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第三話 冒険者なんて柄じゃない

 投稿遅れて申し訳ありません。

 まったく別の小説のアイディアとプロット練っていたら、こっちを書くのが遅れました。

 納得のいく感じの文章ではないので、もしかしたら後で改稿するのもあるかもしれないです。

 ちなみに、次話は閑話になります。


 ちなみに、この話のタイトルの元ネタは、『タフガイなんて柄じゃない』からです。


「僕、冒険者辞めようと思います。良かったら結婚してくれませんか?」


 僕の言葉を聞いたグラウカさんは、暫くの間その場で硬直していると、やがて顔を真っ赤に染めて、手にしたお盆を落とした慌てふためきながら、ベッドの上に寝ている僕に詰め寄せてきた。


「け、けけけけけ、結婚!?結婚って、あの、あの結婚ですよね?!夫婦になって、結婚式を挙げる、あの結婚ですよね?!」


 興奮しすぎて若干、呂律が回らなくなっているグラウカさんの言葉に、僕は笑いながら頷いた。


「はい。そうです。と言っても、僕には誰か一人を選ぶこと何てできないから、重婚できればいいかなって思っていて、――――」


「それは、当然です!!だって、皆家族ですもん!」


 正直、男として最低なはずの僕の言葉に対して、グラウカさんは最後まで聞かずに僕の言葉に被せる様に大声を出しながら僕の手を強く握りしめた。

 涙を目に溜めながら、笑顔で泣き崩れるグラウカさんの姿を見て、僕は少しだけ胸につっかえていた思いが取れ、安堵とも救われたともつかぬ思いがこみ上げる。


 カタルシア公国を始めとする人類諸国の多くは、基本的には一夫一妻制だが、実は重婚が認められており、何人かの伴侶と一緒になる事が認められている。

 これは、『魔王軍』との戦争の中で出来た慣習の一つだ。

 最早日常とも言える程に長引く『魔王軍』との戦いの中で、人類社会は沢山の男手が兵士として駆り出され、その大半が死ぬことになった。

 その結果、一家の大黒柱を失い、残された母親は生活苦から子供を捨てなければならないことが多く、中には子供との無理心中してしまうものも後を絶たなかった。

 そこで、多くの国々が幾つかの条件付きで重婚を認めており、事実上の一夫多妻制が人類社会では多く蔓延っている。


 その条件とは、一つ目が重婚時に夫婦となるどちらかに既に子供が存在している事。

 元々、この重婚の慣習は夫を失い、子供を育てるのが難しい女性たちを思って始まったものであり、子供がいない女性との間で関係を持つことは、単なる不倫と見なされる。

 二つ目が、異性同士であること。同性婚自体は認められている国もあるのだが、同性婚による重婚は認められていない。

 三つ目が、ある程度の財産を持っている事。

 半分ほど建前だが、現実問題として複数の女性の子供を育てるのにはお金がかかる。

 その為、一定以上の財産を持っている人間に限って、重婚して複数の妻を持つことを許されている。


 これらの条件を満たしていれば、誰であっても重婚をすることができる。

 但し、これはあくまでも慣習であり、そこに立場や階級などの厄介な制約は存在しない。

 その為、中には女性が複数の男性を囲む事もあり、或いは複数の女性と関係を持つ男性の妻が、更に複数の男性と関係を持つこともざらにある。

 つまり、正式には一夫多妻制ではなく、多夫多妻制とでも言うべきものであり、恋人を作ること自体は自由にできるように成っている。

 とは言え、流石にそれは一般的な話ではなく、あくまでも許されているだけであり、爵位を持たず平和に暮らしている一般的な市民にとっては、夫一人に妻一人というのが当たり前の夫婦関係である。


 そして、貴族とは言え下級騎士の娘として一般市民的な価値観を持っているグラウカさんにとってもそれは当然な事であり、夫婦とは妻と夫が一人ずつというのが基本の筈だ。

 いや、寧ろ今まで人々の模範となる様に、自分を強く律して生きてきたグラウカさんにとって、いくら幼馴染の仲の良いパーティー同士でも、不貞とも言える重婚を許すことなんて、あり得なかったはずだ。


「……ありがとうございます、グラウカさん。僕ができる全力で、幸せにします」


「そんな……、そんな……!ふぇええええん!!!不束者ですが、お願いしますうううう」


 僕の言葉に号泣して、僕の両手を強く握りしめながら、何度も縦に首を振るグラウカさんの様子に、僕は思わず微笑む。

 すると、そんな僕を見て、グラウカさんはますます号泣していく。

 ああと、こういう場合どうしたらいいのか?泣かないでって言うべきなんだろうけど、何だか喜びに打ち震えている人にそういうことを言うのは違う気がするし、だからと言ってこのままにしておくのは忍びないし。


