感謝祭
間が空きすぎて申し訳ありません!
忙しくてこれからも不定期になりそうですが、お付き合い頂けると幸いです。
オレンジさんは仕事を辞めたらしい。
最近、屋敷の中で遭遇しない。全くと言っていいほどだ。ふろ場の掃除だってベリルと他の人が一緒にやってる。まあ、俺も。
誰かに聞くわけにもいかないし、なんだかもやもやする。
「ねぇ、レイ、動かないでよ。ボタンが閉められないだろう」
今この状況にももやもやする。
な ん で !!
「どうしてマリウスがやる」
「レイは自分でボタンが閉められないじゃないか。」
「……じぶんでやる」
「もー、はいはい。頑張って」
気味が悪い。
面倒見のいいサドマリウスさまとかマジで気持ち悪い。白米にチョコレート掛けたみたいに気持ち悪い。
最近、夜の拷問の後マリウスに抱き枕にされている俺はマリウスの部屋で寝起きをしている。今朝起きざまマリウスに捕まって、顔を洗わされた後に黒いハイネックのニットを被せられ(これが、鞭で抉った皮膚に引っかかって着づらいのなんの)、黒いジャケットを掛けられ、もみくちゃにされている。
で、今はハーフパンツのボタンを閉めるためにマリウスが屈んだので、そこにまで手を突っ込まれちゃかなわないということで自分でやろうと奮闘している。
……。
………っく、
……ふんぐぐぐっ、
………できた!!
俺だってやれば出来る子YDK!
多分。だけどさ。
もしかしなくてもこのハーパン高いよね。
ボタンが金色に輝いているように見えるのですが。
いつものくたくたの薄着じゃないということは、今日は特別な何かがあるようだ。
また客だろうか。
「……なんで、こんなかっこうすんだよ」
「今日はパーティだと言っただろう。聞いてなかったのかい?感謝祭だよ。たくさん、お客さんを呼んだから、レイもおめかししないとね」
言われれば確かに、マリウスもいつもよりめかしこんで、悔しいがいつもよりかっこいい。
顔が良い奴はいいよな、変態なのに嫌がられなくて。
かっこいいってすげーな。
「何?やっぱり出来ない?」
「できた」
「よく出来ました。」
マリウスがにこりと笑う。
今日のサドマリウスさまは機嫌がいい。
悪いことではない。
悪いことと思いたくない。
あー、待って。こういうとき絶対なんか企んでやがるよなぁ。
こんな楽しそうな顔するのに何も無いわけないよなぁ。ツラい。
「パーティは夕方からだ。それまで適当に……そういえばレイ。最後に風呂入ったのいつ?」
「……おぼえてない」
「はぁ…そっちが先だったか。わかった。」
マリウスが人を呼んで俺を風呂に連れて行かせた。
マリウスが信用している男らしく、珍しく気を許して話をしていた。レイドという気難しげで寡黙な男で、険しい顔を崩すことなく、いやむしろマリウスに仕事を頼まれた時点で険しさ倍増この上なく、明らかに不機嫌だった。
「脱げ」
脱衣場に着いた瞬間に有無を言わせぬ気迫で迫り、俺がもたもたしていると脱がせてきた。
意外にもその手つきは優しい。
しかも俺にバンザイの体勢を要求し、脱ぎづらいとっくりニットを脱がしてくれた。
スポン、と抜けた俺に、男が、
「!…この傷は主が?」
「あるじ?」
「マリウス様だ」
頷く。
主と呼ばれるマリウスはなかなかに新鮮だ。
男は深くため息をついた。
「…あの方は全く…はあ。こんなことじゃ、傷は癒えないとわかっているくせに」
むしろ深くなるばかりだろうに。
男は目を細めてそう囁いた。
男の目には疲れと、なみなみとたまった涙のような哀れみが浮かんでいた。