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第十七話 ボーダーライン

更新が少し遅れてしまい申し訳ありません。

一応、週一更新を目標とはしているのですが、最近日刊ランキングで一位になった『ドラゴンを拾った』を読んでいたら遅れてしまいました。あれめっちゃ面白いです。

次回は間話になりますが、それを挟んでから間章になります。

しばらくはシトラスの視点ではなく、勇者達からの視点で話が進みます。


「むー……。最近、お兄ちゃんが浮気ばっかりするー」


「色ボケー、スケベー、浮気男ー」


「失敬だな。人聞きの悪い事を言うなよ。一体、いつ僕が浮気したって言うんだよ?」


 僕達が王都に着いてから三か月が経ち、僕が勇者の従者のような真似をし始めてから二か月が経った頃。

 魔導水薬ポーション製作の為の材料を購入する為に王都の街を歩きながら、僕は根も葉も無い事を言って頰を膨らませるアルバとプリムラに呆れながら反論する。

 いつもはくだらないことで言い争いばかりしている二人だが、僕を責めるときだけはなぜか双子の姉妹の様に息を合わせてくるのだから困ってしまう。

 特に、ここ最近はなぜかずっとこんな調子だ。

 

「まあまあ、二人ともシトラス君だって男の子だし、少しくらいは綺麗な女の子に興味を持ちますよ」


 そんな二人を窘めるようにグラウカさんが僕の事をフォローするが、寧ろ二人よりも少し冷たい口調で言う彼女の言葉は二人よりも僕の浮気を疑っているような感じがする。

 むう。別にそう言う下心は特にないんだけどなあ。

 ただまあ。確かに、僕が今まで彼女たち以外の女性に此処まで優しくしたのはあんまりなかったかもしれない。そう言う意味では、誤解を招くようなことをしている僕の方が悪いか。


 僕は疑いの眼差しを向けながらも、一緒に魔導水薬ポーションの材料を買い込んでいる三人に向かって苦笑する。


「僕はただトーカさん、チエさん、ムツミさん、それにキヘエくんの四人の勇者さんを心から応援しようと思って付き従っているだけであって、別に何か特別な感情があって接している訳じゃない」


 それは決して打算のない言葉ではなかったが、それでも僕なりに嘘偽りのない本心ではあったのだが。


「ウソ!絶対、嘘!」

「そもそも、シトラスが人にさん付けすること自体がおかしいし」

「……ふふふ」


 僕がそう言うなり、アルバとプリムラはは恐ろしいほど素早く僕の言葉を否定し、グラウカさんに至っては、返事することも無くただ静かに冷たく笑うだけだった。

 むう。いくら何でも三人の僕に対する評価の低さが酷すぎる気がする。


「まあ、確かに今言った事ばかりが勇者に付き従う理由じゃないけど、僕だって人にさんづけくらいするし、尊敬できる人に敬意を払えることくらいするよ。三人ともどうしたのさ?少しくらいは僕の事を信じてくれてもいいんじゃない?」


「でも、シトラスくんは権力や、 権力を権力を振りかざす人って嫌いだったじゃないですか?勇者様は五人とも貴族になられた訳ですし、とてもシトラスくんが望んで付き従うえるとは思えないんですけど?」


「色々と考えを改めたのさ」


 どこか疑い深げなグラウカさんからの質問に、僕はさらりと言う。


「これから先、僕達はどっちにしろ勇者のその部下として戦うことになる。勇者が率いるのは、『神聖軍』に編成された正規軍や騎士団が主になるけど、僕達冒険者も、正規軍に何かあった為の予備隊として、あるいは勇者たちの活動や生活を支える為の補佐部隊として活躍することになるだろう。

 その時にナオタカの下につくよりは他の勇者の下についた方がましだ。だから、今のうちに出来るだけ媚びを売っておいて、すこしでもナオタカの下に就く確率を下げておきたいのさ。ま、単なる消去法さ。

 それとも、三人はナオタカみたいな勇者の下で戦いたいのかい?」


「いやー。それは流石に。顔だけはお兄ちゃんに似てるけどねー」


「同じ空気を吸うのも無理」


「少なくとも、耳に聞こえる範囲では余り素行の良い人とは……」

 

