【野坂】の場合
お待たせしました。1ヶ月以上空いちゃいました。
今回は家出をした女の子のお話です。
8月になり待っていた夏休みが始まる。この前友達と海に行く約束をし急遽買った水着だが、着るのが楽しみで仕方ない。
「いつ海に行こうかなー」
8月のバイトのシフトを見る。
週3でランダムにバイトだが来週の木曜日から土曜まで三連休がある。
「この日のどこかにしよう!」
友達にラインを送る。
「どうしたー?」
「あ!前に約束した海なんだけどさ!来週の木曜日から土曜までで空いてる日あったらどうかなって思うんだけど。どう?」
「いいよ!木曜日なら空いてる!」
「じゃ!木曜日で!!」
木曜日に行くことになった。
ー水曜日ー
水曜日のバイトを終え、明日は楽しみにしていた海だ。
「日焼け止めと…」
「紗知ーー…。ちょっとおいで」
部屋で明日の準備をしていると1階からお母さんが呼ぶ声が聞こえた。どこか悲しげである。
「なに?明日の準備してたんだけど。どうしたの?」
「明日どっか行く予定だったの…?」
「言ってなかったっけ?明日海行くんだよ。水着も買ったし」
「じゃ、それキャンセルしてきなさい…」
「は?なんで」
意味がわからず大声を出してしまう
「おばあちゃんが亡くなったってさっきお父さんから連絡があったの…」
「え?おばあちゃんってお父さんのほうの?」
「そうよ。だから明日はそっちいかなきゃいけないの」
「でも…」
「でもじゃない。おばあちゃんと昔はあんなに仲良かったでしょ?早く友達との約束断ってきなさい。」
「だってあの日から会いに行ってないし…私海行く…」
私はもう4年ほどおばあちゃんに会いに行っていなかった。
今じゃ思い出せないくらい些細な喧嘩を中学校のころして以来何となく避けていたのだった。
「何子供みたいなこといってんの。」
「まだ子供でしょ??」
「都合の良いときばっか子供のふりして!!行きづらいのはわかるけどいくしかないでしょ?どうせ対した友達でもないんでしょ?早く断ってきなさい!」
「何その言い方!!絶対行かない」
私はそういうと家を出たのだった。
それから何度かお母さんから電話があったが全部無視した。
「帰ってやるもんか…」
二時間ぐらい経っただろうか。晩御飯も食べていなかったのでお腹がすいてきた。
ポケットを探ると500円玉が入っていた。
家から10分ぐらい歩くと商店街があり安く食べ物を買うことはできるが探しているお母さんに会うような気がして商店街を避けコンビニに向かった。
「こっちの方そういえば昔おばあちゃんと散歩したな…」
避けていたはずなのに思い出の私はとても笑っていたように思う。
「あれ?コンビニじゃ…ない?朝コンビニだった気が…道間違えたかな…」
そこにあったのは木でできたボロボロな定食屋だった。
「思い出食堂?見たこともない…」
「お嬢ちゃん」
「…えっ。なんですか」
気づくと入り口におじいさんが立っていた。
「お腹すいてるだろ?食べてきなさい。」
また道を戻ってコンビニに行くのも面倒だしとりあえずどっかのお店に入らないとお母さんに見つかってしまうので少し怪しい気もしたが入ってみることにした。
「えーとお金500円しかないんですが…」
「十分ですよ。フフ」
「えーとメニューは…一個だけですか?」
「はい。思い出定食しか作っていませんので。」
「じゃ、それで…」
「フフ、まいどあり」
そういうとおじいさんは裏に入っていった。
そういえばここに入ってからお母さんから電話がかかって来ない。
しばらくするとおじいさんが料理を運んできた。懐かしい匂いがする。
「はい。思い出定食です。どうぞ召し上がれ…」
「これって…」
「思い出定食ですよ」
目の前に運ばれてきたのは煮物だった。ゆで玉子と大根の煮物だ。
「いただきます。…え…これ…」
やっぱりだ。これはおばあちゃんの煮物だ。
「懐かしいでしょ?あなたのおばあさま特製の煮物ですよ…」
「でもどうして。おばあちゃんさっき死んだって…」
ひと口食べるたびに一緒に行った公園の記憶。誕生日で自転車を買ってくれた記憶。七五三で一緒に写真を撮りに行った記憶などおばあちゃんの記憶が蘇る。
「そちらのお飲み物もぜひ。」
「は、はい…」
トマトジュースだ。トマトジュースは昔から嫌いで飲めなかったがおばあちゃんがトマトと氷と塩をミキサーにかけて作ったこのトマトジュースだけは飲めたのだ。
「飲めますでしょうか?フフ」
「はい…」
記憶の中のおばあちゃんと私はいつも笑っていた。
「おばあちゃん…お、おばあちゃん…」
気づくと私は大声で泣いていた。
「私おばあちゃんに謝らないと…ずっと避けててごめんて…でももう言えない…」
「まだ間に合いますよ。明日はどうするんですか?」
トマトジュースを一気に飲み。500円を机におく。
「すいません。私いかないと…これで。」
「まいどあり。またごひいきに。」
店を出るとスマホが鳴った。お母さんからだ
「もしもし?紗知?さっきは友達悪く言ったりしてごめんね。でも明日はおばあちゃん家にいかないと…」
「私こそごめん。明日の海はまた今度にしてもらう。それより明日からとは言わずに今からいけない?おばあちゃんの家」
「良いけど。急にどうしたの??」
「おばあちゃんに謝らないと!」
「……そうね。準備してまってるね。」
電話を切る。
「おじいさ…え?」
気づかせてくれたおじいさんにお礼を言おうとお店の方を振り返るとそこはいつものコンビニになっていた。
「はぁ??ワケわかんない。…ん?」
ポケットに違和感がありとってみるとさっき払ったはずの500円とレシートが入っていた。
「0円…」
思い出定食0円。
ーおばあさんは許してくれますよー
「なんだったんだろ…あ、早く帰らなきゃ!」
ここに来るまで重かった足はどこか軽くなった気がした。。
ーおばあちゃん家到着後ー
「あ、紗知に景子。明日来るんじゃなかったのか?」
赤い目をしてどこか疲れたようなお父さんがいた。
「紗知がどうしてもって。」
「紗知が?」
「そんないいかたないでしょ?…それでおばあちゃんは?」
「こっちだ。」
いつもおばあちゃんが寝てる部屋に行くといつもより白い顔をして息をしていないおばあちゃんが横になっていた
「おばあちゃん…避けててごめん…もっと早く会いに来れば良かった…」
手を触るとすでに冷たくなっていた。
「紗知か?大きくなったな」
「あ、おじいちゃん…おじいちゃんもごめんなさい。ずっと来なくて…」
「いいんだよ。気にしないで。それよりこれ、ばあさんが紗知にって」
おじいちゃんは白い紙を私に渡す。
紗知へ
久しぶりだね。こんな形だし喋れないのが残念だけどまた来てくれてうれしいよ。あのときはごめんね。ばあちゃん気が利かないからきっと紗知には辛いことしちゃったんだよね。もう気にしないでいいからね。
紗知はしっかりしてる子だから、うちのバカ息子と景子さん頼んだよ。
またね
ばあちゃんより
「ばあさんこれずっと前に書いたんだ。きっと次来るのは私が死んだときだって。当てるんだからすごいよな…」
「う、…うん…」
泣いてる私をみて少しだけおばあちゃんは優しく微笑んでるような気がした。
少しだけ実話だったり…