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感謝祭2

男にわしゃわしゃ、頭を洗われる。

めっちゃ気持ちいい。

いやこれ、マジ冗談抜きでこの人開業出来そう。ヘアサロン開けるよ。

ヘッドスパって言うんだっけ。

洗われてるのにマッサージされてるみたいで目がとろんとなってくる。


「おい、流すぞ」


ちゃんと予告してから泡を流してくれる。

桶に貯めたお湯で頭の泡を洗い流すと、またクリームを手に出して髪の毛に塗り込む。

いい匂いだ。

なんとも言えないが、爽やかで、ほのかな甘さを感じる。

しばらく髪の毛をいじってまた桶のお湯で洗い流してしまった。


「体は自分でやれ」


男が石鹸を投げる。

掴む。

どっかに行く。


…すごいデジャブだ。どっかで見たなこの状況。


「……」

「……はぁ」


俺が驚いて固まっていると、男がため息をついて拾いに行った。

拾った石鹸を俺の手に落とす。

俺は今度落としたら殺されそうな雰囲気を感じ取って割と真剣に掴もうとしたのに、無情にも石鹸は俺の手から飛び出して行った。


「……」

「……」


嫌な沈黙が降りる。

俺は屈んで逃げる石鹸と格闘し始めた。

そっと握ると握ることが出来るのだが、泡立てようと手を動かすと石鹸が脱走する。


捕まえては逃げ、掴めば飛んで行く。


心做しか横の男が怒りに震えているように見える。大きくごっつい手で顔を覆ってまたため息をつく。


こえええええ

わざとじゃないんだよおおおぉぉぉ


鳥肌を立てていると、男が頭をぐっと押して俺を座らせた。石鹸を拾う。


「わかった。俺が洗ってやる。ただ、痛かったら言えよ。」


男に体を洗わせてしまった俺はなんかいろいろばきばきになったので黙ってなされるがままになっていた。



風呂から上がり、再び服に袖を通した後、男が何やら頭に大きな機械を被せた。

何かと思っていると、一度髪の毛が舞い上がり、降りてくる。触ってみるともう乾いている。

ドライヤーのようなものだろうか。

にしても、一瞬で乾くとは。

この世界観がよくわからない。文明レベルがはちゃめちゃだ。

男が指でクリームをすくいとって手のひらに伸ばし、髪の毛に撫で付ける。

これはワックスだ。

伸びた前髪を左側に寄せワックスで固め、右側は頭に貼り付けて固める。左側のボリュームと右側のスッキリまとまったいわゆる左右非対称アシメと言うやつか。

こんなイケメンみたいな髪型やったことないぞ。イケメンになったようで気分がいいな。


「…だいぶ見違えたな。」

「あんた、なんてよべばいい?」

「レイドでいい」

「レイド、かみのけいじるのうまいから」

「俺を褒めてるのか?」

「こんなかっこいいかみ、はじめてだ」


レイドが険しい顔のまま、わずかに頷く気配がした。


「お前、歳はいくつだ」

「じゅう」

「十歳?やけに小さいな。その幼稚な話し方は何とかならないのか」

「ようち?」


幼稚な話し方ってどんな話し方をしてると言うんだ俺は。

普通に話してると思うんだけど。


「幼稚…小さい子どもみたいってことだ」


言葉の意味がわからないって、そういうことじゃないんだけどわざわざありがとう。

やっぱりレイドって人優しいわ。


「…べつにいいだろう。はなさないから」

「そういう訳にもいかない。今は良くても将来話せないと苦労する。」


惚れそうなんですけど。

え?この人なんでこんなに優しいの?

俺の身の上心配してくれてるの?

マリウスの腹心だと思ってたからどんなヤバい男かと思ったら嬉しい予想の裏切り方だ。


「おれのかいぬしはマリウスだ。マリウスにきいて。」

「…随分と従順だな。主に懐く子どもは初めてだ。」

「なついてない」


俺は間を空けないように即答した。

これ重要、勘違いしないで頂きたい。

懐いてないから。逆らったっていいことないだけだから。


「言うことを聞くのは懐いている証拠だ」

「さからったって、いいことない」

「落ち着き払ってるな。主の気が変わって殺されるかもしれないとしたらどうする?」

「…そのときは、レイドがいるから」

「俺がお前を助けると?」

「ちがうよ」


俺は別にマリウスが俺を殺してしまっても、それはそれで仕方がないかなとも思う。

ただ、今のところその可能性は限りなく低いから、今は考えづらいというのが正直なところだ。

俺を殺してしまったとして、マリウスはどうするだろう。また新しく子どもを手に入れていたぶるのだろうか。

それでマリウスの心の穴は塞がるのだろうか。


「レイドがマリウスといる。だから、マリウスはさびしくならないし、またあたらしくこどもをいじめようなんておもわないだろうから、だいじょうぶ」

「今までだって俺は主のそばでお仕えしてきたが、お前はここにいるわけだ」

「……」


む。

正論だぞ。

かっこよくキメたかったのにこれは反論できない。大失態だ。

返事に窮して考え込むと、レイドがジャケットを肩に掛けて俺を立たせた。


「悪い。大人げなかった。ただ聞きたかった言葉は聞けたから安心しろ。これ以上探ったりしない。」


なぬ、探られていたのか俺は。

もしかして、側近として俺がいつかマリウスの害になるのでは、と危惧して値踏みされていたのか。

あんな奴の身の危険を先回りしてなくそうとするなんて、あえて無視して亡きものにしようと考えてもおかしくないのに、レイドはなんて良い奴なんだ!!使用人の鑑か!!

俺は一人静かに感動した。


「マリウスに、レイドみたいなひとがいて、よかった。」


本当に心から思う。

常識人、万歳。

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