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殺すなら、今ここで殺しなよ。余計な能書きは要らない。


「へえ、バレちゃったんだ。意外に早かったね」



 そう言うと僕は、警戒心を露わにするお兄さん達に向かって、滔々と僕の使う魔術の解説を始める。


「そうだよ。僕の使う魔術である、『漆黒迅雷』と『輝炎万丈』は、お兄さんの言う通りの魔術だ。先ほど僕があれだけの量の爆炎の中で無事だったのは、爆炎の起こした焔や風を『輝炎万丈』で吸収しつつ、『漆黒迅雷』で弾いていたからだ」

 

 別に舐めていた訳じゃ無いが、それでも思っていた以上にこの世界の人間は勘が鋭く、頭の切れる人間が多いらしい。

 まさか二人殺しただけで、ここまでしっかり僕の作った魔術の効果を暴かれるとは思わなかった。

 もうここまでバレてしまった以上、ある程度は手の内を晒してしまった方が良い。

 そちらの方が僕から罠にかける事ができる。

 なので、僕はもう少し突っ込んだ話をしてお兄さん達の注意を引くことにする。


「ちなみに、『漆黒迅雷』の効果で地中や大気中に存在している静電気を一斉に引き寄せると、疑似的に雷の様な現象が起こすことができるし、『輝炎万丈』も取り込んだエネルギーの熱量によって実際の炎と同レベルの熱を発することもできるから、必ずしもこの雷や炎も見掛け倒しってわけじゃないんだけど、魔術自体の本質ではないね。それで?」


 と、そこで言葉を切った僕に、参謀格のお兄さんが反応する。


「それで?とは、どういう意味だ?」


「それで?お兄さん達はここからどうやって僕に対して巻き返しを図るんだい?これからどうやって僕を倒すつもりか、聞いても良いかな?」


「……そう聞かれて、おとなしく答えると思うか?」


「別に話したくなきゃ話さなくていいよ。ただ、今の内に話しておいた方が、他のお兄さん達の延命になると思ってね」


 言うや否や、僕は『漆黒迅雷』を起動させて、参謀格のお兄さんから最も離れた場所にいるお兄さんを捕らえる。

『漆黒迅雷』の磁力によって引き寄せられたお兄さんに僕は刀を叩き込むが、流石に二度も三度も剣を合わせていれば太刀筋に慣れるのか、打ち込まれた剣は防がれる。

 だが、『漆黒迅雷』の磁力に捕らえられたお兄さんは、既に体の自由が利かなくなっており、僕は自由の利かないお兄さんにとどめを刺そうと、再び『漆黒迅雷』を発動させる。


 その瞬間だった。


「魔術攻撃だ!なんでもいい!とにかく撃ち込め!」


 参謀格のお兄さんその言葉と同時に、僕に向かって多数の魔術攻撃が降り注ぎ、僕は軽く舌打ちしながらその攻撃を受ける為に『輝炎万丈』を発動させる。

 僕に向かって飛んできた魔術攻撃は、途端に蒼い炎によって魔力へと分解され、僕の右手に収まっていく。

 咄嗟の防御に魔術を使ったせいで、『漆黒迅雷』で捕らえていたお兄さんは逆に逃がしてしまい、僕は一度体勢を立て直す為にお兄さん達から距離を取る。

 だが、それはお兄さんたちにとっても同様であり、参謀格のお兄さんは僕から距離を取ると同時に、他のお兄さん達に向かって鋭い声で指示を出す。


「別にこの男の戦闘のペースに付き合う必要は無い!強力な魔術にはその分、強い制約がつくものだ!

こいつの魔術の場合は雷には効果範囲、炎の吸収の場合は回数制限が付く!遠巻きにして雷の攻撃を避けつつ、炎の強化攻撃を耐え凌いでいけば自ずとあいつの隙ができる!そこを叩けば、勝てる筈だ」