 僕からの質問に対して、三人は異口同音にナオタカに対しての悪評を口にする。

普段は噂だけでの悪口を口にしないグラウカさんでさえもがナオタカの事を悪く言う事に、僕は寧ろ逆に感心さえしながらもそれを見て、苦笑しながら言う。


「だろう?だったら、他の四人に対して少しでも心象を良くしようと思うのは自然な事じゃないか。そこにそれ以上の感情なんか無いよ」


「つまり、シトラス君は四人の勇者様を買っていると言うより、ナオタカさんを見限っているだけだと?」


「そうだよ。それに、僕達冒険者の現状は余り良好とは言えないだろう?この状況ではどっちみち勇者の力を利用するなり、勇者に縋りつくなりをするほか無いさ。その事は三人とも理解している筈だろう?」


 僕の言葉に三人は渋面を作りながらもは不服そうにその言葉を肯定する。


 その頃の僕は、主に情報収集と資金繰りを中心に活動しており、その活動の強化も兼ねて、より積極的にナオタカ以外の勇者の活動を補佐していた。

 特に資金繰りの問題は切実で、『神聖軍』の発足を宣言してからの冒険者の扱いと言うものは徐々にぞんざいになっており、実力はあるものの活動資金が足りずに生活が困窮するものが多くなっていた。

 基本的に、今回の戦争で冒険者に出される活動資金は王宮から出されており、それは大きく別けて三つに分類される。

 まずは前金として出された契約金。

 次に王都に滞在中の生活費として給付される支度金。

 そして、戦争に勝った際に払われると約束されている成功報酬。


 王宮に到着した段階で、冒険者には既に契約金が支払われ、それは三カ月経った現在でも続々と到着する世界各地から集まる冒険者全員に支払われている。

 成功報酬については、特級冒険者から見ても破格と言えるほどの金額を保証されており、これだけ見れば冒険者達にとって恵まれた環境であり、別に金に困っていないように見える。


 しかし、実際には多くの冒険者の場合、契約金は今回のロンディニア連合王国に来るまでの旅費で消えてしまい、ほとんど残っていない。

 

 支度金に関して言えば、普通の生活をする市民や新兵であれば充分に生活ができるだけの金額を受け取っているが、その生活費の中には武器や防具の整備代が入っておらず、この出費によって総合的な生活費は市民以下の金額に落ち着いてしまっている。

 しかも、支度金を受け取っている間は冒険者は正規軍の一員として扱われ、正規軍や騎士団の訓練に参加しなければならないのだが、その祭に冒険者が負った傷の手当てや、武器・防具の破損は冒険者自身が補填しなければならず、そうなると僅かしかない生活費ですら削らなければならない。

 そして、訓練に参加している間は通常の冒険者の依頼は引き受けられないため、支度金を貰った冒険者の方が貧乏になると言う皮肉なことが起こっている。


 何より、『魔王軍』に対抗する人類による大同盟軍である『神聖軍』の結成宣言以後、周辺諸国から続々と軍勢が集まるに連れて冒険者に出される支度金も徐々に減らされている。

 一応、成功報酬、つまり戦争に勝利した後の報酬は保証されているが、勿論ながら戦争に行ってもいない人間に成功報酬が入る訳も無く、現在、冒険者の多くはこの成功報酬を担保にして借金を行っており、恐らくこの戦争に勝った所で、王宮から支払われる報酬を手元に残せる者はいないだろし、ここまで冒険者が増えた状況では、勝った所で得られる成功報酬の額自体も目減りしていると噂では囁かれている。

 その上、最近はその成功報酬が減額されるのではないかという疑いから、冒険者に金を貸す金貸し自体が少なくなっており、借金すらできない冒険者自体も増えている。

 今では、支度金と成功報酬の受け取り自体を拒否する代わりに、通常の冒険者依頼をこなすことで生活費を稼いでいる冒険者の方が多くなっている程だ。かくいう僕もその一人なのだけれども。


 つまり、冒険者の多くは国からの援助が原因で生活が困難になっており、そうした生活の不満は常にナオタカ以外の勇者に向けられ、ますます勇者四人の肩巳が狭くなるというのがここ最近の王都でのサイクルだった。


 そんな王都の中で四人の勇者に付き従う僕は、他の冒険者からは僕自身のあだ名である『永久雑用』をもじって、『特級雑用』とも陰口をたたかれていた。





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