下男見習いはじめてのおつかい
ドーレミーファーソーラシードー
ドーシーラーソーファーミレードー
おなじみのメロディを心の中で口ずさんで土の道路を人を避けながら歩く。
目指すはメレディスというお菓子屋さんだ。
「レイ、今日お客様が来るんだ。こんな…これ、このお菓子を買ってきて欲しい。メレディス、こんなマークね、このお店で、チョコレートケーキ、こんな形のお菓子を六つ、買ってくるんだ。わかるかい?よかった。ちゃんと、このお金を払うんだよ。全部置けば、お店の人が必要な分を取ってくれるからね。」
戦場から一時離脱をしたアイザックさんが、俺に紙を見せながら、お菓子の絵を描いて(これがなかなか上手い)、お菓子の名前を書いて、それからお店のロゴを描いて俺の手に握らせた。
驚くべきことに、字が汚すぎて読めない。
汚いと言うか、昔の人の達筆と言われる書が現代の我々には読めない感じ、と言えば俺の戸惑いが伝わるだろうか。
「あー、うーん。わかってるかな…でも他に行ける人いないしなぁ…困ったなぁ」
メモを見下ろしてただただ瞬く俺にアイザックさんは唸るが、大丈夫だ。ケーキの絵と店のロゴがあれば買える。
ポシェットに裸の銭をそのまま落とし込んで、じゃらじゃら言わせながら出発した。
はらはらと見送ってくれていたアイザックさんは、戦場の仲間によって引きずり込まれて行った。
と言うのがさっきの話。
屋敷を出るのに、玄関から小さく見える門まで歩いて、そこを出たと思ったら住宅街だからいきなり難関にぶち当たった。
大通りまで出なければならない。
アイザックさんは簡単な道順しか書いてくれなかったので、とりあえずそれっぽい道を選択して歩くことにした。
こんな高級そうな家ばかりが建っているのに道路はまだ舗装されておらず剥き出しの地面だということに内心驚きを禁じ得ない。
どこもかしこも門の奥に家があるため緑に隠れてよく見えない。それでも馬鹿でかいのだけはよくわかった。
道幅も比べ物にならないくらい広い。
イヴ姉はまだあの家にいるのだろうか。
あのハリボテの家で隙間風に悩まされているのだろうか。
幸せだった瞬間はどうにも現実味がなくて、本当にあったことなのか、牢屋で見た夢なのか、よくわからなくなってくる。
気が滅入るだけだと頭を振ってメモに目を落とした。
一人になるとどうにも暗い思考に走りがちだ。
早く人の多い大通りまで出ようと足を速めた。