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102 その錬金術師はかまくらで過ごす

 周囲の雪を集めて作るかまくらだが、地面を掘り下げたりして半地下状態にしてやると、寒気かんきをかなり防いでくれる。

 こういったのは雪の家なんて呼ばれたりもしていて、圧縮した雪のブロックと毛皮や布を併用して作れば、一時的な避難所シェルターとしての役目も持つ。


 そんな建造物の最奥、寝室として作った場所に組み立て式の机を並べていき、それを簡易のベッドにしてしまうと、毛布に包んで運んで来たメルシーちゃんをそっと寝かせた。

 真っ白な顔は血の気が失せていて、冷えすぎたかと焦る。

 だがしかし、体温そのものはそこまで下がっていないようで、触れると結構温かみがあった。


「ねぇねぇ!この子、大丈夫?大丈夫なの?ねぇ?」

「多分、大丈夫だとは思う――。」


 そんな彼女の様子に、心配してるのか気になるのか、後を着いてきたリルクルが覗き込んで尋ねてくる。

 俺はそれに頷いて返しつつも、彼女の容態を確かめて、栄養失調と精神的な要因からくる軽い過労状態と判断を下した。


「悪いが、しばらくついて見ててやってくれるか?」


 これに、


「いいよ!目を覚ましたら教えるね!」

「助かる。」


 リルクルが即答で了承してくれて、有り難くこのまま頼む事にする。

 気を失ってしまったメルシーちゃんを抱えて、雪のちらつく中を移動するのは危険だろう。

 身に付けていたかさ雪蓑ゆきみのを外してみれば、下に身に付けていたのは余り生地に厚みがあるとは言えない代物で、雪靴ゆきぐつの下の足なんて裸足はだしのままである。

 その寒々しい格好に、被せてやる毛布の数を追加しておき、俺は頭を悩ませた。


「これ、もう着の身着のままって感じだな――。」


 衣類は外出用というよりは室内用に見える。下手をしなくても寝巻きじゃないだろうか?

 その上に笠や雪蓑があったから多少はマシだっただろう。だが、それで十分な防寒対策が出来ているとはとてもではないが言いがたい。


「追い出されたって言ってたもんねー。もしかしたら、何も持ち出せなかったのかも?」


 有り得そうなリルクルの言葉に、俺もやや肯定しながら返す。


「あー、そうかもしれないなぁ。」

「可哀想。まだこの子、子供だよね?人間なら、十歳くらいじゃないの?」

「多分、十二かそこらって感じかな――どのみち、子供なのは間違いないけど。」

 

 会話の中【空間庫】を開いて、中から小さな煙突えんとつを取り出してくる。

 それを取り付ける場所を慎重に見定めつつも、更に言葉を交わしていった。


「もう少し暖が取れるように、俺はいろいろと手を加えてくるよ。」

「了解。何か手伝える事があったら言ってね。何でもするよ!」

「なら、しばらくはその子の事を頼む。何かあったら呼んでくれ。」

「うん、任せといて!」


 俺の言葉に胸を叩いて見せる見た目幼児だが、こう見えてもリルクルは俺よりも年上なんだ。メルシーちゃんを任せても、多分大丈夫だろう。

 ただ、彼女が目を覚ますまでどれくらいかかるのかが分からない。この為に、今はやれる事をやっていくしかなかった。


(うーん。意識が無い状態で雪の降る中を移動させるのは無理だし、自宅に戻るのも無理だよなぁ――開拓村へ行くのだって現状得策じゃないし、ここで足止め確定か。)


 それに対する備えを今は色々とやっていかないとならない。

 まず、どこかへと穴を作り、そこに煙突を取り付けられるようにしよう。

 採光の為の小さい穴は既に空けてあるので、これにあと一つ穴を空ければ排煙が容易くなる。

 そうすれば、中で火を使う事だって出来るようになるからな。寒さに対する対策としては急務だろう。

 その為には空ける場所を選ぶ必要があるんだが、どうせだし換気が出来るようにするのが良いように思えた。

 それと、排煙をセットに出来るようにするなら――ほぼ真上あたりがいいだろうか?


