第十二話 世界が探した勇者。
すみません。本当はこの話で勇者を出すつもりだったのに、リアルの事情でとにかく書くのに必死で、構成をまとめるのに時間をさけませんでした。
あと、最近更新もしてないのに評価が上がったんですけど、龍が如くでもしたんですか?まあ、今出てるのはキムが如くですけど。
後、クリスマスに改題しました。
ロンダニア連合王国に辿り着いた僕達は、王都の観光をする暇も無く、到着早々に王宮へと連れて来られた。
馬車に揺られて辿り着いた王宮は、白亜の大理石を組み合わせた見事な建造物であり、柱の一本一本にまで精密な彫刻が施され、見上げた天井には精緻な天井画が描かれている。
いくつもの芸術作品で飾られ、建築物自体にも芸術を意識して取り入れている様子は、最早それ自体が一つの芸術品である様な建物だった。
だが、建物が立派であればあるほど、僕の中にある反感は益々大きくなり、思わず皮肉が口を突いて出る。
「……立派なものだ。遠くから人を殺せと指図する人間が住む家というものは」
「……シトラスくん。そう言う事は思っていても口にしてはいけない事よ。戦争というものが人ひとりの意志でどうにかなるようなものだったなら、数千年もの間戦争をし続ける事なんかなかったわ。これでも今の王様達は、出来るだけ戦争を引き起こさないように統治に苦心なさっている御方なのだから、その苦労を汲み取って考えるくらいの事はしないと」
僕はグラウカさんの言葉に一瞬言い返しかかったが、ただ静かに僕の眼を見るグラウカさんの姿に喉から出かかった言葉は引っ込んでしまい、ただ静かに前を向くことしかできなかった。
それでも、本当に生まれながらの性分なのだろう。僕はただ上から命令するくせに、此方の都合や事情を無視する権力者と言う存在がどうにも気に食わなかった。
それに今は、唯一信じられる上司であったギルドマスターに裏切られたと言うのもあるのだろう。
僕は今、ただ純粋に偉い奴らと言うのが嫌いになっていた。
★
本来、国王に招かれた存在であるとは言え、着いたその日にそのまま王宮に上げられることは自国と同格か、上の国の国王や王族でない限りあり得ないらしく、玉石混淆の冒険者を直接国王が迎え入れると言うのは相当に異例のことらしい。
王宮では傍目から見ても慌ただしく使用人が動き回り、何かの大臣が僕達の前に出てきては、要点のはっきりしない話を何度も繰り返していた。
そうして冒険者の多くが欠伸を咬み殺しながらその何とか言う大臣の話しが終わったところで、僕達は謁見の間へと通されることになった。
謁見の間についた僕達を出迎えたのは、縦にも横にも広いまさしく『広間』と言うに相応しい豪華な内装の部屋を埋め尽くす鎧で身を固め、きっちりとした隊列を組んで埋め尽くす騎士達の姿であり、その広間の奥には玉座と思しき黄金や宝石で飾られた椅子が鎮座していた。
冒険者の全員が初めて感じるものものしい空気に浮き足立つ中、僕はただ座るだけの道具に意味もなく金をかけ、その周りを重装備の騎士が何百人なく集まって警護している様子に呆れて、生暖かい笑みを口元に浮かべていた。
最も、童顔の僕が捻くれた笑みを浮かべたところで、周りからは子供が無邪気に喜んでいる様にしか見えないのだろうけど。
すると、そんな僕に対して、アルバが僕の服の袖を弾きながら、不機嫌そうに囁いた。
「……ちょっと、お兄ちゃん。もう少し愛嬌を持った顔をしなよ。これから私達王様に会うんだよ?」
「そうか。そりゃ良かった。こっちはそもそも、仮令愛嬌と言えども、何一つ上げるつもりは無かったからね。そう言うものが浮かんでいなくて、本当に良かったよ」
どうやら僕の顔は僕が思っているよりも、正直に僕の心の内を表しているらしく、その事に内心で自分自身に苦笑しながらもアルバに言い返す。
そんな僕の態度はアルバにとって悪いものであったらしく、また何か言おうと口を開きかけた途端、不意に謁見の間の奥から質実剛健ながらも一目で高級品と分かる服装に身を固めた壮年の男性が現れて玉座に座り、広間に集まった冒険者を力強く眺めて一息吐いた。
「ふむ。貴公らが、我が人類圏が誇る特級冒険者の勇士であるか。本来であれば貴公らの様な綺羅星の様に散らばる英雄は、盛大な宴を開き戦場の誉れと共にもてなすのが慣例であるが、此度は至急の要件故に礼を失するような真似をして申し訳ない」
鷹揚に広間を見渡す国王の姿や立ち居振舞いは、これだけの人数を前にしても些かの動揺を見せない見事な者であり、なるほど。これが人類圏の頂点に立つ国の王であるか。と、妙に得心がいった。
だが、それと同時に湧き上がってくるのは、堂々とした態度をとっていれば、他人の人生を狂わせても良いのか?と言う、半ば理不尽な八つ当たりにも似た思いだった。
そんな僕の心中を王宮の人間が慮ってくれるはずなど当然なく、玉座に国王が腰掛けた事を確認してから、瘦せぎすの老人が現れて僕達冒険者を前にして男にしては少し甲高い声を張り上げ、居並ぶ冒険者に対して威圧する。
「控えぬか!この方こそ、ロンダニア連合王国の現国王陛下その人にして、自由同盟の盟主を務めて人類諸国の頂点に立つ存在、オーガスト・エリフリーデン・ロンダニア陛下その人である!拝跪して、その御言葉を静聴せよ!」
その言葉と同時に、広間に並んでいた騎士達は全員その場に跪き、敬礼をして玉座に座る国王に向けて頭を下げた。
そんな騎士達の様子を見て、冒険者達の方も浮き足立ってしまったのだろう。
広間の騎士達の様に跪いた方がいいのか?と、王宮での礼儀正しい所作というものを知らない冒険者たちは慌てて国王に向けて礼を取ろうとするが、そんな慌てぶりを見て周囲の騎士や王宮に詰め寄せた貴族たちは冷笑を浮かべて冒険者たちに囁き笑い、その声を聴いて益々冒険者たちは慌てだす。
こんな畏まった場所に成り上がりものの無学な人間を呼び寄せればこうなることは火を見るよりも明らかだったろうに、周囲にいる貴族たちはそんな冒険者たちに対して何かしらの手助けもないという事には底意地の悪さを感じずにはいられない。
僕はそうして、慌てふためいてその場に跪こうとする冒険者の機先を制して、声を上げた。
「知った事じゃないですね。そちらが勝手に僕達を呼んだくせに、呼んだ相手を前にして跪かねば無礼であるなど、そちらの方こそ礼儀と常識というものを調べてから話をするべきではないのですか?
