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010 その錬金術師は少女達の洗礼を受ける

 ブチ切れた。

 はっきり言おう、俺はブチ切れた。

 何せ、助けた子供が目を覚ましてからの反応が最悪だったからだ。


 まず、一番最初に目を覚ました金髪に青い目が特徴的な少女その1。


「――起きたと思ったら蹴りを入れてくるとか舐めてんの?」


 まさかの恩人に対する礼が、言葉ではなくて蹴りだったのだ。

 そして、その次に目を覚ました、同じく金の髪に緑の目が特徴の少女その2。


「いいやああああああああ!変態いいいいいいいいい!」

「うっせ!魔物に気付かれるから黙れ!あと変態ちげぇ!俺に少女趣味は無ぇ!」

「死体が動いてるうううううう!」


 目を覚まして俺を見るや否や叫び出し、挙句ゾンビ扱いまで始める始末で、ガチで気絶させるか悩んだくらいである。

 そんな騒動で、他が目を覚まさないわけがない。

 最後の一人である茶髪に茶色の目をした、朴訥とした容姿の少女は、


「ほえええ?」


 何とも間の抜けた声を上げて、その茶色い瞳を瞬かせて起き出してきた。

 ――ここは結論から言おう。


 先の二名は助けるだけの価値は無かった!


 この場合、価値のある、あるいはまともだと言えるのは、おそらく最後の一人だけだと思える。

 故に、


「助けた恩人に暴力を振るい、挙句悪人や魔物だと絶叫するような礼儀知らずは知らん。ゴブリン共にそのまま苗床にでもされて衰弱死でも何でもしてろっ。」


 そう告げるだけ告げておいて、俺は最後の一人である茶髪の子へと向き直った。

 割りと可愛らしい顔立ちの子だと思う。将来、美人ではないものの穏やかな笑みを浮かべる淑女に育つ事だろう、きっと。何気に、座ってるだけの姿でも、姿勢が良くて将来有望そうだ。

 少なくとも、先の二名よりは遥かに女性としての品格があるし比べるべくもなかった。


「君だけはまともそうだから、家まで送るよ。このあたりはゴブリンの集落があったし、危険だからね。」

「え?え?」


 何やら驚いているが、俺は茶髪の子だけに笑みを向ける。

 残り?俺の知った事じゃないね。どうせならそのまま死ねと言いたい。それくらいには、現状ブチ切れてる。


「そうそう、送るにしても、草原に出たらとりあえずどっちが家のある方面か分かる?それさえ分かれば、送り届けるのも難しくないよ?ってか、言葉は通じてるかな?」


 先程から目を白黒とさせてる子に、どう?と問いかけつつも、あっさりと先の二名を放置する事を宣言しておいた。

 これに「え?」や「ちょっと待って!」なんて慌てた声が聞こえてきたが、俺には聞こえん。

 だって、足を引っ張るだけのお荷物なんて、誰だって運びたくは無いんだよ。ましてやそれが、護衛対象となりかねないとか、報酬も定かでない今の状況で誰がやるかって言う話だ。

 故に、最後の一人であり一番マシそうな少女にだけ、俺は語り続けた。


「ゴブリンに攫われてたっぽいところを助けたんだけど、何があったか前後は覚えてるかい?このままここで夜を明かすのは危険だし、距離も分からないから早いところ家まで送り届けたいんだけど、動ける――ってか、動けそうかな?親御さんも心配してるだろうから、出来れば早めに判断してね。」

「はわわわっ。」


 ザ・良い人作戦。そして微笑みを貼り付けたままで急かす。

 情報の足りてない現状では、見ず知らずの子供を魔物から救い、それを元に人の生活圏までの足がかりとするのが一番効率的で、多分問題も少ない選択肢だと思えたのだ。

 そうして、上手く行けば報酬も手に入るだろう。そうでなくとも、一日くらいは泊めてもらえるかもしれない。

 打算計算だって?当然だ。誰が見返りなしに餓鬼のお守りなんてやるか。

 それに、上手くいけば目指すお布団が手に入るし――って、これはちょっと違うか。まぁいいや。


「え、えっと。」

「大丈夫だよ。まだしばらくは猶予ゆうよがあるからね。」


 戸惑う子供を前にして、俺は視線を和らげる。

 どうにも、現状の把握が追いつかずにパニックに陥っているらしい。頭の回転は余り早く無いようだ。急かすのは逆効果になりそうである。


「別に、君へ危害を加える気はないし、俺は盗賊とかの類でもないから安心してくれていい。大体、盗賊とかなら、拘束されてたのをわざわざ解いたりもしないんだ。分かるだろ?」

