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僕はどこで道を間違えたのだろう

 正直、プロットの段階では、この話の後1、2話かけてシトラスくんを出す予定だったんですが、僕の中で喜兵衛がビックリするくらい暴走し始めて、此処からさらに長くなりそうです。

 プロットを練り直して、この話含めて一から練り直すかもしれませんが、とりあえず今のところはこの路線で行くつもりです。


 夕暮れの太陽が差し込む頃、展望台に向けて眩しい黄金色の光を落す頃、僕は魔術についての研究と訓練を終えて魔導書を抱えて家路につく。


 この世界でもそろそろ夏に入る時期らしく、日に日に太陽の落ちる時間は長くなっているのだが、気温の方は未だに春の気配を色濃く残しており、夕暮れから夜にかけては少し肌寒い。

 とは言え、それも体を動かしていれば忘れられるほどであるし、時おり見かける花花は枯れ始めた中にも新たな蕾をつけ始めており、恐らくこれがこの世界の季節の移り変わりなんだな。と、僕に実感させ始める。

 急激に温度の上がり始める異常気象の様な地球世界とは違って、緩やかに季節の移り変わりを感じていると、日々の変化がいつの間にか大きな変化に成長しており、それを眺めるのは何気に一日の楽しみであったりする。

 体は健康体でも、季節の変わり目には弱くて風邪をひきやすい僕にとって、徐々に体がその変化に馴れる様に夜が過ごしやすくなるこの世界は、その点に限って言えば日本にいた頃よりも快適である。


 そうした夕暮れと夜の間の街を歩く僕は、何時ものように自分の部屋に向かって路地裏の中に入り、そこで少し入り組んだ街の裏側へと足を踏み入れる。


 すると、面白いことに、今まで綺麗な町並みで覆い隠されていた場所の裏には、泥だらけの石畳で舗装されていない黒土の剥き出しになった地面や、薄汚れた壁に積み重なったゴミの山。


 まさに、まごう事なきスラム街だ。


 そんなスラム街の一角に座り込んだホームレスの様に薄汚い恰好をした爺さんに近づくと、その爺さんは偏屈に僕に向かって鼻息を鳴らして僕に悪態をついた。


「よう、にいちゃん!今日も来たんか!毎日暇人で物好きなこったな。今日も又、何時も見たいに俺達を実験動物に使いに来たんか?」


「やあ、マックの爺さん。何だい、まだ生きていたのかい?残念だな、死んだら今日こそ魔術の実験体に使ってやろうと思っていたのに」


「かー!酷い奴だな。毎日毎日テメエの実験の為に俺の部屋を使わせてやっているのに、そんな言い草をしやがって!お前の所為で、俺は毎日毎日寿命が縮んじまっているって言うのによー!死んだら、死体まで使いやがるって言うのかよ?お前さん、本当に人間の血が通ってるんか?」


 スラム街とは言え、公道の往来というにも関わらずに僕を痛烈に罵倒し、そんなマック爺さんの言葉に内心肩を竦めながら、僕はいつものようにマック爺さんに頭を下げる。


「安心しなって、死体はきちんと埋めてやるからさ。それよりもさ、いつもみたいにマック爺さんの部屋を使わせてもらえないかな?」


「ふん!ま、使うなら使いな!俺の部屋をいつもいつも好き勝手に使いやがって、いつか金はとるからな!それは忘れるんじゃないぞ!」


 その言葉と同時に、僕はマック爺さんの家のドアを開けてその中に入り込むと、すぐさまにスラム街に住んでいる女子供が僕の入った部屋に向けて騒然となって詰め寄せてきた。

 うーん。これが僕のファンとかモテ期とかならすっごくうれしかったなのになー。人妻とかもたくさんいるんだから、一人くらいはそうなってもいいと思うのに。


 そんな僕の気持ちとは裏腹に、僕の元に詰め寄せる人々は切羽詰まった声を上げて、僕に助けを求める。


「先生、すみません!この子が、昨日から熱を出してちっとも熱が下がらないんです!」


「先生、この子が今日頭を打って大けがしてしまって助けてください!」


「先生、この前先生に処方された薬が切れてしまったんです!」


 正直、患者にはそんなに一気になだれ込んできてほしくはないのだけれど、僕自身そこまで長くこの診療所を開けている訳でもないから、彼等が慌てふためくのも分からないではない。