 仲間を鼓舞して僕を睨みつける参謀格のお兄さんに、僕は薄く笑いながら言う。


「それだけだと正確性に欠くね。お兄さんの知りたい情報を補足してあげるよ」



✰✰✰




「それだけだと正確性に欠くね。お兄さんの知りたい情報を補足してあげるよ」


 参謀格の男の分析に対して、キヘエはそう言った。

 その言葉の意味を計りかねて怪訝な顔をすると、キヘエはにっこりと笑いながら自分の左手を前に出して、自慢げに自分の魔術に対する説明を始めた。


「僕の作った二つの魔術は、二つともいくつかの効果を同時に持つ。

 僕の左腕の魔術『漆黒迅雷』であれば、目標物を弾く能力と、逆に引き寄せる能力。

『輝炎万丈』は敵の攻撃のエネルギーを吸収する能力と、それを僕自身の戦闘力に変換する能力。

 共通している弱点として、どちらか一方の力しか使えない。という弱点がある。

 つまり、『漆黒迅雷』であれば、敵の攻撃を弾いている間は、敵や獲物を引き寄せることができない。

 もう一つの弱点である効果範囲が決まっていると言う事は、お兄さんの指摘した通りだ。今のお兄さん達の位置取りでいられると、魔術の効果は及ばない。

『輝炎万丈』も同じだが、より正確に言うと、魔力の吸収限界があるんだ。大体、そうだね……。お兄さん達の使う魔術だと、五回から六回が吸収できる限度かな?それだけ魔力を吸収すると、一度魔術を発動させて魔力を発散しないと腕が内部から爆散してしまう。結構な諸刃の剣なんだよね」


 キヘエの言葉で、参謀格の男には解けそうで解けなかった謎が解けたもどかしさが解消され、瞬時にキヘエに対する対抗策が湧き上がる。

 だが、それと同時に、一つの疑問も頭の中をよぎる。

 魔術の効果についてまでならばともかく、何故弱点まで教えるのだろう。


 と、


 

「さて、お兄さんはこう考えている事だと思う。『魔術の効果だけならばまだしも、何故弱点までも教えるのだ?何の意味があるのだ?もしかして、こいつは弱点を語る事で私達を騙そうとしているのか?』と」


 そんな参謀格の男の心情を察した様に、魔術の説明は終えたキヘエは言葉を切ると、悪戯を企む子共の様に微笑みながら左手の人差し指を立てる。


「だが、僕はそこでこう考える。『お兄さんがそう考える以上、僕の弱点は嘘だと思われることになる。更に言えば、そもそも僕の魔術の弱点が本当かどうかを確かめる為には、わざと犠牲や代償が出すことになる。つまり、この状況で弱点を責められることはない』と」


 その言葉で、参謀格の男は思わず舌打ちする。


「……心理戦の先手を取ったつもりか。随分と余裕のある真似をしてくれることだな」


 もしもキヘエが真実を話しているのなら、参謀格の男が取るべき策は一つだけだ。

 遠距離から多数の魔術攻撃を仕掛けることで、キヘエを体内から爆散させる。

 これが現状でほぼ唯一のキヘエに対する必勝法になる。

 だがキヘエが嘘を言っていた場合、キヘエは多数の魔術攻撃を受けることで、大量の魔力を吸収する事になる。

 それは、男達の手でキヘエをわざわざ強化すると言う事であり、この状況では殆ど自殺行為ということになる。


 キヘエの施した単純だが、この状況では鬱陶しいことこの上ない心理的な罠に、思わず奥歯を噛みしめる。

 ただでさえ強い男が、厄介なことをしてくれる。そんな忌々しい思いを込めてキヘエを睨みつけると、キヘエは楽しそうにくすくすと笑い声を漏らしながら、参謀格の男に言う。


「そう言う事だよ。どうだい?単純だが、いざやられると結構きついだろう?本当か嘘か、二者択一で作戦を練らなければいけない。一瞬の判断が、全てを分ける。

 どうだい?お兄さんの判断で何人死んで、お兄さんの決断でどれだけ生き残れるか。賭けにするには、悪くない内容だと思わないか?」

 

 心底から楽しそうにそう言うキヘエの姿は、悪意に満ちた悪魔というよりも無邪気な子供のように見えたが、それがますます男の感情をかき乱す。


 悪趣味め。参謀格の男は吐き捨てるようにそう言うと、キヘエに向き直る。


「どこまでも人を舐め腐ったガキだな。良いだろう、その賭けに乗ってやる。だが、その賭けに勝つのは俺達で、死ぬのはテメエだけだ」


 参謀格の男は言うやいなや、部下の男達に鋭く指示を飛ばす。


「構うことはない!奴の言っている事は真実だ!ありったけの魔術を撃ちこんで、内部から爆散させてやれ!」






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