今はただ一つの事に集中する時だ。それをする為に自分が生まれて来た
前話に続いて説明回。
今回は魔術についての説明回。
ついでに次話も説明回。
そもそもこの世界で言う魔術と言うのは、単純に『魔力を使って不可思議な現象を起こす』ことでは無くて、『魔力と呼ばれるエネルギーを聖魔文字という触媒に通す技術』の事を差す。
この一文だとピンとこないと思うので、どういうことなのかをかみ砕いて説明する。
そもそもこの世界で言う魔力と言うのは、地上のどこにでも存在している有り触れたエネルギーであり、地中や水中はおろか、大気中や生物の体内や、あらゆる物質にも存在しており、同時に、最も不安定で変化しやすいエネルギーである。
例えば、酸化という現象がある。
酸化とは、ごくごく単純化して言えば、酸素が何かの物質と結びつくことで、別の物質に変化する化学反応の事だ。
もっとも有名なものが燃焼、そして錆だ。
燃焼とは、酸素が高温と可燃物に反応して炎を起こす酸化反応であり、錆とは金属が水分と反応して起こす酸化反応だ。
広義の魔術とは、このように魔力が何かしらの物質に反応して、熱や化学エネルギー等のエネルギーや、水や酸素などの物質、重力や電磁力などの力に変換される事を差し、これを『魔導反応』と呼ぶ。
本来であれば、魔力はありふれたエネルギーである為、エネルギーや物質に対して魔導反応を起こし、世界各地で毎日神隠しや槍や炎が雨になって降り注いでもおかしくない。
だが、自然界に存在する魔力は余りにも膨大で大量の魔導反応を引き起こしているために、魔導反応同士が連鎖的に反応する事で相殺し合い、自然界は表面上は僕達の存在していた地球世界とほぼ同じ状態になっている訳だ。
ただし、自然界の魔導反応というのは、いくつかの条件が重なったことで起こる魔力の偏りや、自然現象の影響によって、魔導反応の相殺が利かなくなってしまうことが多くあり、それ等が『魔災』と呼ばれる大規模な自然災害へと変化してしまうのだ。
それ程変容の激しいエネルギーを呼吸や飲食によって摂取しているのであれば何らかの変調を起こしそうなものであるが、僕はそれが心気と呼ばれるエネルギーへの変化であると考える。
この世界では武術を鍛え上げることで、身体機能を向上させたり、病気や怪我の治癒を行うことができるのだが、これ等の武術によって引き起こされる現象も、魔術によって引き起こされる現象も、根は魔力を使った不可思議現象であるという事だ。
さて、話がずれた。
そもそも、広義の魔術というのは、先に述べたとおりに魔力による魔導反応が起こった現象の事を差し、自然界で起こった災害ですらもが魔術の範疇に入るが、この世界での学術的な見方では、自然界で起こる魔導反応は魔術とは呼ばず、魔力気候と呼んで区別している。
この世界で魔術と呼ばれるのは、『人間が任意で引き起こすことのできる魔導反応』の事を差し、人間が任意のタイミングで魔術を発動するために必要になって来るのが、冒頭で言った『聖魔文字』と呼ばれる文字になる。
聖魔文字にはいくつもの細かい種類があり、使用する文字の種類によって発動にはそれぞれに違いが出てくるのだが、この部分まで放すと大分長くなるので、割愛する。
さて、最初に『魔導反応』について説明した時、魔力というのはいくつもの物質やエネルギーに対して反応を起こしているが、自然界ではその魔導反応が大量に起こっているために、魔術が自然発生することは余りないという事は述べた。
だが、これが原因で、本来人間はあまり魔術を使う事ができない存在であるのだ。
というのも、人間が魔術を使うというのは、要は人間が『自然界に起る魔導反応を操る』事であるのだが、魔導反応はとても変動が激しい上に連鎖的に起こるため、安定した魔導反応が起こること自体少ないのである。
極論すれば、一度火を起こしたはずの魔導反応が氷を生み出すことだってあり得る。
つまり、人間が魔術を操る為には、火を起こそうとしたら火が起こり、水を作ろうと思ったら水を作ることのできる、安定して魔導反応を起こす『何か』が必要になる。
そこで登場するのが聖魔文字だ。
聖魔文字とは、簡単に言えば、安定した魔導反応を引き起こすことのできる図形と音の総称である。
この文字の起源についてははっきりしない。
一説によれば、知識の神であるソフィア神が創造神と混沌神の所行を真似て作ったとも言われているが、それは所詮神話の域を出ない話である以上、真に受けていい物かどうか悩むところだ。
ともあれ、この聖魔文字を使うようになって、人間は魔術を使うことができるようになったのだ。
この聖魔文字は、文字の種類としてはどちらかというと表意文字に近く、所謂漢字の様にその一字で『火』を表し、火という文字を書けば火を起こすことができる。
だが、それ以上に、この文字を発音することで発音者の起こしたい魔導反応を起こすことができるので、この文字を使えることと正確な発音をすることが、魔術士の基礎の基礎になる。
以上の事を纏めると、魔術とは聖魔文字を使う技術ということになる。




