第二十三話 弱者の勇者は、二度指を鳴らす。
丸々二か月空いてしまいました。
拙作を楽しみに頂いていた方々、申し訳ありません。
この作品を書くことに対するモチベーションが上がらなくて、外のサイトの方の作品を書いたり、発表する気のない作品を書いていました。
リハビリするように少しずつ書き始めるので、まだ何とかお付き合いいただければなと思います。
とりあえず、作品の名前変えて、モチベーションをあげてみますので、不評だったらそう言ってくれると嬉しいです。
「がッ…………!! あッ……ッ……!!」
「グラウカさん!!」
紅茶を一口啜った途端に突如として喉を掻きむしりながらグラウカさんは床に倒れ、僕は悲鳴にも似た声を上げて彼女へと駆け寄った。
一方、グラウカさんの異常を見た瞬間、アルバは服の袖に仕込んでいた短杖を取りだして喜兵衛につきつけ、プリムラは簡単な風の精霊を呼び出し僕らとキヘエの壁になるように立つ。
「貴方一体何したの!グラウカ姉さんに、何をした!」
「私たちの家族に手を出すの奴は、許さない」
アルバもプリムラもいつでも魔術を発動できる態勢になって喜兵衛を脅すが、そんな二人を前にして、喜兵衛は喉の奥をくつくつと震わせて笑うだけだった。
「何だ。案外引っかからない物だなあ。シトラス君はともかくとして、最低でも二人は倒れると思ったのに、意外と用心深いんだなあ。流石は特級冒険者と言うべきなのかな?」
「……どういうつもりですか?こんなことをして、只で済むとでも思っているんですか?」
「こんなことをして?違うだろ?『こんなことをしたから』こそ、『無事で済むんだ』よ。そうだろ?シトラス君?」
僕の質問に喜兵衛はそう答えると、薄ら笑いを浮かべながらその場から立ち上がり、警戒心を剥き出しにするアルバとプリムラに冷たく視線をやった。
「それとも、残りの二人の美少女にもわかりやすいように、こういう風に言ったほうがいいかな?」
そうして、今だに攻撃寸前の状態を解かないを二人を見ながら、実に楽しそうに言う。
「君たちの仲間を殺されたくなければ、僕に従え。そうすれば、仲間に盛った毒の解毒剤をやろう」
唇を舌で濡らしながら言った喜兵衛に、一瞬逆上した二人が攻撃しかけ、僕をそれを鋭く制した。
「アルバ!プリムラ!二人とも下がって!」
「でも、ぐらねえがこのままだと死んじゃう!」
「大丈夫だ。アルバ、プリムラ。大丈夫だから、僕のいう事を聞いて」
思わず昔の言い方で言い返すアルバを静かに見ながら、ゆっくりと呼吸して彼女に言い聞かせるように言う。
すると、そんな僕たちを見ていた喜兵衛が楽しそうに笑う。
「……ずいぶんと落ち着いているじゃないか。仮にも君の女を殺されかけているのに、そんなに冷静だなんて、意外と冷たい男なのかな?君は」
「別に好きで落ち着いているわけじゃない。こういう時に慌てると、死にやすいっていうのを今までの経験から知っているだけだよ。それよりも、こうも簡単に人を殺せる方法を知っているなんて、喜兵衛さんの家は思っていたよりも、ずいぶんと血なまぐさい教育を施しているようですね?」
僕たちを嘲笑うように皮肉気に頬を歪ませる喜兵衛に対して、それでも尚冷静に尋ねることのできた自分をほめてやりたいと思う。
もし今、僕が感情を押し殺していなければ、確実に殺されていた自信がある。
「少し違うな。これは僕が僕の身を守る為に覚えた独学の技術だ。それよりも、その減らず口はそろそろ止めたほうがいい。悪いが、これ以上無駄話をする気はないんだ。シトラス・レモングラス。および、その仲間たち。僕は今君たちに二つの選択肢を突き付けている。
一つ目は、いま言った通りに行動すること。
二つ目は、この場で全員殺されること。その場合、真っ先に死ぬのは、そこで倒れている彼女だけどね。
……さて、どうする?」
一方、喜兵衛はそんな僕を差し置いて、嫌味に怒るでもなく、嫌悪感を示すでもなく、ただ淡々と言葉を述べる。
そんないかれた相手を前にして僕は、ゆっくりと怒りで熱くなり始めた息を吐き出すと、相手を激高させないようになるべく静かに動く。
そして。
「そうか……。わかりました立花喜兵衛さん」
同時に思う。
ああ、なるほど。こいつ、こう言う奴なのか。なら、もう遠慮はいらないな。
「調子に乗るのも大概にしろよ。家族をやられて従順にするほど、僕は甘くはない」
「残念だな。だが少しうれしいよ。口先だけでも気骨のある男の様で」
僕の言葉を聞いた瞬間、喜兵衛は右手の指を鳴らして短杖に似た短い鉄の棒を呼び出し、その先端をアルバに向ける。
その瞬間、背筋に寒気が走り、呪文を唱えようとするアルバに思わず叫んだ。
「伏せろ!火薬銃だ!」
その声を聴いた瞬間、喜兵衛は驚いた様に目を剥きながらも、ためらいなく引き金を引いて銃声を響かせ、それよりも一瞬早くアルバがその場にしゃがみ込んで、難を逃れる。
突然使われた珍しい飛び道具に驚きながらも、僕は短く切り詰められたマスケットを警戒しつつ、三人を守るために少しでも喜兵衛の視界を遮ろうと両手を広げる。
「……意外だな。この世界の文明のレベルから、銃や火薬なんてものを知っているとは思ってもみなかったんだが、案外そこまで遅れてるって訳でも無いのかな?この世界は」
銃口からいまだに煙を吹かせる火薬銃を構えながら、喜兵衛は暢気にそう言い、心臓が痛いくらいに鼓動を早める中で僕はゆっくりと喜兵衛の疑問に答えた。
「……火薬自体は、別に有り触れていないってだけで、特に珍しい物でもないですよ?一発限りの銃弾で殺せる魔物も魔獣もいないので、そう使われないですけど。まあ、今みたいに人を殺傷したい、物を破壊したりするのには使いますけれども」
「……なるほどね。この世界には魔術が存在しているから、銃火器が発達する余地が無いのか。
使い勝手の良い魔術という技術がある以上、そもそも科学も発達させる必要も無い。確かに合理的だが、でも、それでこんな暗黒時代みたいな生活しているなんてのは、僕には信じられないな。科学と魔術を組み合わせれば、途轍もないことができそうな世界線なのに」
そう言うと、喜兵衛は静かに立ち上がり、グラウカさんを庇う僕の額に銃口を突きつけ、口元を歪ませながらあくまでも紳士的に、そして或いは、この状況では最も威圧的に、僕達に言う。
「改めて名乗ろう。僕の名前は立花・喜兵衛。『魔術と知識の勇者』だ。今日はちょっと用事があって君たちの所に来たよ。もう一度言うが、……少しばかり僕に付き合ってくれないかい?」