「ねえねえ、さっきからうるさいんだけど、一体二人で何してるの?」


「お兄ちゃん?まさかとは思うけど、グラウカ姉さんと喧嘩でもしてるの?」」


 と、あまりにも騒々しくなってきたのだろう。

 訝しげな顔をしながら僕たちのいる寝室に入ってきて、二人は泣き叫ぶグラウカさんに思わず僕を見る目を険しくした。

 そんな二人に状況を説明しようと僕が口を開けかけたその時。


「ああ、違うよ。これは」


「ふぇえええん!私達皆で結婚しますううう!シトラス君が、皆んなと、皆んなと結婚してくれってええええ!」


 グラウカさんの爆弾発言で、そこから先はてんやわんやでしっちゃかめっちゃかになった。





☆★☆★☆★☆★




 

 泣きながら話すグラウカさんの言葉を聞いて、アルバとプリムラの二人は驚愕して僕にかじりつくように事情の説明を求めたが、グラウカさんに話したことを二人に話すと、二人ともグラウカさんと同じく泣きじゃくりながらベッドに横たわる僕に抱き着き、そのまま延々と号泣し続けた。

 グラウカさんもグラウカさんで、そんな二人の様子を見てもう一度感情がこみ上げたようで、再び泣き出し始めてしまい、もう収集がつかなくなった状況に、僕はただただ三人の頭を撫でながら泣き止むの待つしかできなかった。


 それから暫くして。


「でも、なんでお兄ちゃんは私達と結婚する気になったの?今まで、ずっと私たちとはその気にならなかったくせに」


「……そうですね。それは私も気になっていました。なんで今、急に何ですか?いえ、別にうれしいことはうれしいんですけど」

 

 僕を抱きしめたまま、漸く泣き止んだアルバが鼻を鳴らしながら僕を見上げて質問すると、それに同調して泣き過ぎて鼻と目元を赤くしたグラウカさんも頷いた。

 僕はその質問に指先で軽く頰を掻くと、少し気まずい思いで今まで隠していた思いを話す。


「正直、もう、冒険者を続ける事に限界を感じていたんです。僕の作るポーションは人気も高いし、それ以外にも魔導具を作って売るだけでそれなりのお金になるし、無理して危険な仕事なんてやる必要はないのかな?って、最近ずっと思ってて。それに……」


 僕がそこで言葉を切ると、周りにいる三人のパーティメンバーである美少女達を見回した。


 義妹のアルバは、本来同時に使うには相性が悪いはずの魔術と神働術の双方を操り、天才の名をほしいままにする白魔術師だ。


 プリムラは、射手アーチャーとして百発百中の腕を持ち、その上、ハーフエルフでも珍しい精霊と対話する特殊な異能『聞き耳』を持っており、新米精霊魔法の使い手に弟子入りを志願されたこともある。


 グラウカさんは見た目とは裏腹に、剣と盾を使った剣闘式の戦いを極めており、カタルシア公爵家からは一度正式な騎士としてスカウトされたこともあるほどだ。


 三人とも、冒険者としてだけじゃなく、とても優れた才能を持つ人たちだ。

 実際、僕達の冒険者パーティーである『青い流星』が最上位階級である特級までのし上がれたのも、この三人の力があるが故のことである。


 そんな三人に対して、僕は———————


「はっきり言って、僕は弱い。魔力の量は低くて、武術や剣術も得意じゃない。神様からの加護を得ている訳でも無ければ、何かしらの異能を持って生まれたわけでもない。今まで僕が出来たのは、冒険者として偵察と情報を集めるくらいのことだけだ」


 ドルイドの秘術と神働術の使い手である『神聖魔女』のアルバ・レモングラス。

 精霊の加護と弓の腕前を駆使して『神速の射手』と呼ばれたプリムラ・ベルベデーレ。

 公国でも屈指の腕前を持つ剣士である『黄金の剣闘姫』グラウカ・ランドスケープ。


 そんな煌びやかな二つ名を持つ三人に対して、僕に着いたあだ名は「永久雑用」という身もふたもない言葉だった。


 別にそのことをどうこう言うつもりも、そういう自分を恥じるつもりも、悔いるつもりも一切ない。

 たとえ雑用という形でも、少しでも彼女たちの役に立つということは、僕にとってはこの上ない喜びだったし、何より、彼女たちと一緒に居られることが嬉しかった。


 ただ、それでも。


「僕の実力で、これ以上特級冒険者として活動することには限界です。『永久雑用』である僕には、もうみんなの力になれません」


「そんなことは無い!」


 僕の宣言に対して、間髪入れずに断言したのはプリムラだった。


「シトラスは、いつも夜遅くまでお金の管理をしたり、ポーションを作ったりして私たちが活躍できるように陰で色々と頑張ってたじゃない!それに、シトラスがいるだけで私はいつも以上の力を引き出されるんだよ?だから、そんな悲しいことは言わないでよ。シトラスは立派な私たちの仲間だよ」


