サディストのサドさん
なんと……言うか。
ある意味新世界の扉を開けてしまいそうな今日この頃です。
時間感覚がなくなってあれから何日経ったのかわからないが、毎日毎日てしてしと叩かれまくっていて、だからと言ってどうということもなく、鞭の衝撃は骨にまでくるんだということを知った以外特に何もない。
時々爪を剥がされたり、指を折られたり、短剣で切りつけられたりしたけれど、痛みに訴えるものはことごとく俺には無意味だった。
そうするとあのサドな優男さんがゾクゾクしちゃうらしく、すごいすごいと楽しげだ。
真面目さんの方はあまり来ない。たまに来てもサドさんと少し話すだけで帰っていく。
サドさんも、毎日くるとは言っても一日の少しの間だけで、一日の大半は暇で暇でしょうがない。放置プレイと言うやつか。
サドさんはしっかり仕事をしているようで、社会に溶け込む異常者ほど手に負えないものはないなと思った。
喉乾いたし、腹減ったし。
ある意味そっちの方が拷問だ。
懐中時計盗んだだけでこの様子だと、ここでは盗みは思うより重罪なのかもしれない。アラブなんかだと手首を切り落とされるとか聞いたことがある。
立ったままなのも辛い。足がつる。
このイベント何なんだ。
百年くらい鞭で叩かれまくって、そろそろマンネリ化してきたぞと思っていた今日、長かった鞭を終えて今度は水責めにシフトチェンジした。
「やあ、今日も元気そうで嬉しいよ」
そう言ってサドさんはこの薄暗い部屋に水を張ったタライを持ち込んだ。
「これ、メイドに借りてきた洗濯用の桶だ。喉渇いたでしょう?たくさん飲むといいよ。」
タライを床に置いて、こちらに歩いてくる。
ただの棒で出来た簡素な作りの鍵を持って、それを手枷の鍵穴に差し込んで回すとちゃりと鳴って簡単に口を開けた。
手枷が手首から落ちて壁際で石を引っ掻きながら左右に揺れる。
サドさんが俺の髪を片手で鷲づかんで引っ張るものだから、多分結構抜けた挙句にただでさえぼさぼさの頭がもっとぼさぼさになる。
この世界の人、俺の髪の毛に何か恨みでもあるのかな。
「本当はこんなことしたくないんだけど。お前がとても強情だから仕方なくね。」
いや強情て。
あなた大分私欲に走ってますよね。
これ大部分あなたの趣味ですよね。ねえ。
「水は貴重なものだから今回きりにしてほしいものだ」
サドさんは今日も楽しそうに笑う。
屈託のない笑みが狂気を孕んで見える。
屈託のないって、やっぱり時と場合に寄るから何事も相対的な話だと言うのは正しいと思う。
あ、そうだろうと思ったけどこの水をあんまりきれいじゃなボコボコボコボコ…
ひとつわかった。
水責めは効く。
この体がちゃんと人間だとわかって少し安心した。
くぐもって、サドさんの笑い声が聞こえる。
「初めて反応してくれたね。」
暴れても大した力は出ない。
とりあえず口から中に流れ込んでくる暴力的なまでの大量の水で喉の渇きは潤った。
だからと言ってひと心地がもちろんつくわけもなく。
「…っ!…ガポっボコッ…ボコボコ…(あー苦しいー)」
「ほら、知ってること全部教えてよ。お前はどこの誰なんだ?」
「ボコッボコッ…ボコボコッ(知らないよ俺が聞きたいわ!)」
「んー?聞こえないなぁ」
「…ボコ……ボコ……コポポ……」
「…んん?あれ、もう駄目?水だと普通の人より短いね。にしてもこれでも口を割らないとは、相当だ。」
口を割るって、マジなんの話しだし。
苦しい。けれど不思議と「ただの息ができないだけじゃん」と割り切った頭が呆気なく抵抗を止める。
だんだんサドさんの明るい声も聞こえなくなっていった。