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メレディスにて2

お胸の大きい人にハグされると、なぜだか電流が走ります。苦手です。ラノベキャラの動揺がよくわかりました。

俺は、アイザックさんとは別の部屋に通されて、ケーキと紅茶を振る舞われた。

今度のは“黒い星(ルクト)”と正反対の見た目をしている。

白い、ドーム状のケーキを切り分けたのであろう丸い背中に、てっぺんにはきらきらと輝くオレンジ色の果物のブロックが二つ乗っている。

切断面の方は黄色いスポンジの層とクリームにオレンジ色の果物が混ぜられたものの層が交互に重なっている。


「これね、“常夏の雲(サテル)”っていうケーキでね、南の行商人が持ってくる果物を贅沢に使ってるの!美味しいわよ」


はつらつとした態度の元気のいい少女が、紅茶を入れながら自慢のケーキの説明をする。

向かいに座ってにこにこしていて、落ち着かない俺としてはやめて欲しい。

人見知りなんだよ。

笑顔の圧力すごい。


「って言ってもまあ、あたしもこんな高級品なんて滅多に食べられないんだけどねぇ。君も食べたことないでしょ」

「……」

「やだ、疑ってる?ちゃんと食べたことあるって。味見程度だけど。美味しいから、ね!食べてみてよ」


真夏の日差しのような少女に迫られて、俺は渋々フォークを取った。

鏡のように磨きあげられたフォークだ。

今日は手袋をしているので指紋はつかない。


「手袋、取った方が…」


少女が顔を引き攣らせた。


「それ、ずっとつけているんでしょ?あんまり、綺麗じゃないと思う」

「……」


そうか。そう思うのか。

隠せて良いかと思ったけど、あまりいい気持ちがすることじゃないらしい。

でも、あんまり取りたくないんだよなぁ。

仕方なくフォークを置いて紅茶に手を伸ばす。

紅茶のカップに触れた時は少女は何も言わず、片眉を僅かに上げて「ん?」という感じの顔をしただけだった。

やっぱり手袋をしたまま、というのが気になるようだ。

でも、何も言われていないわけだし、手袋を外すつもりはないし、何も出来なくなってしまうので気にせずにカップを持ち上げた。

いつものように利き手の右手で持ち手を摘む。

想像以上に重く、中指に力が入らない。あ、と思った時には遅く、


スルンっ


下へ抜けてしまった。


ガチャン!


「わっ、だ、大丈夫!?」


力の入らない中指と、手袋の布で滑って、膝に紅茶をぶちまけついでにテーブルに当たってカップが割れた。

大きく欠けてしまって、もう使い物にはならなそうだ。

俺は内心呆然として、動けなかった。

ああ、落ちたな、そんなことをぼんやり考えていたら、


「ヤケドしてないっ!?」


少女が駆け寄ってきて、俺の膝にそっと触れようとして、ためらって、手を引っ込めた。


「…エナさんに伝えなきゃよね…?」


少し俯いていたと思ったら、


「おいで。多分向こうの応接間で話しているはず」


俺の手を取って立たせ、俺は彼女に引っ張られるままその部屋から連れ出されて、廊下を右に曲がってすぐの部屋に連れてこられた。


中から微かに話し声がする。


「エナさん!」


ノックをして、話し声はピタリと止み、中から少し固い顔をした美人さんが出てくる。


「何かしら」

「お話中ごめんなさい!あの、この子、膝に紅茶をこぼしてしまって」

「まあまあ!大変!うちにいらっしゃい。軟膏もあるわ。すぐそこだから。…アイザックさん、あの、また今度ゆっくり伺いたいですわ。」

「ええ、わかりました」

「ありがとうございます」


美人さんがアイザックさんに頭を下げる。アイザックさんは疲れた顔で首をふり、「いえ」と笑った。


「レイくん、よね?」


美人さんが俺に笑いかける。

どうして俺の名前を知ってるんだ?

首を傾げると、美人さんは特に気にしたふうもなく、


「うちへ案内するわ。ついていらっしゃい」


と俺の肩に手を置いて歩くように促した。

俺だけで動いていいのだろうか。

もしかしたらマリウスに怒られるかも知れない。知らない人について行くなと当たり前のことで怒られるのは腹が立つ。

心配になって美人さんの腕から逃れてアイザックさんのもとへ行こうとすると、美人さんに捕まった。


「大丈夫よ。ごめんね、驚いたわね。大丈夫。わたしは何もしないから。」


そう言うと、俺を腕の中に閉じ込める。

やばい。

俺はもがいた。


「大丈夫。大丈夫だから、ね?」


何もだいじょばない。

耳元で囁かれて、なんだか知らんが背筋がゾクゾクした。

ヤダこれ何コレ。

目の前に大きなお胸がっ

頭が熱くなって、でも暴れれば暴れるほど美人さんの締めつけは強くなる。


「アイザックさんも、来ていただいけますか?恐らく一緒の方が落ち着くのだと思います」

「…あ、はい…」


アイザックさんの目が、「たぶん、貴女のその豊満な胸が怖いんだと思います」と言っていて、気づいてるなら助けてくれてもいいんじゃないかと思った。

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