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第九話 ハニー貸します。(前編)

 漸く書き上げられたので、上げます。後編は少し待っていてください。

 なんというか、一度書き始めると捨てられるまでを描き切るのが大変で大変で。

 ただ思ったのは、ここまでキャラの心情を描いていると、いざ捨てられた時の衝撃で胸と腹に突き刺さりそうですね。ここまでして捨てられたら、そりゃ悪の道に落ちるわ。


「……おお、まさか本当に狩って来るとは思わなかったぜ」


 依頼を達成して街に帰った僕達を迎えたギルドマスターは、そう驚嘆した。


 最初は依頼が失敗して逃げ帰ってきたと早合点して残念がっていたギルドマスだったが、今回の魔獣討伐の為の証明として採取してきた双頭猛犬(オルトロス)の牙を全てと体内に形成されていた魔石を見て、漸くそういった。


「いえ、運が良かっただけです。僕としてはやるだけやって無理なら逃げるつもりだったので、依頼の成果は全て僕と一緒に戦ってくれた三人のお蔭ですよ」

 

 ギルマスは手放しで僕のことを褒めてくれるが、この成果が三人の実力あってのものだという事を他の誰よりも知っている僕にしてみれば、その称賛は何だか手柄を横取り多様で居心地が悪い。


 だが、そんな僕に対してギルマスはあきれ果てたように深々とした溜め息を一つつくと、急に快活に笑って僕の肩を強く叩いた。


 「あんまり謙遜すんなって!!これがお前のパーティメンバーの力だとしても、それをまとめたのはお前だ!これは、皆の力を含めてお前の力だ!!これは本当にすごいことだぞ!世界中の特級冒険者でも、たったこれだけの人数でこんなにも強力な魔獣を討ち取った例なんざ、片手で足りるほどだ!それも、魔術師でも戦士でもないお前が率いているパーティーでこんなことができるなんて!これはもう偉業だ!胸を張って誇れよ!」


 身を縮こませて恐縮する僕に対して、ギルマスは僕に無理やり胸を張らせるようにその肩を掴んでそう言った。

 すると、ギルマスのその態度を見たアルバとプリムラは大きく頷きながら、その言葉に同意する。


「流石ギルマス!!よくわかっているじゃない!!そうよ!これはお兄ちゃんのお蔭で倒せたのよ!」


「ふふん!私のシトラスはすごいでしょ!!」


 純粋にそう言ってくれる二人の言葉に僕は一瞬だけ呆けてしまうが、そんな僕の手を取ってグラウカさんは優しく微笑みかけたくれたことで、ふと思い出す。


「……そう……ですね。僕の力は、この三人が力を貸してくれることです。今までも、たぶんこれからも、この三人が協力してくれることが、僕の力です」


 それは、いつだったかに三人に言われた言葉。

 冒険者として初心者だった時期、能力もなく技術もなくただうじうじと燻っていた時に三人に言われた言葉だ。


「おう。知っているぜ!この町で一番な」


 胸を張る僕に不敵な笑みを浮かべながらそう言ったギルマスは、換金の為に必要な討伐証明書を僕に受け渡す。


 僕はその討伐証明書を貰いながら、それと引き替えに僕たちが冒険者であることを証明するプラチナでできた証明プレート四枚をギルドマスターに引き渡した。


「それじゃあ、今回の依頼で僕達は冒険者を引退します。これから身辺が忙しくなるし、このご時世ですので何が起こるか確約できませんが、暫くはこの町にいるつもりですので冒険者としての依頼以外でしたら、何か困ったことがあれば相談に乗りますよ」


「ああ、此処まで見事な花道を飾って辞める冒険者ってのも珍しいな。大抵の奴らはは大けがしたり、そもそも死んだりして続けられなくなるもんだが、家業を見つけて、女を囲んで、その上最後に特級ものの魔獣をやって冒険者を辞めるなんざ、何処の幸せモンだって話だよ。とにかく、最後にこれだけデカい仕事をしてくれたんだ。お前の引退には誰にも文句は付けられまい」


 そう言って笑うギルマスとメンバー皆で握手を酌み交わして、僕たち『青い流星』のメンバーはギルドマスターの執務室を後にした。



 こうして僕達は冒険者を引退した。





 はずだった。





 ★☆★☆★☆★☆




 冒険者を引退した僕等の生活は急変した。


 元々、冒険者を辞めた後は魔導具屋を開き、魔導水薬ポーションを中心とする魔導薬や、魔法陣を刻んだ簡単な魔道具を製造して販売する雑貨屋を開こうと思っていたので、その下準備自体は前々からしていた。

 ただ、いざやるとなると結婚式と重なったこともあり、予想外に出費がかさんだり予定外のトラブルが起きたりして目まぐるしく時間が過ぎて行った。

 それでもどうにか結婚話も店の開業も進みんで三人との結婚式の日取りも決まり、いよいよ結婚式も丁度前日に迫った日のことだった。




「ねえねえ。これどうかなシトラス?私がこういう服を着るのって変じゃないかなあ?」


 鏡の前に立ちながら、緑色のレースやフリルをあしらった派手な色のドレスを着たプリムラがそう言うと、アルバは赤いドレスを着ながらプリムラの姿を頭から爪先までじっくりと眺めて、眉根を険しく寄せながら言う。


