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迷子2

主人公視点に戻るにはもう少しかかりそうです…。

[セレドニオside]


エリオットが珍しく切羽詰まった表情をしていた。面倒を起こすのは決まってギリアスだが、今回ばかりはギリアスだけではないらしい。

エリオットが巻き込まれたのでないといいが。彼の生家へ伝わると色々と面倒だ。

ため息をついて、当番用の机に腰掛けた。


簡素な木の机はセレドニオの性格を反映し、きっちりと整理され、無駄なものは何一つない。右端に日誌や報告書が立てて並べられ、ペンと墨壺が一直線に等間隔で置かれている。

墨壺のインクが幾筋も垂れている。

昨日の夜警当番だったヤツの顔を思い浮かべてああと思う。騎士は基本ガサツだが、昨日のは輪をかけてガサツなヤツだ。わざわざ言うのもうるさいと思われそうで特別言ったことはないが、こういう細かなところにしつけは姿を見せる。エリオットが絶対にやらないのがいい例だ。

注意書きを作って墨壺の上の壁に貼り、しかめ面のまま心の中でとても満足する。少し心が安らいだ。墨壺を手に取って一度奥へ行き、拭き取ってからまた机の上の定位置に置こうとしたところインクのシミがついている。もう一度奥へ行って布巾を持ってきて拭いた。ニスの塗ってあるものとは言え固まってしまって取れない。はあ、とため息をつき布巾を奥へ戻しに行った。


もう一度机に腰を下ろしひと心地つく。

それから、今考えなければならない事項を思い出した。


「面倒だな」


呟いて、すっかり定着してしまった眉間のシワを親指と人差し指で横へ伸ばした。娘に怖いと言われてから悪あがきを始めたが、効果の程は定かではない。


ギリアスが抱き抱えていた少年は騎士団本部からお触れの出ているアノ少年で恐らく間違いないだろう。


彫りの浅い顔立ち。毛先の跳ねた黒い髪。黒い眼。


似顔絵によく似た風貌をしていた。

それに子どもらしからぬ表情もそう考えるに足る異様なものだった。


ギリアスは体格のいい大柄な男だからほとんどの幼児は怯えて泣くか、泣かないまでも体を緊張させて様子を伺う。

だと言うのに、ギリアスに今日初めて会ったばかりだと言う少年はどうでもよさそうにぼんやりとして、眠そうにまぶたが半分閉じかかって、セレドニオに気づいても一瞥くれただけだった。大の大人のギリアスが慌てていて幼児が落ち着いているという、ある種滑稽な場面を見てもギリアスのことをそそっかしいと笑えないのは、ギリアスの反応の方がまともに見えるからだろう。話を聞く限りでは、だが。

大人しくて良い子、という感じではどうもない。

どちらかと言えば“気味が悪い”だ。


「こ、こんにちは!すみません、少しいいですか?」


先程まで自分がいた場所に黄色い髪の少女がエリオットのような表情をして立っていた。

薄い生地の安価なワンピースだが、身綺麗にしているところを見るとこの辺に多い低賃金の家事使用人と思われる。


「どうしました」

「友達の弟がどこにもいなくて…連れとはぐれてしまったみたいなんです」

「迷子ね」

「はい」

「お友達はどこに?」

「今外を探し回っています」

「弟さんの年齢や見た目はわかりますか」

「七歳で、髪も目も黒くて、年齢の割には小柄です。五歳くらいに見えると思います」


紙に書き留めていた手が止まる。

その特徴が当てはまる子どもは今しがた見たばかりだ。

ああ、面倒くさい。

ペンを落としてため息をつくと、少女は首を縮めてしぱしぱと目を瞬いた。


「…お友達をここへ連れて来なさい。心当たりがあるから」


少女は目を輝かせて頷くと右の方へ駆けて行った。

しばらくして、飴色の髪の少女が第五分署に飛び込んで来た。後ろからさっきの少女ともう一人少年がついてきていた。


「き、騎士様っ…あの、弟は、弟はどこへ」

「落ち着いて。この道の先のロッサという医者のところへ行かせました。」

「医者…!?」

「うちの馬鹿が怪我をさせてしまったかもしれないと言うのでね、申し訳ない。改めてお詫びをさせます」


飴色の少女は青ざめ、手を震わせ、それを黄色い少女が痛ましく見つめて背中を撫でた。


「今、あいにくと私しかいないもので……おい!ジェット!」


部下には街の巡回をさせていて全部出払っており署には自分の他に誰もいない。武器が置いてあるため自分がついて行って無人になるのも避けたい。

そんな時、第五分署の前を昨日の夜警当番の一人だったジェットが食べ物をぱくつきながら綺麗な女性を連れて歩いてきた。


巡回……。

どう見ても違う。


呼ぶとジェットは大げさにのけぞって驚いていた。第五分署の前を歩いていることに今気がついたらしい。どこまでも迂闊な奴だ。

怒られると思ってとぼとぼ歩いてきたジェットは戸口に立つ二人の少女を見て幾分機嫌を直した。


「署長…すいまっせんした」

「ジェット、言いたいことが山ほどあるが、今はそれはいい。このお嬢さんたちをロッサの診療所まで案内してくれ」

「怒られないんすか!やたっ!」

「今はな」

「……うっす」


神妙に糸目をする(これが彼の最大限の神妙な顔である)ジェットは軽く頭を下げて、それから少女二人に愛想を振りまきながら三人を連れて署を出ていった。


「途中で仕事を放ったらかして遊び始めないといいが…」


やはりジェットに人を預けるのはよくなかったかも知れない、と思ってももう後の祭りなのだった。

はあ。

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