 今まで静かに僕の話しを聞いていた一息にそういうと、その言葉にグラウカさんも頷いた。


「プリムラちゃんの言う通りです。何も、同じ戦線で剣を振ることだけが共に戦うということではありません。私たちが今までシトラス君に助けられたことはゆるぎない事実です」


 グラウカさんの言葉に、プリムラも、アルバも頷いた。


 ただその言葉が嬉しくて、僕は思わず涙ぐんだ。


 ……優れた才能を持つ三人と違って、特に何かに秀でたものを持っているわけではない僕は、とにかくできることを増やすしかなかった。


 父さんから継いだ魔導具制作や、魔導薬ポーションの腕前を鍛えた。

 それだけじゃ足りないと思って、探索や偵察の腕前を鍛えた。

 皆が戦いやすくなるように、依頼達成の為の作戦を練ったり、皆が不足なく戦えるように予算の管理をして、お金の計算を覚えた。

 戦いに疲れた皆を少しでも癒せる様に料理を頑張ったし、荷物持ちや掃除、それ以外の雑用全般は僕が背負い込んで、皆が気持ちよく働けるように万全の状態を整えらえるように苦労した。


 何だかそれら全てが報われた気がして、救われた気になる。


 僕は、胸の奥からこみ上げる熱い涙をこらえながら、三人にお礼を言う。


「ありがとう。……それしか言葉が出てこないよ」


「改めてお礼を言われると照れますね。それよりも良いんですか?シトラス君。冒険者を辞めれば、当然、研究に費やすお金が減ります。それに、実験の為の素材集めも冒険者をやっている方が手に入りやすいって常々言っていましたけど、そう言うメリットも無くなるんじじゃ?」

 

「確かに、研究費用については少し考える必要があるかもですけど、素材集めに関してはそこまで悲観していません。冒険者を辞める事にはしましたが、冒険者の資格が無くなる訳じゃありません。確かに、今までよりは手に入りにくくなるかもしれないですけど、一応、これでも偵察と採取は得意な方なんで」


 涙が流れそうになるのを誤魔化す為に下手くそな冗談を口にした僕を見て、三人はいたずらっ子の様に顔を見合わせると、くすくすと小さく笑いながら僕の言葉にうなずいた。 


「そうね。そうやって、お兄ちゃんはいつも臆病で隠れて私たちに助けを求めるくせに、なんだかんだ頑張ってくれるのよね。そういうところが大好きよ」


「うん!何よりも、ご飯がおいしくて、頭が良くて、そして何よりも、誰よりも優しいんだ!そこが一番シトラスの良いところだな!」


「そうですね。そうして、いてほしい時にいてくれて、どんなものでも作れていて、何でもできる人です」


 三人から急に褒められて、僕は少し複雑な心境になって曖昧な微笑みを浮かべた。


 実際のところ、僕はアルバやプリムラ、グラウカさんに対して、恋愛感情を抱いているのかと言えば、首を傾げる所だった。


 アルバは大切な妹だし、プリムラももう殆ど家族みたいなものだ。グラウカさんだって、本当の姉の様に慕っている。

 でも、僕は彼女たちに対して、好きだとは思ってもそれ以上の、何と言うか、人生を懸けても良い様な熱く煮え滾る様な思いというのが抱けずにいる。

 僕だってバカじゃない。三人の僕に対する気づかいが他の人間と違う事も、其の理由もおおよそ見当は付いている。

 今までの僕は、そんな三人からの気持ちに対して、敢えて真正面から向き合わずに答えを濁すようにしてきた。


 本当の気持ちを言えば三人が僕から離れるような気がしたから。


 ただ、冒険者を続けることに限界を感じて、引き際を感じた時に思ったのは、「それでも一緒に居たい」という思いだった。


 やっぱり三人とはこのままずっと一緒に居たいし、出来るならこのまま家族でありたいと思っている。


 

 これは恋ではないのかもしれない。愛でもないのかもしれない。ただの都合のいい男のわがままなのかもしれない。

 それでも、僕は三人のことが好きで、ずっと一緒に居たいと思った。


 だから、これは僕のケジメだ。


 僕はアルバとプリムラとグラウカさんの三人と結婚して、これから本当の家族として一緒に暮らす。




 

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