そもそも僕達はロンダニアの人間では無いし、ロンダニアの王に恩義のある人間でも無い。貴方方の間ではどう言うか知りませんが、礼儀を尽くすべき義理も義務も無い人間をそっちの都合で呼び出しておきながら、呼ぶやいなや伏して崇めろと宣う人間は、僕達庶民の間では狂人と呼ばれる類の人間だけなんですよ」
「貴様!かの方は間違いなく、人類の王たる存在であらせられぞ!どれほど無礼な口を叩けば気が済む!」
「人類の王がどうとかはどうでも良い。僕は、他人に礼儀を求める人間は、自身も礼儀を尽くすべきだと言っているんだ。
それとも、人の上に立つものというのは、弁えるべき礼儀も知らない猿の様な人間の事を言うのですか?」
「無礼な!オーガスト陛下に対してその物言い!無礼千万であるぞ!不敬罪により首をはねられたいのか!」
そんな痩せぎすの老大臣の言葉に僕は冷笑を浮かべてしまう。
「別に僕は人の上に立つ者と言っただけで。オーガスト陛下がそうであると言った覚えはありませんよ?前後の文脈的にも、貴方がバカにされた理解としたのなら怒るのも分かるんですがね。それとも貴方方はオーガスト陛下に対して「礼義を知らない猿」だとでも思っているのですか?だとしたら随分と不敬で、皮肉な話ですね。
一番礼儀を尽くすべき家臣が、仕える主人に対して最も無礼を働いているですからわ」
僕の言葉に自分自身が愚弄されていたと思ったのだろう。老大臣は顔を真っ赤にして怒りの形相を浮かべて僕を睨みつけるが、下手なことを言えば僕の言葉を肯定するとでも思ったのか、そこから先は老大臣は口をパクパクとするばかりでそこから先の言葉は形にならないようだった。
その時だった。
「それまでだ。アルフリード。冒険者殿の言う通り、余が彼らを呼び出したのであり、本来礼を尽くすべきは招いた余であって、彼らに礼を強要するのは道を違えている。
それと、今舌戦を繰り広げた冒険者殿。ここにいるアルフリードは、長年余に仕えた忠臣にして老僕だ。あまり虐めるような真似はよしてもらいたい。余とて、貴公らと喧嘩をするためにここに招いたわけではないのだ」
そう言って僕と老大臣の間に割って入ったのは、他ならぬロンダニア王オーガストその人であり、オーガストの言葉にアルフリードと呼ばれた老大臣はいかにも渋々といった風情で僕に向かって頭を下げた。
それを見て、僕もひとまずの所は頭を下げておく。僕の様子を見たグラウカさんたちは、ほっとしたように胸をなでおろしていた。別に僕だって、こんなところまできて老人を相手に口喧嘩をしに来たわけじゃない。流石にその程度の分別はある。
そうして僕たちの間にひとまずの和解が成立したことで、広間の中に漂っていた冒険者に対する冷たい風当たりはひとまず止み、それを見計らって国王がついに本題を切り出した。
「今回、貴公らを呼んだのは他でもない。人類圏の宿敵である魔王軍に対して、我らは新たに切り札とも呼べる存在を手にすることができた。この機に乗じて、余は『神聖軍』の発足を宣言して周辺諸国から戦力を結集し、従来より南方に生存圏を持ち、我等の生活を虐げていた魔族を討滅することを画策している。
諸君らにはこの軍の魁として加わってもらい、末代にも語り継がれる武勲を上げてもらいたいと思ったのだ」
そういうとロンダニア王は、朗々とした声を上げて謁見の間の大扉に向かって手を指し伸ばして見せた。
「それでは、今回の軍の要となる『世界真理の勇者』を諸君らに紹介しよう!」