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オレを生かしていたらお前ら後で一匹ずつブチ殺してくれてやるよ

 投稿遅れてすみません。

 最近、この作品にばかり集中していて、あんまりほかの作品書いてねえなあと思い、他の作品の執筆にも取り掛かっていました。




 スラム街からの帰り道に見つけた、人さらいの様な集団を見つけた僕は、そこでその人さらい集団の前に出ていくことはせずに、とりあえず一部始終を見守ることにした。


 正直な話、正義感に似たものが多少刺激されなかったわけでは無いが、それ以上に危機感と警戒心の方が強く働いたからだ。

 何しろ、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()、ギャングやマフィアの様な犯罪者を見たことがないからだ。

 だから、僕が知らない犯罪組織が出ていると言う事は、明らかに僕以上の何かしらの異常な力が働いていることは確かだ。

 とりあえず、何となく盗賊っぽいお兄さん達の服装と様子だけを覚えて、後日、ゆっくり、じっくりと調べきだろう。

 そう思った僕は、目についた人さらいたちの特徴を覚えようと、人を詰めたズダ袋を荷馬車の中に積み込み始めている盗賊たちの様子を窺っっていたのだが、そこで妙なことに気付いた。


 暗がりではよくわからないが、彼等の動きは嫌に統制が取れており、着ている服装はどこかスラム街特有の着古したボロ服の様な印象を受けなかったからだ。

 それに、彼等の話している言葉は、荒々しいくせにどこか悪ッぽさを強調したような口調であり、話し馴れない言葉を無理に話しているような、そんな印象を受けずにはいられなかった。


 ……もしかすると、彼等はスラム街の人間ではないのかもしれない。


 だが、だとすると、彼等は一体何者なのか?そう思った瞬間、ある閃きが僕の頭の中に過り、その可能性の余りの事実に思わず口元を覆ってしまった。


 これはもしかすると、もしかするかもしれない。




 もしかすると、








 五十嵐・尚高を殺すことのできる機会が、巡り回って来たのかもしれない。





 そう思うと、指で押さえた口元が、笑みの形に歪んでいるのを僕は抑えきれなかった。




 だとすれば、善は急げだ。



 僕は思うやいなや、手にしていた荷物をその場に置いて、喜びで震える手と、笑みに歪む口元を深呼吸して押さえると、人さらいのお兄さんたちの前に出て、威勢よく声をかける。


「申し訳ないが、そこまでにしておいてくれないかなあ?人さらいのお兄さん方。一応、この辺りで過ごしている身の上としては、そう言う犯罪を見過ごすわけにはいかないんだよ。こう見えて、この街の顔役も務めている事だしね」


 そう言って、町の暗闇の中から、僅かに差し込む月明かりの中に出てきた僕を見て、人さらいのお兄さんたちは一瞬だけ怪訝な顔をしたが、すぐに弾かれた様に大声で笑いだし始めた。


「おいおいおいおい。どういうつもりだよ!威勢よく出てきた割には、ガタガタと震えてるじゃねぇか!」


「はははは!どうしたのかなー?そんなに怖がって?早くお母さんの所に帰った方がいいんじゃないかなー?」


 あー、これは本気でバカにしてんなぁ。とは言え、そんな彼等の言葉を一概に否定できない事が悲しい所だけどね。


「……うーん、まあ武者震いのつもりではあるんだけどね?ただまあ、怖いというのも嘘じゃないから否定はできないかな?」


「あ?怖い?何がだよ」


「いや。嬉しすぎてね、怖いんだよね。だって」


 怪訝な顔をするお兄さんに向かって、僕は頭を掻きながら本心を言った。







 ―――――――殺したい奴を殺せるかもしれないんだから








 そう言った僕の表情が一体どういう物だったのか、それは知らない。


 ただ、僕がそう言った瞬間、今まで身震いしていた僕を嘲笑していたお兄さん達が、突然に気圧されたように真顔になって武器を構え、全員体を小刻みに振るわせながら僕を取り囲んだ。


「おい……。こいつに加減はいらねえ。全員、全力を出して殺すぞ」


「ああ、元よりそのつもりだ。……元々、そう言う目的だしな」


「悪いが勇者さんよ、恨むんなら今夜俺達と逢った不運を恨むんだな」


 僕に向けて油断なく、というよりもむしろ怯えたように剣を握りしめ、その切っ先を向けるお兄さんたちの姿に、流石に僕もショックを受けて苦笑する。

 その態度だと、まるで僕が勇者ではなく、悪魔かなんかの様に見えてしまうじゃないか。そっちが勝手に呼び出して、喧嘩を売ってきたのもそっちのくせに、何だかひどいなあ。

 だが僕は、そういうことは口に出さず、そんなお兄さん達に向けて静かに口を開く。

 