 僕はそんな住人の前で一度大きく手を叩くと、住人が静かになるのを待ってから、大きく口を開いた。


「まあ、まずは落ち着いてくださいよ。落ち着いて話をしてくれなければ、僕だって治せるものも治せません。まずは、病気の子は後回しです。怪我の方が一分一秒を争う。次に、薬の処方は最後にします。それでは皆さん、順番を待ってレッツ治療ヒール!」


 このスラム街では、僕は唯一の医者ならぬ、癒者ヒーラーとして夕方の六時から夜の十二時まで活動している。勿論、ボランティアだ。一文にもならない癖に、女にもモテない。なのに何でやってんだって話だけど、それはもうひょんなことからとしか言いようがない。


 正直、こんなことになるつもりは無かったんだけどねえ。




 ★★★★★




 そもそも、僕がこのスラム街に足を不見れた理由は、端的に言えば魔術の実験台を探す為だった。


 ま、簡単に言えば、犯罪者相手にならば何をしても許される理論で、とりあえず喧嘩を吹っかけてきそうな悪そうなお兄さんにいちゃもんを点けられて、その後僕の使える魔術でボコボコにしよう。と言う事だ。


 この目論見は半分成功した。


 僕の考えた通り、スラム街に入るなり、僕は悪そうなお兄さんに絡まれてしまい、躊躇なくその当時から研究していた土魔術系のありとあらゆる魔術でボコボコにして、僕の最低限の実力とそれがどの程度の力を持っているかをはかり知ることができた。


 だが、そこから先が僕の想定したことを超えていた。


 実は、悪そうなお兄さんをボコボコにすることに成功した僕は、そこで悪い癖が出てしまった。


 当時、僕は土魔術系統の治癒魔術と、錬金術を中心に魔術を研究していた為、魔術によって人を治す方法をとことんまで調べようと思い立ってしまった。




 

 そこで僕は、ボコボコにした悪いお兄さん達を治癒魔術を使って治した後、再びボコボコにして治癒魔術で治療した。





 その時に、ついでに炎魔術や水魔術、更には風魔術や雷魔術などの魔術や、それらの系統に伝わる治癒魔術を試せるだけ試したので、僕は割とこの段階で治癒魔術の達人になったと思う。


 そしてそんな僕の行いを、周囲のスラム街の人間達は見てしまっていたわけだ。


 その日の僕は、とりあえず悪そうなお兄さんを五人ほど、大体二十回くらい全身バラバラにする度に治して帰ったのだが、次の日に僕がまた同じようなことをしようと顔を出すと、スラム街の子供の何人かが僕に家族の病気を見てほしいと訴え出てきた。


 子供の言う事だし、仕方なく見てあげたのだが、それがどうもスラム街の人々にとってはお人好しに映ったらしい。正直、前日に全身バラバラにされても殺さずに痛め続けた暴漢を相手に、図太い神経を発揮するなんて、随分と此処の人達は危機感が薄い物だなと思う。

 ともあれ、その出来事が切欠となり、その日からスラム街中から後から後から病気を治せだ、怪我を治せだとどこからともなく患者が湧き上がって来たので、片っ端から相手したらいつの間にかスラム街の癒者ヒーラーとして街の顔役になってしまっていた。


 勿論、この町に住んでいる人間が金なんて持っている筈も無く、とは言え、完全ボランティアでこんな激務をやるのもバカらしいので、代わりに別のもので支払ってもらうことになる。

 マック爺の部屋を診療所として使うことになったのもそのうちの一つで、マック爺の家を診療所として提供してもらう代わりに、僕の魔術の研究所及び実験場としても使用させてもらっている。

 他にも、魔物の素材集めや、標本採集、魔術研究の助手集めなど、労働力やその他のサービスという形で報酬を受け取ることにしており、完全無休というわけではない。

 ちなみに、この街で僕は童貞を捨てている。いやあ、女って良いもんだ。特にピロートークっていいね。超楽しい。将来、爛れた恋愛しかできなさそうで怖くなるよ。


 とは言え、治癒魔術の実験台以上の報酬を今までに受け取ったことはないので、基本はやっぱり完全に赤字である。

 

 全く。本当に何でこんな得にもならないことをやっているのやら。



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