閑話:変態サドは運命的な出会いをする
変態さんの登場で話がどんどんグロくなりそうです。痛い表現とか苦手な人は気をつけて。
[マリウスside]
ぼく、マリウス・セヴァリーは変態である。
隠すことでもないしね、家族にも友達にも同僚にも隠さない。
ぼくは昔から愛している人をいじめずにはいられない質で、愛が深ければ深いほど痛めつけたくなってしまう。大好きな人の顔が絶望に歪むと言いようのない幸福が胸に満ちる。
ただみっともなく叫ぶのは嫌いだ。苦痛を堪えて声を喉の奥に押し込むような、“奥ゆかしい”人がいい。
それと外せないのは、同性であること。
それから小さな子であること。
紛うことなき変態でしょ?
ぼくは最近運命的な出会いをしてしまった。
国内最大勢力のひとつ、ヘルド・ロックがらみの仕事で、重要な物証をもたらしたと言う貧民街の子どもが監視対象になった。
作られた似顔絵を見て、ぼくは自身を制御している理性の仮面が粉々になる音を聞いた。おもちゃをねだる子どものように我慢が出来なくなった。
その子どもはまるで、生きることにひと欠片の希望すら見いだせないのだと言いたげな顔をしていた。
なんて!なんて素敵な表情をしているのだこの子どもは!
この子が欲しい!
この子の顔が歪んだら、目の前で愛でられたら、どんなに–––
本当は監視対象に接触なんてしてはいけないのに、理性より欲が勝ってしまった。優秀な貴族としては致命的な失態だけれどそんなことはどうだっていい。たとえどこの誰にその隙をつつかれようと構わない。
逆にそれを利用してやればいい。
街にまで会いに行った少年は思った通りの子どもらしからぬ憂いを帯びた子どもだった。
まさにぼくの理想。
しかも自分で爪を剥がせてしまう、痛み耐性まで持っているときた。
きっとぼくがいじめたってみっともなく叫んだりしないだろう。
邪魔をするそばの女は要らない。多少強引だとしても手元に置いて毎日愛でられたら、と考えたら、我慢なんて出来る訳がなかった。
ロッサ先生の診療所を出て、騎士が抱いていた少年を奪い取ると死んだような目を向けてくれた。ああ、愛い。
「その二人は要らないから帰していいよ。ああ、それからその女も。」
黄色い女と茶色い子どもは怯えて震えていた。興味のない人間が怯えていたって別に興奮はしない。ただ鼻白む。
「あ、あのっ、き、騎士様!」
少年の姉の、震えながらも強く光る目がぼくを見つめる。
「弟を、どうするおつもりですかっ!」
「……貴女に言う必要がありますか?弟の面倒もろくに見られない貴女に。」
「…っ」
「彼はヘルド・ロックという組織の幹部から懐中時計をくすねてきた立派な悪人なのですよ。ご存知でしたか?」
「え……盗んだ…?」
「組織にばれたらただじゃ置かないでしょう。殺されますよ、多分。」
「……あぁ…ああ…あああ…」
女は地面に崩れ落ちて惨めに震えた。
立ち上がれないほどに打撃を与えたのだから当然だ。
「安心してください。私がそんなこと、させませんから。」
殺そうとなんてしたら、きっとそいつに二度と朝は来ない。
立ち上がれない女と、地面に縫い付けられた子ども二人が追いかけてくることはなかった。鬱陶しく追いかけてくるのではないかと心配したが、杞憂だったようで嬉しい。
「……さあて、どんな拷問にしようかな。」
笑うぼくを、部下たちはゴミだと思ったようだが、実際ぼくは人間のゴミだから別に怒らない。そもそもぼくのわがままに付き合ってくれたのだから何かご褒美をあげなければ。
「今月の給料上乗せしておくよ。バレないようにね。」
「はい」
「ありがとうございます」
「それでは、我々はこれで」
「うん。お疲れ様。あ、あの女と子どもが余計なことしないようにフォローもよろしく。」
「はっ」
「頼もしくて何より。」
ぼくは新しいおもちゃを手に自分の城へ帰ることにした。