「……先に言っておく。僕の得意とする魔術は治癒魔術だ。特に、土魔術系統の治癒魔術が得意でね。広範囲に向けて掛ける範囲治癒エリアヒールは僕の得意技だと言ってもいい」


「へえ……?それが、どうしたよ?」


 心底、僕の言っている事が理解できないという様に怪訝な顔をするお兄さんに、僕は薄く笑って答える。


「分からないかい?もうお兄さん達は負けている。と、言っているんだ。より分かりやすく言えば、『降伏すれば、命ばかりは助けてやる』と、言えばいいのかな?」


「……上等だ。この人数相手に喧嘩を売れる度胸だけは褒めてやる」


 そうして、一斉に僕に向かって襲いかかって来た。






 だが、残念。






「……癒せ」


 僕のその一言で、お兄さん達は全員僕の足元に倒れこんだ。


「……な、ん………で、……何、…………?」


 呼吸を荒くしてその場に這いつくばったお兄さん達を見下ろして、僕は静かにその疑問に答えた。


「過呼吸って、知ってる?簡単に言うと、呼吸が激しくなりすぎると逆に空気が吸えなくなることを言うんだけど、普通はものすごく激しい運動をした時か、途轍もない緊張をした時に起きるんだ。けれども、治癒魔術を使うと、この過呼吸を人為的に引き起こすことができるんだ。

 具体的には、お兄さんたちの心臓の鼓動と呼吸数を一気に二倍くらいに引き上げた。それだけでも案外苦しいもんだろう?」


「……あり、えねえ……。治、癒魔……術で、こんな……」


「……治癒魔術の事を少し誤解しているようだけど、別に治癒魔術は人の身体を治す魔術じゃないよ?……そうだなあ。強いて言えば、毒と薬、というか病気と健康のようなものかな?」


 そう。この世界に来て初めて気づいたことだが、治癒魔術や回復魔術と呼ばれる魔術は、決して人の命を助ける為に使われるような、そんな崇高なものでは決してない。


「いいかい?極論すれば、治癒魔術と呼ばれている魔術の全ては、『生物の体や生命の状態、状況を変異させる魔術』の総称に過ぎないんだよ。健康と呼ばれる肉体の状況に異常が起これば、怪我や病気と呼ばれ、怪我や病気と呼ばれる肉体の状況に変化が起これば、健康と呼ばれる。ただそれだけにすぎない。

 そして治癒魔術は、人の肉体や精神に対して状態の変化を引き起こすことができる魔術だ。もしもそれを健康な人に使えば、当然、今の様に健康な状態に異常が生じる」


 そう、どんなものでも悪用しようと思えば幾らでも悪用できる。

 この世界の人間は数千年にもわたって魔族と戦争をしてきたらしいが、そんなことにも気づけなかったとは、どうやら彼らの言う戦争は随分とぬるい物らしい。

 平和ボケした国から来た僕に言われちゃ世話ないね。


「言い換えるなら、治癒魔術とはただの道具だ。刃物や鈍器、金なんかと一緒だ。

 調理器具や大工道具として使えば人を幸せにすることができ、寄付金として他人を幸せにすることもできるが、武器として使えば人を殺し、金に物を言わせて人を支配することもできる。

 治癒魔術も同じだ。支援魔術として使えば苦痛を和らげ、死から救うこともできるが、拷問に使えば、殺すことなく苦痛を与え続けることができ、人が想像できる最悪の死に方を生み出すことができる」


 僕は講釈をたれながら、ゴミ箱替わりにスラム街の一角に置かれている空になったビール樽をひっくり返して椅子代わりにすると、その上に座って地べたに這いつくばったお兄さん達を見下ろした。


「恨むんなら今夜俺達と逢った不運を恨むんだなって、言ったよね」



 

 スラム街の闇の中に輝く月が、まるでスポットライトの様に僕を照らす。


 いい気分だ。実にいい気分だ。今夜は本当に、最高の気分だ。




「……そのセリフは、そっくりそのままお返ししよう。恨むんなら、今夜僕に遭った不運を恨んでくれ。お兄さん方」




 僕はその気分のまま、口元に笑みを浮かべて言う。


 さあ、今から尋問の時間だ。


 

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