「うーん。やっぱり胸を盛りすぎよね。お兄ちゃんにかわいいって言われたければ、その偽乳を取りなさいよね!!」


「違うもん!胸を盛っているわけじゃないもん!これはエルフに伝わる大切な花嫁衣裳で、たくさん子供が生まれるためのおまじないだから!っていうか、私はシトラスに聞いたんだから!アルバは黙っていてよ!」


「うるさーい!!なんで結婚式で私だけ胸が無いまま教会に行かなきゃならないのよ!プリムラだって本当は私と同じくらいしか胸が無いのに、これだと私だけが貧乳みたいじゃなーい!!」


 そう言って、アルバは自分のドレスの胸を押さえてプリムラを睨みつけ、プリムラも売られた喧嘩を買うようにプリムラと睨み合いを始める。

 

「はいはい。喧嘩はそこまでにしてください。明日から本当に家族になるんですから、揉め事を明日に持ち越すのはやめましょう?」


 そう言って二人の間に割って入ったグラウカさんは体の線を強調するようなぴっちりっとした薄紫色のドレスを着こんでおり、どことなく花嫁衣裳というよりも夜の女といった雰囲気がして、ただそこにいるだけのグラウカさんを見ているだけでも何となくいけないものを見た気になってしまい、思わず赤面してしまう。


「あー!!シトラスがグラウカねえ見て顔を赤くしてるー!!」


「やっぱりお兄ちゃんでも胸が大きい方が良いんだ!ひどーい!!」


「そんなことないよ!!二人ともきれいだしかわいいって!大丈夫!大丈夫!似合っているって!」


 僕が慌ててそう言うと、漸く二人は機嫌を直して喧嘩を辞める。

 ここ最近はこういうやり取りが日常化していた。

 冒険者をやっていた時も似たようなやり取りはあったけど、辞めて以降の三人のやり取りは前よりも多くなっている気がする。こんなことがこれから先も続くのかな?と思うと、何だか今更になって結婚するのが怖くなるけども、それでもそれはやっぱり嬉しいことだと思い、冷や汗と同時に苦笑がこみ上げてしまう。


「グラウカさん、すみません。いつもいつも二人のけんかの仲裁役をさせてしまって」


「いいえ。流石に異性の喧嘩に割って入るのは、どんな人でもためらいますから。仕方ないことですよ」


 そう言って笑って呉れるグラウカさんに、僕は軽く苦笑して頭を下げてしまう。


「本当は白いウェディングドレスを三人に着せたかったんですけどね。もしも、それが用意できてたら、二人とも今よりはもうちょっと喧嘩が減っていたのかなと思うと、やっぱり僕の所為の様な気がして……」


 三人が三人ともウェディングドレスが色とりどりなものを着ているのは、好みの問題というものではなくて、白いウェディングドレスを着れるのは一部の貴族か、豪商だけだからだ。

 それ以外の場合であれば、そのドレスは少しだけ派手な色をした小さなものになるし、結婚式と言っても、町の中にある小さな聖堂に家族を読んで誓いの言葉を上げるだけの慎ましい物になる。

 冒険者の場合はピンからキリまでだが、流石に特級冒険者であれば、本来なら三人同時に白いウェディングドレスを着せるだけの余裕はあるはずなのだが、僕たちの場合は店の開店費用と重なったこともあってそこまでの余裕は出せなかった。

 思わずそのことを気に病んで頭を描くと、ふいにグラウカさんが不機嫌そうな顔になって僕の鼻を摘まんだ。


「はれ?はんですか、ぐらうはさん?」


「シトラス君?そういうことは、思っていても言っちゃいけないことなんですよ?」


「え?」


「私たちは今十分、幸せなんです。これがあれば幸せとかあれがあれば幸せとかそういうんじゃなくて、今で十分に幸せなんです。これに何があれば幸せになる。なんて、そんなことはありません。もしもそう思うんならそれは君が今幸せじゃないっていう事なんですよ?シトラス君は、私たちと結婚するのが幸せじゃないんですか?」


 僕はグラウカさんの言葉に一瞬胸を突かれて黙り込んだが、すぐに頭を横に振ってその言葉を否定する。


「いいえ。そんなことないです。僕は十分幸せですよ」


「よかった。なら、あの二人の喧嘩を止めて、明日に備えましょう?」


 そうして、僕たち四人は明日の式に備えて最後の準備を整え出し始めた。




 その時だった。その幸せな瞬間が終わったのは。

 



「特級冒険者『青い流星』の面々だな?私は『カタルシア公国近衛騎士団』の正騎士、エスメラルダ・グラウである!勅命である。これより、至急王宮に参内せよ!」




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