「あ。」


 そう言って、巻き取って腰に下げていた、戒めに使われていた麻の縄を手で叩いて見せる。

 こんな縄でも、まだ再利用出来るのだ。現状、手に入る物ならできるだけ入手しておくに限る。簀巻きは汚かったので捨ててきたが。


「それとも、お腹が空いてて思考が働いてないのかな?もしそうなら、茸や山菜でよければ今朝焼いたのがあるからあげるよ。勿論毒は無い。どうする?」

「はう。え、う?ええ?食べ物??ええ!?」


 俺の言葉に、茶髪の少女は困惑も露わにして目を白黒してる。そうして、沈黙した後に、差し出した籠からおずおずと食料を手にして口にしていた。


「おいしー。」

「そりゃ良かった。」


 頬がパンパンだ。なんていうか、リスみたいで和む。

 その様子に、しかし無視すると決めた金髪の少女二人が、食べ物にも反応したらしくて、急に猫なで声で喋りだした。

 ――思わず俺の目が半眼になってしまったが、茶髪の子は食べるのに夢中で幸いにも気付いていない。良かった。


「お、お兄さん、さっきはごめんなさい。」

「悪気があったわけじゃないの。」

「ね、私もそう。だから、許して?」

(――キモいな。)


 今度は俺が黙る番だ。いっそ、見事なまでの手の平返しである。

 しかし、俺は騙されない。何せ、知っているのだ。こういう態度の奴は、最早碌でもない人間に育ってると――。


「ね?ね?ちょっと間違えただけなの。ほら、私達って攫われてる途中だったし?」

「そうそう。決して、お兄さんを貶すつもりは無かったのよ?だから、食べ物分けて頂戴。」


 つまりは、食い物さえ得られたら後は全て許されたとでも思うつもりなんだろう。

 故の、この「だから許して?」みたいな態度だ。

 だが、間違っても、ここは許していいところじゃない。ここで許せば、確実につけあがるだけだ。それは教育上もよろしくないし、この後の展開も俺にとっては害悪にしかならないだろう、きっと。

 なので、


「うぜぇ。」


 俺はこの一言で、機嫌の悪さを明確に表しておいた。

 別に、俺はこいつらの保護者でも知り合いでも何でもないのだ。食料を分けてやる理由も義務も何も無い。よって、切り捨てるという選択肢だって取れるわけである。

 それを理解もせずに集るなんて――まさしく、クズのする事。それも、まだ子供の内からこの反応だ。まさしく碌でもないだろう。大人になれば、更に悪化するんだろうと思える。

 故に、


「――さっきまで人を変態だの動く死体だの宣って蹴りまで入れてきておいて、その謝罪も無しにか?危険な状況まで作ってたんだからお前らは黙ってろ。」

「な!?」

「別に、それくらい許してくれてもいいじゃん!」

「それくらい?だったら、俺が今お前らを殴っても問題ないよな?」


 俺はそう告げて、尚も騒ごうとした二人を強制的に物理をもってして黙らせた。


 女子供に手を上げるなって?

 ――きちんと躾されてこなくて、ここまでクズに育ってたら口で言っても聞かないんだから、身体で覚え込ませるしかねぇよ!

 人間だって、きちんとした教養をつまなければそれはただの獣だ。間違っても意思の疎通が可能だなんて思うもんじゃない。


「――二度と喋んな、このクソガキ共っ。」


 こうして、絶対零度の温度でもってして、俺は二人を無視し続ける事としたのである。


 主人公(見た目浮浪者)に助けられた少女三人。

 容姿が整ってるとかその内の二人には関係無い。見た目で思い込むタイプなので、白馬の王子様でもなければ靡かない事でしょう。その癖悪知恵だけは働く。

 幸いながらも、残る一人だけはマシでした。尚、恋愛脳はしていない、普通の子供です。この為、恋愛ルートも皆無です。


 そもそもとして、ハーレム要素が無いとこうなるというお話ですね。


 というか、現実的に考えて、早々惚れるような奴なんて居りません。居たとしても、遭遇率は決して高くは無いでしょう。

 吊り橋効果?あれは極度の恐怖心煽ってからでないと出ないよ?現実でも(性別逆でもいいので)考えてみよう。貴方は浮浪者風の薄汚れた見た目の異性に知らず知らず助けられていたとして、惚れる事が出来ますか?警戒せずに済みますか?まず無理でしょ?無理だよね?

 ハーレムだと、作中では気を失ってた十代前半の少女達が惚れるという展開です。ですがそれは、ちょっと無理があると思うんですよ。乙女()を自称する年代は、だいたい性へは潔癖症だったりしますしね。


 その辺り、ハーレム系は気をつけてほしい所です(個人的に一番幻滅してしまうパターンがコレだったので、こういう話を書きたくて書いたとも言える)。


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