師を抱えるだけの金が無くて、王宮錬金術師にもなれなかったのだ。主席で卒業したというのにさっ。
(切ない。)
割りと俺って不幸じゃね?
もう、これ以上の転落は訪れないようにと思うしかなくて、知れず溜息が漏れていっていた。
主人公は生い立ちからして結構苦労してきています。
その辺りが今後メインの話として絡んできますが、当分先ですね。
エンディングはバッドでもハッピーでもなくトゥルーエンドが近いでしょうか。
ある意味新しいエンディングかもしれません。人によってはバッドで、ハッピーかもですが、主人公にとってはどっちですかねぇ……?




