客2
マリウスが偽の経緯をぺらぺらよくもまあそんな流暢に出てくるなという滑らかさで語る間、紅茶を舐めるように口にするエレクトラは少しも微笑を崩さなかった。
いかにも、「貴方のお話とても面白いわ。もっと、ずっと話していてくださる?」という空気である。
調子に乗ったマリウスは喋り続け、こっちがはらはらするくらい相手を気にしていない。
いや、興奮して我を忘れていると言う方が正しい気がする。
それなのに、優しいエレクトラはただひたすら黙って相槌を打つ。
マリウス。気づけ。
歳下に気を遣わせてるぞ。
扉のすぐ横で気配を消して立っていること(体感時間)二時間、ようやくマリウスが本題に入ったようだ。エレクトラもほっとした顔で前傾姿勢をとる。
「私が保護した合成獣は世にも珍しいヒトの合成獣でございまして、残念ながら知能はありませんが、大人しく従順で、痛みへの耐性もかなりのものです。そうとう躾が行き届いています。」
「まあまあ、素晴らしいわ」
事実だけれども。
知能はないわけじゃない。ちょっと足りないんだ。そこのところ、大事。
「しかも、叫びませんから騒音を気にする必要もありません。ただし、水責めだと苦しがって暴れます。消耗が激しいですから、あまりおすすめ出来ません。したくとも、せいぜい二週間に一度くらいを目安にされたらよろしいかと。」
俺はこの時、内心そんなこと言われたって困るだけだろうと鼻で笑っていたのだが、その瞬間エレクトラの微笑の質が変わった。
「そうですか。頑丈そうで嬉しいわ。そろそろ奴隷を買うのも飽きてきていたところでしてよ」
俺は我が耳を疑った。
「ええ、私も驚きました。こんなおもちゃを作る人がいたなんて。天才ですよ。」
「ええ、本当に」
「私たちのような加虐性変態性欲者は肩身が狭いですから」
「これも愛の形ですのに。理解されないのは悲しいことですね。」
「仕方がありませんよ。私たちは異常者で、彼らが普通なのです。」
「……普通に愛せたら、よかったのかしら」
「そんなこと。これも個性ですよ。しかも、普通の人の愛なんて利害の一致をみないことには成立しないもの。私たちのようにただ純粋に相手に価値を見出して愛するなんてこと、出来っこありません。」
「それも、そうね。」
「ただ、皆私たちの愛が大きすぎて受け止めきれないのが難点でしょうか」
「ええ。すぐに壊れてしまいますものね」
サディズム談義に花を咲かせるサディスト二人。
生き生きとして、内容さえ違えばカップルが成立しそうないい雰囲気なのに、如何せん、彼らは異性との交流に少しもときめかない変態たちだ。
俺は立ち直れないほどのショックを受けた。
あんなに。あんなに可愛い子でさえも変態だなんて。
マリウスじゃなくて、あんな可愛い子に買われるんだったら大賛成だな、とか思ってたのに。
俺の安息の地は一体どこにあるのだろうか。
「レイ、レイ、こっちへおいで」
肩を落としているとお呼びがかかり、マリウスが扉へ手招きをする。
よせよせ。
エレクトラが訝しんでんぞ。
俺は消していた気配を再び纏わせて、言われるがままにマリウスのそばまで寄って行った。
「まあ!誰もいないと思っておりましたのに、そんなところに!」
エレクトラが興奮気味に言う。
彼女の目には、未知のものへの好奇心がたたえられ、年相応にきらきらする。
「この子がレイ。保護した合成獣です。」
マリウスが嬉しそうに紹介した。