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第六話 彼らは魔獣を狩る。 その3

 本当は今回でこの魔獣を狩る話は完結させたかったんですけど、とりあえずいい感じにキリのいいところで編集できたので、更新速度を重視するためにこの状態で投稿します。

 できればあと一話でこの話を終えて、さっさと勇者召喚まで持っていきたいんですけど、下手したら後二話くらい続くかもしれないし、もしかしたら更新速度も落ちるかもしれません。

 何だか、あんまり出来が良く無いな。


 冒険者ギルドの依頼を引き受けた僕の最初の仕事は、徹底した情報収集だ。


 今回依頼を出された名持ちの魔獣(ネームドモンスター)は、個体名『白尾ホワイトテール』。


 生き残った冒険者からの情報によると、どうも敵となる魔獣は双頭猛犬(オルトロス)の亜種らしく、炎と氷を交えた特殊な魔術を使うらしい。

 黒い体に白い尻尾をしていることから、『白尾ホワイトテール』の名前を付けられた魔獣だ。


 名持ちの魔獣(ネームドモンスター)は大きく分けて二種類のタイプに分かれる。


 異常に凶暴か、異常に臆病かだ。


 どちらが手強いかは、当たる人にもよるだろうが、被害が大きくなるのは明らかに後者だ。


 前者の魔獣の場合、感情的に暴れまわる魔獣が多く、時に自我を失って唯々破壊行為やそれに伴った自傷も行う為、簡単に人の目のにつきやすく、割と早く名前を付けられる。

 異常な凶暴さ故に戦闘能力が高く、一度に出る被害も大きく討伐軍の被害もかなり派手なものになる。

 これが二度も三度も続けば、一種の災害として時に人類の勢力軍が『魔王軍』との前線から撤退し、特別対策軍が組織されて掃討に当たる事態になる。

 これに関しては、不思議なことに『魔王軍』側もどういう理由によるものか、この前線の一時的な撤退を大目に見る為に、災害級の魔獣が出現した場合に限って、人類と魔族とは一時休戦の状態になる。

 ただ、この手の魔獣がそこまで大きな被害を出すことは稀で、大抵の場合は一国の軍隊が出動することで片が付く。


 だが、後者の場合は、高い知能と明確な意思を持って人間を襲うため、一度の被害件数で言えばそこまで大きな被害が出てくることは無い。

 その一方で、臆病なタイプの魔獣は継続的に人を襲う為、常に一定の間隔を空けて、連続的に人を襲い殺し食い続ける。

 その上、一度に人間を襲う数は少ないことが原因で冒険者や軍人に発見されるのが遅れ、人間達に隠れて長い期間人を襲い続け、結果的に前者の凶暴なタイプの魔獣よりも多くの人間を殺していることが多い。

 そして、ある程度手に負えられない強さになった段階で人の目に見つかり、名前を与えられるのだ。

 

 そして、往々にして災害級の魔獣にまで成長するのは、この手の隠れて力をつけてきた魔獣だ。


 だから、この手の滅多に姿を見せないタイプの魔獣は、見つけた瞬間に全力で殺すのが鉄則になっている。


「こうしているうちにも被害者が出るかもしれません。ここは早めに出動して、『白尻ホワイトテール』の討伐を急ぎましょう」


 そんな名持ちの魔獣(ネームドモンスター)の情報を地図に書き込んでいく僕に対して、グラウカさんは焦りの表情を浮かべながらそう言うが、僕はそんなグラウカさんの言葉に対して、僕は冷静にそれを否定する。


「大丈夫です。この手の魔物は、人を襲ってから暫くの間は潜伏期間を設ける傾向にあります。今回は場所が良かった。バルシノンを始めとして人口の多い街の間に山道に出現したみたいですが、そのお蔭で多くの避難者が近隣の大きな町に避難できることになりました。潜伏期間中に避難は完了してますから、当面の間は人的被害が出ることは考慮しなくてもいいです」


