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鮫島 桃花 第三話 最悪な日々の、最低な夢の。

 ちょっと演出に凝りたかったので、短めに切り上げました。

 土曜日前に何とかもう一話更新して、土・日で何とか桃花の回想は終わります。


 父との生活の中で私の支えとなっていたのはアニメやマンガと言ったオタク趣味だった。


 小学校六年生の頃に見た、深夜アニメが切欠だった。


 それは魔法少女者のアニメで、かわいらしい絵柄からは想像がつかない程の陰惨な物語が特徴で、かわいらしい魔法少女が救いようも無い最期を迎えていく中で、それでも生き足掻いている彼女たちのストーリーは目も当てられない筈なのに、何故だか私の胸に突き刺さって目に焼き付いた。


 死にたくなかったら、生きるしかない。


 そう言いながら、絶望的なまでの実力差のある敵と戦って殺されたそのヒロインを見て、何故だか私は悲しさや絶望感よりも、生きる意志が漲っていた。


 ああ、そうだ。生きるしかないんだ。


 死にたくないんだ。生きるしかないんだ。


 そう言う諦めにも似た強い勇気が胸の内に湧き上がった私は、それから変わっていったと思う。


 中学生の時には、歳を誤魔化して無理を言ってラーメン屋や古くから続く喫茶店でバイトをこなして、少しずつお金を貯めながら、アニメやゲームを買い込んでは二次創作を行い、時にはコスプレイヤーや歌い手としてイベントに参加するようになった。

 時には成績が落ちることや私の生活をネタにしたイジメもあったけれど、ギリギリの生活の中でも趣味に没頭していく内に、少ないながらも私にも友達が出来、真っ暗な闇のような生活の中に少しの光明を見出しては、生きる希望を胸にして一日一日を過ごしていた。


 一方で父は、ベンチャー企業の業績が良くなり巨大企業としてすっかり成長したことで、新たな通信サービスの開発を始めてそれを成功させると、その後も元々の趣味であった車やバイクなどのモータースポーツを展開するエンターテイメント事業や、新たに始めた趣味の時計収集が高じて始まった通販ウェブサイトの開設と言った新規事業に手を出していった。

 そうして、父は富だけでなく、地位や名声までもを着実に築き上げ、私が高校に入学する頃には元々のコンサルタント業務だけでなく、複数の会社を経営し投資家としても講演を開くほどに成功して、日本の未来を担う実業家としてその存在を不動のものとしていた。


 だが、父はそんな社会的な成功を続けていく裏では、世間体を徐々に気にするようになり、私たちに渡していた生活費を二万円に増やす代わりに、母がしていたバイトやパートを辞めるように強制し、私自身も父の意向で入学させられた学校で部活動を強制的にやらねばならず、事実上のバイト禁止となった。

 勿論、都心の一等地で暮らしておきながら、親子合せて二万円の生活費で生きていく等到底できる訳が無く、母は単発のバイトを繰り返しながら、私に何度も謝罪の言葉を繰り返して私の学費の為に貯めていた貯金を切り崩し、私自身も中学生の時に製作したコスプレ衣装を売り払ったり、デジタル制作に必要な機材を売り払ったりして、何とか生活費を捻出していた。


 皮肉なことに、父の成功によって私達の生活はますます困窮したギリギリの物になっていた。


 そうして高校二年生に上がってから暫くした頃。




 母が死亡した。






 それは自殺だったのか、事故だったのかいまだにわからない。


 その日、単発のバイトを三つ掛け持ちしていた母は、終電の駅のホームから身を投げ出してそのまま死亡した。

 ただ、その時の母は極度の過労状態であった上に、食事も満足に取れていなかった栄養失調状態だったらしいので、単に駅のホームで電車を待っている時に誤って転落しただけなのかもしれない。

 勿論、その状態であれば突発的に自殺をしてしまう様な酷く不安定な精神状態であっただろうことは想像に難くないし、もしかしたら自殺したのかもしれない。


 どちらにせよ言えるのは、そして一番重要なことは。


 母が死んだと言う事だ。


 私にとって、母はオタク趣味と並ぶ数少ない心の支えだった。


 けれども、父によって殆どオタク活動が禁止された状況で、母までもが死んでいなくなり、もう私には自分自身が生きる意味が見いだせなくなっていた。


 

 だから私が自殺が決意したのは、ごく自然な事だったのだろう。




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