はじめてのおつかい(カメラマン視点)2
遅れました。すみません。
少年はさっきから変なところで左に曲がったり、右に曲がったり、かと思ったら立ち止まってきょろきょろして、いそいそと歩き出す。という、こちらからするとどういう意図があるのかよく分からないことをしている。
だが、困っている素振りも見受けられない。
あくまでも当然だと言わんばかりに平常心を保っている。
「あれ、絶対迷ってるよな。迷ってることに気がついてないんじゃ」
なんともはらはらさせる。
だが声をかける訳にもいかない。
「通行人を装って、何気なく声をかけるか…?」
どう考えても怪しい。
この辺りで歩いて出かける人なんていないし、現に今、この通りには誰の姿もない。
そんなところに本部の制服を着た男が現れたら、わたしだったらつけられていることをまず疑う。
「ん?」
そんなことを考えていたところ、目の前から少年が消えた。
「あ、あれ」
どこかで曲がったのだろうか。
それにしてもこのわたしが見逃すとは、あまりにもぼんやりし過ぎだ。ボスがいたらにこやかにデスクの荷造りを促されるところだ。
慌てて手近の角を曲がると、少年が小走りに先を曲がって行くところだった。
正直ヒヤリとした。
「嘘だろ。気づかれてる」
油断した。
迷っているように見せかけて、最初からこちらを撒く気だったのだ。
ただの子どもと思って気を抜いていた。普通尾行するときは息すら詰めて気配を消すというのに。職務怠慢以外の何物でもない。
思わず舌打ちした。
「ボスが拾ってきた子どもが、まともな子どもな訳ないじゃないか」
出自もわからないのだ。安易に“子ども”だなどと思うべきではなかった。
しかもあれは何だ。
そこにいることを知っているから見えるものの、気をつけて見ていないと視界に映りこまない。足音を消す訳でもない。息を殺す訳でもない。それだというのに姿が見づらい。
得体の知れない何かに、確かに自分が怯えるのがわかった。
騎士が二人立っている、貴族街と商店街を隔てる門すら少年は易々と突破した。
騎士は気づいていない。
だが不注意と咎めることは出来なかった。
門の騎士が自分に対して敬礼するのを背後に感じながら、人通りに紛れた少年の狡猾さと、自分の迂闊さを悟った。
「くそ、だから直前まで待ったのか」
初めから気づいていたのに、わざと付けさせて人混みに紛れられるところまで引き寄せてから姿をくらます。
「貧民街、やべぇな。常にサバイバルってか。」
そんなのがうじゃうじゃしているのかと思うと、貧民街に騎士の分署を置かない理由は一目瞭然。
「あんな獣ばかりじゃ、騎士なんてノロマ、要らないわな」
一人納得し、撒かれたからと護衛の任務を放棄していいわけでもない。幸い行先はわかっている。
「まさか、あれもフェイク、なんて…な」
召使いたちが戦場で闘っているさなか、そんなことをする理由がない。そんな暇があるなら召使いたちにこき使われているはずだ。
「…はっ…まさかボスにおちょくられてるんじゃ…」
そっちの可能性の方が高い。
「忙しいのに何やってんだあの大人」
わたしの中でそれは決定事項と化してしまったが、一応、メレディスには向かうことにした。
何せ、あそこの店主の奥さんはここいらでもずば抜けた美人だ。見ないなんて勿体ない。
あわよくば仕事と言えば中に入れて貰えるかもしれない。
「よし、行こう」
がぜんやる気が湧いてきたマリウスの部下だった。
マリウスの部下、こんなのばっかりです。少し頭のネジが緩いので、マリウスの部下で居られるとも言う。