 地図に集中しながら脇目もふらずに語る僕の言葉に、グラウカさんだけでなく他の『青い流星』のメンバーも黙り込んだ。


「そしてもう一つ。確かに、この手の魔物は強さと狡猾さを併せ持ち、常に隠れて行動をしているせいで、発見しづらいという特性を持っているが、でも、逆に言えば、常に隠れる場所を想定して逃げ回っているということだ。それは、襲来するルートと潜伏拠点の特定のしやすさにも通じている。プリムラに頼んで徹底的に隠れた獣道や、山道を調べ上げてもらって、そのルートもおおよそ完成した。………おそらくは、そうだね。ここだ」


 僕は地図に書き込まれたルートの内の一本をなぞると、その内の数か所に丸を付けて『白尾ホワイトテール』が潜んでいるであろう場所に幾つか見当をつける。


「このルートの中の、この場所のどこか。そこに『白尾ホワイトテール』は潜んでいる。見つけ次第、嬲り殺しにしましょう」


 嬲り殺しというのは比喩では無い。

 この手の魔獣は、取り逃がせば今度はより用心深くなって、次に出現するときは、確実に災害級の魔獣になるまで出て来なくなる。

 だから、確実性を期して、じわじわと真綿で締めあげるようにして嬲り、甚振いたぶり、痛めつけ、抵抗できなくなったところを確実に狩り殺さなければならない。


 整え得る最大の準備は終えている。馬の手配も、食料、武具、魔導具に魔導水薬ポーションの準備も完璧だ。

 後は、全力を尽くして、全力をぶつけるだけだ。


「ふふ。いつもみたいにやる気だね。これなら何の心配もなく倒せそう。私の弓矢が獲物を狙って飛びまくるよ!」


「まあ、あんだけの反対意見を押し切っているんだから、これくらいの自信を持ってくれなきゃ困るわよねー。」


 アルバとプリムラの激励に、僕は数日前の依頼を受けた日の事を思い出して、軽く苦笑しながら頭を掻いた。



☆★☆★☆★☆★



 あの日、僕の呟きを耳聡く聞いた三人が、口を揃えて僕に突っかかった。


「何言ってるのよ!お兄ちゃん!いくら何でも、名前持ちの魔獣(ネームドモンスター)を相手にして大口叩きすぎ!」


「そうだよ!大体、実際に戦うのは私たちじゃん!それなのに、簡単にそんなことを言わないでよ!」


「そうですよ!そもそも危険な依頼を受けることは、私は全面的に反対なんですからね!」


 一斉に僕の意見に対して反対意見を述べる三人だったが、それに対して以外にも依頼を持ってきたグラントさんは、その三人の肩を持つ。


「おいおい、小僧。俺はさっきも言った様に、あくまでもダメ元で依頼を持って来ただけ何だ。無理に依頼を引き受けなくてもいいんだぜ?もともと、国軍にも討伐の為の編成は頼んでいる。別に、何も気張る必要は無いんだからな?」


 そう言って心配そうに僕を見やる四人を見て、僕は胸を張って言う。


「さっき言った様に、僕が冒険者になったのは、力ある冒険者になって少しでも多くの悲劇を防ぐためでした。でも結局、僕にはその夢を叶えることはできなかった。だからせめて、最後の最後くらいは冒険者として、目に見える形で社会に貢献した上で冒険者を引退したいんだ。これは僕の我がままだ。ゴメン。最後にこの依頼を引き受けてみたいんだ」


 そう言って僕は、三人に向けて深々と頭を下げると、三人は暫く思案していたようだが、


「分かった。しょうがないわね。その代わり、引き受ける以上は絶対に勝つから。その為の準備は絶対にしといてよね、お兄ちゃん」


「仕方ないですね。無茶な依頼は今回だけですよ?」


「ま、今まで散々私たちが我がままで振り回してきたもんね。少しくらいはイイっしょ」


 笑いながら僕の我儘をきっちりと受け入れてくれた三人の言葉に、僕は少しだけ救われるような気分になった。


 そして同時に思った。


 三人からの理解と応援に報いるためにも、冒険者としてこの最後の依頼を完璧に達成する。


 それが今、僕が死力を尽くして行うべきことだ。



☆★☆★☆★☆★


 

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