「これ、適切なところじゃないと、自重や積雪の重量で崩れて生き埋めになりかねないな。やるなら――この辺か?」


 選んだのは、真上というよりはその周囲。

 天辺にするよりかは、少しずらした方がいいだろうという判断からだった。

 そこへと狙いを定めて、魔力を浸潤しんじゅんさせていき、氷魔術を発動させる。


「【除雪】。」


 使ったのは、雪をただ取り除くだけの魔術。これによって、くり抜かれたようにして小さな穴が空き、取り除かれた雪は隅に寄って崩れ落ちてきた。

 その穴に煙突を取り付ける為に一旦外へと出る。

 外では振り続けている雪が、時折吹き抜ける風に舞っていてちらつちていた。小さいものだったが、これが突然ドカドカとでかい雪になって降ってくる事もあるので、さっさとT字型の煙突を突き刺すと中へと戻る。

 風を避けられるだけでも、中の方がマシな環境だ。


「うん、外よりはまだ、こっちの方が寒くないな――。」


 雪の家の構造は、掘り下げた状態でまず入り口がある。そこから前室、通路、母屋といった感じに続いていて、奥に行く程寒さが和らぐ作りだ。

 その内、母屋の部分へと煙突を突き刺して、その下に炊き出し用の場を設けるんだが、そこから先は野営とほぼ大差無い作りだった。

 集めてきた石を円形に並べて、その中に火付け用の枯れ草、小枝、薪の順に並べていく。下から火を着けて徐々に上へと移していけば、最後には薪に火が着いて暖が取れるという寸法だ。

 その炊き出し用の焚き火で、お湯を沸かしていく。目的は体内から温めるのと、湯たんぽを作る為である。


「茶葉は――ほうじ茶でいいか。後は生姜しょうが黒砂糖くろざとうを入れておけばいいかな?」


 リルクルは大の甘党だし、メルシーちゃんは健康状態が悪い。

 生姜で体を温めつつ、ほうじ茶に含まれる成分で更に相乗効果を狙って、黒砂糖で糖分を多目に摂取させておこう。

 普段、俺は余り飲まないが、リラックス効果もあるし現状には良いはずだ。自宅でシュークリームを食べさせているが、あれで状態が良くなるとは全く思えない顔色だしな。


「リルクル、お茶をれてあるから飲んでおけ。」


 沸いたお湯でお茶を作り、別途、陶器の薬缶やかんで保存する。

 その側には、三つのカップを置いておいた。

 これに、


「甘い?ねぇ、甘い?」

「ああ。」


 甘く無ければいらないとでも言いたげに、リルクルが聞いてきて、それに呆れながらも俺は頷いて返す。

 リルクルの甘党は筋金入りだ。甘い物が好きな俺ですら、げんなりとするくらいには大が付く甘党である。

 作られた菓子はそこまでじゃないんだが、茶に関しては飲めたもんじゃないというのが俺の感想だった。


「黒砂糖を使ってあるから甘味がある――ただ、全部は飲むなよ?後でこの子にも飲ませるからな。」

「はーい!」


 元気よく返事を返す彼と場所を入れ替わり、メルシーの所へ。

 その際、


「ぃよっし、甘い物ー!」


 とのたまいながら、お茶へとリルクルが突撃していったが、俺はそっと溜息を吐き出すだけに留めた。


「甘っ。旨っ。」


 飲みながら機嫌よく感想を呟いた彼を横目にして、湯たんぽにタオルを巻き付けた物を手にした俺は、メルシーちゃんの足元へとそれをそっと入れる。同時に、小さめの湯たんぽは左脇の下へと入れて、体温低下を防ぐのに用いた。

 その後も動き続けて、壁の隙間を覆うようにして、更に布と毛皮を貼り付けていく。

 これは雪で出来た壁の冷気が伝わってこないようにする為だったが、結果的には寒さが和らいで過ごしやすくなり、作業の終わった俺は、疲れた息を吐き出していた。


「――ま、こんなもんかな。」


 師匠とのサバイバルを思い出しつつやったんだが、思った以上に雪の家の中は暖かくなった。休憩所としてただ作ったつもりだったんだが、思いがけず避難所へと早変わりしている。

 そんな場所で、新たにテーブルと椅子を出して座りつつ、リルクルと共にお茶をすすってメルシーちゃんが目を覚ますのを待つ。

 徐々に日が暮れても目覚めない彼女は、かなりの疲労を蓄積していたらしい。結局は、翌日になるまで目を覚まさず――俺達は毛布に包まって、一夜をそこで明かす事となった。


 作者の妄想と欲望がダダ漏れ(誰得)回。

 雪が滅多に降らず積もる事すらない地域の者からみると、雪を使った遊びとかかまくらとかって夢なんです。憧れるんです。雪に埋もれて「ヒャッハー!」とかしてみたいんです。

 雪かきが大変っていうのは知っているのですが、その話すら羨ましく感じる程には、雪に対する思い入れが強い作者のやってみたいを詰め込みました。「雪の家とかなんて贅沢!」という作者の感想から出来た回です。

 矛盾点が多そうだけど作者には全く分からないので、どこかおかしい点があったら、メッセージででもいいので突っ込みを入れてやって下さい。←


 2018/11/15 加筆修正を加えました。

 2018/11/22 加筆修正を加えました。


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