はじめてのおつかい(カメラマン視点)3
一日空いてしまいました。すみません。
[マリウスの部下side]
とりあえず、でメレディスへ向かっていると、人混みでわたしを撒けたと思ったらしい少年がのんびり歩いていた。
気を抜いている。さっきまでのへんな隠術も使っていないようだ。
人混みは、撒かれ易いが、つけやすい。
さっきよりも近くを付かず離れず、監視していると、きょろきょろと落ち着かなげで、また尾行がバレたのかとヒヤリとする。
少年は通行人を見ていた。
珍しい表情を浮かべる。どうやら好奇心をくすぐられているらしい。
思わず見られた子どもらしさに、嬉しさ半分、いやそれ以上に、覗きをしたような罪悪感が生まれる。
「見られてるなんて、思ってないんだろうな」
あの子には生まれた時から自由などなかったに違いない。
無法地帯にも等しい貧民街においては法や規則に縛られはしない。戸籍もきちんとしていないから役所から納税の督促状も来ない。親に行儀作法で注意されることはないだろうし、ふざけていて教師に叱られることもない。
ある意味では自由かもしれない。だが、彼にはしたいことを選ぶ自由がない。生きていくために選べる選択肢がない。こんな街をほっつき歩いていたら、日々の食べ物にも事欠いてしまうだろう。治安が悪いのなら尚更、そもそもそんなことを家族が許すはずがない。
貧しいとは、学がないとは、そういうことだ。
学園で周囲に当たり散らしていた同級生に見せてやりたい。規則に縛られることを執拗に嫌がった連中に。
「規則に守られてる奴らが、よく言うよ」
あの甘ったれた連中なんか、貧民街に放り込んだらあっという間に喰い尽くされてしまうだろう。あの少年のように生き抜く術を身につけられるなら、そもそもそんな過酷な環境に身を置かずとも出来るはずである。
その点、マリウス・セヴァリーは完璧だ。内に獣を飼い慣らし、彼に目をつけられたら逃げられない。敵であれば貪り尽くして捨てられる。
自分の身は自分で守る、を実践しているいい例だ。帰属意識が低く組織で動くことが苦手だが、自分一人でもどうにかしてしまうのだから誰にも止められない。
「上からすれば厄介この上ない人だよな」
でも、だから尊敬してついてくる人がいる。
マリウス様は間違いなく正義に味方する。
ただその正義への道筋が––––––必ずしも誠実ではないというだけで。
そんなことをつらつらと考えているとメレディスに着いていた。
わたしは失念していた。
外で待機し、箱を抱えた少年のポシェットは同じ重さだった。
「……あー、買い物の仕方、知らない、の?」
メレディスの“黒い星”は一つで普通のお菓子の三倍はする。
はじめてのおつかいの護衛という肩の荷が下りるとともに、財布も軽くなったのは言うまでもない。