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上司の貴方が格好つけなきゃならないじゃないか。


「舐めた真似をしてくれるじゃないか。格と力の差というものを教えてやるよ」


 そう言って、僕は左手を握りしめる。


 次の瞬間、僕の左手の黒雷に向かって無数の電流が迸り、その雷に巻き込まれる形でお兄さん達の内の三、四人ほどがその場に倒れる。


 そして僕は、()()()()()()()()()()()を、右手の蒼炎によって受ける。


 瞬間、雷を受けた右手の蒼炎は、今までの二倍の大きさに燃え上がり、僕は蒼い炎の燃え盛るままに右手に握った刀を振るう。


 そして、僕の無造作に振るった剣は、膨大な量の風圧となって燃え盛る森の中で暴れまわり、夜の闇を燃やしていた森の炎を消し飛ばした。


 その姿を見たお兄さんたちは驚愕で目を見開き、参謀格のお兄さんは愕然とした表情で言う。


「剣圧だけで、あれだけの炎を、いや大気を斬ったのか?!」


 茫然としているように僕に向けて言いつつも、参謀格のお兄さんは抜かりなく今の攻撃で倒れたお兄さん達への治療を行わせていた。


 倒れたお兄さん達を庇いつつも僕に対する隙は見せずに、適格に今居るお兄さん達に陣形を指揮する参謀格のお兄さんは、いい性格をしていると思う。


 僕はそんなお兄さん達に向けて小さく笑いつつも、右手だけで刀を構える。


「別に大したものじゃない。これが僕の使う魔術の効果だ。種を明かせば、ガタガタ騒ぐようなことじゃないだろう?」


「……余裕だな。種明かしというのなら、もう少し詳しく話をしてもらいたいものだが」


「はは。絶対にマジシャンに言っちゃいけない言葉だよね、それは。そんなに知りたかったら自分で当てなよ。尤も――」


 僕は参謀格のお兄さんに向けてそこで言葉を切ると、再び左手を握りしめる。


「それまでに生きていられればの話だけど」


 僕のその言葉と同時に、今度は僕を襲い掛かろうと背後に回っていたお兄さん達が勢いよく吹き飛ばされる。


 僕はそうしてお兄さん達を吹き飛ばしたと同時に、態勢が崩れて隙を見せたお兄さんの一人を左手を握りしめて引き寄せると、その勢いのまま右手に握った刀を勢いよく横薙ぎに振るう。


 強化された僕の腕力と合わさって、お兄さんの胴体は真っ二つに切り分けられ、臓物と血がまき散らせながら吹き飛ぶ。


 そうして一人殺した僕は、そこでふと気になった数を数える。


「……全体の数が十五人から二十人。間を取って十八人として、僕が殺した少年兵が六人。今ので確実に一人消した。さっきの雷で、四人倒れて、うち一人が戦闘復帰可能として、今戦えるのは八人か」


 指を数えながら言った僕は、そこで思い立ったことを言う。


「戦闘開始をさっきの街中でのやり取りを含めても二十分くらいか。…………後々のことも考えると、少しばかりペースを上げたほうがいいね。これから少しばかり本気でやろうか」




 ✰✰✰✰✰



「戦闘開始をさっきの街中でのやり取りを含めても二十分くらいか。…………後々のことも考えると、少しばかりペースを上げたほうがいいね。これから少しばかり本気でやろうか」


 キヘエの言葉を聞いたその瞬間、参謀としてチームを纏めていた参謀格の男は、背筋に怖気が走るのを感じ、咄嗟に未だに地面に蹲るリーダー格の男の盾となって、防御魔術を張る。

 チームの人間も同じように咄嗟に防御魔術を張るが、中には一瞬魔術を張るのが遅れてしまい、雷に打たれてしまう者が出る。

 そうして黒焦げになって動けなくなった男にキヘエは静かに近寄ると、そのまま慣れた動作で死体の首を切り落とした。


 まるで慈悲もなく、淡々とした作業の様にあっさりと仲間を殺された参謀格の男は、一瞬、地面に蹲るリーダー格の男に向かって何かを言おうと口を開きかけたが、蹲る男の様子を見た瞬間、それを思いとどまった。


 そこにいたのは、少年兵のバラバラになった頭部を抱えて嘆く男の姿ではなく、血が滲むほどに唇を噛み締めながらも、キヘエという強力な敵を睨みつける戦士の姿だった。




 そこで理解する。




(……まだ、何も諦めていない。まだ、戦う気力はあるのか)


 そう思った瞬間、不意に男の思考が理解できる。


 リーダー格の男は、この部隊の中でも一番腕の立つ戦士であり、今彼が戦っていないことはチーム全員にとって相当な負担になっている。

 逆に言えば、部隊最強の男を温存している状況でもある。


 つまりは、ここで戦力を温存しておき、少しでもキヘエが疲弊するか、弱点か隙を見せた瞬間に襲い掛かる算段なのだろう。


 一度その手に引っかかっているキヘエに対して、その手が通じるかどうかは疑問があるが、少なくとも真正面から戦っている今の状況で押されていることを考えれば、分が悪くても賭けに出るしかない。


 ならば、部隊の参謀を担当する自分がやるべきことは、ただ一つ。


 ここで、キヘエの操る魔術のカラクリを暴き、少しでも有利な状況を作って、キヘエを倒すことのできる隙を作ることだ。


 参謀格の男がそう思うと同時に、左手を握りしめたキヘエの黒雷が雷を引き起こす。

 

 それを見て、不意に男の頭に疑問がよぎる。


(奇妙だ。何故、キヘエは雷では攻撃するくせに、あの青い炎で直接攻撃しない。おそらくはあの焔を防御に使っているのだろうが、何故わざわざ炎を防御に使用する?


 その瞬間、参謀格の男の脳裏に典型の様な閃きが起こる。


(違うのか?あいつの操る魔術は、単に雷や炎を操ったり、その力を使うことでは無いのか?)


 キヘエの様子を見ると、時折り爆炎や、氷塊、電撃などの攻撃魔術が飛ぶが、それらの攻撃をキヘエは全て右手だけで防ぐと、キヘエの右手の炎は大きく燃え上がる。


 キヘエは右手に宿る青い炎が大きくなるたびに、右手に握った刀を振るい、大気すら斬る一撃を持ってチームの人間をまた一人切り倒す。

 そうして刀を振るうたびにキヘエの炎は小さくなり、そしてキヘエは再び右手で魔術の攻撃を防御する。


 それを見た瞬間、参謀格の男は、キヘエの魔術のカラクリを理解する。




「全員、攻撃止めろ!!魔術攻撃は彼奴には、効かん!!これ以上、攻撃を続けても何一つ意味は無い」




 そう怒鳴り声をあげた途端、今までまるで悪魔の様に無邪気に刀を振るっていたキヘエが、初めてその動きを止めた。


「奴の、キヘエの作った魔術は、黒雷と蒼炎の効果は、見た目通りの炎や雷を扱う魔術じゃない!

 蒼炎は、魔術による攻撃や、雷、炎などのエネルギー系の攻撃を受けることで、そのエネルギーを吸収して戦闘能力に変える魔術で、黒雷は、磁力の様に、術者が引き寄せたいものを引き寄せたり、逆に弾くことのできる効果の魔術だ」


 男がそう言うと、暫く男の解説を聞いていたキヘエは、静かに笑って言う。







「へえ、バレちゃったんだ。意外に、早かったね」






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